ニッコウキスゲ(ゼンテイカ)の分布
隠岐にニッコウキスゲ Hemerocallis dumortieri var. esculenta が産することの意義を知るために,全国の分布を調べてみた。
図鑑(平凡社,佐竹義輔 1982)では以下のようになっていた。
「本州中部以北・北海道・南千島・樺太」
環境は山地または亜高山の湿った草原で, “本州中部以北の高原” というイメージでよいだろう。
しかし “中部地方” とは何処なんだろう。今まで “長野周辺” で済ませて来たが。以下のようであるらしい。
(1) 北海道
(2) 東北 …山形・福島まで。
(3) 関東
・北関東 :茨城・栃木・群馬
・南関東 :埼玉・千葉・東京・神奈川
(4) 中部
・北陸 :新潟・富山・石川・福井
・東山 :山梨・長野 ※(甲信)
・東海 :静岡・愛知・岐阜 ※ “東海地方” と言う時は三重を含む。
(5) 近畿 …滋賀・三重から兵庫まで。 ※ 三重県は中部地方に含めることもある。
(6) 中国
・山陰 :鳥取・島根
・山陽 :岡山・広島・山口
(7) 四国
(8) 九州
そして “中部以北” 。実は細かく言うと地域によって多少の変化はある。
a. 神奈川・千葉には記録がない。
b. 愛知・山梨・東京・埼玉では,レッドデータブック登載種。
残りの県では,北海道を含め量は多いようである。産地が限定されているとしても大群生を作りやすい。
中部以北に広く分布していながら,近畿地方では突然少なくなり京都府と滋賀県の一部にしか残っていない。レッドデータブックでは,京都:要注目種,滋賀:希少種。以下は,2012年06月26日の “京都新聞” の記事である。
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ニッコウキスゲ食害深刻 京都・北山群落
夏の高原で黄色い花を咲かせるユリ科植物「ニッコウキスゲ」の国内南西限分布地となっている京都北山で、シカやニホンカモシカの食害のため群落が壊滅の危機に陥っている。氷河期の名残をとどめる貴重な存在で、研究者が保護に取り組んでいる。
ニッコウキスゲは、冷涼な気候の北海道や本州の高地に分布し、6~8月に直径10センチほどの花を咲かせる。
京都府立大の高原光教授(森林植生学)によると、南西限の分布は京都大芦生研究林(南丹市)と京都府立大久多演習林(京都市左京区)、白倉岳(高島市)、百里ケ岳(同市)にあり、1960~90年代に発見された。
遺伝的に国内のほかの群落と異なり、中国大陸のニッコウキスゲに近い。日本列島が大陸とつながっている時期に定着し、その後に隔離されたとみられる珍しい群落という。
これらの群落は岩場や険しい斜面に生えており、盗掘や野生動物の食害を免れてきた。だが、10年ほど前からシカが増え、食害を受け始めた。ニッコウキスゲは春先の残雪期から若芽を出すため、シカが好んで食べる。かつて数百株があった白倉岳と百里ケ岳はほぼ壊滅状態という。
府立大久多演習林では、壊滅を防ぐため約10年前から同大学関係者が群落の周囲にネットを張っている。それでも、シカに若芽を食べられることがあるという。
高原教授は「分布が極めて限られ、氷河期の生き残りともいえる貴重な群落。天然記念物に匹敵する価値があり、保護が必要だ」と話している。
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なお,記事中に「中国大陸のニッコウキスゲ」という表現が出て来る。以前は日本の固有種と考えられていたが,今は中国や朝鮮半島にもあるとされる。事実 “Flora in China” には,Hemerocallis esculenta Koidzumi の学名で本種の記載があり,分布は「中国・日本・ロシア(樺太)」となっている。
隠岐に自生があることは,1980年頃には関係者の間で知られていたが(それ以前の記録なし),いつ誰が発見したのだろう。産地は旧西郷町中村の山地であるが(150m alt.),1ヶ所10数株のみで場所は公開できない。一般に知られると盗掘ですぐ消滅するだろう。
その後(2009)隠岐の島町銚子川の支流で大きな集団に出会った(200m alt.)。ここは断崖の途中の岩棚で人が近づけない場所。北向き急斜面の常に水が浸み出しているような岸壁で,400株は下らない。6月上旬の満開時は壮観,絶滅の不安からやっと解放された。樹木が繁ることによる今後の植生変化が気になるが,ここは岩場で樹が育たず,植生は極相状態にあると思われる。
幸い中村地区の産地についても,過去40年間環境は変化していない。ニッコウキスゲの群落もそのままで,増えもしないが減ってもいない。近くにあった稀産種コバノホソベリミズゴケ Sphagnum junghuhnianum ssp. pseudmolle もちゃんと残っている。
なお杉村喜則氏の報告によると,もう一ヶ所旧布施村にもあることになっている。事実なら是非探し出したいが,今まで他の人に気付かれていないということは,ごく小さな群落が予想される。
【2019.6.16 追記】
5月25日にこの産地を確認出来た。優に100株は越えている。隠岐で3ヶ所目の自生地である。
今まで気付かなかったのが恥ずかしい。三瓶自然館 井上雅仁氏からの情報に拠る。同行は守本智子氏。
図鑑(平凡社,佐竹義輔 1982)では以下のようになっていた。
「本州中部以北・北海道・南千島・樺太」
環境は山地または亜高山の湿った草原で, “本州中部以北の高原” というイメージでよいだろう。
しかし “中部地方” とは何処なんだろう。今まで “長野周辺” で済ませて来たが。以下のようであるらしい。
(1) 北海道
(2) 東北 …山形・福島まで。
(3) 関東
・北関東 :茨城・栃木・群馬
・南関東 :埼玉・千葉・東京・神奈川
(4) 中部
・北陸 :新潟・富山・石川・福井
・東山 :山梨・長野 ※(甲信)
・東海 :静岡・愛知・岐阜 ※ “東海地方” と言う時は三重を含む。
(5) 近畿 …滋賀・三重から兵庫まで。 ※ 三重県は中部地方に含めることもある。
(6) 中国
・山陰 :鳥取・島根
・山陽 :岡山・広島・山口
(7) 四国
(8) 九州
そして “中部以北” 。実は細かく言うと地域によって多少の変化はある。
a. 神奈川・千葉には記録がない。
b. 愛知・山梨・東京・埼玉では,レッドデータブック登載種。
残りの県では,北海道を含め量は多いようである。産地が限定されているとしても大群生を作りやすい。
中部以北に広く分布していながら,近畿地方では突然少なくなり京都府と滋賀県の一部にしか残っていない。レッドデータブックでは,京都:要注目種,滋賀:希少種。以下は,2012年06月26日の “京都新聞” の記事である。
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ニッコウキスゲ食害深刻 京都・北山群落
夏の高原で黄色い花を咲かせるユリ科植物「ニッコウキスゲ」の国内南西限分布地となっている京都北山で、シカやニホンカモシカの食害のため群落が壊滅の危機に陥っている。氷河期の名残をとどめる貴重な存在で、研究者が保護に取り組んでいる。
ニッコウキスゲは、冷涼な気候の北海道や本州の高地に分布し、6~8月に直径10センチほどの花を咲かせる。
京都府立大の高原光教授(森林植生学)によると、南西限の分布は京都大芦生研究林(南丹市)と京都府立大久多演習林(京都市左京区)、白倉岳(高島市)、百里ケ岳(同市)にあり、1960~90年代に発見された。
遺伝的に国内のほかの群落と異なり、中国大陸のニッコウキスゲに近い。日本列島が大陸とつながっている時期に定着し、その後に隔離されたとみられる珍しい群落という。
これらの群落は岩場や険しい斜面に生えており、盗掘や野生動物の食害を免れてきた。だが、10年ほど前からシカが増え、食害を受け始めた。ニッコウキスゲは春先の残雪期から若芽を出すため、シカが好んで食べる。かつて数百株があった白倉岳と百里ケ岳はほぼ壊滅状態という。
府立大久多演習林では、壊滅を防ぐため約10年前から同大学関係者が群落の周囲にネットを張っている。それでも、シカに若芽を食べられることがあるという。
高原教授は「分布が極めて限られ、氷河期の生き残りともいえる貴重な群落。天然記念物に匹敵する価値があり、保護が必要だ」と話している。
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なお,記事中に「中国大陸のニッコウキスゲ」という表現が出て来る。以前は日本の固有種と考えられていたが,今は中国や朝鮮半島にもあるとされる。事実 “Flora in China” には,Hemerocallis esculenta Koidzumi の学名で本種の記載があり,分布は「中国・日本・ロシア(樺太)」となっている。
隠岐に自生があることは,1980年頃には関係者の間で知られていたが(それ以前の記録なし),いつ誰が発見したのだろう。産地は旧西郷町中村の山地であるが(150m alt.),1ヶ所10数株のみで場所は公開できない。一般に知られると盗掘ですぐ消滅するだろう。
その後(2009)隠岐の島町銚子川の支流で大きな集団に出会った(200m alt.)。ここは断崖の途中の岩棚で人が近づけない場所。北向き急斜面の常に水が浸み出しているような岸壁で,400株は下らない。6月上旬の満開時は壮観,絶滅の不安からやっと解放された。樹木が繁ることによる今後の植生変化が気になるが,ここは岩場で樹が育たず,植生は極相状態にあると思われる。
幸い中村地区の産地についても,過去40年間環境は変化していない。ニッコウキスゲの群落もそのままで,増えもしないが減ってもいない。近くにあった稀産種コバノホソベリミズゴケ Sphagnum junghuhnianum ssp. pseudmolle もちゃんと残っている。
なお杉村喜則氏の報告によると,もう一ヶ所旧布施村にもあることになっている。事実なら是非探し出したいが,今まで他の人に気付かれていないということは,ごく小さな群落が予想される。
【2019.6.16 追記】
5月25日にこの産地を確認出来た。優に100株は越えている。隠岐で3ヶ所目の自生地である。
今まで気付かなかったのが恥ずかしい。三瓶自然館 井上雅仁氏からの情報に拠る。同行は守本智子氏。