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オオズミという問題種

以前の記事 『オオズミ Malus toringo var. zumi』(2014-01-19 バラ科) の増訂版である(2018年脱稿)。
2023年現在,隠岐では絶滅寸前の状態にある。

    ⇒ [PDFファイル

   ヤダケ(矢竹)とメダケ(女竹)

 今更ながらに両種の比較をやってみた。子供の頃から一目で区別できていたのだが,「どこがどう違うか?」と訊かれるとうまく説明できなかった。いい加減,直感だけに頼る把握を卒業したい。
 子供の頃はヤダケの稈だけを見ていた。 a_むき出しの裸と色合い,b_直径が細くて長い,c_なさそうにも見える節の低さ。中でも独特の“薄い緑色”の肌が印象に残っている。

 記述が細か過ぎてうるさくなってしまったが,両者を見分ける際の手掛かり(ヒント)にはなると思われる。ここに挙げた特徴の幾つかを“実物”を前にして確かめてみれば,必ず理解が深まるだろう。
 ただ,“2つの相違点と比較対照”に拘り過ぎた感はある。必要以上に相違を強調した表現もある。当初は「ヤダケの,明快かつ厳密な理解」が目的だったのだが・・・。
 
 例外も出るので複数個体の複数部位で判断すること。そして比較は,生育条件(大きさ・年齢・環境)の近いもの同士が望ましい。子供と大人を比べず,子供は子供同士で。
 
 特殊用語はネットを参照,稈・節・稈長・稈鞘・肩毛・葉鞘。

 【 精密な同定 】
(1) 節から出る枝の数 ・・・・・・・・ 枝を引っ張って稈から外すと見やすい。
 ・ヤダケ: 少ない。1本が原則。
       ----- 2-3本に見えても,1本が下部で枝分かれしているだけ!
 ・メダケ: 多い。通常3本,しばしばそれ以上になることも。
       ----- 成長すると稈の上部では枝が密生し混み合って見える。

(2) 稈鞘(竹の皮)の毛 ・・・・・・・・ 毛は落ち易いので複数をチェックする。
 ・ヤダケ: 上向きの長毛が密生(下方の太い稈鞘でより顕著)。
        ----- 毛は太く鋭い伏毛(ルーペが必要)。指先で逆向きに
         (上から下へ)なでるとザラッと手に引っかかる感じ。
         そっとなでるだけで正解は出るが,安易過ぎるか?!
 ・メダケ: 常に無毛 。
        ----- 手の平で触るとツルツル,よく見ると光沢もある。
(3) 肩毛の有無 ・・・・・・・・ 後日に識者に教わった視点だが,明快そのもの!
            ルーペを使うと更に安心。
 ・ヤダケ: 無い。
       ----- ごくごく稀に見られることもあるが単なる例外。
 ・メダケ: 有る。
       ----- 時に抜け落ちている例もあるので複数箇所をチェック。

 【 直感的な把握 】
 1本1本で判断せずに,集団の全体傾向(大勢)を見較べること。例外はあっても1割に満たない。却って面倒なので数値(○cm,○m)は一部を除き省略。
  は,遠くから群落の見当を付けるのに役立つ。多少経験を積めばばその差は明か。但し,時に両方が混生する(他方が数本混じる)事には厳重注意。騙されて混乱し勝ち。近い距離では,(7)・② が有力。
 色々書いているが,一発で把握できる有効な方策がある。両種の群落が接している場所に行き(必ずある),腰を据えて一定時間そこに留まること。差異は一目瞭然でイヤでも分かってしまう。

(4) 稈の太さと,稈長(節と節の間隔)
 ・ヤダケ: 細く,長い。
        ----- 「細くて長~い」と感じる。
 ・メダケ: 太く,短い。
        ----- 稈が太く,長い感じはあまりない。

(5) 稈鞘の長さ ・・・・・・・・ よく成長した稈の中部付近以下で見る。
 ・ヤダケ: 長くて稈長の2/3~全長。
      連続してすっかり全体を覆い尽くし,稈の肌が見えない場合も。
 ・メダケ: はっきり短く稈長の1/2前後が普通。

(6) 節の凸出と傾き ・・・・・・・・ 言われてみて分かる程度の差。
 ・ヤダケ: 節は低くてあまり目立たない。水平ではなくてわずかに傾いて
      不揃い。
 ・メダケ: 飛び出してはなはだ明瞭。全部が正確に水平。

(7) 葉の大きさ他 ・・・・・・・・ []内の数値は筆者のフィールド内での,代表値
          (最頻値)であるが,はっきり違って見え印象(姿)も
          異なる。長さ30cm近く,幅3.5cm前後の葉が1枚でも
          見付かれば,ヤダケに決まり!
 ・ヤダケ: 大きい。幅が広く長い。[25cm以上×3cm以上]
        (a) “疎らに”垂れ下がる感じ。
        (b) 葉表: 暗緑色で光沢あり(黒味を感じる)。
          葉裏: 全面顕著な灰白色。
        (c) 質感: 厚みがあって硬い。
        (d) 葉鞘: 黄色っぽい明るい緑,紫褐色にはならない。
 ・メダケ: 小さい。細くて短い。[20cm以下×2cm以下]
        (a) 斜上して“ぎっしりと”混み合う。    
        (b) 葉表: 明るい緑(灰色っぽいことも)。
          葉裏: 白味は薄くてやや曖昧。
        (c) 質感: 薄くて柔らか(もちろん比較の問題)。
        (d) 葉鞘: しばしば,“濃い紫褐色”を帯びる。
              ----- これだけでメダケと決めていい!
                 メダケに紫色の遺伝子あり(④参照)。

   (以下は個人的な印象であって文献上の確かな裏付けはない)
① 稈の立ち方(鉛直度) ・・・・・・・・ 先端部が下に「垂れる vs. 垂れない」。
                ヤダケの方がより弾力に富み材も柔らか?
 ・ヤダケ: 地面に垂直というよりはやや傾ぎ,撓み勝ち。
      稈頂は円く曲がりうな垂れた姿,稈頂付近の枝も同様。
 ・メダケ: きちんと垂直に林立,真っ直ぐで鉛直感が目立つ。
      稈頂も上向きでピンと真っ直ぐか,多少傾く程度。

② 枝の開出度(よく成長した稈の上部で)
 ・ヤダケ: ほとんど開かず鋭角的で,稈に“接するように長~く”伸びる。
      ----- これ一つだけでもヤダケと判定可。
 ・メダケ: 広い鈍角で放射状に“開出”。枝を長くは感じない。

③ 集団の密度
 ・ヤダケ: しばしば,稈がぎっしり密着して立ち並び隙間がない。
      お互い同士が凭れ合ってるように見える。
 ・メダケ: 群生しても個々に独立,拳が入る程度の隙間はある。

④ 稈の色
 ・ヤダケ: 明るい感じの緑色で,しばしば黄色味を帯びることも。
       濃い黄色の稈や“枝”が見えたらまずこちら。
 ・メダケ: 濃緑で暗い感じのものが目立つ。時に紫褐色を帯びる。

⑤ 稈鞘の残存程度 ・・・・・・・・ 稈の中部付近で確認するが,“枝”についても
             以下の傾向が顕著。
 ・ヤダケ: 枯れ(腐り)落ちて,稈が向きだしのものが多く目立つ。
 ・メダケ: 落ちずにかなり長く(数年間)残っていることが多い。

⑥ 生育環境 ・・・・・・・・ 両種ともに,山の中では見た事がない。
 ・ヤダケ: 海岸付近(汀線から200m以内)でよく見る。海食崖は穴場!
      海辺を離れると急に減り,稀に現れたのは植栽起源が疑わ
      れる。点々と分布する普通植物であるが,メダケよりはずっと
      少ない。
       ----- 何故か隠岐では典型的な「海岸植物」となっている。      
 ・メダケ: 何処にでも(海辺も含め)という感じで,広い大群集を作る。
      里地の人的攪乱の激しい場所(耕作地や道路の周辺)に多い。
      川辺などの湿地も好む。

 【 補 足 】
上記は,対象種がヤダケとメダケのいずれかである事を前提にしている。よく似た第3の種である可能性はないのか?

実は気になっている種が1つだけあり,メダケ属 Pleiobrastus
  ネザサ P. chino var. viridis
山陰本土側では普通種のようなので,隠岐にあっても不思議はないが・・・。
一応古い記録もあるのだが,自身は全く知らないし話に聞いたこともない。

大きく育つとメダケそっくりになるそうである(但し高さは2m程度まで)。今後の課題として挑戦してみよう。今までに見落としていたかもしれない。
着目点は,・高さ1m程の”ササ状“の群集を近くに伴うかどうか?・葉が垂れないでピンと真っ直ぐか?

※※※ 2022 年の収穫 ※※※

                                         ### 隠岐版 ###
                           ---- 現地で確認・同定済のもの (*: 帰化種)----

 〔島根初〕 ------ 島根県初記録

 〔隠岐初〕 ------ 隠岐初記録
クロノキシノブ ・・・・・・いわゆる「ヤマノキシノブ」型。新種記載がされた。

 〔初確認〕 ------ 隠岐の情報のみで未見だった
ナラガシワ? (海士 北分)・・・・・・雑種の可能性も否定しきれない。

 〔再確認〕 ------ 長く現地確認してなかった
マツラン (大満寺山)
ヤマトキソウ (五箇 崎山林道)
フッキソウ (葛尾山 )
ツルヨシ (今津 旧飛行場)

 〔新産地〕 ------ 稀産種の新産地
ヤブサンザシ (西ノ島 東国賀)
カセンソウ (五箇 重栖)
イシミカワ (海士 北分)
コイケマ (海士 宇受賀)

〔帰化種 隠岐初〕
ミノボロモドキ (西郷港)
セイヨウミズユキノシタ (西ノ島 大津)

〔再同定〕 ------ 同定やり直し
デワノタツナミソウ(布施 中谷)・・・・・・ホクリクタツナミソウではなかった。

〔島別新産〕 ------ その島での初確認

隠岐諸島産のカエデ属

隠岐に産するカエデ属の種を総括した。これ以外にはありそうにない。

    ⇒ [PDFファイル

 ※※※ 2021 年の収穫 ※※※

                       ### 隠岐版 ###
                 ---- 現地で確認・同定済のもの (*: 帰化種)----
 〔島根初〕 ------ 島根県初記録
ヤクシマヒメアリドオシラン
   (発見:針本翔太氏,産地5地点のうち1地点を確認)

 〔隠岐初〕 ------ 隠岐初記録
コケミズ (情報:長岡桂太郞氏,島後 中村)

 〔初確認〕 ------ 隠岐の情報のみで未見だった
ミヤコアオイ (情報:守本智子氏,五箇 小路)
ウラジロマタタビ (白島崎灯台)
センブリ (情報:脇立夫氏,西郷 岬)

 〔再確認〕 ------ 長く現状不明だった

 〔新産地〕 ------ 稀産種の新産地
カタクリ (情報:守本智子氏,都万 佐山)
キリンソウ (情報:守本智子氏,島後 中村)
ケカモノハシ (白島崎)
ゴマノハグサ (情報:深谷治氏,海士 家督山)
シャリンバイ (知夫 来居)
ハイチゴザサ (近石川上流)

 〔帰化種 隠岐初〕
*セイヨウフジバカマ (島後今津・白島崎)

 〔再同定〕 ------ 同定やり直し
チョウセンガリヤス (重栖湾・白島崎・海士 豊田)
スズメノテッポウ (海士 東)
*オオオナモミ (国賀海岸)

 〔島別新産〕 ------ その島での初確認
*コセンダングサ (島後 今津・元屋)
*ワルナスビ (白島崎 入口)
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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