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 ホソバアカザ Chenoposium stenophyllum とは

  ※ 種の扱いは,平凡社の図鑑(北川政夫 1982)に従う。ホソバアカザの学名は,『Frora of Japan(S.E. Clemants. 2006)』と『日本維管束植物目録(米倉浩司 2012)』も同一。

初めて着目したのは最近(2010),西ノ島町耳々浦海岸の群生だった。海岸近くの造成地で一時的に大発生したもの。その後よく調べて見たら,隠岐全域の海岸に広く分布していることが分った。自宅のすぐ前の海岸にも!海辺のアカザと言えばハマアカザ Atriplex subcordata には昔から気付いていたが,こちらは素通りしていた。どうせ海岸に進出したシロザ C. albumだろう(?)と注目しなかったようだ。

本種は過去に,カワラアカザ C. virgatum やマルバアカザ C. acuminatum と同一物(異名)とされた事がある。『日本植物誌(大井次三郎,1953年初版)』,『保育社の原色図鑑(1961)』。その為もあってか,あまりきちんと認識されていない種だと思う。都道府県単位の地方植物誌でも扱いが一様ではなく,正確な分布ははっきりしない。しかしきちんと認識している県もあり,北海道から九州まで点々と記録がある(海のない内陸県にも)。分布は広く,多くはないが稀産でもない,という印象である。

隠岐の記録は,マルバアカザ(岡部武夫 1950),カワラアカザ(丸山巌 1960)となっているが,間違いなく本種を意味するものと思われる。専門家が本品を隠岐で見落すとは思えない。なお,『島根県の種子植物相(杉村喜則 2005)』に3種ともに現れないのは奇妙。

2-3年観察して「もうよい,分った」と思っていたが,時にシロザとの区別に迷う(時間がかかる)ような個体に出くわす。特に日蔭に育った場合。これがシャクなので一目で判断できるようになりたい。今年は更にしつこく丁寧に見ることにしたい。考えてみると,ホソバアカザばかり見ていてシロザの方を軽視していた。他に紛らわしいものはないので(二者択一),これは「シロザではない」という判定法が有力になると思う。

以下は,勝山輝男氏による検索表を抄出したものである(千葉県植物誌 2003)。

B.葉は全縁
 C.花序軸に透明な円柱状の毛が密生。
  D.葉は卵形または楕円形,海岸砂浜に生える。 -------- マルバアカザ
  D.葉は披針形,河原に生える -------- カワラアカザ
 C.花序軸に粉状物はあっても,透明な円柱状の毛はない。
   E.葉は質薄く,苞葉は大きく,花序の上方で急になくなる。 -------- シロザ
   E.葉は質厚く,苞葉はしだいに小さくなってなくなる。 -------- ホソバアカザ
B.葉は鋸歯または歯牙がある。
     F.葉は三角状卵形で不規則な粗い鋸歯がある。 -------- シロザ
     F.葉は広線形または披針形で不規則な細かい鋸歯がある。
                                     -------- ホソバアカザ

 〔補足〕
(1) マルバアカザ・カワラアカザについては,“円柱状の毛”が明瞭なようだし他にも色々よい特徴がある。そもそもこれらは普通種ではない。ただ,海岸生のマルバアカザは多少気にかけておこう。

(2) “葉は全縁”のシロザを見たことがないが,ホソバアカザはほぼ全縁に見えることもある。

(3) ホソバアカザは,花序内の“苞葉”が明かで,葉も“厚い”が,時にはっきりしないこともある。

(4) 葉が三角状で広い,鋸歯が深い,のがシロザのよい特徴であるが,全部の葉がそうだというわけではない。茎の中央部の葉(“主葉”という語あり)で判断する。また,果実が熟す秋季には細い葉が出ることもあるので,春~夏の葉を基本とすること。

(5) はっきり確かめてはいないが,次のような差もあるという。
 ・シロザ:    花被片(萼裂片)の背稜が高まる。種子に強い光沢がある。
 ・ホソバアカザ: 花被片の背稜はシロザほど発達しない。種子の光沢は鈍い。

(6) 内陸部にも生育することがあるらしいが,隠岐に限って言えば海岸以外で見たことがない。波の飛沫のかかる岩場でよく見かける。海蝕崖の岩棚も好む。逆に,シロザが海辺の最前線まで進出することは少ない。シロザ(史前帰化植物)は路傍や畑など帰化種的な環境なので,そこが「海岸(波打際)かどうか」が大きな手掛りになる。人の行かないような自然度の高い海辺にはシロザはないのではないか?

(7) 最も良い方法は,両者を並べて植えてみることであろう。「曰く言い難い」違いに気付くはずである。

(8) ホソバアカザをシロザの変種 C. album var. stenophyllum とする人もいる。果して,いずれとも判断できない「中間型があるのか?」にも関心がある。


長たらしくなるが知人に書いた過去のメールが出て来たの一部を転記する。
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さて,採集品の同定です。まずカワラアカザ(とマルバアカザ)は,「花序の軸に透明な円柱状の毛が密生,という特徴で他種と明瞭に区別できる」ということが明らかになっています。ここが「著しく不定形な白い粉」が散らばる程度なので,カワラアカザをはっきり否定することができます。

否定すると自然に本種ホソバアカザに行き着くのですが,平凡社の図鑑の記載は「シロザにやや似ているが,葉は“薄く”,・・・」となっています。この間違いはひどい!正しくは“厚い”であることを確かめるのに随分時間がかかりました(神奈川県植物誌 2001)。私は気付いたからいいようなものの,これに泣く人が今後も沢山出るでしょう。混乱の継続です。そもそも,葉が薄かったら,「肉質で厚い」カワラアカザと同一視されたりしないでしょう。

更に今回困ったのは,耳々浦の浜(砂利)にシロザC. albumそっくりのものが数本あったことでした。普通に考えると,畑に生えるシロザが突然波打ち際に出現するとは考えられません。これがホソバアカザの変異内のものなのか,たまたま「シロザが海岸に出て来た」だけなのかに,随分神経を使いました。結論は「これはシロザであって,ホソバアカザではない」です。両種の比較を書いておきます。 ⇒ の後がホソバアカザです。

 ① 葉は広く,三角状卵形~長卵形  ⇒ 葉は細く,披針形~広線形
 ② 葉縁に不規則だが明瞭な鋸歯がある  ⇒ 全縁であるが,浅い歯牙がわずかに出ることもある
 ③ 葉質はやや薄い  ⇒ 葉ははっきりした厚みがある
 ④ 葉の先端は細く尖る  ⇒ 円鈍の場合が多く鋭く尖ることはない
 ⑤ 花序の枝は長めで散開し,花の塊がまばらに付く  ⇒ 花序はあまり開かず穂状に見え,花の塊は互いに接することが多い
 ⑥ 種子を包む萼裂片の背稜は畝状に高まる  ⇒ 円鈍で稜線ははっきりしない
 ⑦ 萼裂片は種子を大きく被い,種子は取れにくい  ⇒ ふわっと被い種子の背中が見え,種子はポロポロ落ちる

※ 単純化します。茎の中部以下に「三角形~菱形状で広く,縁がはっきりギザギザしている」葉が多くあれば,それはシロザです。ただし,アカザ属は海岸が大好きで他地域では帰化種も進出していると言います。もしシロザでなかったとしても,少なくともホソバアカザではありません。

 【追記  2015.1.29   『自然科学と博物館 vol. 36』より抄出。
   カワラアカザについて  (北川政夫 1969)
……カワラアカザがシロザ系マルバアカザ系かが第一の問題になる。私の意見としては,この種はシロザとは関係がなく,マルバアカザ系統のものであり,これとよく混同されているホソバアカザがシロザ系統の一員であることを断言出来る。
 この二種の区別点は生殖器官にも勿論現れて来るが,栄養器官を見ても即座に区別できる特徴がある。つまり,カワラアカザの葉や茎は赤味を帯びることが多く,葉は比較的厚く,全辺で絶対に分裂せず,葉縁は半透明な帯褐色か帯赤色の平坦な翼状部で縁どられ,花序の軸に透明白色で中空な単細胞毛が密生するが,ホソバアカザではこうした形質は見られず,シロザ系のものである。……

ハマアカザ Atriplex subcordata Kitag.

 Kさん

ハマアカザをご存じでしょうか?何故今頃と思われるかもしれません。一つの理由は,丸山先生の『隠岐島・島根半島・三瓶山』にある,37種の「隠岐島植物中珍奇著名なもの」に含まれているからです。どういう意味で重視されるのか,はっきり知りたいと思いました。

ツバメウツギ(Deutzia hebecarpa Nak.)・ミツバイワガサ・オオバアザミ(Cirsium Yoshinoi Nak. var. amplifolium Kitam.)・オキタンポポ・コバノネマガリダケ(Sasa romosissima Koidz.)・オキノアブラギク・ハシドイ・セリモドキ・カラスシキミ・オニヒョウタンボク・ハマナシ・ハマアカザ・クロベ・オオエゾデンダ・シロウマアサツキ・シシンラン・クモラン・カスミザクラ・ナゴラン・ベニシュスラン・ヒモラン・ヤナギイボタ・ダルマギク・ハイノキ・オオバヤドリギ・ハイネズ・ウンゼンマンネングサ・トウテイラン・チョウジガマズミ・オキシャクナゲ・ヨコグラノキ・マルバウマノスズクサ・ハナゼキショウ・ハイハマボッス・キャラボク・テツホシダ・クロキヅタ

“図鑑” からハマアカザの分布記載を,4例取り上げてみました。図のないものもありますので,図鑑ではなく “植物誌” というべきでしょうか(笑)。
 (1) 「北海道・本州・朝鮮・ウスリー・樺太・千島」
             : 日本の野生植物(北川政夫,1982)
    確かに “本州” は間違ってはいませんが…。山口県にも自生があるので。

 (2) 「樺太・千島・北海道・本州(広島県以東)」
             : Flora of Japan(S.E. Clemants, 2006)
    『広島県植物誌(1997)』によると,広島県から報告されたものはホソバハマアカザの誤認だったそうです。

 (3) 「日本の中部より北の海岸に自生」
             : 新牧野日本植物図鑑(2008)
    牧野さんの原文のままです。近畿以西では稀なのでイメージとしては悪くありません。
    エゾハマアカザという別名もあるくらいです。

 (4) 「本州(日本海沿岸は中国地方以東,太平洋沿岸は三重県以東)・北海道・樺太・千島」
             : 原色日本植物図鑑(北村四郎,1961)
    流石!京大は地元ですので安心できます。

北のものなので「どうせ中部以北では普通なんだろう」と思いました。ところが予想が外れて,詳しく調べてみる気になりました。

 【中国地方】
〔山口〕
 ごく稀。『山口県植物誌』には光市室積の標本が1点引用され,“本県が西南限” となっています。瀬戸内側なのが意外でした。
〔島根〕
  「沿岸に稀に分布 五箇,平田」。これは杉村先生の “植物相” からですが,産地が挙げてある時は “そこでしか見ていない”を意味するようです。島根半島には確かにあります(美保関・恵曇など)。
〔鳥取〕
  県立博物館に5地点の標本が収蔵されている。
〔広島・岡山〕
  自生なし。

 【近畿地方】
〔兵庫〕  ●準絶滅危惧種 もちろん日本海側の沿岸部です。
〔京都〕  ●絶滅危惧Ⅱ類 「多くない。…北部地域(丹後地域の海岸)。」
〔大阪・和歌山〕  自生なし。
〔三重〕  ●絶滅危惧Ⅰ類 「既知の生育地点数は5以下であり,個体数は少なく,…」

 【中部以北】
浜辺専門しかも波が洗うような場所なので,海のない県は関係ありません。北陸と東北は全県に自生していますので,量の “少ない” 県のみ取り上げます。
〔富山〕  ●絶滅危惧Ⅰ類
〔秋田〕  ●準絶滅危惧種

太平洋側はより稀の感じです。
〔愛知〕  ●絶滅危惧Ⅱ類 「生育地も個体数も少なく、また減少傾向も著しい。」
〔静岡〕  ●情報不足 「現状不明」
〔神奈川〕  ●絶滅
〔東京〕  情報なし。何をしているんだろう。
〔千葉〕  1959年の “記録” が1例あるのみ。
〔茨城〕  自生なし。
〔福島〕  ●準絶滅危惧
〔宮城〕  ●絶滅危惧Ⅱ類

これも基本的には “中部以北型” ,しかも〔北海道〕を除けばあまり個体数の多いものではないな,という印象です。何故か隠岐でも個体数はそう多くはありません。ただ分布は広くて,丁寧に捜せば大抵の海岸で2~3株は見付かりそうな気がします。およそ人の行かないような浜でも見ていますので,絶滅の心配はないかもしれません。

少し時化ると波をかぶるような最前線,どちらかというと岩がゴロゴロした場所に多いような…。隠岐での分布図を作ってみたくなりました。そういう気を起させるような孤独な生き様です。アカザ科は “風媒花” ですが “自家受粉” でしょうね。相手がそばにいないと受精に困ります。もちろん種子は海流散布で,水に浮きます。

長くなったので分類については省略します。ハマアカザ属はアカザ属 Chenopodium のように難解ではありません。ただし,まず果実によって属を決定してからです。他にはホソバハマアカザ・ホコガタアカザがあり,やや普通に見られるのはこちらの方です。この2つは波の静かな入江を好みます。


プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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