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  ヒメユズリハの北限自生地

### 隠岐版 ### 
“隠岐が北限自生地” である種,妙に多いような気がしていた。多いか少ないかは他の地域と比べてみないと分らないが,そんな事ができるかどうか?
取り敢ず,隠岐の北限植物をリストアップしようと思い立った。

その手始めに,今まで “北限ではない” としていたヒメユズリハを検討。
ヒメユズリハ Daphniphyllum teijsmanii は隠岐の海岸近くで普通に見られる。特に島前で。なお,近縁のユズリハ D. macropodum の方は海抜350m前後から現れるが(やや稀),島後のみで島前には自生がない。

(1) 『日本植物誌』1978 大井次三郎 :
  ⇒ 本州(中南部),四国,九州・・・種としては琉球,台湾に分布する。

(2) 『日本の野生植物』1989 大場秀章 :
  ⇒ 本州(福島県以西)・四国・九州・琉球に・・・分布し,台湾にも産する。
(3) 『改訂新版 日本の野生植物』2016 五百川裕 :
  ⇒ (旧版の引き写し)
福島県以西の “以西” は変, “以南” であろう。
「福島県」が何に基づくかはっきりしないので,詳細かつ大部の『福島県植物誌』(1987) を見たが全く言及がない。

(4) 『原色 日本林業樹木大図鑑』1973 倉田悟:
  ⇒ 本州(茨城県以南)から琉球列島にわたる・・・沿海地に多く・・・
本書には標本に基づく分布図が付いている。茨城県のプロットは1点のみで位置は隠岐と同緯度。つまり, “隠岐より北” ではない。
日本海側は福井県敦賀湾までの海岸線で,隠岐よりはっきり南。

(5) 『Flora of Japan』1999 S. Noshiro (能城修一):
  ⇒ 本州(茨城県および福井県以南)から琉球までの沿海地。台湾。
これが一番信用できそう。『茨城県植物誌』(1981) に記載がないのが不思議ではあるが。

念の為,北陸・中部・関東・東北地方全県の植物誌を調べてみた。千葉県以西の太平洋側は省略して(隠岐より南は明か)。

「福島県」が出て来た経緯は不明であるし,「茨城県」内の分布状況も明瞭ではないが,思い切って「隠岐が北限」と判断することにした。茨城県に現存すれば「茨城県も北限」でかまわないと思う。少しくらいの南北差は問題ではない。

以下の敦賀半島(隠岐より少し南)の記述は興味深い。カナクギノキ以外は隠岐にも自生する。
(6) 『福井県のすぐれた自然』1999 福井県自然環境保全調査研究会:
  ⇒ 「・・・敦賀半島の特筆すべき植物としては,日本海側での分布の北限ないしは東限になるヤマモモ,ヒメユズリハ,ソクシンラン(敦賀市立石),カナクギノキ(敦賀市常宮)等がある.また,半島先端部に近い明神崎には,東側の海岸一帯約100m にわたってモクゲンジ林があり,日本海側では生態地理学的に貴重である.・・・」

 アカメガシワ似の樹

アカメガシワやアブラギリは子供の頃から知っている木だが,時々区別ができなくなる。身近過ぎてきちんと(分析的に)観察したことがないからだろう。
これでは遺憾!と,似たもの4種の比較対照表を作ってみた。

難しいのは,葉が大きく分裂葉も多く出る “若木” の時。よく似ていると思っていたが,実際には明瞭な違いがあった。特に「③ 葉の蜜腺」が決定的である。
しかし,手に取ってジロジロ細部を調べての同定はカッコ悪い。いずれ「近くからパッと一目で」にならなければ…。

『改訂新版 日本の野生植物』によると(黒沢高秀 2016),
アブラギリ Vernicia cordata は:---- 「本州(中部地方以西)・四国・九州の山地に生える。中国・台湾・朝鮮半島原産の帰化植物として扱われることも多かったが,これらの地域には分布しない。 」----

これは驚いた!日本固有ということになる。確かに『Flora of China』には,オオアブラギリと カントンアブラギリ V. montana しか出て来ない。

日本でもたまに栽培されることがあるという熱帯性のカントンアブラギリ(広東油桐) は無視した。蜜腺は突出して凹形, “常緑” であるという。


    ⇒ [PDF
 対照表

 T: テンツキ vs. K: クロテンツキ

クロテンツキ Fimbristylis diphylloides を少し丁寧に観察したので,よく似ているテンツキ(狭義)F. dichotoma var. tentsuki との対照表を作った。

 「花柱]
T: 扁平で,縁毛がある。
K: 細く,縁毛がない。

 [葉]
T: 葉には全て葉身がある。葉鞘のみからなる葉はない。
K: 無葉身で鞘のみの葉がある。有花茎基部に,短く長さ2cm弱。

 [毛]
T: 全体(葉・茎・花序)に微毛がある。量には個体差があるが,鞘は通常有毛。
K: 無毛。

 [小穂]
T: 狭卵形で長さ5~8mm。鋭頭で細長い感じ。赤褐色で光沢がある。
K: 卵形で長さ約4mm。鈍頭で短く丸っこい。やや暗褐色を帯びる。

 [苞]
T: 1枚は花序より長いのがある。
K: 皆(4~8枚)が花序より遙かに短く目立たない。

タチヤナギ  Salix triandra

### 隠岐版 ###    
   [分布]
 普通種だそうであるが,隠岐では少ない。隠岐で一般の人の目に入るのは,ネコヤナギとオオタチヤナギ,そして植栽種のシダレヤナギくらいのもの。
 何故か過去の記録がなく,島後東郷産の標本が1点(杉村喜則,1986)残るのみ。
 筆者も,西郷今津・中村元屋・五箇大峯山の3ヶ所(3集団)でしか見ていない。細かく言えば,今津の他の場所(1~2株)と西田の休耕田(1株)にもある。

  [生育地]
 浅く水を被るような濡れた泥を好む。上記3地点はいずれも溜池の遠浅の岸。そして密に群生するのも特徴の一つか?。

  [樹形]
 大低木~小高木。低木のネコヤナギや高木のオオタチヤナギとは明らかに見かけが違う。タチヤナギ(立柳)の名前通り,主幹が直線的に立ち並び,枝も鋭角的にスッと斜上する(特に若木で)。大きな成木の場合も、枝の上半部にその傾向(ねじ曲がらない)が見られる。
 稀に,高さ1m程度の藪状(例えばネコヤナギ)になることもあるが,これは乾燥気味の立地での成長不良によるものと思われる。

  [花]
 ヤナギ類の初回の同定は,花がないと不可能でルーペも必須で厄介だが,本種には著しい特徴があるのでアッと言う間に確信が持てる。
 雄花に “雄蕊が3本” あって,こんなヤナギは他にない!からである。しかも隠岐にあるのはほとんどが雄木。
 雌花にも子房に長い柄があるというよい特徴がある。
 「まれに雌雄同居の両性花序も形成する」と図鑑に書いてあった。この例には一度出会ってビックリしたことがある。これも有力な情報かもしれない。

  [葉]
 葉だけを使っての検索は諦めた方がよいだろう。最近の研究で一応 “検索表” はできているが,差異が微妙で初心者向きではない。
 ただ,若葉の中ほどが赤褐色を帯びる(上部・下部は緑)のは一つの手掛かり。こんな葉が見付かればタチヤナギを疑ってよい。かつ,赤色の色素に縁があるようで,小枝や葉柄も成熟すると赤味を帯びる傾向がある。しかし,オオタチヤナギの新芽もしばしば薄赤く(黄色味)なるので要注意。
 葉形はオオタチヤナギに似ていて間違い易いが,本種は長楕円状(帯状)でオオタチヤナギのように細く長く鋭尖(披針状)はしない。
 また,・鋸歯の先端が “顕著な腺” になる,・葉柄にも腺が出る,のもちょっとした手掛かり。

  [托葉]
 わざわざ托葉に言及することもないのだが,本種には特異な特徴があってこんなのは他に例がない(多分)。托葉の表面に “突起状の腺が密布”する。ルーペで確認すれば 驚くこと請け合い。疣がぎっしりで気持ち悪い。
 なお,ヤナギの托葉は枝によって出たり出なかったり,早落性ですぐ落ちてしまったり。枝(シュート)を取り替え丁寧に探さなければならない。図鑑によって,托葉は “宿存性” となっていたり “早落性” となっていたり??。筆者は両方の例に出会ったが早落性が圧倒的に多い。従って,萌え出たばかりの若い枝の先端部を見るとよい。

  [樹皮]
 「他のヤナギと違い縦には割れず,薄片状に反り返り剥がれる。」という。樹皮は通常参考にする程度だが,本種はユニークな特徴が多くてありがたい。全く縦に割れ目が入らないのは一目瞭然だけど,直系10cm以上の成木を見付ける必要はある。もし見付かればこの一点だけでも同定可!

  [雑種]
 「発見されていない」そうである。ヤナギは雑種を作りやすいので,これも役立つ情報。一応は雑種を疑わなくてよい。

※※※ 2018年の収穫 ※※※

### 隠岐版 ###
 〔島根県初〕 ------ 県下の記録なし
ウスゲフモトシダ (西郷 銚子中の谷)

 〔隠岐初〕 ------ 隠岐の情報なし
ケカタバミ (五箇 長尾田)
ニシノオオアカウキクサ (西郷 西田)
ホシザキカタバミ (海士 菱浦)

 〔初確認〕 ------ 記録のみで未見だった
タニヘゴ (西郷 平)

 〔再確認〕 ------ 長く現状不明だった
アズキナシ (西郷 銚子・飯美)

 〔新産地〕 ------ 希産種の新産地
イイヌマムカゴ (都万 上里)
ヒナラン (布施 南谷)
ヒロハハナヤスリ (海士 保々見)
アマナ (海士 家督山)
ホナガクマヤナギ (都万)
キツネノカミソリ (海士 家督山)
ナルコビエ (海士 東)
レンゲツツジ (西郷 加茂)
ハイチゴザサ (西郷 加茂)
ヒメシダ (西郷 加茂)
コシダ (西郷 加茂)
ハマニガナ (西郷 箕浦)
ヤマモモ (西郷 箕浦)
ヒトモトススキ (西郷 箕浦)
ナンバンハコベ (五箇 長尾田)
オオエゾデンダ (西郷 今津)
ニガキ (西郷
  銚子)

 〔帰化・移入・逸出〕 ------ 初確認
ノハラツメクサ (西ノ島 美田)

 〔帰化種新産地〕
コゴメキンポウゲ (海士 家督山)
カワラケツメイ (西郷 塩浜)

 〔再同定〕 ------ 同定の精密化
アオウシノケグサ
ヤマタイミンガサ (布施
  北谷)
オカヒジキ (西郷  中村)

 〔未同定〕 ------ 要検討種
カモノハシ sp. (西郷 白島崎)
フモトシダ雑種 sp. (西郷 平)

 〔情報のみ〕 ------ 未確認だが確実性は高い
ヤコブボロギク (知夫  赤禿山,帰化)
オトコオミナエシ (五箇 代)
ヤマトウミヒルモ (都万 塩の浜)
コアマモ (西郷 八尾川)
アオフタバラン (布施 大満寺山)
キリシマエビネ (布施 北谷)
キンセイラン (<不詳>,植栽)

 〔島別新産〕 ------ その島で初確認
ヤマアイ (海士)
フモトシダ (海士)
ヒメノキシノブ (西ノ島)
ハチジョウベニシダ (西郷 高井)
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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