※※※ 2016年の収穫 ※※※

 〔島根県初〕 ------ 県下の記録なし
オオキツネノカミソリ Lycoris sanguinea var. kiushiana
  石見の方にあったらしいと聞いたが確認できていない。
  知夫 赤禿山
ケエゾノヨロイグサ Angelica sachalinensis var. sachalinensis
              f. pubescens
  エゾノヨロイグサの品種で母種に混生。北海道と栃木県の一部に生育。
  都万 津戸
ヒメハリイ Eleocharis kamtschatica 
  刺針状花被片が発達する型。
  五箇 重栖湾。
ウスゲコバノイシカグマ Dennstaedtia scabra f. glabrescens
  コバノイシカグマの品種とされているが,独立種にすべきとの説もある。
  布施 南谷(上流)

 〔隠岐初〕 ------ 隠岐の情報なし
シロバナヤマジソ Mosla japonica var. thymolifera
  希産種ヤマジソの変種。全国で数地点の記録しかなく超希産。
  都万 津戸
シソクサ Limnophila chinensis ssp. aromatica
  過去の記録も情報もない。県下では島根半島の記録あり。
  西郷 今津(水田)  
ササバモ Potamogeton wrightii
  男池の一角に群生するが量は多くない。
  西郷 津井
ヨツバヒヨドリ Eupatorium glhenii
  ヒヨドリバナ類の中では例外的に判りやすい。
  布施 南谷(上流)
オニツルウメモドキ Celastrus orbiculatus var. strigillosus
  ツルウメモドキに混じって普通にある。
  海士 豊田

 〔初確認〕 ------ 情報はあったが未見
ヒメイタチシダ Dryopteris sacrosancta
  イタチシダ類の中では特徴が顕著。採集品は紛れのない典型品。
  海士 金光寺山(1株のみ)
ヒカゲワラビ Diplazium chinense
  過去に,焼火山と海士の記録のみがある。
  西ノ島 別府(1株のみ)
ハマニンニク Leymus mollis
  あったと昔聞いていたが,やっと確認できた。
  都万 塩の浜(末路川河口)
スブタ Blyxa echinosperma
  男池の水中にわずか数株,よく残っていたものだと思う。
  西郷 津井(男池)
クロハリイ Eleocharis kamtschatica f. reducta
  刺針状花被片が発達しないヒメハリイの品種。重栖湾埋立地はかなりの量。
  五箇 重栖,西郷 男池
マツモ Ceratophyllum demersum
  小さな溜池内に大きく広がっていた。
  海士 東
アマナ Amana edulis
  昔あったとは聞いていたが,出会ったのは初めて。大きな群生地で100株以上。
  西ノ島 高崎山(山麓)
クガイソウ Veronicastrum japonicum var. jappnicum
  隠岐のは全部がナンゴククガイソウという認識だったが…。
  布施 鷲ヶ峯,都万 壇鏡
ワサビ Eutrema japonicum
  間違いなく自生と思われる。
  五箇 郡
ニガカシュウ Dioscorea bulbifera
  浦郷の真野信茂氏から教わった場所。隠岐の初記録。
  西ノ島 浦郷

 〔同定変更〕 ------ 間違いを訂正
サンインヨロイグサ Angelica sachalinensis var. sachalinensis
             f. saninensis
  今までシシウドとされていたもの。エゾノヨロイグサの品種となっているが,
  見かけはまるで違う。隠岐のものは全てこれでシシウドではなかった。
  全域 4島

セイタカフモトシケシダ Deparia dimorphophylla x D. pseudoconilii
                var. pseudoconilii
  タマシケシダ?としていたもの。同定は海老原淳博士。

 〔仮同定〕 ------ 検証不十分で保留
オニツルウメモドキ Celastrus stephanotifolius
  ツルウメモドキ(広義) C. orbiculatus とは明らかに異なるものだが,葉裏脈上
  の毛が本種の記載と一致しない。
  大満寺山(北側登頂路)

 〔再確認〕 ------ 長く現状不明だった
ゴウソ
  数十年振りの再確認。
  西郷 平

 〔新産地〕 ------ 希産種の新産地
エゾノヨロイグサ    都万 狭山(林道)
マルバウマノスズクサ 西郷 犬来(道路際)
アオミヤマカンスゲ  布施 南谷(上流)
タチスゲ     男池,八尾川,知々井岬
ハマヒエガエリ   重栖湾(埋立地)
ヤブサンザシ   西ノ島 外浜付近
ホザキノフサモ  都万 鳴沢の池
ヒロハヤブソテツ  五箇 郡川
コバノイラクサ   西ノ島 耳々浦
サワトウガラシ   西郷 今津(水田)
ヒメミカンソウ    西郷 今津(水田)
ニッポンイヌノヒゲ  西郷 今津(水田)
ニガクサ    西郷 犬来(道路際)

 〔情報のみ〕 ------ 未確認
キヨスミウツボ Phacellanthus tubiflorus
  浦郷の真野茂信氏の写真。島根県初記録。
  焼火山(登山道)

 〔再同定〕 ------ 同定の精密化
クサコアカソ
ヒカゲノカズラ
タチシオデ
シオデ
ヒメエンゴサク Corydalis lineariloba var. capillaris
エゾノヨロイグサ
キツネノカミソリ
ヒメアシボソ Microstegium vimineum f. willdenowianum

 〔新帰化種〕 ------ 初確認
チリーアヤメ     (海士 菱浦)
オニクサヨシ      (西ノ島 仁具・いざなぎ)
トキワススキ     (島後 代)
ヨシススキ      (島後 八尾川)
セイヨウミヤコグサ  (五箇 重栖)
アレチニシキソウ  (西ノ島 美田)
キバナオドリコソウ  (西ノ島 浦郷)

 (帰化種新産地)
ハナヌカススキ     (海士 西)
ハマチャヒキ      (島後 中村)
コスズメガヤ     (西郷港)
ヤワゲフウロ      (西ノ島 いざなぎ)
トゲミノキツネノボタン  (知夫 赤禿山)
アレチウリ        (西ノ島 耳々浦,島後 那久岬)

シロバナヤマジソ Mosla japonica var. thymolifera の分布

高さ10mの海食崖の上,そこから続く岩山の斜面に薄く貼り付いていた。長径2m程の小群落。高さは10cmにも満たず,花は老眼では見落とすほど小さく疎ら。

この場所は,何かありそうだと最近時々来ていたのだが,今まで全く気付かなかった。今回は(2016/9/24)すぐそばに坐って弁当を広げたのが幸いした。…と思ったが実は,今年の7月末(猛暑)にもそっくり同じ場所で昼食を食べている。

たまたま目に止まった原因は,ちょうど花が咲いていたからだ。花がなければ,目には映っていても意識できたかどうか…。加えて,それほど暑くもなく帰りの時間に余裕もあって,気持ちがのんびりしていたのが良かった。この日を逃したら永久に知らないままで終ったかもしれない。千載一遇という言葉がある。

現地で「知らないものだ!」と確信,一瞬緊張はしたがトウバナ属の雑草だろうと期待は高くなかった。ところが帰って,セリ科の属を検索したらイヌコウジュ属で,島根県のデータベース(自家製)に出ていなかった。同定については不安を感じないので省略する。

妙に情報の少ないもので,載ってない図鑑が多いし,インターネットを検索してもほとんどヒットしない。実際に自生地で確認していると思われたサイトは5件程度。
図鑑類でも,本種(変種)の分布にふれてあるのは次の4書だけだった。
  本州(下総)    :日本植物誌 (大井次三郎 1953)
  本州(関東地方) :原色日本植物図鑑 (村田源 1957)
  本州(千葉)    :日本草本植物総検索誌 (杉本順一 1965)
  本州        :Flora of Japan (G. Murata & T. Yamazaki 1993)

エライことである。ほとんど “千葉県辺り” にしかないと考えられて来たようだ。これはもう,隠岐のシロバナヤマジソに敬意を表して分布を調べるしかない。

以下のデータは,各県の “地方植物誌” に基づいたものである。
しかし文献上で生育を確認できたのは宮崎県ただ1県。かろうじて,兵庫・島根・山口の3県をネット上で捜し出した(最近の結果でかつ確実なもの)。
    ● RDB登載, ▲ ごく稀, × 記録なし, ? 不詳

     *** 【A】 ***
北海道 ×
青森 ×,岩手 ×,宮城 ×,福島 ×,秋田 ×,山形 ×
茨城 ×,栃木 ×,群馬 ×,千葉 ×,埼玉 ×,東京 ?,神奈川 ×
新潟 ×,富山 ×,石川 ×,福井 ×,
長野 × ,山梨 ×,岐阜 ?,静岡 ×,愛知 ?
滋賀 ×,三重 ×,奈良 ×,大阪 ×,和歌山 ×,京都 ×,兵庫 ▲
鳥取 ×,島根 ▲,山口 ▲,岡山 ×,広島 ×
香川 ×,徳島 ×,愛媛 ×,高知 ×
福岡 ?,佐賀 ×,長崎 ×,大分 ×,熊本 ×,
宮崎 ●,鹿児島 ×,沖縄 ×


昔の幻のような産地 “千葉県” (現状不明),そして今でも全国で4県にしかない生育情報。にわかには信じ難い!もちろん他の府県にないとは言えないが,超希産であることに間違いないだろう。今までその地の研究者が見ていないこと,そして既知の産地(4県)での稀さ加減から。

隠岐以外の島根県の産地は,島根半島の一角で島根町。松江市の野津貴章(よしゆき)さんが数年前に発見された。私信によると,隠岐同様に海岸の岩場(一つの湾の2地点)であるという。

山口県も離島 “角島” の海岸,宮崎県は『宮崎県の生物』(室屋瀧雄・南谷忠志,1992)に,「県北にごく稀,海岸岩上」の意の記述がある。兵庫県は海岸かどうか分らないが瀬戸内沿海地であることは確か。 “海” 又は “岩” と関係がありそうだ。

なお,ネットを検索すると韓国のサイトが結構出て来る。日本だけではないようだ。母種ヤマジソ M. japonica は韓国南部にも分布するので,ヤマジソの分布域の一部にごく稀に出現するという事かもしれない。地理的な意味はなく。


次いで,母種ヤマジソ M. japonica var. japonica の分布。
こちらは,環境省指定の “準絶滅危惧(NT)” にもなっている。

     *** 【B】 ***
北海道 ▲
青森 ●,岩手 ●,宮城 ●,福島 ●,秋田 ●,山形 ●
茨城 ●,栃木 ●,群馬 ●,千葉 ●,埼玉 ●,東京 ●,神奈川 ●
新潟 ●,富山 ×,石川 ×,福井 ▲,
長野 ●,山梨 ×,岐阜 ×,静岡 ●,愛知 ●
滋賀 ●,三重 ●,奈良 ●,大阪 ●,和歌山 ●,
京都 ●,兵庫 ×
鳥取 ×,島根 ×,山口 ●,岡山 ●,広島 ●
香川 ●,徳島 ●,愛媛 ●,高知 ●
福岡 ●,佐賀 ●,長崎 ●,大分 ●,熊本 ●,
宮崎 ▲,鹿児島 ●,沖縄 ×


全国的に広く分布しているのに個体数が極端に少ない。だからこその環境省指定。時にこのような種がある。逆は,生育地域がごく限られているが,その産地に行けば普通に見られるというタイプ。

A・B 2つのあまりの違いに,[A:シロバナヤマジソ]は[B:ヤマジソ]に含まれているのではないのかぁ~?という疑念が湧く。しかしそれはあり得ないだろう。

 (1) “品種” ならまだしも, “シロバナヤマジソ” はれっきとした変種である。変種に対しては余程分類に問題があるか,差異が微少でない限りそのような扱いはしない。
 (2) 両変種の区別は容易であるし(色の違い),一目で判るほど印象も異なる。しかも稀にしか現れない希産種。当然分けて記録するだろう。
 (3) 地元の植物誌はできるだけ種数を増やしたいものである。永年の積み重ねの総決算とも言える “地方植物誌” において,明瞭な変種を一言も触れずに無視するとは考えにくい。たとえヤマジソに含めたとしても,その旨の言及は必ずあるはず。
 (4) 環境省のRDBも,狭義のヤマジソ var. japonica であるとはっきり断っていて,やはりシロバナヤマジソ var. thymolifera を含めてはいない。


最後に分類について触れておきたい。『Flora of Japan』では,
  シロバナヤマジソ Mosla japonica var. thymolifera
  オオヤマジソ    Mosla japonica var. hadae
の2変種を認めず,母種ヤマジソ Monsla japonica に含めてしまった。但し,シロバナヤマジソは品種(M. japonica f. thymolifera)として生き残った。

“変種” から “品種” への降格ではあるが,よくある “単なる花の色変り” ではない可能性がある。茎や葉にも色の違いが出るし,長く変種(原記載は独立種)と見なされて来たという経緯もある。花の色が違うだけの単純な差なら最初から品種となっていたはずだ。生態や分布等気付かれていない差があるかもしれない。何しろ,異常に少ないので実際に見た人は多くないだろうから。
   (注) シロバナヤマジソは1922年に牧野さんがアオヤマジソ
     Mosla thymolifera Makino として発表。その後(1957年)北村先生が,
     ヤマジソの変種に組み替えそれが長く使われて来た。
       「YList」からそう理解したのだが,1921年発行の『植物学雑誌』には
     シロバナヤマジソ Mosla leucantha Nakai の詳細な新種記載がある
         (産地:下総習志野村)。
       更に,牧野さんの『日本植物総覧』(1931)にもこの名前で登場する。
     初期の頃の詳しい事情は何だかよく分らない。

この新見解はまだ一般に行われていないが,いずれこうなりそうな気もする。確かに,オオヤマジソはよく判らないという声もあるし,図鑑類の記載も一定していない。ただ,シロバナヤマジソについては適否の判断を保留しておきたい。

なお,問題のオオヤマジソをRDBに登載しているのは5県( 岩手・兵庫・島根・長崎・熊本)だけで,他県には記録すらない。これをヤマジソに含めてしまうと【B】表の兵庫と島根が●に変る。また,新見解に従ったとしても,【A】表は超希産品種シロバナヤマジソの分布実態を示すものとして,十分に存在価値がある。

 オオキツネノカミソリ Lycoris sanguinea var. kiushiana

今までは全部キツネノカミソリだと思い込んでいた。今年になって大慌てで調べたばかり,ブログに書くのは早過ぎる気もするが…。

調査地地点は,西ノ島町(小向・美田尻・高崎山),海士町(日ノ津),知夫村(赤禿山),の5ヶ所のみ。島後地区は2枚の写真(野津大・宮本秀永の両氏)での判断に過ぎない。

結果は,知夫の赤禿山(頂上付近と山麓)だけがオオキツネノカミソリで,他はすべて明瞭にキツネノカミソリだった。判断に悩むような個体には出会っていない。

キツネノカミソリは全国(北海道を除く)に分布する日本固有種であるが,オオキツネノカミソリの方は多少南にずれ,関東以西~朝鮮半島まで。そして,隠岐は北限自生地の可能性がある。

知り得た範囲では,日本海側は福井県(丹生郡越前町)までで “知夫より南” ,最も北は群馬県(妙義山)で “五箇と同緯度” 。朝鮮半島の状況は不明であるが,あまり細かいことは言わず,隠岐諸島が “北限” という認識でよいことにする。 “真の北限” なぞ,誰にも(何時になっても)判らないのだし。

量(個体数)については,関東地方でも「埼玉:有り,茨城・栃木・千葉:無し,群馬:稀,東京:Ⅱ類,神奈川:Ⅰ類」とごく稀。東海以西でもあまり多くはないように思える。特に中国5県では,岡山県を除けば普通種とは言えない。鳥取県は準絶滅危惧にしているし,島根県でも確実な記録は目にしていない。

ネット上などで,母種キツネノカミソリ var. sanguinea との “区別が難しい” としている人もいるが,その事を強調するのはどうかなと思う。中間型(恐らく雑種)が現れたとしても,それは頻度の問題である。 “稀に” 同定不能なタイプが出て来るのは,他の種群でもよくある話である(例えばサクラ)。まずは典型的な標準品をきちんと認識するのが先決,例外の中間型はペンディングしておいてよい。

両変種の比較対照。《 》内がキツネノカミソリ。
 (1) 葉はより幅広く : 10-15mm  《8-12mm》
 (2) 花被片の長さ : 7-9cm  《5-8cm》
 (3) 花被片の反り : 明瞭に反り返る  《あまり反らない》
 (4) 雄蕊は花被片より : 長くて,花外へ明瞭に突き出る  《短いかほぼ同長》
 (5) 小花柄は長く : 8cmまで  《2-6cm》
 (6) 花期は早く : 7月  《8月》

⇒ (1) 「10-13mm  《8-10mm》」とする文献もある。10mmが境界値。
⇒ (2) 数値以上に,一目で大きさの差を感じる。
⇒ (3) キツネノカミソリも反る事はあるが,後ろへ巻く感じはない。
⇒ (4) これが一番分かり易く確実。花を横から見て, “花糸” が大きく突き出る。
    (3)-(4) はネット上の画像が参考になる。例えば,
    http://tansyu.blog.fc2.com/blog-entry-364.html
    但し,花の色は無関係。
⇒ (5) 調べていない。
⇒ (6) 場所や日照条件で多少の差は出るが,隠岐島前地区の最盛期は
    「7月中旬  《7月下旬》」

こうして書き上げると微妙で厄介そうであるが,現物を見れば直ぐに解決する。つまり,両者を “見比べる” ことができれば。隠岐の人は(少なくとも植物をやっている),7月半ばに赤禿山に登り自分の目で直に見るべきであろう。頂上手前の道路際に群生地がある。

キツネノカミソリを初めて知ったのは40数年昔,それ以来一度も疑ったことはなかった。今回にわかに注目したのは,西ノ島の山奥で大群生地帯に出くわし興奮したためである。そしてネットを検索,オオキツネノカミソリの存在を知り,図鑑にもちゃんと記述があることに気付いた。

集落内の水田近くのもので,しかもあまり大量にはない,という先入見は正確さに欠けていた。現地はほとんど人の入らない谷筋で,延々1km以上続いている。異様な光景で満開時を見てみたい。

 サンインヨロイグサ について

隠岐のシシウドは「葉の裏に毛がないが…」という指摘を受けて(西ノ島町の真野信茂さんから),隠岐4島のものを春からチェックして来た。確かに,今まで見た限りでは全て無毛である。今回,知夫村と海士町で果実を採集できたので(それぞれ1株ずつ),果実の断面を検鏡してみた。

分類は,山崎敬博士の以下の論文に従う。掲載誌はいずれも “植物研究雑誌” 。引用した和名・学名はネット上の “YList” でも採用されている。

 [Ymz1]: 日本におけるエゾノヨロイグサの変異 (1986)
 [Ymz2]: 日本におけるヨロイグサ,エゾノヨロイグサ,シシウドについて (1989)
 [Ymz3]: Umbelliferae in Japan Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ (2001)

[Ymz1]で以下のくだりをを読んで,「島根県周辺は妖しくて未解決,今後の課題か…」と残念に思った記憶がある。

 「… 問題なのは山陰地方のものである。 … 中国地方では瀬戸内側には普通のシシウドがあるが,京都府北部,兵庫県北部,鳥取県,島根県,山口県東北部には葉の裏面がほとんど無毛のものがある。中国地方の日本海側に一定の分布域をもつように思われる。
 葉は質が薄く,裏面は淡緑色であって,葉がやや厚く,裏面が白味を帯びるミチノクヨロイグサとは異なり,シシウドの一型と思われるが,果実の油管はややミチノクヨロイグサ型に似るものが多い。
 しかしこの地域のものがシシウドと実際に分布域が異なるのか,ミチノクヨロイグサもありはしないかといったことは資料不足で,現地を歩いて十分調べないと結論がだせない。 …」


実はその3年後に回答が出ていたのだが,公務が忙しく植物どころではなくなってしまった。それを今(27年後)になって読んでいることになる!
  サンインヨロイグサ
    Angelica sachalinensis Maxim. var. sachalinensis
                           f. saninensis T.Yamaz.
は,[Ymz2]で新記載された。解説文の一部を抄出する。

  「… 鳥取県大山にエゾノヨロイグサに似たものがあり, … これをどう扱うべきか解らなかった。ミチノクヨロイグサとは葉の形が似るが裏面が白くないので異なる。しかし,近畿地方や中国地方でシシウドと同定された標本の中にこれに類するものが見出され,おおよその分布を知ることができた。
 葉の最終裂片の形には大小の変化があるが,大体シシウドに似る。しかしシシウドは葉の裏面脈上に短毛がやや密に生えるのに対し,まったく無毛なので容易に区別できる。ただミチノクヨロイグサほど葉の裏は白くないので,シシウドと間違え易い。 …
 葉が無毛である以外に大きな特徴は,果実の背面の溝に沿う果肉内に1本ずつの太い油管が走ることである。しばしば細い油管がもう1本加わることもあるが,太い油管が1本走るのが基本である。シシウドではここに細い油管が2-3本走っている。
 こうした性質からすると,中国地方のエゾノヨロイグサは,外観が似ていて同所的に生育するシシウドとは直接の関係がなく,ミチノクヨロイグサや東北地方や北海道のエゾノヨロイグサと関係があり,それらと同種であると結論される。 …」


シシウドに外見はそっくりで実は別種,驚くべき結論である。同定は,
 ① 葉の裏面に毛がない,
 ② 果実背面の溝に油管が1(-2)本ずつ,
 ③ 葉の裏は白味を帯びない(単に淡緑),
を確かめればよい。

隠岐で果実を調べたのはまだ2例に過ぎないが,①・②・③とも明瞭にクリアしている。そして,今まで一度も “裏面脈上に毛のあるシシウド似” のものには出会ったことがない。隠岐は全部がサンインヨロイグサで,本当のシシウド A. pubescens はないのかもしれない!呆れた話である。今までは全部シシウドだと思い込んでいた。過去の記録や先人達の話を鵜呑みにして。

しかし,上記論文の引用標本(残念ながら隠岐のものは含まれていない)によると,本土側(京都府~山口県)にはシシウドとサンインヨロイグサが共存していることになる。サンインヨロイグサを確認している地元の人はいるんだろうか?何しろ2016年現在,サンインヨロイグサの載っている図鑑や植物誌がない。来年3月刊行予定の『改訂新版 日本の野生植物 5』が興味津々。サンインヨロイグサの図鑑デビューはあるか?

論文[Ymz2]後に植物誌『Flora of Japan Ⅱc』(1999)が刊行されたが,何故かサンインヨロイグサだけは落ちている。ウッカリミスなどという事はあり得ない。何も言及せず黙って無視するのか…!風の噂では学者間の感情問題も絡んでいるように思われる。

 クロハリイ Eleocharis kamtschatica f. reduca の分布

塩性湿地生とされるクロハリイを確認した。母種であるヒメハリイ(ヒメヌマハリイ)
E. kamtschatica の “和名” をクロハリイとしている文献もある。

全国的な希産種と思われたので分布を調べてみた。ひと言で言えば,分布の中心
は “東海地方以東~北海道” 。西日本の記録は無きに等しい。

  ● : レッドリスト種
  ◎ : 稀・少
  ○ : 記録がある
  ? : 不明
  × : 記録なし(絶滅を含める)
  (註) 記録がヒメハリイ E. kamtschatica のみの場合は,それぞれ▲,△とした。

北海道: ○
青森: ◎,秋田: ●,山形: △,岩手: △,宮城: ○,福島: ◎
  ・・・分布が北に偏るが,東北地方にも多いわけではない。青森・山形・福島県
  では “稀” となっていた。産地が多く挙がっていたのは,北海道と宮城県のみ。

新潟: ○,富山: ×,石川: ▲,福井: ▲
  ・・・新潟県は佐渡の標本。石川県:Ⅰ類,福井県:Ⅱ類。

群馬: ◎,栃木: ◎,茨城: ◎,千葉: ●,東京: ×,埼玉: ×,神奈川: ×
  ・・・東京都・神奈川県は絶滅。栃木県は「移入種?」となっている。群馬県同様,
  海の無い内陸県であるのが不思議。

長野: ×,岐阜: ?,山梨: ×,静岡: ◎,愛知: ○
  ・・・『日本水草図鑑』の分布図では,長野と岐阜?に “点” (プロット)がある。
  そういうこともあるかもしれない。但し,詳細な『長野県植物誌』には記載なし。


滋賀: ×,三重: ●,京都: ●,奈良: ×,和歌山: ◎,大阪: ×,兵庫: ×
  ・・・京都府は現状不明,三重県は「生育地点数は2」,和歌山県は1地点で
  1996年の標本。大阪府はヒメハリイで絶滅。

鳥取: ◎,島根: ◎,岡山: ×,広島: ×,山口: ◎
  ・・・鳥取県は米子市の粟島干拓地。島根県は隠岐島のみ,男池(ラグーン)と
  重栖湾の休耕田。山口県は『植物誌(岡国夫 1972)』にはないが,
  『植物目録 2000』で「ごく稀」。

徳島: ×,香川: ×,愛媛: ×,高知: ×
  ・・・分布域に「四国」を含めている文献もあるが,大いに疑問。

福岡: ▲,佐賀: ×,長崎: △,大分: ×,熊本: ×,宮崎: ×,鹿児島: ▲,
   沖縄: ×

  ・・・ 福岡県で現状確認されているのは1ヶ所(10×10m)のみ。長崎県は大村湾
  の記録。鹿児島県は種子島と思われる。

 
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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