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マルバウマノスズクサ Aristolochia contorta

ウマノスズクサ科はなじみのない科だが,カンアオイ属が含まれている。ドクダミ科やコショウ科と同じコショウ目で,被子植物で最も初期に進化した群らしい。APG分類体系では,モクレン目,クスノキ目と続く。クスノキ目がこんなところに出て来るとは思わなかった。そしてその後に単子葉類が割込んで来る!

あの喇叭のような妙な花は萼だという。合弁花かなと思ったら図鑑では離弁花の方に入っていた。ただ,新しい分類体系では合弁花と離弁花の2つに分ることはしなくなった。どちらでもない科があるからだろう。

牧野博士が島根県(八束郡岩坂村)の標本で,明治43年に新種記載したものであるが,その後朝鮮・中国のものと同一種であることが判明した。当時の和名はマルバノウマノスズクサ,いつの間にか “ノ” が抜けたようだ。一般に,和名の “ノ” の有無はどうにかならないものか。あったかなかったか迷う例がかなりある。

初めて本種に出会った時,分布が「本州(島根県)」となっていて大いに驚いた(保育社の図鑑,1961)。現在は平凡社の図鑑(1982)にあるのが定説のようだ。何故か例外的に詳しい。

「大陸系の種類で,日本では,産地は長野県に集中し,さらに山形県から島根県の日本海側に点在している。朝鮮・中国北部・ウスリーに分布する。」

実は最近,岡山県の一部と対馬でも発見された。「日本海側」を消し「九州まで」とすべきなのか?分布の記載は悩ましい。図鑑に「四国」とあるので驚いて調べると,石鎚山の山頂に1ヶ所だったりする。跳び離れた例外的な分布まで含めると,かえって本来の分布域がぼやけてしまったりする。また,“普通”に広く分布しているのと,たまたま“局所的”に生残っているのとでは意味が異なる。1株でもあれば「ある」ことにはなるのだが…。

自宅の裏の畑に本種が生えていて,日常的にお目にかかっている。近くにある墓地にも多く,両親の石碑にまで絡まる。時々刈り払機でなぎ倒すのだが一向になくならない。30年以上マルバウマノスズクサと一緒に暮してきた様なものだ。日本の分布状況を詳しく調べてあげることにした。

環境省版のレッドデータブックでは,絶滅危惧ⅠB類であるが「推定個体総数約200」には驚く。今回の改訂(2012)で “絶滅危惧Ⅱ類” に格下げされたが,推定成熟個体数が250を越えたのであろう。海士町だけでも200はある。他の要因が改善したとは思えないので。

全国で記録があるのは以下の13府県のみ。  ●印はレッドデータブック登載。
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〔山形〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
・・・ “山形県の植物誌(1992)” によると,産地は4ヶ所で「まれ」。

〔新潟〕   絶滅
・・・  “新潟県植物保護 46号(2009)” による。
「新潟県における分布は,佐渡(本間2002)と加治川村(現新発田市)貝屋(池上目録,未公開)に知られている。その後,岩船郡朝日村(現村上市)に分布を確認した。畑の隣接地に群生していたが,開墾される可能性が高かったので,一部移植して栽培している。2007・2008・2009年現地を訪れた際に生育を確認しておきたいと思い,捜してみたが,土地が改変された後で再確認ができないままである。佐渡島や貝屋も注目して調査しているが,確認していない。新潟県では,野生絶滅の可能性が高い。…」

〔富山〕 ●情報不足
「既知産地は1 ヶ所のみであるが、近年の情報がなく現状が不明である。」

〔石川〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
「県内の生育地及び個体数が極めて少なく,貴重である。…県内分布 外浦区,内浦区,中能登区。…」
・・・メッシュ図では能登半島の先端部に1区画のみ。 なお,“石川県植物誌” には記載なし。

〔長野〕 ●絶滅危惧Ⅱ類
「…出現するメッシュ数16。…国内では長野県に比較的多いが,群生することはなく,各地に点在する。」
・・・メッシュとは5km四方の区画で全県を615区分したもの。産地はその内の16ヶ所。

〔群馬〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
・・・ “群馬県植物誌(1987)” では「産地 吾妻町 まれ」。

〔岐阜〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
・・・2013年改定案でレッドリストに追加。

〔京都〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
・・・2013年改定版でレッドリストに追加。

〔兵庫〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
「…県内分布 但馬…3ヶ所に知られている。いずれも人里近くのため,人為的環境破壊の危険度が高い。」

〔鳥取〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
「選定理由 生育環境悪化,局限・孤立,希少性。…県内分布 国府町,智頭町,鳥取市」
・・・分布図では4地点。

〔島根〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
「…日本で最初に気づかれたのは島根であり,八束郡八雲村岩坂で採集されたものであるが,現在,岩坂地内には生育地が確認されていない。…県内では東部と隠岐諸島にだけ生育地が知られていて,… (杉村喜則)」
・・・長く現状不明であったが,最近八雲村付近で再発見された。長野全県615メッシュを面積で換算すると島根県は304メッシュとなる。その内出現するメッシュは,島前 1,島後 1,松江市 1,の計3メッシュ。

〔岡山〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
「岡山県の生育地は2カ所で,個体数も少ない。…2004年に採集されて,岡山県にも生育することがわかった。 (地識恵)」
・・・分布図で見ると2ヶ所とも北部。

〔長崎〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
「…長崎県対馬の黒島からも発見された。…生育地は1ヶ所であるが,無人島であり,今のところ絶滅の心配はないが,産地が限られているので,絶滅危惧ⅠB類とするのが妥当であろう。 (中西弘樹)」
・・・対馬での発見は1999年。もちろん九州では初めて。
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なるほど分布している地域は広いが,産地は県当り小群落が数ヶ所。とにかく個体数が少ない。しかし急速に絶滅に向っているわけでもなさそうだ。事実非常に生命力が強く,道端の荒れ地・墓地・石垣などの乾燥地にも平気で耐える。墓地に除草剤を撒く人がいたがそれでも生残っていた。コンクリートを張詰めた場所もあるが,割れ目から芽生えて花を着けている。種子の散布能力も相当なもののようで,今までなかった場所に突然出現して驚くことがある。放置された桑畑で数年後に大繁殖,畑全体を埋め尽していたこともある。一時的だが2,000株を軽く越えていた。

環境省のレッドデータブックに「土地造成・道路工事が減少の主要因である。」とあるが,少し違うと思う。そのような原因で繁殖可能地が狭まることはあろうが,それは微々たるものである(少なくとも隠岐では)。最大の原因は農業をほとんどしなくなったことだ。人間の干渉で減少したのではなく,干渉をやめたことによって減少するのである。つまり畑の放棄である。雀や鴉或は農耕地の雑草のように,人間と共棲することによって生延びて来たと思う。恐いのは刈取りや踏みつけではなく,人間による攪乱がなくなって,競合種がはびこったり樹が茂って日蔭になることである。昔から産地が少なかった理由は,干渉の程度に微妙なバランス(強過ぎず少な過ぎない)を必要としたからではないか。栽培(つまり適度な干渉)してみれば分るが,始末に負えないほど増える。決して弱い植物ではない。

図鑑の分布の記述で「大陸系の種類で…」となっていた。この “大陸系” が分ったような分らないような誤解しやすい言葉である。 “大陸” がアジア大陸(ユーラシア大陸の東側)であろうことは何となく分る。そして “系” が系統を意味するなら,大陸系でない植物など日本にあるだろうか。帰化種は除くとして。

更に, “北方系” ・ “南方系” という語がこれと対立的に使われることがある。これも何となくは分る。しかし, “大陸系かつ南方系” などの種もありそうな気がする。或は “どちらでもない系” も。きちんと捉えようとすると訳が分らなくなってくる。植物歴40年,不幸にしてこれらの語の定義を読んだことがない。何でもありのインターネットを検索してみるが,まともな解説が見付からない。

日本に自生する “大陸系の種” を,取りあえず以下のように考えておくことにする。 “満鮮要素” という語があったが,これと同じ意味だと見なして。
 (1) 日本で進化した固有種と,帰化種は除外。
 (2) “大陸” とは,朝鮮半島・中国東北部(つまり日本列島のすぐ近く)のことと解し,大陸にも共通に自生する種。言わば大陸起源の種。
 (3) 大陸に自生するが,より北或はより南に広い分布域を持つものは含めない。

(3) の中には北方系・南方系が含まれるはずだが(世界の広布種は除き),日本固有種との関係はどうなるんだろうか。「関東以西~南西諸島」などは南方系と言わないだろうか。実は自分でも「中部以北~北海道」などを(その北の国外には拘らず)北方系と言って来た。北方系・南方系の場合,固有かどうかは無視するんだろうか。
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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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