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 オグルマ Inula britannica ssp. japonica

カセンソウ I. salicina var. asiatica にはたまに出会うが,オグルマを見たのは初めて。島後西村の宮本さんの案内による。この機会に,両者の区別の仕方を書いておきたい。いったん知ってしまうと,その後は見ただけで分るようになり,細かな区別点を忘れてしまうから。初めての人に教えるのに,「見れば分る」は通用しない。

図鑑には色々書いてあるが,次が曖昧さのない最も確実な区別点である。初めて同定する時は,この判定基準に従って “確信” を得た方がよい。これらの特徴は,果実が熟していなくても,花が開いていれば使ってよい。

 ・カセンソウ: 痩果は無毛,冠毛の長さ8mm
 ・オグルマ : 痩果は有毛,冠毛の長さ5mm

痩果は10倍以上のルーペで丁寧に観察すること。カセンソウは毛がなくてツルツルしているが,オグルマは刺状の毛が上向きに生える。冠毛の長さには ±0.5mm 程度のゆらぎはある。こちらは,物指に乗せても何とかなりそうな大きな差である。

以下にその他の差異を列挙するが,いずれも “程度問題” で曖昧さを含む。慣れるまでは, “状況証拠”と気楽に考えればよい。もちろん,両種の現物を並べて比較できれば,同定はそんなに難しくないであろう。しかし,両者とも稀産種,まずはどちらか一方だけの同定を強いられるはずである。

 ・カセンソウ: 葉は硬く,下面に開出する毛(上向きに湾曲)がある。
 ・オグルマ : 葉は軟らかく,下面には白い伏毛が密にある。
カセンソウの葉は洋紙質で,ザラザラとした手触りだが,オグルマは草質で手には引っかからない。もちろん,茎中央部のちゃんと生長した葉で確かめる。

 ・カセンソウ: 頭花は1~2(5)個。
 ・オグルマ : 頭花は1~多数。
これは群落全体の傾向を見る必要がある。カセンソウも時に 3-5個花をつける個体が混じる。

 ・カセンソウ: 頭花の柄は開出する毛があるか,あるいはほとんど無毛。
 ・オグルマ : 頭花の柄には白い伏毛がある。
確かに,オグルマの花柄には長毛が密生している。

 ・カセンソウ: 葉の裏面に葉脈が突出。
 ・オグルマ : 葉の裏面の葉脈は突出しない。
これは誤解しやすい表現。葉脈は “網状の細脈” の意味である。オグルマも大きな支脈は突出する。

他にも,葉の大きさ・葉の基部が茎を抱く程度・花の色・花の大きさ等にも差異がありそうだが,これは書かない。自分で感じ取った方がよいし,まだ十分観察もしていないので。まずは,正攻法の「痩果の毛・冠毛の長さ」で判断すべきである。ごちゃごちゃ書いたが,種としての区分が曖昧なわけではない。ハッキリした別種である。

他にオグルマに似ているもので,ホソバオグルマ I. linariifolia と雑種サクラオグルマ(オグルマ × ホソバオグルマ)があるが,隠岐には縁がなさそうなので触れない。ホソバオグルマは,葉の形がまるで違うので(細長く線形)見れば分るはずだ。


  【追記 2016.9.14】
花期に明瞭な差があることをウッカリしていた。これが一番手っ取り早い。花のピーク(最盛期)は以下のようである。少なくとも隠岐では。

  ・カセンソウ --------- 7月前半 (初夏~ 仲夏)
  ・オグルマ ---------- 9月中旬 (秋ど真ん中)

他には,生育環境の違いもあるように思われる。
  ・カセンソウ ------ 水の滲むような場所を好むようだが, “湿地生” とは言え
               ない。乾いた所でも見かける。
  ・オグルマ -------- はっきり湿地の植物。

ニシノヤマタイミンガサ Parasenecio yatabei var. occidentalis

 【1。隠岐の事情】
隠岐の “植物目録” としては,次の2つが基本であるが,本種はどちらにも出て来ない。比較的近年になって気付かれたのかもしれない。
 『隠岐雑俎』 岡部武夫,昭25 (1950)  隠岐高等学校
 『国立公園候補地 隠岐島・島根半島・三瓶山』 丸山巌,昭35 (1960)  島根県

筆者が本種を初めて採集したのは 1984.9.16(布施村中谷産)であるが,その時すでに “重要種” という認識があった。何故知っていたのかはっきりしないが,以下の記述を読んでいたのかもしれない。
 『島根県大百科事典』 (丸山巌 1982)
「…本種は本州の静岡県以西の山陽地方や九州の温帯林下に分布する。島根県内では隠岐島後の大満寺山彙に多産するが,いくらか変異性がある。…」

後でも触れるが,多少のコメント。
 「静岡県以西」:  “岐阜県以西” が適切である。
 「山陽地方」: その通りで日本海側には自生地がない。
 「温帯林下」: 海抜1,000m前後のブナ帯が本来の生育環境。
 「隠岐島後」: 当時県下では,隠岐でしか確認できていないことが伺える。
 「多産」: 果してそうか?は検討を要する。確かにある程度分布は広いようだが。
 「変異性」: 稀に母種との中間的なものが現れるそうである。隠岐のものはどの程度か興味深い。かつて一度同定を試みた時,いくらかスッキリしない気持が残ったのはそのせいかも知れない。今回精査を思い立ったのも,その時の “気分の悪さ” が関係している。

島根県全域の状況については,その後以下のシリーズが発行されて随分見通しがよくなった。しかし,隠岐にあるかどうかなど,具体的な産地についてははっきりしない点もある。
 『島根県のシダ植物相』 杉村喜則,平9 (1997)  ホシザキグリーン財団
 『島根県の種子植物相』 杉村喜則,平17 (2005)  三瓶自然館
 『杉村喜則氏採集植物標本目録(Ⅰ)』 井上雅仁 他,平21 (2009)  三瓶自然館

“種子植物相” を見たら,「隠岐,石見部に稀に分布」となっていた。この目録には “稀” 以下のランクがないので,これは “ごく稀” を意味する。とりわけ地名が添えられている場合はそうである。 “標本目録Ⅰ” には,島前西ノ島の “焼火山” 1例のみが出ている(1983.10.19)。山頂付近だと聞いたが,30年前の採集…。

“石見部” という表現はどうなんだろう。文字通りだと“個体数は少なくても石見地方全域に広く分布” と取れるが,どうもそうは思えない。他の地域での分布,特に広島県と山口県の状況を考えると, “西中国山地国定公園” の西部,3つの県が隣接する地帯に限られる(?)ような気がする。インターネットに,匹見町額々山(がくがくやま)の 1,190 m 地点で撮られた写真が出ていた。確かにある!

 【2。中国・近畿地方】
〔鳥取〕 ●絶滅危惧Ⅱ類
 「県内の確認地は現在1カ所のみ。5年前に比べ2010年は株数が減った。開花も1株しか確認できず,衰退が確実。評価時にはVU相当と判断したが,より悲観的な判断も考えられる。」
〔山口〕 ●絶滅危惧Ⅱ類
  “山口県植物誌” などによると寂地山塊(1,337m)のブナ林で「稀」となっている。
〔広島〕 “広島県植物誌(1997)” から。
  「県西部の中国山地の高所に分布し,ブナ林の林床に群生するが,生育地は局部的であり,個体数も少ない。…恐羅漢山(1,346m)・冠山(1,339m)・臥竜山(1,223m)」
〔岡山〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
 「岡山県では1919年に高梁市で採集されて以来確認情報がなく、岡山県版レッドデータブック(2003)では絶滅種となっていた。2007年に88年ぶりに第2の生育地が発見され、本種の生育が明らかとなった(地職恵,2008)。個体数も少なく、孤立した状態で生育しており、依然危険度は高い。…県内の生育地は北部の1カ所のみで、深山の急な谷沿いの北斜面に点在するが、個体数はきわめて少ない。」

〔兵庫〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
 「県内では1ヶ所に知られている。」 
 詳細は非公開だが,産地は氷ノ山(1,510m)のようだ。
〔滋賀〕 ●情報不足
  “滋賀県植物誌(北村四郎,1968)” に載っていない。 “近畿地方植物誌(村田源,2004)” にも滋賀県の標本は出ていない。古い記録があるんだろうか?
〔奈良〕 ●絶滅危惧Ⅰ類
 詳細は不明だが大台ヶ原の標本が知られている。
〔大阪〕  “大阪府植物目録(桑島正二,1990)” による。
 「岩湧山(897m),山地の樹陰 希」
〔三重〕 ●絶滅危惧Ⅱ類
 「既知の生育地点数は5以下.各生育地の個体数は50未満である.」
 付図で見ると産地は,滋賀・岐阜・奈良との県境山地。

 【3。分布の全容】
〔東限〕
本変種の分布は『Flora of Japan (H. Koyama 1995)』によると,「本州(岐阜県以西)・四国・九州」である。岐阜県が東側の分布限界地ということで,近隣の県も調べてみた。福井・石川・長野・静岡には確かに記録がない。愛知県は不明だったが,以下の2つの分布図にはプロットされていた。実際の標本に基づいて作成された分布図であるので「本州(岐阜・愛知以西)・四国・九州」が厳密かもしれない。
 (a) “ヤマタイミンガサ(ニシノヤマタイミンガサを含む)とその仲間について” (小山博滋,1968)
 (b) 『日本の固有植物(加藤雅啓 他,2011)』
    【注】 『グリーンデータブック あいち2017』によると
      愛知県に両変種の記録がある。但し,産地は限定的。

〔四国〕
四国4県とも普通にあるようである。ただし,四国山地の1,000m付近の高地に現れる。例えば高知県で標高600m~1,400m。分布図を眺めていると,分布の中心は四国ではないかと思えてくる。

〔九州〕
九州もすべての県に分布する。ただし産地は中央部の山岳地帯で,大分・宮崎両県(四国が近い)以外は “稀” となっている。福岡・佐賀・鹿児島はレッドデータブックに登載。

 【4。隠岐に分布する意義】
いわゆる “近畿以西型” の日本固有種であるが,日本列島の太平洋側に偏して分布している。しかも産地は内陸部山地の亜高山帯に集中。何故こんなものが,跳んで隠岐にあるのか?また,岐阜県中央部の産地より北になるので,隠岐は北限自生地でもある。

実際,(b) の分布図で隠岐に点が打ってあるのを見て,申訳ないような気になった。知らない人が見たら,何かの間違いだと思うだろう。

 【5。分類】
母種は,ヤマタイミンガサ(広義) Parasenecio yatabei である。狭義のヤマタイミンガサ P. yatabei var. yatabei も本州の太平洋側のみに分布する。こちらは “中部以北型” で岩手県にまで達する。近畿以西でも広島県までと四国にはあって,そこで分布が重なり合うことになっているが,例外的で痕跡的な遺存という印象である。「四国には両方がある」と言ってもその意味が異なる。西のニシノヤマタイミンガサと東西に住み分けができているようだ。

ヤマタイミンガサについて,『広島県植物誌』はニシノヤマタイミンガサの間違いだったとしているし,愛媛県レッドデータブックは「情報不足(DD) 石鎚山系の記録がある。」,徳島県は「絶滅危惧Ⅱ類 剣山・木頭村で生育を確認した。東祖谷山村に記録がある。」,などという程度。

両変種の区別点(北村四郎 1981,H. Koyama 1995)。
 ・ヤマタイミンガサ:    総苞片は5個,小花は5-6個。
 ・ニシノヤマタイミンガサ: 総苞片は3-4個,小花は2-4個。

しかし, “ほとんどの場合” 次でよいらしい。これは隠岐のもので是非確かめておきたい。
 ・ヤマタイミンガサ:    総苞片は5個,小花は5個。
 ・ニシノヤマタイミンガサ: 総苞片は3個,小花は3個。

隠岐で多少似て見えるものにヤブレガサ Syneilesis palmata があるが,ヤブレガサは葉が葉柄に楯型につくのではっきり異なる。つまり,葉柄の付着点が葉身の縁ではなくて内部にある。

 【※ 付記】
“島根県大百科事典” の「静岡県以西…」は,『日本植物総検索誌(杉本順一,1978)』を引き写したと思われる。しかし,杉本先生自身の『静岡県植物誌(1984)』は「富士山(早田博士)。稀。」となっているのみである。富士山周辺を含め,多くの産地が列挙されているヤマタイミンガサとは対照的に。単に “The Vegitation of Mt. Fuji” (B. Hayata, 1911) を引用したものであろう。前記の2つの分布図にも現れないので無視することにしたい。

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 【訂正 2013.1.19】

丸山巌氏の『隠岐島・島根半島・三瓶山』に本種が出て来ないと書いたが少し違っていた。

冒頭の “概況” 部分に,タイミンガサモドキ(ヤマタイミンガサの別名)として取上げられている。広義ではニシノヤマタイミンガサも含むので誤認とは言えない。採集者が必ず通るルートに多産地があるのでおかしいとは思っていた。

ただし “目録” 本体では,タイミンガサ Cacalia peltifolia Makino となっている。うっかりミスだと思う。タイミンガサは日本海側の “新潟~兵庫” にしか分布しない特殊な種である。いずれにしても,丸山先生が本変種を既に認識していたことは明かである。その後の島根県大百科事典の記述に照らして。

『滋賀県レッドデータブック 2010年版』を入手した。
 「県内では,永源寺町(白瀬峠付近)で確認。…確実な情報および記録に乏しい。」
となっている。白瀬峠は三重県との県境で標高1,010m。

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 【追記 2013.9.12】

布施の神原高原(海抜430m)から,ニシノヤマタイミンガサの花序を3本折り取って帰った(別々の株)。頭花70個について,総苞片と小花の数を数えてみた。3本の個体差や,同一花序内でのゆらぎがわずかにあるが,問題にするほどではない。総苞片と小花の数は基本的に同数なので,小花の数のみを昇順に並べて示す。

  3,3,3,3,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4
  4,4,4,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5
  5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5
  5,5,5,5,5,5,6,6,6,6
           (3: 6%,4: 27%,5: 61%,6: 6%)

・ヤマタイミンガサ:    5~6個(基本数5)
・ニシノヤマタイミンガサ: 2~4個(基本数3)
厳密に言えば,どちらとも言えない “中間型” になる。それはそれで注目に値するが,普通に考えるとこれはヤマタイミンガサ(狭義:var. yatabei)とすべきであろう。少なくともニシノヤマタイミンガサ var. occidentalis ではあり得ない。

困ったことになったものだ。文献(b)の分布図ではニシノヤマタイミンガサになっている。頭痛が種が増えてしまった。更に多数の個体を調べてみる必要がある。

ニシノヤマタイミンガサでさえ不思議に思っていたが,ヤマタイミンガサだとすると,ちょっと信じ難い分布になる。そもそも中部以北の “太平洋側” のもので,西日本では四国だけにあることになっている。しかも,産地は四国山地の一部に限られ「香川:なし,愛媛:情報不足,徳島・高知:絶滅危惧」。


 【参考】 ※ 前記文献(a)から
  ・・・
 京大,東大ならびに科学博物館の標本庫に保存されている標本172点について検討したところ,その大部分は総苞片 5~(6) 個,小花 5個からなる頭花をもつ個体(C. yatabei var. yatabei)と総苞片 3~(4) 個,小花 3個からなる頭花をもつ個体(C. yatabei var. occidentalis)であった。
 しかし少数ではあるが,上記以外に総苞片 3~(4) 個と小花 (4)~5 個からなる頭花をもつ個体や,総苞片 3個,小花 3個からなる頭花と,総苞片 5個,小花 5個からなる頭花とを同一花序内に有する植物も見られた。
  ・・・
 上に述べた総苞片と小花の数の点で中間的な頭花を持つ植物の出現する地域は,2変種が重なり合う愛知県以西から中国・四国地方である。又それぞれ一方の型しか見られない東北と九州では,頭花を構成する総苞片と小花の数がかなり安定しており,変異の幅も小さい。
  ・・・

なるほど,隠岐は東北でも九州でもない。しかも,東北・九州でさえ 「かなり安定」・「変異の幅も小さい」と,多少のゆらぎ(彷徨変異)は出る。逆に,その点がこの種の特徴とも言える(文献(a) )。

---------------------------------
 【追記 2014.9.27】

産地は同じ神原高原であるが,数百m離れた別の群落の個体(植栽品)を調べてみた。1花序50個の頭花について。結果は前回と全く同じ。
  3,3,3 -----> 6%
  4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4,4 -----> 30%
  5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5
  5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5,5 -----> 62%
  6  -----> 2%

小花の基本数は3:5。4が混じるとはいうものの明らかに3ではない。つまり,変種を分けるとすればヤマタイミンガサ P. yatabei var. yatabei とせざるを得ない。変種を区別しない広義でも母種のヤマタイミンガサと呼ばざるを得ない。

ネット上にあるニシノヤマタイミンガサの写真を色々見た。確かに小花数は3(-4)で隠岐のものとは感じがはっきり違っている。

過去の間違い(?)は,“隠岐は西日本” という先入観が影響していると思われる。行政区画上はともかく,植物分布を考えると「隠岐は西日本ではない」と感じることが多い。緯度を考えてみても,福井県・長野県・茨城県と重なっており,西と東(南と北)の境界線上に位置する。

なお,文献(b) の分布図はどう考えるべきか。単に,京大(?)の標本ラベルがそうなっているだけかもしれない。

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 【追記 2014.10.5】

1頭花中に含まれる小花数のカウント,前2回の結果は見事に一致し代表値は「5」であった。
<№1>
  3 ----->  6%
  4 -----> 27%
  5 -----> 61%
  6 ----->  6%    (平均 4.7)
<№2>
  3 ----->  6%
  4 -----> 30%
  5 -----> 62%
  6 ----->  2%    (平均 4.6)

もう必要ないかと思ったが,念の為もう一度やってみたら予想外の結果になった。
<№3>
  3 -----> 22%
  4 -----> 50%
  5 -----> 22%
  6 ----->  6%    (平均 4.1)
<№4>
  3 -----> 33%
  4 -----> 47%
  5 -----> 16%
  6 ----->  4%    (平均 3.9)
代表値は3ではないが5でもない。両者の中間の「4」であろう。ニシノヤマタイミンガサとタイミンガサの“中間型”ということになる。

これは群落の違いによる差であろうか?№1~4はそれぞれ数百m離れている。どうもそうではないような気がする。№3と4は調査時期が遅く開花のピークを過ぎてしまっていた。咲き残った,或いは遅れて咲いた個体しか残っておらず,生育状態が十分ではないように見える。来年の満開時に同一場所で再調査する必要がある。

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 【追記 2016.9.6】

小花のカウントを再度試みた。予想は,「ほとんど全てがヤマタイミンガサ(5型)だろう」だったが,明瞭なニシノヤマタイミンガサ(3型)も含まれていた!

<№5>
  3 ----->  5%
  4 -----> 40%
  5 -----> 30%
  6 -----> 25%    (平均 4.8)
<№6>
  3 ----->  5%
  4 -----> 35%
  5 -----> 25%
  6 -----> 35%    (平均 4.9)
<№7>
  3 -----> 40%
  4 -----> 55%
  5 ----->  5%
  6 ----->  0%    (平均 3.7)
<№8>
  3 -----> 60%
  4 -----> 40%
  5 ----->  0%
  6 ----->  0%    (平均 3.4)
<№9>
  3 -----> 50%
  4 -----> 35%
  5 -----> 15%
  6 ----->  0%    (平均 3.7)

№7,8,9 は迷う余地なくニシノヤマタイミンガサ var. accidentalis である。そして,№5,6 は中間的ではあるものの変種を分ければ,明らかにヤマタイミンガサ var. yatabei 寄りである。少なくともニシノヤマタイミンガサだとは言えない。

更に調査を続けた方がよいが,隠岐には “2型が共存” しているというのが,実態を忠実に表している。

ヤマタイミンガサとニシノヤマタイミンガサの両変種が混在することよりも,そもそも本種が隠岐に分布している事が不思議である。本州での分布図によると,表日本(脊梁山地の太平洋側)のもので,日本海側には進出していない(脊梁山地を越えない)。隠岐が唯一の例外ではないか?

 *****************************************************
 【追記 2018.9.5】

再度しつこく,小花の数を数えてみた。隠岐にあるのは,ニシノヤマタイミンガサ? or ヤマタイミンガサ? or それとも?

産地は,前回までの “神原高原” 一帯から少し離れた,布施北谷の群生地。
一群落内の8個の株について,それぞれ花序から20個の頭花をランダムに抜き出した。
<№ 10>
  3 -----> 20%
  4 -----> 75%
  5 ----->  5%
  6 ----->  0%
<№ 11>
  3 -----> 10%
  4 -----> 85%
  5 ----->  5%
  6 ----->  0%
<№ 12>
  3 ----->  5%
  4 -----> 80%
  5 -----> 15%
  6 ----->  0%
<№ 13>
  3 ----->  5%
  4 -----> 80%
  5 -----> 15%
  6 ----->  0%
<№ 14>
  3 -----> 10%
  4 -----> 65%
  5 -----> 25%
  6 ----->  0%
<№ 15
  3 ----->  0%
  4 -----> 50%
  5 -----> 45%
  6 ----->  5%
<№ 16
  3 ----->  5%
  4 -----> 40%
  5 -----> 55%
  6 ----->  0%
<№ 17
  3 ----->  0%
  4 -----> 30%
  5 -----> 70%
  6 ----->  0%

№10~№14: ニシノヤマタイミンガサとすべきであろう。 “3” が少ないのが多少気になるが…。
№15,16: いずれでもない中間型と言うしかない。
№17 : ヤマタイミンガサとしてよいと思われる。

 【隠岐の状況についての一応の結論】
(1) ニシノヤマタイミンガサ:
  確かにある。多くはないが典型品と言えるものも(№7,8,9)。
(2) ヤマタイミンガサ:
   “5” が60%を越える個体は,ヤマタイミンガサと判断する。
(3) 中間型:
  隠岐の自生種の主体はこれであろう。どちらとしても矛盾が大き過ぎる。
  例えば,「4 ---> 50%,5 ---> 50%」。

歯切れの悪い結果であるが,それが隠岐独特の現状なので認めるしかない。むしろ,その特異性(3タイプ共存で分化しきっていない)が注目に値する。

なお,平凡社図鑑の改訂新版で “分布” が以下のようになっていた(門田裕一 2017)。
(a) ヤマタイミンガサ Parasenecio yatabei var. yatabei
  ------- 本州(岩手県~岐阜県・愛知県・紀伊山地・中国地方,隠岐島を含む)・
        四国(徳島県・高知県)に分布し,……
(b) ニシノヤマタイミンガサ Parasenecio yatabei var. occidentalis
  ------- 本州(岐阜県・愛知県・紀伊山地・中国地方)・四国・九州に分布し……

わざわざ,「隠岐島を含む」と付け加えた根拠とその理由が知りたい。確かに,ヤマタイミンガサが日本海側の低地(標高400m以下)に現れるのは信じ難いような事実だが…。

タマバシロヨメナ

キク科 シオン属 Aster

「シロヨメナではなくて,隠岐のものはタマバシロヨメナだ」という話を聞いてちょっと慌てた。タマバシロヨメナなるものを全く知らなかったからである。シロヨメナを知ったのは思い出せないほど昔のことで,イナカギクとの区別に苦しんだ記憶だけが残っている。当時頼っていた唯一の教科書は保育社の原色図鑑だが,そこにタマバシロヨメナは載っていない。

島根県の過去の記録が全くないことも,今まで気付かなかった原因の一つである。本土側と隠岐,両方のシロヨメナを見ているはずの地元の学者(丸山巌,杉村喜則氏等)も記録していない。 “長崎県植物誌ノート(中西弘樹 2001)” に以下の報告があるが,これは近年のものであろう。1995年時点でも,分布は「東北・北陸」となっている( “Flora of Japan” )。京都・兵庫の日本海側で確認されたのはその後のことである。

「本亜種はこれまで新潟県から日本海側沿岸部を島根県まで点々と分布することが知られていたが,対馬下島の沿岸部にも産することがわかった。葉は広卵形をしており。全体に大型である。豆配で採集した標本は大阪府立大学の副島顕子博士に御確認いただいた。」

他の地方にも時に出現するとはいえ,分布の中心は,山形・新潟・富山であるように思われる。これが「隠岐にある,あるいは隠岐に多い?」とすれば注目に値する。 “日本の野菊(いがりまさし 2007)” の分布図では,隠岐はタマバシロヨメナのみでシロヨメナはプロットされていない。調査は,オキノアブラギクも含め実見に基づいたものである。

さて問題はその同定である。シロヨメナ(広義)は多くの倍数体(染色体数が異なる)からなる複雑な複合体(complex)。現在5変種に分けられているが,それぞれ変化が非常に多いという。そして,どちらだか判断できないような中間形も出て来る,とちゃんと断ってある。素人としてはまず,特徴が明瞭に表れている典型的な個体について同定できれば,それでよしということにする。

文献からポイントとなる部分を抜き出した。シロヨメナ対タマバシロヨメナの比較に限る。他の3変種は特徴が明瞭だし,分布地域が限られるので省略。タマバシロヨメナに触れている手持ちの資料はこれがすべてだ。もちろん,東北・北陸各県の植物誌にはタマバシロヨメナが出て来るが,両者を比較した記述はない。

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A:シロヨメナ A. ageratoides var. ageratoides
O:タマバシロヨメナ A. ageratoides var. ovalifolius

1〕日本植物誌(大井次三郎 1978)
A:葉は長楕円状披針形,下半部が急に狭くなって後にしだいに細くなり,…
O:茎葉は卵形で…基部は円楔形で…

2〕日本草本植物総検索誌(杉本順一 1978)
A:葉は長楕円形~広披針形
O:葉は卵形で長さ10~12cm

3〕日本の野生植物(北村四郎 1981)
A:葉は長楕円状披針形,鋭尖頭,下から1/3あたりで急に狭くなり,あとはしだいに狭まって,…
O:茎の中部の葉が卵形で短柄があり,葉身は長さ10-13cm,幅5.5-6.5cm…

4〕Flora of Japan (M. Ito and A. Soejima 1995)
A:葉は長楕円状披針形
 ・・・茎の中部の葉は披針形又は長楕円状披針形,長さ(4.5-)6~10.5(-15),幅(2-)3~5(-6)cm,基部は急に狭くなり細く尖る(Base sharply narrowed and attenuate-cuneate.)。
O:葉は卵形
 ・・・茎葉は卵形で,長さ6.5~15cm,幅5.8~7cm,…基部は急に狭くなり細く尖る。 ※注記 本変種はシロヨメナと同所的に現れ,時に中間型も見付かる。

5〕日本の野菊(いがりまさし 2007)
A:葉は披針形
 ・・・葉身の基部から3~5分の1あたりでくびれる傾向が強いといわれるが,…必ずしもそのような傾向を示すとも限らない。
O:葉は卵形~広卵形
 ・・・多くの場合はふつうのシロヨメナと混生している。…シロヨメナと連続的な場合もある。
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要約すれば,「(長楕円状)披針形 vs. 卵形」となる。長楕円状が付いているのは,必ずしも下方が膨らまず,最大幅の部分が中央寄りにずれるからである。披針形対卵形,これは一目で分かる明瞭な違いである。そして隠岐には,はっきり卵形のものがある。そして,とても卵形とは言えないものもある。よって,シロヨメナ・タマバシロヨメナの2つとも確かに自生する。

しかし,これら典型的なタイプは量的には少なくて(稀ではない),圧倒的に多いのは頭を傾げるようなどっちつかずの型である。しかもこれら3つのタイプがすぐ近くに接して広がっている。もちろん,細胞学的には分けて認識すべきものであろうが,葉形だけでは2つをきれいに分けることはできそうにない。しかも1集団(横走茎で栄養繁殖したクローン)内でも,葉形の変異は結構ある。どうも気分がスッキリしない。

しかし,そもそもシロヨメナ群(シロヨメナ複合体)がそのようなものであるので,不平を言ってもしょうがない。中間型が大多数というのは,あるいは隠岐の特殊性かもしれない。中間型は「どっちでもない・分からない」と言って同定しなければ良いだけの話だ。

その他気付いたことをメモしておく。
 (1) 葉の基部の形
「葉の下部が急につまんだように狭くなり,柄状に細く伸びる傾向」は,近縁種にもしばしば見られる特徴である。上記文献では,シロヨメナについてのみこの特徴が強調されているが,〔4〕はタマバシロヨメナに関しても同じ事をわざわざ書いている。副島博士が同定したという対馬のものも,はっきりそのようになっている(写真では)。

この「葉本体の卵形部分の,下部が突出して柄状に細長く尖る」という特徴はタマバシロヨメナの特徴でもあると考える。いくら何でもそのもの達がシロヨメナとは思えない。この “尻尾付き卵形葉” も認めたら,該当するものが俄然増える(中間型から昇格)。隠岐にはタマバシロヨメナが非常に多いのかもしれない。

 (2) 葉の大きさ
葉の大きさはまともに育った個体の,茎の中部で判断する。文献〔4〕では葉の幅,シロヨメナ:3~5cm,タマバシロヨメナ:5.8~7cm,となっている。 “5.8cm” の “.8” がすごい。これを見ると「葉がでかい」のもタマバシロヨメナの特徴と言えそうである。シロヨメナの方は,他の図鑑類を参照した結果,幅3~4cmを代表値(最頻値)と考える。事実,図鑑のシロヨメナの図や本土側の標本は「披針形に近い細長い」ものばかりで,隠岐のように幅広く膨らんだ葉は出て来ない。隠岐のはほとんどの葉が幅5~6cmで,4cm以下のものはまずない。

葉の大きさを重視すると,隠岐をタマバシロヨメナのみとしている,いがり氏の分布図を無視できなくなった。しかし調べた限りでは,タマバシロヨメナだけという地域はない。山形~兵庫までの日本海側の府県,佐渡・対馬・壱岐,いずれの地にもシロヨメナが記録されている。

 【追記 2013.10.11】
前回,「他の3変種は特徴が明瞭だし,分布地域が限られるので省略。」としているが,これは正しくなかった。残り3変種のうちの1つ,ケシロヨメナ A. ageratoides var. intermedius は隠岐に自生する可能性がある。ただし,シロヨメナとケシロヨメナは毛の状態以外に差はないので,上の議論はそのまま有効である。つまり,上記「シロヨメナ」を,「ケシロヨメナを含む」或は「シロヨメナ or ケシロヨメナ」と読替えればよい。

それでよいのだが,その後に新たな問題が発生する。隠岐にタマバシロヨメナ以外のものがあるとしたら,それはシロヨメナなのかケシロヨメナなのかという。検索表では以下のようになっている。
 ・シロヨメナ ------------- 葉の裏面は無毛。毛はわずかにあっても皆短い。
 ・ケシロヨメナ ----------- 葉の裏面に毛が多い。短毛が多いが長軟毛も混じる。

毛の状態については今後検討したいが, “無毛” のものは考えにくい。隠岐のものはすべて毛が多くザラザラしている気がする。

テーマ:自然科学 - ジャンル:学問・文化・芸術

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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