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 ヤマホロシ Solanum japonense

長い間捜していたがやっと見付けた。近石川支流の源流付近(時張山系)。杉林の中の少し明るい林床を這っていた。1ヶ所だけであるが,個体数はかなり多い(2013.9.17)。

初めてこの種に出会ったのは遠い昔(1985.6.23),国賀摩天涯から谷筋を少し下りた所。梅雨の晴間のような日和りで,木村康信先生と一緒だったことを覚えている。牛の水飲場のある木陰に,淡紫色の花をつけていた。それ以来随分のご無沙汰である。

分布は日本全国(北海道~九州)に及ぶが,量の少ないものらしく島根県を含む17の県でレッドデータブックに登載されている。近くでは,山口・兵庫の両県。岡山県(中国山地)でも稀だという。四国・九州地方は特に少ない。島根県も何故か「隠岐だけ」と言われている。

隠岐の過去の記録:大満寺山・高崎山(杉村 1983),国賀(丹後 1985)。ここまで書いてもう一度見直したら,『国立公園候補地 隠岐島・島根半島・三瓶山』(丸山巌 1960)に出ていて,島根半島のみに 「○」がついていた。これは驚いた。もちろん,あっても不思議はないが。

30年間で2回だけ,まだピンと来ていないのだが,隠岐のこの仲間(つる性のナス属)を整理してみたい。一部現物で確かめていない部分もあるので,自家用の作業仮説ということで。

ナス科ナス属ヒヨドリジョウゴ節(Sect. Dulcamara)は,以下の4種からなる。この順で個体数が多く,いずれも隠岐島・島根県の記録はある。

 (1) ヒヨドリジョウゴ S. lyratum
これはとやかく言うまでもない普通種。人里の藪のような所を捜せばすぐに見付かる。朱赤の毒々しい実を垂らすので子供の時から知っていた。

他種にない特徴は「a. 全体に毛がもうもうと生え,b. 花が真っ白」。毛は長い軟毛で先端が腺になっている。毛の多さは肉眼でも見えるし,触れば分る。茎の中・下部には,大きく切れ込んだ葉(不規則に2-3裂)がつく。

 (2) マルバノホロシ S. maximowiczii
しばしば集落近くにも出て来るが,そう多いものではない。今まで見たのは7ヶ所くらいか?最近,島前の焼火山でも確認した。水の近くなど,かなり湿った(空中湿度の高い)環境を好む。

特徴は「a. 葉は無毛で決して切れ込まない,b. 花は淡紫で花喉部は緑色」。葉の質がやや硬く光沢を感じる。色も暗緑で濃い。葉の基部は “くさび形” が基本で,細く尖り勝ちなのも他種にはない特徴。  ※ 花喉部:花筒部の入口,花冠裂片の基部。

 (3) ヤマホロシ S. japonense
深い山の中にしか生えないのでヤマホロシ。今回出会ったのは細長い葉ばかりで,別名のホソバノホロシも納得できた。しかし,ヒヨドリジョウゴほとでないとはいえ,大きく切れ込んだ葉が混じることもある(特に若い個体)。一般に,この仲間は葉形の変化が大きいので,1枚や2枚にとらわれずに全体の傾向で判断すること。

「a. 若い葉の上面にわずかに毛がある,b. 花は青紫で花喉部が濃紫」が特徴。葉質はヒヨドリジョウゴに似ているが毛の量が全く違う。一方,マルバノホロシの方は無毛。葉脚が円形~切形~凹形で,決して尖らないのもマルバノホロシとの重要な差異。更に確信を得たければ,花を見るのがよい。花筒部の入口付近が,濃い紫に染まるのが他にはない特徴。

実は,濃紫の花喉部のすぐ上,花冠裂片の下部に, “緑色の斑紋(green eye)” が出る。2つずつ計10個並んで,著しい特徴だと思うが,この事に触れた日本の文献がなかった。グリーン・アイ green eye は『Flora of China』(中国植物誌)にある表現。

今回,蔓が “地上” を広がっているのに奇異な感じを受けた。普通は他の木に寄りかかったり絡みついたりするはずだが…。(1)~(4)と生育環境が微妙に異なっているが,“よじ登り能力(傾向)”にも差があるのかもしれない。

 (4) オオマルバノホロシ S. megacarpum
北海道と本州中部以北の分布とされるが,西日本にもないわけではない。近畿各県に稀産,島根県にも以下の記録が残る。西限は西中国山地(広島県芸北町)か?
 ・東郷(犬来) -------- 岡部武夫 S25,『隠岐雑俎』
 ・三瓶山浮布池 -------- 丸山巌 S57,『島根県大百科事典』
 ・太田市 -------- 杉村喜則 H17,『島根県の種子植物相』

よく分らないが,「a. 湿地に生える,b. 果実は楕円形(長さ約15mm)」が特徴。花や葉はヤマホロシに似ているようである。重要種なので果実を確認した方がよい。


グーグルでのヒット数を調べてみた。「ヤマホロシ」で検索すると,園芸種のツルハナナスが大勢を占めるので,学名で。マルバノホロシが少ないのは日本固有種のせいであろう。
 ・ヒヨドリジョウゴ ----- 34,000
 ・マルバノホロシ -------- 448
 ・ヤマホロシ ---------- 2,200
 ・オオマルバノホロシ ----- 833


 【追記 2013.9.30】
オオマルバノホロシは,『しまねレッドデータブック 2013』に “情報不足” で新規登載された。
------ 三瓶山麓「浮布の池」畔などに以前から知られていた。この「浮布の池」のものは近年、調査は充分とはいえないが、個体数はきわめて少なく、絶滅寸前の状態である。 ------

 【追記 2013.10.21】
マルバノホロシとヤマホロシを,取違えているウェブサイトがあるようなので,勝山輝男氏の検索表を転載する。『神奈川県植物誌 2001』

C.葉は卵形または卵状披針形で,基部は心形または円形または切形で,
  全縁または波状縁または鋸歯縁,ときに基部近くで3~5裂する。
  若い葉の上面には明かな毛がある。
  花の喉部内面は濃紫色を帯びる。
  種子は直径約2mm ------------------------- ヤマホロシ

C.葉は楕円形または卵状披針形で,基部はくさび形で,
  全縁。
  若い葉の上面には点状の突起が散生。
  花の喉部内面は緑色を帯びる。
  種子は直径約3mm ------------------------- マルバノホロシ

 【追記 2013.10.31】
大満寺山頂の遊歩道沿いで確認。今までここのものはマルバノホロシと思い込んでいたが,西郷の宮本さんの写真で自分の間違いに気付いた。今日確かめに行ったが,茎の下部に切れ込んだ葉が混じる。茎頂の葉にははっきりした “毛” もあって(まばらに),マルバノホロシではあり得ない。

枯残った2株のみの確認で,一帯のものが全部そうかは分らない。いずれにしても,現状確認のできた(島根県で)2番目の産地で,ヤマホロシの観察場所としてはベストだ。花の咲く8月頃に行って,全容を見ておきたい。
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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