FC2ブログ

 ニオウヤブマオ Boehmeria holosericea

学名と和名及びその意味は,矢原徹一博士の著作に従う。日本維管束植物目録(米倉浩司 2012)も同様の扱い。保育社の原色図鑑に解説されているものにも一致する。

隠岐や島根県では今まで,本種をオニヤブマオと言って来た。しかし,平凡社の図鑑(佐竹義輔 1982)と “Flora of Japan (H. Ohba 2006)” にあるオニヤブマオ(B. holosericea)は何か別の概念であるので無視する。両書に言う,ニオウヤブマオ(B. gigantea,B. grandissima)とサイカイヤブマオ(B. pannosa)を併せたものに相当する。

これに似たものはヤブマオ B. japocica var. longispica 一種しかない(少なくとも隠岐では)。そしてヤブマオはその辺に幾らでもある。ヤブマオに近いものにメヤブマオ B. platanifolia があるが,これは少し山へ入らないと現れないし,量も少ないので知らない人が多いと思う。よって,ヤブマオの一番わかり易い特徴は「 (1) そこら辺りでしょっちゅう目にする,例の奴」。目の前に現物があるので安心だが,ニオウヤブマオとの比較では, “鋸歯” に関して次の点に着目する。

 (2) 数が少ない。片側15前後。
 (3) 必ず重鋸歯(多少とも)が混じる。
 (4) 基部では小さいが,葉先ではっきり大きい。
 (5) 先端が鋭く尖る。細長く湾曲気味に。
 (6) 加えて最重要な留意点は,雄花をつけないこと。まだ雄花を見たことはないが,たとえあっても貧弱で痕跡的なもののはずである。

これに対応して,ニオウヤブマオは以下のようになる。(6) が最も重要だが,イメージとしては(4)・(5) 。
 (1) 海岸に行けば必ずある。風が吹けば波しぶきが飛んで来るような場所。
 (2) 数が多く20以上。30を越えることも。
 (3) 必ず単鋸歯。
 (4) 小さめで形が揃っている。極端な大小はない。
 (5) はっきり丸味がある。典型的には円頭。
 (6) 雄花はぎっしりつく。円錐花序(枝分れ)をなして賑やか。

とにかく海岸には必ずあるので(海士・西ノ島のあちこちと島後の一部で確認済み),ヤブマオのイメージを頭に入れて,海岸へ行ってみるとよい。一目で「違う!」と判る。もしそこが,日陰で適湿な場所なら “円形の巨大な葉” に圧倒されるはずである。なお,海岸(本来の)を離れると急速に減るが ,“海岸にしか生えない”という訳ではない。数百メートル内陸へ入っても,日当りのよい場所では時に見かける。

他に紛らわしい種はないし,ヤブマオが海岸へ出て来ることもまずない。不安なら,茎の上半部に雄花が付いていることを確かめればよい。ヤブマオの花序(雌花)はまだ育っていない。白い枝分れした花序が目に入れば,それはニオウヤブマオの雄花である。雌花は遅れて(7月下旬以降),茎頂部(雄花の上)に伸び出す。秋になって果実が熟してからでも,その下方に枯残った雄花の残骸があるので確実な同定ができる。

よく見ればニオウヤブマオにも変化はある。特に鋸歯の大小。しかし,群落全体あるいは産地一帯を広く観察すると,その変化が連続的なものであることに気付く。異種が混生している訳ではない。1枚の葉だけ,1個体だけで判断してはいけない。乾燥・強風など特殊な環境にも要注意である。小さくいじけたり,徒長した個体にもこだわらないよう。

とは言うものの,葉形がヤブマオそっくりの個体が出て来て(鋸歯の数が少なく,大きくて鋭く尖る),しばらく悩んだ。海士町の明屋海岸・倉田海岸でそれぞれ1株ずつだったが,雄花が沢山ついていること以外にニオウヤブマオの特徴があまりない。だけどこれもニオウヤブマオの変化形(例外的な)と考えておくことにする。人の訪れることもない海岸のニオウヤブマオの大集団の中に,1株だけ異種が紛れているとは思えない。それに,円錐状の雄花があるので該当しそうな候補種も見当らない。 “変り者” は常にいる。

ヒロナガバヤブマオ Boehmeria sieboldiana var. ovata Satake

ナガバヤブマオ var. sieboldiana の葉は,長楕円状卵形~広披針形で,長さ:10-20cm,幅:4-10cm。和名通り葉が “細長い” のが,何よりの特徴である。

ところが本品は,長さ 20cm × 幅 20cmで幅が 2倍。円形と言ってもよいほど極端な広卵形である。最初目にした時はニオウヤブマオ B. holosericea ?と思ったが,やがて徐々にナガバヤブマオらしく見えて来た。何となく “卵形” が感じられるし,葉の表面にはっきり光沢があった。

大きさの揃った鋭い単鋸歯が片側に 20個ずつ,葉頂にはナガバヤブマオの特徴の一つ,細い線状の尻尾もついている。決定的なのは葉や葉柄に “毛がない” こと。これで,ややこしい他の諸々をすべて排除できるだろう。

“福岡県産ヤブマオ属の種類と変更” (矢原徹一 1974)に,次のくだりがある。
「ヒロナガバヤブマオは広葉品である。タイプ標本はそれほど著しいものではないが,野外ではより広いものも見られる。著しいものについては品種として区別してもよいだろう。」

ナガバヤブマオの最も大きな数値は「発育のよい株中部の葉(葉身)は長さ約25cm,幅約13cm」(神奈川県植物誌 2001)で随分大きい。それでも「13cm → 20cm」は大差だし,縦横比がまるでおかしい。

手持の図鑑類を見るが,本品が載っていたのは唯一,『日本草本植物総検索誌(杉本順一)』だけだった。無視されたか,あるいはいつの間にか忘れられたか?インターネットで検索しても一件もヒットしない!

地方植物誌を数県当ってみたが挙っていない。取りあえず判ったのは,山形・新潟・福島・茨城(稀)・長崎(対馬)に記録があったらしいということ。地方植物誌がこの “巨大な葉” を無視しそうにない。あるいは稀なものなのだろうか。島根県産ナガバヤブマオの標本画像を 9点見たが(杉村喜則氏採集),全て普通の細長い葉だった。他の地域のことが気になる。

場所は焼火山の東側山麓の林道沿いで(海抜 80m),メヤブマオ B. platanifolia が並んである環境。数メートルおきに 4-5株はあった。中間型(小形で長めの葉)も見られず,そばには通常のナガバヤブマオもない。一時的な奇形ではなくちゃんと繁殖しているようだ。

 アカソ Boehmeria silvestrii

メヤブマオ B. platanifollia との違いを,今調べ中。もちろん,普通は(典型的な個体)一目で直ぐ判る。メヤブマオは大きくて強壮,茎は太く木質化して半分 “木” 。一方アカソは,弱々しく柔らかい “草” で,高さも葉の大きさもメヤブマオの半分くらいである。言わば “草と木” の違い。

しかしながら,メヤブマオは変化の激しい種で,しばしばヤブマオ B. japonica との区別もできなくなる。この辺のことはまだ自信がなく,自分がメヤブマオとしている大形なものには,ヤブマオも含まれているかもしれない。

いずれにしても,アカソに限りなく近い “メヤブマオ” が現れた時が問題になる。どうもそのような個体が混じっているような気がする。逆に,メヤブマオに近い “アカソ” というのはないと思うが。

ぎりぎり一杯,最終的な判定法は?

(1) 雌花の花被筒        (大井次三郎 1978,保育社・平凡社図鑑も同一)
 ・ アカソ ------- 全面に微毛がある。
 ・ メヤブマオ --- 全面に斜上する短毛があり,上方の毛は下方よりも明かに長い。

(2) 葉の裏面              (矢原徹一 1988)
 ・ アカソ --------- まばらに短毛がある。
 ・ メヤブマオ ----- 短毛が多い。

(3) 花序の軸              (城川四郎 2001)
 ・ アカソ -------- 毛は密生しない。
 ・ メヤブマオ ---- 毛が密生する。

※ (1) 果実(痩果の宿存果皮)の毛,この切り分け方は定番であるがアカソの果実はまだ見たことがない(現在栽培中だが未熟)。メヤブマオの果実については,昨年愚かにもアカソだと思い込んで持帰った標本がある。果実の “上部” の毛は,毛と言うより “刺(とげ)” の感じで長くて荒い。
※ (2) 葉裏の毛の多少,まだ観察数が少ないが有意の差が認められる。葉先の3尖裂の深さと毛の多少が,連動しているようにも感じた。
※ (3) 花序軸の毛。「密生しない・する」は “感じ” の問題とも言えるが, 実際に見比べると納得できる差がある。花がついていれば有力な判定法である。ただしルーペはあった方がよい。

(a) 言うまでもなく,アカソの第一の特徴は,葉先が深く3裂(欠刻状)することである。葉の中ほどまで切れ込み,中央裂片が細長くて基部が狭くなっていれば,まず間違いはない。もちろん,一株についている全部の葉がことごとく3中裂するという意味ではない。加えて留意すべきは,メヤブマオもしばしば葉先が3裂することである。アカソとは欠刻の深さと形が異なるとはいえ。

(b) また,花序の軸や茎が多少とも紅味を帯びることも,目につく特徴である。葉柄のことではないので注意。葉柄はメヤブマオも紅いのが普通。

(a)と(b) もまだ観察不十分。 “常に必ず” そうであるかは,保証の限りでない。何しろ隠岐には,アカソも “アカソ風の” メヤブマオも少な過ぎる。アカソに至っては,焼火山(東側中腹)一ヶ所でしか出会っていない。


 【追記 2013.7.9】
まだ花の時期ではないので早過ぎるのだが,アカソの自生地に行ってみた(花序が育つのは8月中旬?)。メヤブマオの群落に混生して,わずか30株ほどがある。ここのメヤブマオは小柄でなよなよ(草食系),アカソと同じ姿で区別ができない。

しかしながら,葉の切れ込み方には両者で明瞭な違いがあった。数多く丁寧に見たのだが,綺麗に2つに別れ曖昧さが微塵もなかった。メヤブマオの方は3裂したりしなかったり変化があるが,アカソは全ての株の「全部の葉がことごとく3中裂」,その形も一様で例外はなかった。深くえぐれるように3裂し,中央裂片の基部が “細くくびれ” ,先端は尾状に尖る(亀の尾)。まるで中央の裂片1枚が独立しているような印象がある。

これは予想外の結果だった。過去2回(2シーズン)の観察では,こんなにはっきりと分れてはいなかったような気がする。この状態なら「アカソに “限りなく” 近いメヤブマオ」などはあり得ない。葉先の分裂の仕方だけでアカソだと確定できてしまう。このアカソ型の3裂はあまりにも特異で疑う余地はないのだが,念の為に葉裏の毛の多少で “裏を取った” 。

過去2回の観察は何だったろうか?そんなにいい加減だったとも思えないのだが…。あるいは,今大きく育っている葉(春葉)ではそう言えるが,夏以降に出る葉(秋葉?)では事情が違うのであろうか?しかしそれも考えにくい。

とは言え,文献にはアカソも結構変化があると書かかれている。隠岐の,あるいは一産地の,ものに限っての現象かもしれない。

 【追記 2015.9.5】
アカソとメヤブマオ,普通にあるメヤブマオを「アカソ?」などと思うことはあり得ない。大きさや葉質がまるで違う。ただ稀にだが,アカソにそっくりのメヤブマオが出現することがある。何故かそういうタイプのメヤブマオは群生しない・・・。

前記(1)~(3)と(a)~(b)の差があるが,今なら(8~9月)長い紐状の花序が観察できる(雌花序)。

・アカソ ----------- 糸状で細い。雌花の集団は互いに離れまばら。
・メヤブマオ ------ 紐状で太い(径8mm以上)。雌花の集団は密に接する。

以上の差は一目で分かる。以下は,判定基準(3)の補完。

(3) 花序の軸
 ・ アカソ -------- 毛は密生しない。毛は斜上
 ・ メヤブマオ ---- 毛が密生する。毛は開出

雌花序

稀産種 コバノイラクサ Urtica laetevirens

隠岐に本種があることは全く世に知られていない。そればかりか島根県はおろか中国地方の記録もない。本来は北海道と本州の中部地方以北に分布するものなので,隠岐に自生すること自体極めて異例である。その意義をはっきりさせるために,全国の分布状況を詳しく調べた。また,素人の報告では誰も信用してくれそうにないので,同定の過程についても詳述する。

 1. 各県の分布
図鑑類には「本州(近畿以北)・北海道」とされているが,具体的には以下のようになる。
                 (○:有,△:少,●:絶滅危惧,×:無,?:不詳)
  北海道 ○
  青森 △,岩手 ○,宮城 ○,秋田 △,山形 △,福島 △
  茨城 △,栃木 △,群馬 △,埼玉 ×,千葉 ×,東京 ●,神奈川 ×
  山梨 ○,長野 ○,岐阜 ?,静岡 △,愛知 ×,三重 ×
  新潟 ●,富山 ×,石川 ×,福井 ×

  滋賀 ●,京都 ×,大阪 ×,兵庫 ×,奈良 ●,和歌山 ×
  鳥取 ×,島根 ×,岡山 ×,広島 ×,山口 ×
  徳島 ●,香川 ×,愛媛 ×,高知 ●
  福岡 ●,佐賀 ×,長崎 ×,熊本 ×,大分 ×,宮崎 ×,鹿児島 ×,沖縄 ×

西日本の産地はわずか5ヶ所に局在,どの県もレッドデータブックに登載している。
<滋賀県>  「分布上重要種」
   御池岳(1,247m alt.) 三重県県境  「きわめて稀である。」
<奈良県>  「絶滅寸前種」
   大峰山系弥山(1,895m alt.)
<徳島県>  「絶滅危惧I類」
   那賀郡木沢村(杖谷山 578m alt.) 石灰岩地帯  「木沢村に記録がある。」
<高知県>  「絶滅危惧I類」
   香美郡物部村(1,500m alt.) 徳島県境,石灰岩地帯
<福岡県>  「絶滅危惧I類」
   沖ノ島(大島村(120m alt.)  「県内では沖ノ島のみに見られる。ここが九州唯一の産地で,南限自生地である。」

仮に島根県のを作ってみた。
<島根県>  「絶滅危惧Ⅰ類」
   西ノ島町(高崎山 80~300m alt.),隠岐の島町 (大森島 70~150m alt.)

各県とも絶滅寸前の希少種という感じで,しかも跳びとびの隔離分布。とても本来の分布とは思えない。福岡県産のものに「沖ノ島は九州唯一の産地であり,地理分布上興味深い。おそらく氷期の遺存分布だろう」(矢原徹一 1992)というコメントがついていた。恐らくそうなのであろう。“遺存分布” とはかつて広く連続的に分布していたものが,部分的に孤立して残った場合を言う。寒地系の本種の場合,その原因は気候の温暖化と考えられる。

ただ,西日本から消えて行った原因が温暖化だとしても,前記6地点(隠岐を含め)だけで “生き残った”理由は,高山・石灰岩地・離島と一律ではなさそうである。特に不思議なのが「福岡県の沖ノ島と,隠岐の大森島(おおもり)」だ。北方のものが遺ることもある高山や石灰岩地ではなく,本土から遠く離れた小さな(周囲4km以下)孤島に過ぎない。

 2. 同定の根拠
隠岐に自生するイラクサ類は,今まで次の3種が知られていた。いずれも素手ではさわれない連中である。ムカゴイラクサはズボンの上からでも刺すので閉口する。
 イラクサ  Utrica thunbergiana
 ムカゴイラクサ Laportea bulbifera
 ミヤマイラクサ Laportea cuspidata
このうちムカゴイラクサとミヤマイラクサは明らかに違うものなので,問題はその辺に幾らでもある通常のイラクサとの区別である。

イラクサ属は “托葉が2か4か” で2つの節(Section)に分れる。検索表は『日本植物誌(大井次三郎 1978)』が最も丁寧な表現だった。
 A. 相対する葉の托葉がおのおの癒合し,全縁または先端が2浅裂する長楕円形または狭卵形の1片(各節に2個)となる。
    ------------- イラクサ U. thunbergiana
 A. 托葉は離生で癒合せず,披針形または広線形で,各節に4個ある。
    ------------- コバノイラクサ U. latevirens

托葉が4枚(片側2枚)であれば,それで「同定終り」にしてよさそうだが,やはり不安が残る。ぼ~っと見ただけでは,イラクサとどこが違うのか分らない。コバノイラクサが西日本では超稀産種であるだけに,托葉以外の形質で同定を補強しておきたくなる。

実は,イラクサも托葉が “全裂” して片側2枚になる場合がある。このことに触れている文献はないが,実際に経験して長い間悩んだ。ごく稀なケースであろうが「先祖返り」と思われる。そのような時は,同一群落の数多くの個体についてチェックするとよい。あるいは,その近辺の複数の株について。 “1枚・浅裂・深裂・全裂” ,各段階の変異が混じって見られるはずである。一方コバノイラクサの托葉(片側)は必ず2枚,そしてその2枚は離れて出て,形は細くて長い。

“必ず常に2枚で,その着点は離れている(写真参照)”,つまり1枚が2つに切れ込んだものではない。この事を知っていればイラクサと混同することはあり得ない。

注意点は,托葉が早落性である事。しばしばなくなっている場合がある。そういう時はよ~く見ること(ルーペがあればなお良い),托葉の落ちた跡(托葉痕)が白く2つ並んで見える。
   

コバノイラクサ苞

普通のイラクサでないことははっきりしたので,近縁のホソバイラクサ U. angustifolia (托葉4枚)についても触れておく。しかし,図版や写真で見ると一目で分るように葉形がはっきり違う。ホソバイラクサは葉が披針形に近く,先端が細く長く尖る。一方コバノイラクサは,卵形~広卵形で “披針形” の感は全然ない。

更に,葉柄が葉身の1/3以下と短いのもよい特徴。コバノイラクサの葉柄は細くて長く,葉身の1/2を軽く越える。変種ナガバイラクサ U. angustifolia var. sikokiana も知られているが,これは更に葉が細長く托葉も2枚(片側1枚)。

なお,ホソバイラクサも稀ではあるが(西日本では),点々と報告があり島根県の記録も一応ある。隠岐にある可能性はゼロではない。

 3. イラクサとの比較
普通種イラクサとは,托葉の数以外の差異はないと最初は思っていたが,全然そうではなかった。前記異形イラクサのお蔭で,両者は全く別の種で数多くの違いがあることを学ばされた。
  (I:イラクサ,K:コバノイラクサ)

(1) 茎の毛-----長く直角に出る刺毛とは別に。
I:  逆向する微毛を密生。----- ルーペが必要。肉眼では白っぽく見える。
K: ごく疎らな細毛。----- ほとんど見えない。

(2) 葉の鋸歯----- 一般に葉の形質はよく生長した大きいもので見ること。
I:  鋸歯と言うより欠刻に近くて大きい。通常不規則な重鋸歯になる。
K: きれいに揃った単鋸歯で,決して重鋸歯状にはならない。

(3) 葉基部----- 多少の変異はあるが。
I:  明瞭な心形----- 多くは深い心形だが稀に浅いのも混じる。
K: 切形~円形----- 切形~円形で,基本は心形ではない。
※ 写真のコバノイラクサは秋に出た葉で,あまり典型的な形ではない。
   
コバノイラクサ葉


(4) 雄花・雌花の位置----- 両種とも雌雄同株。
I:  雌花序が茎の上方につき,その下に雄花序がつく。
K: 雄花序が茎の上方につき,その下に雌花序がつく。

 ※ 確かにその通りであろうが,イラクサ科の雄雌や花の位置を過信するのは禁物である。雌雄同種であっても,しばしば雄花だけ雌花だけという個体が現れる。コバノイラクサの場合「稀に雌雄異株」と書いてある文献もある。そういうこともあるかもしれない。

以上の(1)~(4)は,同定時に傍証として使える。特に (1) は明瞭で確実。他には以下のような違いもある。

(5) 葉の大きさ・色
I:  コバノイラクサよりはっきり大きい。濃い緑で裏面は灰白色を帯びる。
K: 比べると確かに小さい。明るい緑で,表裏の色の差は少ない。

※ 栽培してみて気付いたのだが,春に出た葉は夏頃に枯れ落ちその後また新しい葉が出て来る。年内に葉が入れ替わる植物があるとは知らなかった!春の葉は大きくなるが,夏・秋に出た葉は小さい。道理で大きいのと小さいのがあったわけだ。これにも随分迷わされた。そして,葉の大きさや形は “春に出た大きな葉” で比べる必要がある。秋の小さな葉ではほとんど差が出ない。

(6) 花期----- コバノイラクサが早い。
I:  9~10月
K: 7~10月
  ※ 〔追記 2013.4.13〕 自宅栽培のもが雄花をぎっしりつけている(花粉の飛散はこれから)。今はまだ春なのに。近くにあるイラクサの方は花の兆候皆無。

(7) 環境
I:  山地にもあるが人里に多い。やや乾き気味の明るい場所も平気。
K: 深山の谷筋,渓流沿いの陰湿な林内に限る。しばしば群生する。

(8) 刺毛
I:  刺されると危険。激しく痛み,長い間痛みが引かない。
K: あまり怖くない。チクッとするがすぐ直る。

いくら貴重種でももう十分。気合いが入り過ぎてしまった。コバノイラクサも,こんな長い文章に書かれた経験は初めてであろう。しかし,これだけ違うものなのに最初見た時はさっぱり区別ができなかった。現地の観察では今一つ確実でない気がして,掘り帰って自宅の庭に植えてみた(イラクサと並べ)。時々眺めているだけで「何となくだが,ハッキリ違うものだ」という確信がやって来る。細かな分析は必要ないし,専門家のお墨付も要らない。

 4. 発見の経緯
もう30年も昔のことになるが,木村康信・野津大氏と共に大森島に渡ったことがある。その時に木村先生から「ちょっと変ったイラクサがあるような気がします。調べてみて下さい。」と教わった。イラクサなどには関心も知識もなかった頃の話である。

足元にそれらしいのがあったために出た言葉であるが,「耳々浦のことかな」とすぐに思った。高崎山南東の谷に大きな群落があって,通り抜けるのに難儀した経験があったからである。単なる普通のイラクサと思い込んでいたのだが,なるほど “葉が何となく小さい・沢筋・大群生” という点は,確かにイラクサ的ではない。

その後耳々浦のもので托葉4枚を確かめ,『隠岐の文化財』誌の “島前の植物目録”に名前を載せたことがある(1985)。「疑問が残る」というコメント付きで,注目種を表す○印も付けず。「あり得ないものがある」ことに自信が持てなかったのである。その後,半信半疑の状態が(比喩ではなく)続いていた。

長い宙ぶらりん状態を解消すべく,再び耳々浦の現地を訪れたのは昨年の5月のことである。事態は想像以上に深刻,群生地は跡形もなく消え失せていた。崖崩れ・地滑りで岩盤が露出,2007年の “豪雨災害” の惨禍である。植生が復活するには数十年はかかるであろう。近くの林内を捜しまわってようやく3株見付けたが,これがいつまで保つことやら。見通しは暗い。

北側の東国賀の断崖へ続く谷(大水谷)でも見ているが,これも2007年豪雨以前の確認である(2005.6.9)。その後の状況が気になるところだが,ここの調査は容易ではない。ロープがないと帰れなくなる心配がある。ここは,イネ科の稀産種アズマガヤ Asperella longe-aristata の産地でもある(隠岐唯一)。

残された場所は大森島しかないが,本当にあるんだろうか…と絶望的な気分だった。そして今年7月,オオミズナギドリの調査に同行して島へ上陸。林内に点々と現れたコバノイラクサを目にして,胸をなで下ろした。数千年生残って来たものが,そう簡単に消滅することはないのかもしれない。過去には天変地異もあったことであろう。

ただ,「簡単には絶滅しない」と言っても,人為的な干渉がないという前提が不可欠である。高崎山の産地も大森島も,人が行かず利用価値もない場所なので自然状態が保持されて来た。例えば,森林を伐採して牧場にしたら,すべての自然植生は即消滅する。せいぜい藪(ヤブ)が再生産されるだけ,永久に元へは戻らない。もちろん,そうなって嬉しい人はいないだろうと思う。

テーマ:自然科学 - ジャンル:学問・文化・芸術

プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Access Counter
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR