シソクサ Limnophila chinensis ssp. aromatica 発見

折角の発見だが近いうちに絶滅は必至。この辺り,水田の放棄が90%を越えた。
隠岐“初”にして“最終”の群落か!

郷土誌『隠岐の文化財(第35号)』に掲載した記事。

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 隠岐の海岸植物

離島の海辺で生まれ育ったので,海岸の植物には愛着がある。子供の頃から見知っているものも多い。大した意味はないような気もするが,自分用に列挙してみた。

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 ナガミノオニシバ Zoysia sinica var. nipponica の分布

今年の夏に発見したものだが(2017.7.19),島根県には過去の記録がない。今頃になっても “県初” が見付かることに驚く。何時まで続くのだろう…。

“海岸にしか生えない” という本来の海岸植物(狭義)で,砂浜の湿地が好みらしい。塩分には滅法強く,満潮時に海水を被るような砂泥地にも群落を作るという。
現地は高さ数メートルの海食崖の上の平地で,浅い小さな沼がある。 “塩沼地” とは思っていなかったが,時化ると海水の飛沫が降ってくるのだろう。水の中はカモノハシの大株が目立ち(優占種はミソハギ),周辺にはヤマイ・イソヤマテンツキといった,海辺を好む連中が集っている。

この場所には何度も来ているが,今までは単なるシバ Zoysia japonica だと思って見向きもしなかった。実際,周囲の乾いた場所にはシバが広がっている。
今回たまたま,「えっ!シバが水の中に生えるかな…?」との思いが浮かんだ。時間がたっぷりあって,のんびり気分だったのがよかったと思う。

同定上は,シバとの区別が問題になるが,以下の検索表に従った。
      (木場英久,2001)
 ・小穂長は5~7mm,海岸の湿地に生える --------- ナガミノオニシバ
 ・小穂長は2~4mm,内陸にも生える -------------- シバ(3mm内外),その他
シバとは見かけが相当違うし,その他の細かい差異も色々ある。これについては,今後丁寧に調べてみたい。

隠岐に自生する事の意義を知るために分布を調べてみた。図鑑類の記述は一様に
   「本州(関東以西)~九州,朝鮮半島・中国(東北部)」
となっている。ただしこれは,大学や博物館等の公的な機関に収蔵されている標本に基づいたもので, “主たる” 分布域を表したものに過ぎない。

詳しい分布状況や例外的な隔離分布,南限・北限等を知るためには,地方植物誌や関係論文(報告書)をチェックする必要がある。地元の人はよく知っているのに,「図鑑の分布域には含まれてない」こともよくある。

分布が「関東以西」となっているものは,隠岐が北限自生地の可能性がある。早速,競合県(緯度が同じ)である福井県(日本海側)と茨城県(太平洋側)を調べたら,両県とも記録がない。さては!と喜んだがそうではなかった。悔しいので分布を細かく調べることにした。

 〔四国・九州〕
まず,四国と九州は全県の記録があるので,無視する。ただ,香川・高知・熊本・鹿児島の各県でレッドデータブックに載っており,ありふれているとまでは言えないようだ。
また,何故か沖縄県には自生しない。母種のコオニシバ Z. sinica var. sinica に置き換わっている。因みに,コオニシバの北限は種子島とされるが,実際には大分県南部にも自生あり(稀)。

 〔日本海側〕
本州については,まず日本海側。確認記録があるのは,山口・兵庫・新潟・青森の4県のみで,他の府県には記録がない。
 山口県: 普通種とされているが,主体は瀬戸内側。ただ,下関市にはある。
 兵庫県: RDB登載(NT)で,日本海側は浜坂町のみ。
 新潟県: 記録は古いもので(1971),『新潟県植物目録 2005』には出て来ない。
 青森県: 細井幸兵衛氏の目録で信頼できるが,場所や日付は不明。
取り敢えず,「日本海側では隠岐と兵庫県の浜坂町のみ」と考えておく。異常とも思える分布で,隠岐での確認は価値があった(日本海側の北限)。

 〔太平洋側〕
続いて太平洋側。生育記録のある都府県のみ(愛知・東京は不詳)。
 山口:普通, 広島:6地点の標本,  岡山NT
 兵庫NT,  大阪Ⅰ類,  和歌山
NT,  三重NT
 愛知:?,   静岡:少ない, 神奈川Ⅰ類, 東京:?, 千葉Ⅱ類

 福島: 『福島県植物誌 1987』の記載は,「相馬市松川浦 まれ」。
 宮城: 『宮城県植物誌 2017』によると,海岸線のほぼ全域。
 岩手: 沿岸部の3市2町に生育。岩手県RDBに,「Dランク(北限)」として登載。
 青森: 現状が定かでない。

『日本の海岸植物図鑑(中西弘樹,2017)』の以下の見解に同意したい。
  「北限は岩手県宮古市,南限は奄美大島である。」

変った分布をする種だ。日本海側と太平洋側の極端な違いに加え,四国・九州中心の暖地系と思われるのに, “三陸海岸にも” 普通。黒潮の影響があるのかとも思ったが,黒潮は三陸に達しないようだ。

 ※※※ 2017年の収穫 ※※※

### 隠岐版 ###
            ※ 他の人の発見によるもの   
                 N:長岡桂太郎,Y:矢田貝繁明
               学名付きはコケ(蘚苔類)

 〔島根県初〕 ------ 県下の記録なし
ナガミノオニシバ
シロバナオキタンポポ(仮称)
Sphagnum squarrosum ウロコミズゴケ (N)

 〔隠岐初〕 ------ 隠岐の記録なし
コウヤワラビ (N)
ユクノキ (Y)
ウマノスズクサ
ヒロハスズメノトウガラシ
Polytrichum commune ウマスギゴケ

 〔初確認〕 ------ 情報のみで未見だった
ハマウツボ
サワヒヨドリ
アゼテンツキ

 〔再確認〕 ------ 長く現状不明だった
マメヅタラン
フウラン
ウシクグ
ウリクサ
Funaria serrata ノコギリヒョウタンゴケ
  (Syn. Funaria japonica ヤマトヒョウタンゴケ)

 〔再同定〕 ------ 同定の精密化
ケハンショウヅル
ヒヨドリバナ

 〔新産地〕 ------ 稀産種の新産地
イヌチャセンシダ
アオネカズラ
ウラボシノコギリシダ
オオカナワラビ?
ヨツバヒヨドリ
バリバリノキ
ニガキ
オオモミジ
ナミキソウ
ゴマノハグサ
ニガクサ
ホソバシュロソウ
タチシオデ
イガホオズキ
シカクイ
クロテンツキ
ヒメフタバラン
Sphagnum junghuhnianum ssp. pseudomolle コバノホソベリミズゴケ (N)

 〔島別新産〕 ------ その島で初確認
タチタネツケバナ(海士)
オカウコギ(海士)
クガイソウ(西ノ島)

 〔帰化・移入・逸出〕 ------ 初確認
Common calamint (英名)
ムシクサ
白花 タチイヌノフグリ
ギンパイソウ

 〔帰化種等新産地〕
クルマバザクロソウ
ホウキヌカキビ
アリアケスミレ
ワルナスビ
フサフジウツギ
アメリカアゼナ
アレチニシキソウ
アレチハナガサ

実に1年ぶりのブログの更新。怠けていたのでも,体調を壊したわけでもない。
たまたま,同定が厄介,分布が特殊,といった大きなテーマがなかった所為である。
今後は,隠岐の人向けの “小問題” についても言及したいと思う。

なお,コケ類については隠岐で390種を採集(通常1都道府県当り500種前後)。さすがにもう残ってないだろうと今は捜していない。もちろん,まだ10や20はあるかもしれないが, “ある” というのと “見付かる” というのは別問題である。

※※※ 2016年の収穫 ※※※

 〔島根県初〕 ------ 県下の記録なし
オオキツネノカミソリ Lycoris sanguinea var. kiushiana
  石見の方にあったらしいと聞いたが確認できていない。
  知夫 赤禿山
ケエゾノヨロイグサ Angelica sachalinensis var. sachalinensis
              f. pubescens
  エゾノヨロイグサの品種で母種に混生。北海道と栃木県の一部に生育。
  都万 津戸
ヒメハリイ Eleocharis kamtschatica 
  刺針状花被片が発達する型。
  五箇 重栖湾。
ウスゲコバノイシカグマ Dennstaedtia scabra f. glabrescens
  コバノイシカグマの品種とされているが,独立種にすべきとの説もある。
  布施 南谷(上流)

 〔隠岐初〕 ------ 隠岐の情報なし
シロバナヤマジソ Mosla japonica var. thymolifera
  希産種ヤマジソの変種。全国で数地点の記録しかなく超希産。
  都万 津戸
シソクサ Limnophila chinensis ssp. aromatica
  過去の記録も情報もない。県下では島根半島の記録あり。
  西郷 今津(水田)  
ササバモ Potamogeton wrightii
  男池の一角に群生するが量は多くない。
  西郷 津井
ヨツバヒヨドリ Eupatorium glhenii
  ヒヨドリバナ類の中では例外的に判りやすい。
  布施 南谷(上流)
オニツルウメモドキ Celastrus orbiculatus var. strigillosus
  ツルウメモドキに混じって普通にある。
  海士 豊田

 〔初確認〕 ------ 情報はあったが未見
ヒメイタチシダ Dryopteris sacrosancta
  イタチシダ類の中では特徴が顕著。採集品は紛れのない典型品。
  海士 金光寺山(1株のみ)
ヒカゲワラビ Diplazium chinense
  過去に,焼火山と海士の記録のみがある。
  西ノ島 別府(1株のみ)
ハマニンニク Leymus mollis
  あったと昔聞いていたが,やっと確認できた。
  都万 塩の浜(末路川河口)
スブタ Blyxa echinosperma
  男池の水中にわずか数株,よく残っていたものだと思う。
  西郷 津井(男池)
クロハリイ Eleocharis kamtschatica f. reducta
  刺針状花被片が発達しないヒメハリイの品種。重栖湾埋立地はかなりの量。
  五箇 重栖,西郷 男池
マツモ Ceratophyllum demersum
  小さな溜池内に大きく広がっていた。
  海士 東
アマナ Amana edulis
  昔あったとは聞いていたが,出会ったのは初めて。大きな群生地で100株以上。
  西ノ島 高崎山(山麓)
クガイソウ Veronicastrum japonicum var. jappnicum
  隠岐のは全部がナンゴククガイソウという認識だったが…。
  布施 鷲ヶ峯,都万 壇鏡
ワサビ Eutrema japonicum
  間違いなく自生と思われる。
  五箇 郡
ニガカシュウ Dioscorea bulbifera
  浦郷の真野信茂氏から教わった場所。隠岐の初記録。
  西ノ島 浦郷

 〔同定変更〕 ------ 間違いを訂正
サンインヨロイグサ Angelica sachalinensis var. sachalinensis
             f. saninensis
  今までシシウドとされていたもの。エゾノヨロイグサの品種となっているが,
  見かけはまるで違う。隠岐のものは全てこれでシシウドではなかった。
  全域 4島

セイタカフモトシケシダ Deparia dimorphophylla x D. pseudoconilii
                var. pseudoconilii
  タマシケシダ?としていたもの。同定は海老原淳博士。

 〔仮同定〕 ------ 検証不十分で保留
オニツルウメモドキ Celastrus stephanotifolius
  ツルウメモドキ(広義) C. orbiculatus とは明らかに異なるものだが,葉裏脈上
  の毛が本種の記載と一致しない。
  大満寺山(北側登頂路)

 〔再確認〕 ------ 長く現状不明だった
ゴウソ
  数十年振りの再確認。
  西郷 平

 〔新産地〕 ------ 希産種の新産地
エゾノヨロイグサ    都万 狭山(林道)
マルバウマノスズクサ 西郷 犬来(道路際)
アオミヤマカンスゲ  布施 南谷(上流)
タチスゲ     男池,八尾川,知々井岬
ハマヒエガエリ   重栖湾(埋立地)
ヤブサンザシ   西ノ島 外浜付近
ホザキノフサモ  都万 鳴沢の池
ヒロハヤブソテツ  五箇 郡川
コバノイラクサ   西ノ島 耳々浦
サワトウガラシ   西郷 今津(水田)
ヒメミカンソウ    西郷 今津(水田)
ニッポンイヌノヒゲ  西郷 今津(水田)
ニガクサ    西郷 犬来(道路際)

 〔情報のみ〕 ------ 未確認
キヨスミウツボ Phacellanthus tubiflorus
  浦郷の真野茂信氏の写真。島根県初記録。
  焼火山(登山道)

 〔再同定〕 ------ 同定の精密化
クサコアカソ
ヒカゲノカズラ
タチシオデ
シオデ
ヒメエンゴサク Corydalis lineariloba var. capillaris
エゾノヨロイグサ
キツネノカミソリ
ヒメアシボソ Microstegium vimineum f. willdenowianum

 〔新帰化種〕 ------ 初確認
チリーアヤメ     (海士 菱浦)
オニクサヨシ      (西ノ島 仁具・いざなぎ)
トキワススキ     (島後 代)
ヨシススキ      (島後 八尾川)
セイヨウミヤコグサ  (五箇 重栖)
アレチニシキソウ  (西ノ島 美田)
キバナオドリコソウ  (西ノ島 浦郷)

 (帰化種新産地)
ハナヌカススキ     (海士 西)
ハマチャヒキ      (島後 中村)
コスズメガヤ     (西郷港)
ヤワゲフウロ      (西ノ島 いざなぎ)
トゲミノキツネノボタン  (知夫 赤禿山)
アレチウリ        (西ノ島 耳々浦,島後 那久岬)
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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