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サイコクベニシダ Dryopteris championii

隠岐のベニシダ類は以下の6種に限定して考えてよい。他の記録は一切ないし,それらしきものを見たこともない。また,分布上あってしかるべきと思える他の種も思いつかない。

例え他のものがあったとしても,まず簡単にはお目にかかれないと思う。なにも数を増やして事を複雑にする必要はない。ただでさえ厄介な連中なのだから。この6種類に限ると言われれば,少しは元気も出るはずだ。

 ベニシダ  D. erythrosora
 トウゴクシダ  D. niipponensis
 ハチジョウベニシダ  D. caudipinna
 オオベニシダ  D. hondensis
 マルバベニシダ  D. fuscipes
 サイコクベニシダ  D. championii

サイコクベニシダであるためには,次の2つの条件を満たす必要がある。逆にこの2点さえ確認できれば,間違いなくサイコクベニシダであると言ってよい。時に中間型が現れてどちらとも判断できない(或はどちらでもない)ことのあるベニシダ類としては,例外的に判り易くて気持がいい。

(1) 葉柄と中軸に赤褐色の鱗片が密生,葉柄の地肌がみえないほど分厚くつく。しかも宿存性で秋季以降も落ちない。
(2) 葉柄下部の鱗片の,基部辺縁に鋸歯状の歯牙(ぎざぎざ)がある。突起は低くて疎ら,やや見にくいがはっきりとある(ルーペが必要)。

(1) は著しい特徴で,一目でアッと思うくらいよく目立つ。とてもベニシダの仲間には見えない。 “葉柄に鱗片が密生” だけでサイコクベニシダと決めてよいようなものだが,厳密に言うと1種だけ例外がある。
 ※ アツギノヌカイタチシダマガイ D. simasakii var. paleacea
なるものがそれで, “厚着の” は鱗片がぎっしり着くことを意味する。

それに対しては(2)に基づき,アツギには鱗片辺縁の歯牙が “ほとんどない” ことを使う。他にも色々差はあるが,区別が困難なほど似ている型も出るらしい。両者の比較については,名著「写真でわかるシダ図鑑(池畑怜伸 2006,トンボ出版)」が詳しい。ここまで調べて「やはりアツギではない」と思った。しかし種の境界が曖昧なのはなにもベニシダ類に限ったことではない。無融合生殖を基本とするグループにはよくある話だ。

ただこの種の分布,本州では「東海地方・紀伊半島・山口県」を考えると,隠岐にはあり得ない。島根県では,わずかに石見西部(日原・津和野)で確認されているが,ここは “ほとんど山口県” と言ってもよい地域。

もう一つチェックすべき種があって,それが(2) の条件を満たしている
 ※ ギフベニシダ D. kinkiensis
である。差異は,葉柄や中軸の鱗片が “汚褐色で少なく,葉柄の地肌が見える” 点だという。他にも,葉質がより薄い,葉面が細長い “楕円形” ,羽軸が斜上(中軸に対し羽軸が鋭角に出る),などの違いがある。これについては鱗片の量が決め手になるし,葉身の形がはっきり異なる。サイコクベニシダの葉身は “卵形” で,下部ではっきり幅広く羽片も直角に近く開出する。

ソーラスの位置が “中間性~中肋寄り” という点も強調されるが(サイコクベニシダは中間性~やや辺縁寄り),一個体中でも変化が多いので注意した方がよい。一部だけでなく葉の全体を調べて傾向をつかむ必要がある。或は “極端な中肋寄り・辺縁寄り” の部分を捜すとか。

この種も基本的には太平洋側の暖地のもので,島根県の採集記録はない。ただ隠岐と同緯度の福井県に記録があるので,可能性はゼロとは言えない。フィールドでは一見普通のベニシダ(やや重厚な)に見えそうな気がする。

本種の同定に関しては,上記(1)と(2)で不安を感じないが,他にも色々注目点がある。とにかく隠岐のベニシダ類の中では異彩を放っており,人で言えばつくづく “濃い顔” だと思う。

(3) 葉面は深緑色~暗緑色で,はっきり光沢が感じられる。
(4) 葉身はやや厚い革質でしなやか。
(5) 小羽片基部の両側が耳状にふくらむ。
いずれもはっきりした重要な特徴。(5)が変っていて印象に残る。

以下については独断。
(6) 下部の羽片は,上方へ円を描くように大きくカーブする。小羽片も連動するように鎌曲りする傾向がある。
(7) 小羽片の辺縁が裏側に反る(ヤマイタチシダ同様)。そのため小羽片内部が浮出し,厚くぼってりした感じになる。光沢も強調される。

昨年暮れ(2012.12.19),海士町の金光寺山(標高 168m)の中腹,駐車場近くの道路際で偶然気付いた。生育環境は低山地や人里付近で深山幽谷ではないらしい。しかも専門家が見落すようなものでもない。今頃になって “隠岐新産” とは驚く。きっと隠岐ではごく稀なのであろう。まさか,“この1株だけ” ということは…。普通の草本類では考えにくい事だが,多年性で寿命のない(?)シダではあり得る。1本だけ残っている樹木があるように。

オオベニシダ Dryopteis hondoensis

ベニシダ類はよく分らないので長い間敬遠して来た。本気で取組んだのは一昨年暮れからに過ぎない。隠岐にいてハチジョウベニシダ D. caudipinna をよく知らないのが,流石に恥ずかしくなったためである。ハチジョウベニシダの存在を知ったのが1991年,20年間放置していたことになる。調べてみて隠岐は一大産地であることが明らかになった。

当然関連して,ベニシダ D. erythrosora とトウゴクシダ D. nipponensis の精密な把握が必要になった。オオベニシダもその過程で気付いたものである。今までは隠岐に自生があることを知識として知っているのみで,その実態については全く自信がなかった。

オオベニシダ については,今年一年観察を続けようと思っているが,現時点での予想をメモしておきたい。言わば作業仮説である。もちろん,すべて何かの文献には書いてある事実。

ただこのシダを知るには,トウゴクシダとの区別さえできればよいと感じている。隠岐の場合,トウゴクシダ型のハチジョウベニシダの一型が現れて事情を複雑にしているが,以下の比較がある程度流用できるし,いざとなればハチジョウベニシダには決定的な特徴がある。

    H: オオベニシダ Dryopteris hondoensis
    N: トウゴクシダ Dryopteris nipponensis
(1) 葉の色
  H:黄緑色。黄色味が弱い場合でも, “明るい鮮緑色” は明瞭。
  N:通常は暗緑色。明るい場所で,稀に黄色味の強いものも見る。
(2) 葉質
  H:やや硬い草質でガッチリした印象。端正な平面状。
  N:しなやかな紙質でペラペラした感じ。皺が寄るように小羽片が波打つことが多い。
(3) 光沢
  H:全くない。ベニシダ環境の中では特異でよく目立つ。
  N:鈍い半ツヤ。ベニシダのようなガラス光沢はない。
(4) 葉面の印象
  H:羽片・小羽片とも一平面にきちんと並びすっきりしている。羽片や小羽片間に隙間ができ勝ち。
  N:小羽片どうしが重なるように密生する。全体がごちゃごちゃ混合う感じ。
(5) 葉先の尖り方
  H:漸尖。なだらかに徐々に細くなる。
  N:急尖。頂部の羽片が急に短くなりやや尾状になることが多い。
(6) 下部羽片の柄
  H:5mm程度の柄がある。
  N:小羽片が中軸に重なり,柄はごく短い。
(7) 羽軸の袋状鱗片
  H:大部分は平たくて,袋状のものがわずかに混じる程度。
  N:袋状の鱗片がぎっしりつく(早落性)。
(8) 葉柄下部の鱗片
  H:茶褐色。
  N:黒褐色。
(9) ソーラスの位置
  H:裂片の中肋と辺縁の中間(~やや中肋寄り)。
  N:はっきり中肋寄り。下部羽片で比較する。
(10) 分布量
  H:分布は広いが個体数はごく少ない。しかも,単独でポツンとある場合がほとんど。
  N:ベニシダ環境にやや稀に現れる。群生はしないがその付近に数株はあるのが普通。


変化の多い種では(個体変異と生態変異がある)何でもそうであるが,上記の特徴が “常に必ず100%” 観察できるとは限らない。複数の形質による総合的な判断が必要になる。ただ,微妙で難しい個体に出会ったら一時棚上げし,まず標準的なものでしっかりイメージを作るべきだろう。ものには順序というものがある。

上記の(7),(8)についてはまだ確認していないが,(7)が最も確実な判定基準になるのではないかと思っている。新葉が展開し終った頃に是非観察してみたい。
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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