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 オオズミ Malus toringo var. zumi

ズミ M. toringo の変種。母種ズミはリンゴの日本版で,かつてはリンゴの接木の台木に使われたという。分布は日本全国に及ぶが,西日本では産地が内陸部の高地に限られ量も少ない。「高原に花咲く樹」のイメージがある。

 【同 定】
狭義のズミ M. toringo var. toringo との区別だけが問題である。最も重要な分類形質は “雌蕊(花柱)の数” なので,現地に座り込んで数えてみた。同一木から場所を変えて4本の枝を切り取り,着いていた花全部(計171個)について。
  3本:  23 /171 ------ 13%
  4本: 106 /171 ------ 62%
  5本:  42 /171 ------ 25%

検索表は
  「ズミ:3-4,オオズミ:多くは 4-5」となっているが,
更に詳しくは
  「ズミ:3が多く4が少し混ざる,オオズミ:4が普通で5も混ざる」だという。
つまり基本数は
  「ズミ:3,オオズミ:4」
上の数値から,オオズミとせざるを得ない。「3本のもあるけど?」と言う人がいるかもしれないが,「稀に3本もある」ことになっている。

外観がよく似ているエゾノコリンゴ M. baccata var. mandshurica について補足する。雌蕊の数は「普通5個,時に4個」で多少紛らわしいが,実は決定的な区別点がある。
  ズミ・オオズミ ------ 葉は幼時,表面を内側にして縦に2つ折となる。
  エゾノコリンゴ ------ 幼葉は両縁から中央に巻き込む。
これは冬芽の中でも,ほぐれたばかりの芽でもそうなっている。

他の分りやすい差異として “葉の形” がある。
  ズミ   ------ 長枝につくものは,しばしば3-5中裂する(特に先端の葉で)。
  オオズミ ------ 長枝のものも,ほとんど分裂しない。
ズミの「長枝には欠裂する葉がどこかにある」というコメントは役立つ(池谷裕幸,2004)。因みに,エゾノコリンゴの葉は全く裂けない。

分裂葉はミツバカイドウという別名の起源。ズミには単にコリンゴという別名もある。更に,近縁のオオウラジロノキ M. tschonoskii にはオオズミという別名もあって,和名までがややこしい。

隠岐のものを長年詳しく見てきたが,分裂した葉に出会った事がない。厳密に言えば一度だけ,葉縁がわずかに凹んだのを3-4枚見付けた事がある程度。

更に,確認できて安心した特徴。ズミは葉縁の鋸歯が明瞭であるが,オオズミははっきりしない細かい鋸歯で,特に花枝では全縁に近いという。たまたま持帰った一枝,ほとんどの葉が完全に全縁だった。

 【分 布】
まずズミから。本州では全都府県,九州は北部の3県のみで「福岡:絶滅,大分・佐賀:絶滅寸前」。四国は香川県の記録がなく「徳島:情報不足,高知:絶滅危惧」。

島根県では「中国山地沿いに稀に分布(杉村喜則,2005),三瓶山(丸山巌,1960)」。近くでは,「山口:やや稀,岡山:絶滅危惧,鳥取:準絶滅危惧,京都:準絶滅危惧」。

興味深いのはオオズミの分布状況であるが,一言で言えば「中部地方以北の本州」となる。中部以北で記録がないのは,北海道・青森・秋田,新潟・石川,愛知,千葉・神奈川。北海道に生育しないことに驚いた。

西日本(近畿以西)での確実な記録はないと思われる。ただし最近,京都府の「丹後地域で数本」が発見され『京都府改訂版レッドリスト2013』に,準絶滅危惧として追加された。隠岐と同緯度の,福井県と茨城県に普通にあることも心強い。実は,北方系の種が「福井・京都辺りから隠岐へ跳ぶ」パターンは他にも幾つか例がある。

 【雑 種】
オオズミは「ズミ × エゾノコリンゴの雑種?」,という説があるらしい。何時誰が言い出したのか分らないが,違和感をメモしておく。ただし,現在も交雑を繰返している普通の意味での “雑種” と見なして。

 (a) エゾノコリンゴの自生しない地域にも広く生育している。
 (b) 両親共普通に分布している北海道に,その記録がない。
 (c) 盛んに開花結実し,繁殖を続けている。
 (d) 片親も居ないような場所で,個体数が多すぎる。

 【隠岐の状況】
気付いたのは30年以上前。海士町知々井岬に2ヶ所,計4-5本がある。毎年開花結実し幼木も見られる。ただ,昔から増えた感じはない。そんなに減ってもいないが。海抜30m地点の渓流沿,すごく低い。

高い山もない狭い半島の知々井岬に,数多く貴重種が残っている理由は,江戸末期まで徳川幕府の直轄地で村人が入れなかった為であろう。隠岐ではここでしか確認していないが,木村先生から「都万?にらしきものがあると聞いた」と聞いたことがある。情報提供者は校長先生の奥さん,しかも又聞きではあるが。

島根県の記録はないと思っていたが,丸山先生が島根半島に「○」を付けている。三瓶山のズミと区別して認識されていたようだ。あっても不思議はない。しかし,杉村先生の目録になく,宮本巌氏の『島根半島植物誌(1973)』にも現れない。あってもごく稀なのであろう。情報不足による判断ミスもあり得る。

西日本に広く分布するズミが隠岐には無い。それなのに,西日本に(ほとんど)無いオオズミだけが残っている。これはちょっと了解に苦しむ事実である。「隠岐は西日本ではない」と考えてみたらどうだろう?隠岐と緯度が同じ福井県や茨城県では,ズミとオオズミが似たような場所に,個体数も大差なく共存しているように思える(地方植物誌からの推測)。その状態から両種ともに減って行けば,「ついにはどちらか一方だけ残る」のは当り前。不思議でも何でもない。


  【追記 2015.4.25】
『高原山のズミ Malus toringo (Siebold) Siebold ex Vriese (広義)には3型がある』(富永孝昭・星 直斗・高島路久 2013,栃木県立博物館)に以下の記述がある。これは原記載の引用である。ラテン語なので自分では読めないが。

「Matsumura(1899)は,オオズミの特徴として葉の大きさや欠刻がまれであることの他に,葉がほぼ全縁でまれに細鋸歯をつけること,萼裂片が披針形で萼筒部より長いことなどを挙げており,…」

花が咲いた頃だと行ってみたが,全く花がない。この木の満開状態を2回は見ているのに…,年によって違うとは驚いた。若葉が伸びていたので,“鋸歯”の様子をチェックすることにした。

肉眼では全縁に見える(老眼鏡をかけても)。しかしよく見ると,ほぐれたばかりの小さい葉には細かい鋸歯があった。成長につれて鋸歯が消えるようだ!成葉では「全縁」と言ってよいのではないか?これは過去の記憶とも一致する。捜せば稀に,“部分的に細鋸歯のある”葉が見付かる程度。

ズミやエゾノコリンゴは鋸歯が明瞭なので(以下の文献),この「限りなく全縁に近い」はオオズミの良い特徴の一つであろう。
  ・樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類 (林 将之 2014)
  ・拓本図譜 落葉樹の葉 (田仲啓幾 2008)
  ・日本の樹木 (初島住彦 1976)
  ・原寸イラストによる 落葉図鑑 (吉山 寛・石川美枝子 1992)

 シウリザクラ Padus ssiori

長い間探していたシウリザクラの成木を発見。植物仲間に書いたメールを,そのまま掲載することにした。昨年見付けたのは幼木(1.5m)で,樹肌はサクラそっくり。葉も似ていたので,必死になって “サクラではない” ことを確かめている。

----<2012.5.7>-----------------------------
エライことが起りました。幻のシウリザクラの発見です!杉村さんはレッドデータブックで「隠岐に分布の記録があるが,現状は不明」と書いています。捜したはずですが諦めたんでしょう。私ももちろん諦めていました。岡国夫さんの報告文を明日捜し出します。記憶では「鷲ヶ峰に老木が1本だけ残っていた」ような…。

代表として保育社図鑑の分布記載を転記します。他の図鑑にも,わざわざ「隠岐島」が明記されていますが,あまりにも異常だからでしょう。根拠はもちろん,京大にある1点の標本のみです。今まで岡さん以外に実物を見た人はいないと思います。奥様の運転によるルート変更が当りましたね。今まで “神原高原” の見方が足りないと思っていたら,案の定でした。

『温帯上部:本州(隠岐島,中部以北)・北海道・南千島・樺太・中国東北部・ウスリー。シウリはアイヌ名である。北海道には普通にあるが,本州では少ない。』

花が咲けば見る聞くなしなんですが,葉だけでもハッキリ同定できます。詳細は追って報告しますが,細かな特徴がことごとく一致します。1点の疑いもありません。若木があるということは,繁殖もしているんですね。

嘘のような本当の話です。今日弁当を食べながら,「最近,隠岐はやはり特別な地域だと思い始めた」と述懐したのを思い出しました。

----<2012.5.8>-----------------------------
シウリザクラ Padus ssiori の続きです。シウリザクラの葉っぱを征服しました。花や果実が得られない時の同定に役立つでしょう。

6月(花期)にもう一度歩いてみて,他に見付からないようだったら,「伐るな」という意味の立札でも考えた方がよさそうです。遊歩道際ですので簡単に伐られます。刈払機で刈られること必至です。本種をむざむざ消滅させるようなことになると,非常に後味が悪いです。罰も当るかも…。

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 Ⅰ。同定
家に帰り着いたら,タイミングよく『サクラ ハンドブック』(大原隆明 2009,文一総合出版 ¥1,200)が届いていた。氏は富山県中央植物園主任,サクラ属の分類に詳しい。本書の「サクラ」とは普通に言う「桜」,つまり「バラ科>サクラ亜科>サクラ属>サクラ亜属>サクラ節」に限る。つまりヤマザクラ類のこと。今は野生種だけを考えればよいので,わずか25ページを読めば足りる。

葉は「短枝につく上から2番目の葉を見る」べしという注意があった。変異が少なく特徴がよく出ていることが多いという。さすが専門家!こんな丁寧な解説を初めて読んだ。

葉縁の鋸歯のスキャン画像も見事。実物を見ているのと変らず,ペンによる従来の図を越える時代が来た。「種類を調べる上で最も重要な部分。葉上部の最も丸みがある部分の鋸歯の形や向き,先端の伸び方に注目。」とあって,他の図鑑類の文章とは一線を画している。鋸歯を最重視したのは,葉形(全体や基部)に比べ変異が少ないからである。卓見であろう。自分も同意できる。

 (1) 鋸歯
そういうわけで,まずスキャン画像を1枚ずつ見て行った。今春自分で観察した結果を再確認することになったが,どれともハッキリ異なる。オオシマザクラに一番近いが,オオシマザクラは鋸歯の先端が針状に尖っている。これは本物が自宅近くに植栽されているので,間違えようがない。

後で気付いたことだが,鋸歯が芒状にハッキリ伸びて先端に微小な腺。しかもその芒状部分が微妙によれて反るような感じは独特で何とも言えない。他に似たものがないという気がする。高度に感覚的な把握だが,この部分だけでも同定できそうである。

 (2) 脈腋の毛
鋸歯の感じがどうも違うので,サクラ節ではないかもしれないと思い始めた。そうするとウワミズザクラ属だが,イヌザクラは既知種で葉の形が全く別。ウワミズザクラかもしれない?が問題になる。シウリザクラの葉の特徴を調べてみたら「下面の側脈の腋に毛がかたまって生える」のがポイントらしい。「淡褐色の毛」となっている文献もあるのだが,そんなものは見えない。「こりゃ駄目だは…」と思い,他の特徴を当ることにした。

結局最後には気付いたのだが,毛は確かにあった!主脈から側脈が分れる付け根の所(そこだけ)に,白い毛がかたまって生えていた。手許に高性能の実体顕微鏡が鎮座している効果である。毛は稀に無い事もあるようだが,この毛を確認できれば同定終了としてよさそうだ。毛が色付いていないのは若葉だからであろう。

 (3) 葉基部の凹入
現地で気になって仕方がなかったことである。葉の基部がほとんど例外なく,明瞭に切れ込んでいる。サクラ節で葉柄の付着点がハート型にくぼむ(心形)のは,カスミザクラとオオヤマザクラであるが,「多少とも心形の葉が混ざる」という程度で,こんなに深くは切れ込むことは断じてない。

この切れ込み部分,何だかエロい感じがして忘れそうにない。この凹入と脈腋の毛の2点で本種であることを確信した。

 (4) 葉形
現地でどうも変だと感じたのは,葉が長楕円形を思わせる点にもあった。今ままで見て来たものはサクラ節,卵状・倒卵状・披針形を混ぜたような型しかなく,「長~い楕円」を感じたことはなかった。

 (5) 葉質
成葉ではないという前提ではあるが,葉がやや柔らかく皺が寄りやすい感じで,しわくちゃ感がある。葉脈の裏面への隆起もサクラに比べよく目立つ(細脈までも)。葉柄が濃い赤味を帯びるのも一つの特徴のようだ。

花が無いために,葉を徹底的に観察することになった。成木でなかったことも幸いした。成木の樹皮は全然サクラ肌ではないという。もし簡単に同定できていたら,ここまで葉にかかずらうことはなかったに違いない。

 Ⅱ。分布
『原色日本林業樹木図鑑』(倉田悟,1971)によると,中部地方の西限は長野県で岐阜県境付近の山地帯,南限は神奈川県の丹沢山地になる(神奈川と東京で絶滅危惧種)。各県の植物誌を見たら,標本産地はすべて標高 1,200m以上の高山であった。日本海側の富山・石川・福井各県には産しない。もちろん,隠岐は突出した西限自生地である。

 Ⅲ。隠岐の記録
岡国夫氏の報告『隠岐の植物』(北陸の植物 Vol.16 No.2,1968)を転記。今から40年以上前の記事である。

「 シウリザクラは布施村鷲ヶ峯の頂上に近い海抜約500mの林中に少数混生している。大きいもので直径10cm程度である。本種は元来,本州中部,日光山彙以北,北海道,千島,満州(大井:日本植物誌)に分布することになっていたもので,著しい北方系の植物を更に加えたことになる。
 総状花序をなすウワミズザクラ亜属のうち,常緑の2種を除き,中国地方としては,ウワミズザクラ,シウリザクラ,イヌザクラの3種となる。このうち,ウワミズザクラは日本列島に広く,かつ多量に産しながら隠岐には従来全く記録がなく,筆者も一本も見だし得なかった。これに対し,中国地方の本土には見られない北方系または大陸系のシウリザクラの方を隠岐に産することは注目すべきで,これはやはり,この群島成立の歴史とウワミズザクラ亜属の系統との関連において考究すべき今後の課題であろう。」

岡氏の採集以前も以後も記録は全くなかったが,2012.5.7 丹後亜興・野津大両名が再発見した。幼木1株で,場所は布施地区中谷の神原高原(420m alt.,36゜16'17"N,133゜19'36"E)。

----<2013.4.27>-----------------------------
直径15cm,高さ8mの成木を,ついに見付けました!樹肌はサクラとは似ても似つかないものです。ハシドイ Syringa reticulata が並んで立っていましたが,こちらの方がサクラ肌です(むしろモモ肌,ただし太い樹幹はやはり変化)。双眼鏡による若葉の確認のみですが間違いはありません。ひょろひょろと高い木で,猿でない限り枝には手が届きません。証拠が欲しければ花の時期(6月中旬)に写真も撮れます。私は葉っぱが1枚あれば同定できますので,台風の直後,或は晩秋の黄落季も “あり” です。

林床は,ニシノヤマタイミンガサ・ルイヨウボタン・ミチノクエンゴサク,錚々たるメンバーの群生地です。歩道の直ぐ近くなので却って盲点になっているのかもしれません。こんなに大量のルイヨウボタンを初めて見ました。

ちょっと公開したくない場所だな,と思いました。踏んだら終りです。高崎山での苦い経験があります。私(一人ですが)の歩いた踏み跡が数年残ったのです。何十年も人が入ったことのない場所,人に踏まれた経験のない植生なので,影響が出るのは当然です。植物達も人に踏まれてさぞ驚いたことでしょう。

なお,昔岡国夫さんが発見(複数本)した場所はここではないようです。残っていればもっと老木になっているはずですし,標高も違います。私は以前,屏風岩の近くと思って双眼鏡で上から眺めたことがあります。しかし今回気付いたのですが,必ずしも花の時期に探すのが最良とは言えません。他の木々も葉を茂らせているので, “見える” とは限らないのです。ヘリコプターではないし。

今の時季はまだ多くの木々が新葉を広げていません。 紅味の強い葉をいち早く展げるシウリザクラはよく目立ちます(ただし展開し終ると紅味が消えるので要注意!)。今日も前回の幼木の近くをぐるりと見廻して,「アーあれだ!」と直ぐに気付きました。そして,今日のところは “1本” だけということも。幼木ならもう一本ありました。繁殖していることは確実ですね。

 ヤマザクラ発見法

  さん

「海士にはカスミザクラばかり,ヤマザクラは無い」という私の一昨年からの広言,100%確かとはもちろん言えません。例えば,海士町全体でヤマザクラが5本あるとして,その探索は困難を極めます。偶然の幸運に頼るしかないでしょう。

「あるとは言えても,無いとは言えない」という説の人もいますが, “全数調査が絶対条件” はナンセンスです。先人が「隠岐には無い」と言っていたものが,何十年か後に見付かった例は幾つかあります。間違った認識だったというべきなんでしょうか。私はそうは思いません。

ヤマザクラの探し方,有力そうな方法があります!今現在(ソメイヨシノの満開末期)山を眺めて,白く満開のサクラがあればそれはヤマザクラの可能性が大です。ヤマザクラが普通にある島(海士町以外)なら高い確率で。カスミザクラはまだこれからですから。とは言っても,遠くに見える株までたどり着くのは大変ですが。毎年自宅の庭から見廻して,30本以上の “山桜” が見えるのですが,今1本だけ白く目立っているのがあります。こいつはいつも例外的に早いのです(だけど多分カスミザクラ)。

海士町の場合を具体的に述べると,ソメイヨシノが満開に達してから5日間くらい経過しました。ヤマザクラ(植栽品)は今やっと満開のようです。そしてカスミザクラはチラホラ咲き始めたものがあるという状態です。1分咲き未満,目を凝らさないと花に気付きません。ただしごく少数ですが,もう5分咲きくらいなっている気の早いのも混じっています。野生種はソメイヨシノ(基本的にクローン)のように, “皆が一斉に咲き一斉に散る” わけではありません。

この判定法は,島後の男池付近で思い付きました。遠くの山に満開の桜が見えたのでビックリ(4/4),頑張って調べてみたらヤマザクラでした。今まで「ソメイヨシノより開花が10日間は遅れる」と思っていたんですが,海士町のカスミザクラが原因の勘違いです。長い間カスミザクラをヤマザクラであると思い込んでいたのでした(汗)。ヤマザクラは遅れても僅か数日,ソメイヨシノとほとんど同時に咲き始めます。

実際に今(4/5),浦郷地区でも一面に山の桜が咲いています。きちんとは調べませんでしたが,これらはヤマザクラ・オオヤマザクラ・両者の雑種,の3つが共存しているようです。よって,「西ノ島にはヤマザクラはほとんどない」という私の勘も怪しくなって来ました。

面白いことに,黒木・美田地区(高崎・焼火山系)はまだ白くなっていません。こちらはオオヤマザクラとカスミザクラが主体のはずです。今咲いているオオヤマザクラは低地のものに限ると思います。自宅と豊田神社に植えたオオヤマザクラは今が満開です。

チャンスは今だけのここ数日。ボヤボヤしていると開花が重なって来てごちゃ混ぜになります。また,サクラの開花時期は年によって大きくズレますので日付は役に立ちません。その年のソメイヨシノの開花状態が指標です。

サクラの調査はそろそろ終りかと思っていたのですが,まだまだのようですね。同定の自信はついたものの,まだ雑種への対応があります。分布や生態の地識も不十分ですし。


 〔追記〕 2013.4.16
自宅の庭から見渡すと(海士町豊田,標高100m前後の北向きの山腹),80本を越える満開状態の山桜が見える。照葉樹林が残り自然度の高い場所だが,少し数が多すぎる気もする。皆カスミザクラである。

ソメイヨシノが散り終ってから,既に5日以上が過ぎている。ヤマザクラとオオヤマザクラの開花は,数日遅れでソメイヨシノに連続するが,カスミザクラははっきり遅いことが分る。

オオヤマザクラの分布

オオヤマザクラ Cerasus sargentii が隠岐に自生する。その意味を知るために分布を詳しく調べてみた。

・ 日本植物誌(大井次三郎 1978):
  「北海道,本州(中国地方,中部地方の深山以北)」
・ 原色日本植物図鑑(北村四郎 1979):
  「北海道,本州(中部地方以北)。中部地方や関東地方では普通 1000m 以上にある。」
・ 日本の野生植物(大場秀章 1989):
  「北海道,本州(近畿地方以西では分布が局在する),四国(四国山地の高所)。中部・関東地方では標高800m以上に見られる。」
 ※ 国外の分布は「樺太,南千島,朝鮮半島」となっている。

・ Flora of Japan(H.Ohba 2001):
  同一著者(大場博士)の上記に同じ。ただし,新変種キリタチヤマザクラ var. akimotoi が紹介されている。種としては九州の一部にも産することが明かになった。

・原色日本林業樹木図鑑(倉田悟 1971):
  標本産地をプロットした分布図があるが,これを見ると「中部地方以北」であることがよく分かる。日本海側は福井県北部まで,東海・関東は内陸部の山岳地帯のみ。西日本に来ると突然減ってわずか6ヶ所しか表示がなく(奈良 1,中国山地沿 4,隠岐 1),まさに局在。

図鑑の分布記載に標高まで書いてあるのは異例の事なので,西日本の各県を具体的に調べたらどこも深い山の中,標高の高そうな場所ばかりだった。中部・関東で800m以上なら当然のことであろう。南に行くほど高くならないと理屈に合わない。隠岐(西ノ島)の100~400mが如何に特別かが分かる。隠岐より遙か北の佐渡でも,オオヤマザクラの生育域は海抜500~1000mであるという。

 ※ ()内は産地の一例
奈良: “絶滅危惧” (大峰山脈と大台ヶ原にごくわずかに産するのみ)
兵庫:  非常に稀(氷ノ山等標高の高いところ)

鳥取:  (大山町や江府町の標本あり,標高650m~)
島根: “準絶滅危惧” (出雲部中国山地,隠岐)
岡山:  稀(県北部山地,美作奥津町)
広島:  稀(中国山地の多雪地帯,比婆山)
山口: “絶滅危惧” (錦町のみ)

愛媛: “絶滅危惧” (石鎚山の南北斜面にごくまれに点在,個体数は少ない)
徳島: “絶滅危惧” (東祖谷山村 1地域のみで確認,個体数も少ない)
高知: “情報不足” (物部村の石灰岩地,徳島県境)

宮崎: “絶滅危惧” (宮崎県霧立山)
 ※ キリタチヤマザクラは1999年に発見され,2000年にオオヤマザクラの変種として記載された。標高1300~1600mの石灰岩地帯に約50株あるという。

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隠岐のサクラ

サクラ(桜)とはバラ科サクラ亜科,サクラ属 Cerasus のサクラ亜属のことであるが,花を見れば誰でも一目で分る。「サクラだ」と。対象をいわゆる “山桜”に限定し,植栽品や園芸種は一切考えないことにする 。隠岐に自生しているのは以下の4種で,島根県下でもこれ以外のものは確認されていない。その他の野生種が今後見付かったとしても,それは皆特殊なものなので同定に困ることはないであろう。

はるか昔にこの4つを同定・認識はしていたのだが,満足できる内容ではない。目の前の任意の1本を何だと聞かれ,確信を持って答える自信がない。隠岐での分布についても「ほとんどがヤマザクラだろう」などと考えていた。

70歳にしてこれでは具合が悪いので,今年になってからまじめに山桜を見て歩いた。わずか一年間の観察なので今後これを精密化して行きたい。特に分布についてはまだ十分把握できていない。

(1) エドヒガン C. spachiana
全国的にも余り多いものではないらしいが隠岐でもごく稀。大満寺山と焼火山でわずか数本を確認したに過ぎない。

花期が一足早く,花は小振りでピンク色を帯び上品,満開時にも葉はほとんど伸び出さない。葉は細長くて他の種とははっきり異なる。樹皮もいわゆる “サクラ肌” にはならず特異。実物が見たい時は,公園などに植えられるシダレザクラがそうである。枝垂れる以外の差はない。

(2) ヤマザクラ C. jamasakura
西日本では最も普通なサクラのはずだが,隠岐では少々事情が異なる。知夫(知夫里島)と島後には確かにある。しかし一年だけの調査とはいえ「西ノ島:1本,海士(中ノ島):0本」という少なさである。

葉が細長く,長楕円~紡錘形。次の2種は「長い」という感じはない。花は基本的に“白” 。“桜色 ” という形容は,栽培種ソメイヨシノに相応しい。花と同時に出る赤味の強い若葉がよく目立つ。

(3) カスミザクラ C. leveilleana
ヤマザクラとは逆に冷涼な地域のもので,山の標高で言えば「ヤマザクラ < カスミザクラ < オオヤマザクラ」の順で出現するという。しかし隠岐では全く当てにならない。現に海士では本種以外のものを見たことがない。海岸・道路際・山地,すべてこれである。他の島では,島後の山地で普通に見られる。

花期が遅いのが特徴でソメイヨシノより一週間以上遅れる。花は通常純白,同時に開く新葉は緑~茶褐色で華やかさに欠ける。地味な沈んだ印象で,庭に植えてみようかという気にはならないかもしれない。

(4) オオヤマザクラ C. sargentii
本来,北海道と本州中部以北のサクラで(別名エゾヤマザクラ),西日本では高山のものである。県下では中国山地に稀に見られるということで,レッドデータブックで “準絶滅危惧” の指定。しかし,西ノ島のサクラはほとんど全部本種だった!他の島では未だ確認していないが,島後にはあるはずである。

花は大きく紅色が強い(別名:ベニヤマザクラ)。昔から「西ノ島のサクラは紅く,海士のは青白く」見えるのが不思議だった。葉は幅広でふっくらとして円い感じ。今までの印象では,他の2種より葉が大きい。


 【同定のために】
サクラの分類は非常に難しいと言われている。各分類形質に変化が多く,これといった決め手を欠く。複数の特徴をチェックして “総合的に” 判断することが不可欠である。

専門家でも同定不能の中間型も出現することがあり,これは “雑種” であると推定されている。一瞬で特定できるほど特徴の顕著な個体がある反面,その種の特性の弱いぼやけた個体も出て来る。やはり交雑起源の遺伝子の混じり合いが原因ではないかと思われる。昆虫や鳥は種を選ばず,でたらめに花粉を着けてまわっていると思うし。

しかし葉については,初期に戸惑うのは個体差よりも一個体内の変化である。つまり,同一の樹に色々な形の葉が着く。そのため「種の特徴がよく出ている葉を見極める」作業が重要になってくる。

学者が嘆くほど難しいものなら,素人には無理だろうと思ってしまうが,恐れることはない。数多く観察して経験を積めば,段々判って来る。努力は報われるのである。慣れて来ると,葉を数枚見れば(葉形と鋸歯)正解が出せるようになって痛快この上ない。なお,葉は “短枝” についているものに注目。典型的な特徴が表れやすい。

 〔エドヒガン
1. 花柄・小花柄が有毛で萼裂片は鋸歯縁。
2. 葉柄に斜上毛が密生,蜜腺は葉身基部にある(葉柄ではなく)。
3. 萼筒の下部が球形に膨らみ,上部が強くくびれた壷形。

 ※ どれかの条件を一つでも満たせば十分。エドヒガンは簡単なので以下忘れてよい。問題は残り3種の区別である。 “◎” 印はその種だけで他の2種にはない特徴。

 〔ヤマザクラ
(a) 葉の鋸歯は鋭く尖り,細かくて大きさが揃う。先端は上方に “伏し” 勝ちで,余り目立たない。
(b) 葉は葉身の最大幅がほぼ中央にある “長楕円形” 。基部は “くさび形” ~円形。
(c) 成葉(夏以降の成長した葉)の裏面は粉白色。

(d) 花序は,花柄(±1cm)のある “散房状” 。
(e) 花芽の芽麟は粘らない。花の時期に花柄基部の鱗片をつまんでみる。
(f) ◎冬芽の芽鱗の先はやや外へ開く(隙間ができる)。 “頂芽” を秋以降にルーペで見る。

 〔カスミザクラ
(a) 葉の鋸歯は三角形状で粗く,“開出” してよく目立つ。葉の中部以下では急に小さく低くなる。
(b) 葉は最大幅が先端近くにある “倒卵状” で葉先は突出。基部は “鈍形” ~やや心形。
(c) ◎成葉裏面は淡い緑色で光沢がある。白味はない。

(d) 花序は散房状でヤマザクラと同じ。
(e) 花芽の芽麟は粘らない。
(f) 冬芽の芽鱗はピッタリくっ着いて開かない。

 ※ 実は本種の最もよい特徴は「葉柄・花柄や葉の上面に毛が多い」ことで,忘れてはならない観察ポイントである(ルーペがあった方がよい)。ただ,これを決め手にはできない。毛のないカスミザクラや毛のあるヤマザクラ(ウスゲヤマザクラ f. pubescens)が時々あるので。ウスゲヤマザクラなるものは本当に迷惑だが,普通に出くわすようなものではないと思う。

 〔オオヤマザクラ
(a) 葉の鋸歯はカスミザクラに似ているが,葉の中部付近でも上部と同形の鋸歯が続く。
(b) 葉は最大幅がほぼ中央にある“幅広い楕円形” で円みがある。基部は円形・切形・ “心形” 。
(c) 成葉の裏面はやや白味を帯びる。

(d) ◎花序はほとんど花柄のない “散形状” 。
(e) ◎花芽の芽麟は粘る。花時に抓んで見ると粘つく。
(f) 芽麟はカスミザクラ同様ピッタリ重なって隙間ができない。

 〔雑種
(a) A・B異なる2種の特徴を併せ持つ。つまり,1形質がAで,他の形質はBに一致。
(b) ある形質がAとBのいずれでもなく,その中間。

 ※ サクラは比較的雑種ができやすいと言われている。雑種と思われるもの(ヤマザクラ×カスミザクラ)に時に出くわすが,個体数は多くない。繁殖力がない(種子が発芽成長しない)のだろう。和名もないくらいなのであまり気にしない方がよい。無理してどちらかにしてしまわないよう。

ついでに,最近植栽が増えてきたオオシマザクラについて。1. 葉は巨大で,2. 鋸歯の先が針状に伸び出す。3. 萼裂片に鋸歯が明か。4. 開花時の新葉は鮮やかな緑色で他種とはっきり違って見える。

ちなみに,ソメイヨシノは “毛” が決め手。萼と花柄・若枝(先端部)・冬芽(鱗片),に短毛が密にある。葉柄には疎らな斜上毛。更に言えば,萼裂片の鋸歯が著しい。隠岐の野生種はエドヒガンを除き,萼裂片は全縁(カスミザクラで時に少数の低い鋸歯)。

テーマ:自然科学 - ジャンル:学問・文化・芸術

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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