冬籠中の仕事として,隠岐版のレッドデータブックを作成中。本種は “絶滅危惧Ⅱ類” にした。隠岐では広く分布していて,高い場所(標高400m以上)で時々見かける。ただ,いつもポツンポツンで “見事な群生地” は知らない。島前でも高崎山には結構あるし,焼火山にもあったと思う。
クガイソウは “高原の花” というイメージで初期の頃から知っていた。初めて現物に出会った時も,皆が言うように “クガイソウ” で済ませた。小敷原山のものを自分で同定した時に「これはナンゴクだな」と思った記憶は残っているが…。今思うとこのナンゴククガイソウに少し冷たかったような気がする。ちゃんと 調べるのは,今が生涯で3度目。
クガイソウ var. japonicum との区別は次のようになっている。クガイソウの現物を見てないので,これ以上の差異(ある筈)は分らない。
クガイソウ: 花序軸に微毛あり。 小花柄:1-3mm。
ナンゴク : 花序軸は無毛。 小花柄:3-4mm。
分布は,西と東にきちんと分れる。奈良県のみ両方を記録。
クガイソウ: 本州(近畿以東)
・・・西限: 京都府 (京都府RDB 1998)
ナンゴク : 本州(近畿以西),四国,九州
・・・東限: 兵庫県氷ノ山 (村田源 2004)
近畿地方が境界線で他の県は。
クガイソウ: 滋賀(分布上重要種)・京都(準絶滅危惧種)・奈良(絶滅寸前種)
ナンゴク :奈良(絶滅寸前種)・和歌山(絶滅)・兵庫(2003年版ではCランク)
記録なし :大阪
中国・四国・九州(中部)はナンゴククガイソウのみ。
鳥取: 準絶滅危惧
島根: 隠岐と中国山地沿に稀
岡山: 記録なし
広島: 中国山地沿に稀
山口: 記録なし
四国山地の県境地帯にはかなりあるようだが,九州はほぼ絶滅状態。
大分: 情報不足, 宮崎:絶滅,熊本:絶滅危惧Ⅰ類(1ヶ所のみ)
2012年,環境省のレッドリストに追加されたが当然のことであろう。絶滅危惧Ⅱ類(VU)。
これで見ると,隠岐はナンゴククガイソウの飛抜けた北限自生地ということになる。確かに隠岐は,地史的には西日本なのでナンゴククガイソウがあってもいい。しかし緯度から言えば,完全にクガイソウ var. japonicum の領分である。もう一度丁寧に調べた方がよい。もしかしたら,丸山巌氏の目録のように,或は奈良県のように,両変種が混在している可能性もある。
【付 記】 2016.10.10
クガイソウ var. japonicum を一昨日鷲ヶ峯の遊歩道で確認した。丸山巌氏の記録以来56年ぶりの再発見ということになる。しかし,現地は銀座通りとも言える場所なので,単に今まで誰も調べなかっただけ。
まさか,ここ1ヶ所に限るという訳ではなかろう。今後,両変種の分布状況を調べてみると面白い。これで,両方ともが共存する特異地域は,奈良県と隠岐諸島ということになった。
なお,採集品は「花序軸に密毛,小花柄は2.5mm前後」で同定に何の問題もない。今後もっと調べる必要はあるが,「変異が大きく,中間型も現れる」ことはなさそうに思う。