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コセイタカシケシダ 〔追記〕

〔前回〕の雑種親の推論が不十分なので補足したい。本品の包膜は “内曲” してるので,親は “平坦” 同士(平坦 × 平坦)ではあり得ない。ただ, “平坦 × 内曲” はあってもいいので,(2) で挙げた「平坦なので」は,この時点では理由になっていない。

ここは,相手方の(4) と(5) を先き取りした上での結論だった。(4) の3つの内シケシダ以外は “平坦” なので,もしムクゲシケシダを認めると “平坦” × “平坦” になってしまう。(1) ~(7) の順で推理が直線上に進んだわけではない。

(4) の残りの2種,フモトシケシダは隠岐で1株のみ,コヒロハシケシダは未見である。(6) のナチシケシダは近くにいくらでもあると思うので,可能性はゼロとはいえない。じゃあ正解はどうすれば分るのか?文献を捜してもありそうにない。胞子の観察も思いつくが 100%ではない。

後は「両親を並べて栽培し,雑種を作らせてみる」くらいしか思い浮ばないが,そこまでやる気はない。いやいや,植えておけば勝手に雑種ができるので面白そうだ。同一品ができれば誰も文句は言わないだろう。


なお,前記芹沢氏の論文に「この類はイノデやイヌワラビなどの類と異なり根茎が匍匐するので,雑種と推定される個体でも栄養的に繁殖して,大きな群落をつくっている事がある。場合によってはこのような個体のみが目につき,両親と推定されるものがあたりにほとんど見当らない事さえある。」という部分がある。

シダでは,「雑種があれば近くに両親あり」が常識である。雑種は有性生殖ができないので,単独では増えることはない(一代限り)。何故両親が「見当らない」のか不思議な気がした。以下は愚考の結果。

シダの根茎には,直立型・斜上型・横走型の3タイプがあるが,このうちの直立型や斜上型は「根茎を横に伸してどんどん増える」事をしないであろう(クサソテツなど例外はあるが)。日頃の観察でもポツンポツンと点在している。そうだとすれば,できた雑種個体はその後何十年生きたにしてもただ1株のまま。繁殖能力のある親が絶えて,少数派の「子だけが残る」とは考えにくい。親以上に絶滅しやすい事であろう。「子があれば親がある」は当然である。

ところが,シケシダ類のように地下茎を引いて繁殖するタイプ(横走型)は事情が異なる。環境が合えば親以上に広がり,“雑種強勢” でより繁栄する可能性だってある。環境の変化に対する耐性も親に劣らないはずである。子だけが生残っても不思議ではない。雑種ができた時には親は近くにあったはずなので,その後親だけが絶えたと考えるしかない。

奇しくもすぐ近くにその実例があった!世界で焼火山でしか見付かっていない,タクヒデンダ(オオエゾデンダ × オシャグジデンダ) Polypodium × takuhinum Shimura 。できたのは,片親オシャグジデンダが島前から消える以前の時代であろう。それから何1000年経ったことか。

ここまで書いた所で仰天の事実に気付いた。タクヒデンダの学名を確認するために “Flora of Japan (K. Iwatsuki, 1995)” を開いたら,分布が「北海道,本州(東北地方・北陸の一部・隠岐島)」となっている。これはビックリ,冷汗が出そうになった。

確かに両親がある場所ならタクヒデンダができても不思議ではない。むしろ隠岐だけというのが不自然である。胞子の熟期がずれていて雑種ができにくいとは言われていたが,北海道にはあって当然だろう。だけど北陸というのは何処なんだろう?今まで聞いたこともないし,北陸各県の植物誌でも見たことはない。

ついでにオオエゾデンダの新しい産地も知った。今まで知られていたのは,北海道・青森県(八戸市海岸部に点在)・鳥取県(羽合町の海蝕崖)・隠岐島,の4ヶ所。そこへ新たに岩手県が加わり,以下は『岩手県レッドデータブック』の記述。
  ※(注) 既に『岩手県植物誌(1970)』に記録があった事をその後知った。

「北海道、本州(北部、山陰地方)、北半球の温帯に広く分布する。本州では青森県、岩手県、鳥取県、島根県だけに記録がある。岩手県内では六角牛山と和賀岳で確認され、個体数は多くない。」


依然として “北陸の何処” かは分らない。オオエゾデンダもあることになっているのに,県のレッドデータブックに挙ってこないのは変だ。地元の人も知らないのか!


 【追記 2013.7.18】
今までの論理を読直してみたが,正しいかどうか今一つはっきりしない。少し別の観点からも考えてみた。

シケシダ類を,大きさによって次の 3つに区分する(ナチシケシダの小型タイプは除き)。
 (a) 小型: ホソバシケシダ・フモトシケシダ
 (b) 中型: シケシダ・ナチシケシダ
 (c) 大型: セイタカシケシダ・ムクゲシケシダ

(1) この雑種は “中型” なので,「小型×小型」と「大型×大型」は考えないことに
  する。
(2) 「中型×小型」はより小さく,「中型×大型」はより大きい,雑種ができるはず
  なので検討から外す。
(3) 「中型×中型」の雑種サツマシケシダは,葉身の概形や葉質がナチシケシダに
  近いという。しかし採集品は,羽片は直角に出て斜上気味ではなく,葉質も薄い。
  何よりも毛が多すぎる。
(4) よって,「大型×小型」の組合わせだけが残る。ムクゲシケシダが片親の・ホソバ
  ムクゲシケシダと・ムクゲフモトシケシダについては,和名のみで情報がない。
  考えない方がよさそうだ。
(5) セイタカシケシダ×フモトシケシダ(セイタカフモトシケシダ)は,「最下羽片は
  長く,下を向く傾向がある」という点で異なる。そんな傾向は見られない。
(6) セイタカシケシダ×ホソバシケシダ(コセイタカシケシダ)のみが残った。

 【追記 2017.7.15】
コセイタカシケシダで正解であった。『日本シダ植物標準図鑑』(海老原淳 2017)による。

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コセイタカシケシダ

Deparia conilii × D. dimorphophylla (ホソバシケシダ × セイタカシケシダ)

焼火山の登頂路,標高400mの辺りで大きな集団に出会った(2012.10.29)。
以下特殊な話で,シケシダ類に詳しい人にしか意味がなさそう。単に個人用のメモとして残す。

最初はセイタカシケシダ D. domorphylla を発見!と喜んでいた。
 (1) 胞子葉は高く “直立” して,はっきりと二形。
 (2) 葉には毛が密生,裏面は肉眼でも白く見える。葉肉部分にも毛が出る。
 (3) 葉柄や葉軸の鱗片や毛も明か。
 (4) しばしば包膜にも毛が生え,若い時には縁が内曲する。

どう見てもセイタカシケシダである。ただ,「シケシダ類で最大,シケシダよりはるかに大きい」という点に引っかかった。「大きい」という感じがあまりしない。胞子葉は確かにシケシダより高く聳え立ち,似ても似つかない姿。だけどセイタカシケシダとすると幅が足りないような…。特に栄養葉が小さく,二形が極端であることも気になる。

どの検索表をたどってみても疑う余地はない,だけどどうもスッキリしない。この鬱陶しい状況が続いていたが,ふと雑種の可能性に気付いた。実は,「雑種ではないかをまず確かめる」のが,シケシダ同定の常道なのだが。

胞子を検鏡してみたら,大きさも形もバラバラで不整。雑種に違いない。シケシダ類は難解・微妙である上に,雑種の情報はないに等しい。ほとんど当てものに近いが次の順序で考えた。

 (1) 多毛なことから,片一方の親はセイタカシケシダかムグゲシケシダである。
 (2) ムクゲシケシダは稀産種だし,包膜が平坦なので否定したい。
 (3) セイタカシケシダの雑種は5組記載されているが,不倫相手は誰なのか?
 (4) 怪しいのは,ホソバシケシダ・シケシダ・ナチシケシダの3種に限られる。
 (5) シケシダが相手の場合(ムサシシケシダ)は,毛が少なく葉が幅広いらしいので除く。
 (6) ナチシケシダが相手の場合(セイタカナチシケシダ),包膜はナチシケシダに似て平坦だという。
 (7) ホソバシケシダを選んだ理由は,以下の解説に惹かれたから。

「ホソバシケシダに比べ葉はずっと大形で多細胞毛や鱗片が多く,セイタカシケシダに比べ小形で,春先の裸葉もあまり幅広くない。」(芹沢俊介 1973)。

初めて出会うのが雑種とは不運だった。雑種オオサトメシダの次にその親サトメシダを見付けた,という先例はあるが,シケシダ類の場合近くに両親があるとは限らないらしい。それでも来年は,付近を捜しまわることにしよう。

            [⇒ 追記]

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隠岐のサクラ

サクラ(桜)とはバラ科サクラ亜科,サクラ属 Cerasus のサクラ亜属のことであるが,花を見れば誰でも一目で分る。「サクラだ」と。対象をいわゆる “山桜”に限定し,植栽品や園芸種は一切考えないことにする 。隠岐に自生しているのは以下の4種で,島根県下でもこれ以外のものは確認されていない。その他の野生種が今後見付かったとしても,それは皆特殊なものなので同定に困ることはないであろう。

はるか昔にこの4つを同定・認識はしていたのだが,満足できる内容ではない。目の前の任意の1本を何だと聞かれ,確信を持って答える自信がない。隠岐での分布についても「ほとんどがヤマザクラだろう」などと考えていた。

70歳にしてこれでは具合が悪いので,今年になってからまじめに山桜を見て歩いた。わずか一年間の観察なので今後これを精密化して行きたい。特に分布についてはまだ十分把握できていない。

(1) エドヒガン C. spachiana
全国的にも余り多いものではないらしいが隠岐でもごく稀。大満寺山と焼火山でわずか数本を確認したに過ぎない。

花期が一足早く,花は小振りでピンク色を帯び上品,満開時にも葉はほとんど伸び出さない。葉は細長くて他の種とははっきり異なる。樹皮もいわゆる “サクラ肌” にはならず特異。実物が見たい時は,公園などに植えられるシダレザクラがそうである。枝垂れる以外の差はない。

(2) ヤマザクラ C. jamasakura
西日本では最も普通なサクラのはずだが,隠岐では少々事情が異なる。知夫(知夫里島)と島後には確かにある。しかし一年だけの調査とはいえ「西ノ島:1本,海士(中ノ島):0本」という少なさである。

葉が細長く,長楕円~紡錘形。次の2種は「長い」という感じはない。花は基本的に“白” 。“桜色 ” という形容は,栽培種ソメイヨシノに相応しい。花と同時に出る赤味の強い若葉がよく目立つ。

(3) カスミザクラ C. leveilleana
ヤマザクラとは逆に冷涼な地域のもので,山の標高で言えば「ヤマザクラ < カスミザクラ < オオヤマザクラ」の順で出現するという。しかし隠岐では全く当てにならない。現に海士では本種以外のものを見たことがない。海岸・道路際・山地,すべてこれである。他の島では,島後の山地で普通に見られる。

花期が遅いのが特徴でソメイヨシノより一週間以上遅れる。花は通常純白,同時に開く新葉は緑~茶褐色で華やかさに欠ける。地味な沈んだ印象で,庭に植えてみようかという気にはならないかもしれない。

(4) オオヤマザクラ C. sargentii
本来,北海道と本州中部以北のサクラで(別名エゾヤマザクラ),西日本では高山のものである。県下では中国山地に稀に見られるということで,レッドデータブックで “準絶滅危惧” の指定。しかし,西ノ島のサクラはほとんど全部本種だった!他の島では未だ確認していないが,島後にはあるはずである。

花は大きく紅色が強い(別名:ベニヤマザクラ)。昔から「西ノ島のサクラは紅く,海士のは青白く」見えるのが不思議だった。葉は幅広でふっくらとして円い感じ。今までの印象では,他の2種より葉が大きい。


 【同定のために】
サクラの分類は非常に難しいと言われている。各分類形質に変化が多く,これといった決め手を欠く。複数の特徴をチェックして “総合的に” 判断することが不可欠である。

専門家でも同定不能の中間型も出現することがあり,これは “雑種” であると推定されている。一瞬で特定できるほど特徴の顕著な個体がある反面,その種の特性の弱いぼやけた個体も出て来る。やはり交雑起源の遺伝子の混じり合いが原因ではないかと思われる。昆虫や鳥は種を選ばず,でたらめに花粉を着けてまわっていると思うし。

しかし葉については,初期に戸惑うのは個体差よりも一個体内の変化である。つまり,同一の樹に色々な形の葉が着く。そのため「種の特徴がよく出ている葉を見極める」作業が重要になってくる。

学者が嘆くほど難しいものなら,素人には無理だろうと思ってしまうが,恐れることはない。数多く観察して経験を積めば,段々判って来る。努力は報われるのである。慣れて来ると,葉を数枚見れば(葉形と鋸歯)正解が出せるようになって痛快この上ない。なお,葉は “短枝” についているものに注目。典型的な特徴が表れやすい。

 〔エドヒガン
1. 花柄・小花柄が有毛で萼裂片は鋸歯縁。
2. 葉柄に斜上毛が密生,蜜腺は葉身基部にある(葉柄ではなく)。
3. 萼筒の下部が球形に膨らみ,上部が強くくびれた壷形。

 ※ どれかの条件を一つでも満たせば十分。エドヒガンは簡単なので以下忘れてよい。問題は残り3種の区別である。 “◎” 印はその種だけで他の2種にはない特徴。

 〔ヤマザクラ
(a) 葉の鋸歯は鋭く尖り,細かくて大きさが揃う。先端は上方に “伏し” 勝ちで,余り目立たない。
(b) 葉は葉身の最大幅がほぼ中央にある “長楕円形” 。基部は “くさび形” ~円形。
(c) 成葉(夏以降の成長した葉)の裏面は粉白色。

(d) 花序は,花柄(±1cm)のある “散房状” 。
(e) 花芽の芽麟は粘らない。花の時期に花柄基部の鱗片をつまんでみる。
(f) ◎冬芽の芽鱗の先はやや外へ開く(隙間ができる)。 “頂芽” を秋以降にルーペで見る。

 〔カスミザクラ
(a) 葉の鋸歯は三角形状で粗く,“開出” してよく目立つ。葉の中部以下では急に小さく低くなる。
(b) 葉は最大幅が先端近くにある “倒卵状” で葉先は突出。基部は “鈍形” ~やや心形。
(c) ◎成葉裏面は淡い緑色で光沢がある。白味はない。

(d) 花序は散房状でヤマザクラと同じ。
(e) 花芽の芽麟は粘らない。
(f) 冬芽の芽鱗はピッタリくっ着いて開かない。

 ※ 実は本種の最もよい特徴は「葉柄・花柄や葉の上面に毛が多い」ことで,忘れてはならない観察ポイントである(ルーペがあった方がよい)。ただ,これを決め手にはできない。毛のないカスミザクラや毛のあるヤマザクラ(ウスゲヤマザクラ f. pubescens)が時々あるので。ウスゲヤマザクラなるものは本当に迷惑だが,普通に出くわすようなものではないと思う。

 〔オオヤマザクラ
(a) 葉の鋸歯はカスミザクラに似ているが,葉の中部付近でも上部と同形の鋸歯が続く。
(b) 葉は最大幅がほぼ中央にある“幅広い楕円形” で円みがある。基部は円形・切形・ “心形” 。
(c) 成葉の裏面はやや白味を帯びる。

(d) ◎花序はほとんど花柄のない “散形状” 。
(e) ◎花芽の芽麟は粘る。花時に抓んで見ると粘つく。
(f) 芽麟はカスミザクラ同様ピッタリ重なって隙間ができない。

 〔雑種
(a) A・B異なる2種の特徴を併せ持つ。つまり,1形質がAで,他の形質はBに一致。
(b) ある形質がAとBのいずれでもなく,その中間。

 ※ サクラは比較的雑種ができやすいと言われている。雑種と思われるもの(ヤマザクラ×カスミザクラ)に時に出くわすが,個体数は多くない。繁殖力がない(種子が発芽成長しない)のだろう。和名もないくらいなのであまり気にしない方がよい。無理してどちらかにしてしまわないよう。

ついでに,最近植栽が増えてきたオオシマザクラについて。1. 葉は巨大で,2. 鋸歯の先が針状に伸び出す。3. 萼裂片に鋸歯が明か。4. 開花時の新葉は鮮やかな緑色で他種とはっきり違って見える。

ちなみに,ソメイヨシノは “毛” が決め手。萼と花柄・若枝(先端部)・冬芽(鱗片),に短毛が密にある。葉柄には疎らな斜上毛。更に言えば,萼裂片の鋸歯が著しい。隠岐の野生種はエドヒガンを除き,萼裂片は全縁(カスミザクラで時に少数の低い鋸歯)。

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Ipomoea fimbriosepala Choisy

イポモエア フィンブリオセパラ,和名は未だない。和名のない顕花植物に出会うのは初めての経験。ヒルガオ科サツマイモ属。草姿は,最近時々目にするようになったグンバイヒルガオに似ている。サツマイモと同様の熱帯植物で,やはりピンク色のよく似た花が咲くらしい。
   【追記 2013】 長崎大学の中西弘樹教授による仮称は, ヒレガクアサガオ。

ちなみに,サツマイモもごく稀には花を着けるようで,年配の人に聞くと知っていることが多い。自分も子供の時に「上の畑で薯の花が咲いたわ」と祖母が教えてくれたが,見に行かずに終った。その頃は植物への関心はなかったようだ。

今年の9月11日,知夫村島津島の小浜(こばま)という入江で発見。砂利の浜辺に大きな株が2つ広がっていた。花が咲いてないので同定に苦労すると思われたが,他の地域での発見例(島根半島の鹿島町・美保関町 2011,新潟県柏崎市 2012)があって助かった。他には,能登半島(2007),長崎・対馬・天草(2011)の記録がある。九州では2004年頃には気付かれていたそうである。

非常に情報の少ない種で,まともな文献は『中国植物誌(Flora of China)』が唯一かもしれない。WEB上のデータもすべてここからの引き写しである。タイプ産地は東アフリカのマダガスカル島。中国(福建省、浙江省、広東省)・ニューギニア・太平洋諸島・メキシコ・南米などに分布するという。

分布で不思議なのは,台湾や沖縄に自生しないことである。そこから徐々に北へ上がってくるのが,南方系のものの分布拡大順序なのだが。いきなり日本海沿岸にポツンポツンとは!もちろん,対馬海流に乗ってはるばるやって来た自然分布で,いわゆる “帰化植物” ではない。

未知の植物に出会った場合,同定作業が最も重要であるが,本種は著しい特徴があって確実な同定ができる。
 (1) 萼片の稜に歯牙があってギザギザしており,中国名はそのものずばりの “萼歯薯” 。
 (2) 葉柄にはいぼ状の刺が散在,
 (3) 蔓には開出する剛毛が生える。しかも,毛のある部分とない部分があるという,奇妙な特徴がある。
花を見ていないが同定には不安を感じない。もちろん『中国植物誌』の記載に全面依拠した。日本の専門家も同じ見解である。

10月20日島津島へ。花が咲いていることを確信して,カメラを持って勇んで出かけた(島根半島や能登半島もこの頃に開花)。ところが浜に下りて茫然,跡形もなく消えてしまっていた。枯葉の欠けらもない。前回見た時から1ヶ月ちょっと,根こそぎ流されるような時化もなかったのに。

諦めきれずに,何故だろうと大分うろうろ歩いた。ふと気が付いたら,牛の親子が2組ぽかんとこちらを見守っている(島は放牧地)。好奇心が強いのか,退屈していたのか?私の後を追って浜に出て来たらしい。そうか!この連中が犯人に違いない。何食わぬ顔をしているが,近くに乾いた糞だって残っている。

そう言えば,サツマイモの蔓は牛の大好物であった。牛の干草に, “いもづる” をあちこちに引っかけてある光景はよく目にしたものだ。それどころか,サツマイモの葉柄は人間も食べていた。なかなかのご馳走であったことを思い出す。

種子が稔る前に食べ尽したかもしれない。だとすれば,一年草だと思うので来年の見通しは暗い。強敵が現れたものである。とにかく来年早い時期に再訪して,芽生えがあれば何か対策を講じたい。牛の来られない場所へ移植という方法もあろうが,浜辺への出口に10mほど鉄条網を張るのがよさそうだ。

帰り道で偶然知夫村の教育長に出会った。事情を話して「牛は海岸には用事がないですよね」に同意していただいた。もし生えて来ないようだったら,何年か待つしかない。今後の日本での,あるいは隠岐での定着の推移が興味深い。

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隠岐のハギ類 Ⅱ.

ハギ類(ハギ属 Lespedeza ヤマハギ亜属)の分類は厄介だと感じて来たし,世間でもそのように言われている。しかし地域を隠岐に限定すれば,そんなに恐くはない。何よりも,「難しい,分らない」と思っていると志気も鈍ってしまう。

そもそも,島根県で記録があるのは次の4種に限られる。わずか4つのうちのどれかなので,何とかなりそうな気もするがなかなかそうは行かない。例えば,何処にでもあるヤマハギが本当にヤマハギかどうかを確かめるのも,独力では容易ではなく,初心者には不可能に近い。知っている人に聞けば一瞬で分るわけだが…。

 ヤマハギ  L. bicolor
 ツクシハギ L. homoloba
 ニシキハギ L. japonica var. formosa
 マルバハギ L. cyrtobotrya

ハギが分りにくい原因は,分類形質が変化して他種との区別が曖昧になることである。つまり同一種内での変異の幅が広い。従って,初めは標準的な型に限って,それについての確実な把握を目指すべきである。どっちつかずの中途半端なのが出て来たら,一時棚上げでこだわらないことにして。最初から何もかも分ろうとするのは挫折のもと。難しい種にはペンディングが有効な手段である。

見掛けでは,特にヤマハギの若い株に注意。葉が大きくなって濃緑,花序も大形で花付きよく,うんっ?と思うことがよくある。


 (1) ヤマハギ
隠岐の自生種はほとんど全て本種である。何しろ島後の西半分以外では,他のものを見たことがない。隠岐では,何も考えずにヤマハギと言っておけば正解になる。

そこらの目の前に沢山あるのがヤマハギ。ただし,島後の西半分(加茂~都万~五箇)では目の前はツクシハギになる。乱暴に言えば同定不要ということだ。

ハギの同定には通常「萼裂片(萼歯)の尖り方」を使う。本種は『鈍頭~鋭頭』で “円頭” と “尖鋭頭” の中間ということになる。言葉では分りにくいので,実際に実物を数多く見る必要があるが,イライラすること必定である。それほど変化が多い。生長段階によっても違って見える(花~果実)。

比較的安定していて分り易いのは,「旗弁(上側の花びら)の基部のくびれ方」である。旗弁の下部の両側が折れ曲って耳状の突起ができるのだが,これが『半月形で長く,折れ目は直線的でくびれない』。

 (2) ツクシハギ
島後の西側沿岸部では,まだツクシハギ以外のものを確認できていない。逆に,他の地域では本種を見たことがない。綺麗に住み分けができており不思議な気がする。この種を知るには,何はさておき島後西部に出向くことである。

萼歯は『円鈍で幅広』,尖る感じは少なく長さも短い。旗弁下部の耳状突起は『腎臓形で大きく,基部は激しくくびれる。』。両側の耳がくっついて重なることが多い。

更に,花があってもなくても使える最有力な特徴は,『小葉の表面が無毛,裏面に微細な圧毛が密生』。他種の葉の表面には多少とも毛がある。ただしハギ類の毛は落ちやすいので新葉で見ること。

本種の裏面の毛は宿存性(いつまでも残る)だが,10倍ルーペでもやっと見える程度。うっかりすると見落すほどで,それがユニークな特徴となっている。そして,これらの「葉の毛」判定法は曖昧さがなくて万能です。

他にも,「花が白っぽい,葉の質が厚く硬い,上側の萼歯の切れ込みが深く萼が5裂に見える」など,状況証拠は色々あるが,変化があって常にそうとは言えないので最初はこだわらない方がよい。

 (3) ニシキハギ
島後の新しい道路の道端で,時々見かけるようになって来た。道路工事に伴って最近入って来たものに違いない(国内帰化)。

『萼歯は細長く尖り,萼歯は萼筒よりも長く伸びる』,これがまず第一のポイントだが,『はっきり木本で,茎は冬にも枯れ込まない』も分り易い。姿は他種よりもごつい(高く大きい)感じがする。

そして,『葉の表面に圧毛が密生,永存性で落ちない』が一番確実な判定法。成葉の表面(上面)をルーペで見れば絶対に解決する。

 (4) マルバハギ
一応隠岐の記録はあるがまだ発見できていない。単に「丸葉」という程度の理解で,あるいは?と思ったことは何度かあるが…。

花序(花房)が短くかたまってつくのが特徴とされる。ハギ類は葉腋から花序が出るが,『その葉よりも高くは抜け出ない』。

自信が持てなければ,『萼歯は鋭く尖り,先端が針状』を確かめれば完全。萼歯の先端が針になるものは他にない。

他には,花冠の『竜骨弁(下側)が翼弁(両側)より短い』という特異な特徴もあるらしい。

 (5) ミヤギノハギ
人家の庭などの栽培種なので参考までに。逃出さないようだ。如何にも園芸品種という雰囲気がある。

隠岐としては他に,キハギ L. buergeri ,ケハギ L. thunbergii ssp. patens ,2種の可能性もゼロではない。しかしそれらは事件なので,妙なものを見付けた時に大騒ぎすればよい。

         [⇒ 隠岐のハギ類 Ⅰ.]

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隠岐のハギ類 Ⅰ.

Ⅰは自分で同定したい人のため。名前さえ分ればそれで十分という横着な向きはⅡを。しかし,答を見ないで自力で正解に達する方がスリルがある。犯人が分っている推理小説を読んでもつまらない。

しかも次の検索表は伝家の宝刀,これを使えば必ず結果が出せます。各種図鑑で挫折して来た人も。

【検索表 ハギ属ヤマハギ亜属】 (自家用)
 ※ 隠岐にあり得ないものは省略。島根県に記録のあるものは全て含まれている。

A.花は淡い黄色で紫斑がある。低木 ---------- キハギ
A.花は普通紅紫色。半低木~ほとんど多年草。
 B.花序は基部の葉より短い。萼裂片は先端が針状となる -------- マルバハギ
 B.花序の多くは基部の葉より長い。萼裂片は膜質で先は針状にならない。
  C.成葉の表面(上面)に一面に細かい圧毛がある(永存性) ----- ニシキハギ
  C.葉の表面に若い時に軟毛があっても,成葉では脱落して,まばら~無毛。
   D.萼裂片は円~鈍頭。旗弁の基部は急に細くなる。葉の上面は幼時から
    無毛。成葉の裏面に宿存性の微細な毛が密生(ルーペでやっと見える)
             ----------- ツクシハギ
   D.萼裂片は鈍~鋭頭。旗弁の基部は漸先形。葉の上面は幼時には多少とも
     有毛。成葉の裏面の圧毛はより長めでやや粗(ルーペで明か) -- ヤマハギ
   D.萼裂片は細長くて(筒部の約2倍長)鋭く尖り,強い1脈がある。葉の上面は
     無毛      ---------- ミヤギノハギ・(野生なら)ケハギ

   ※ 注釈
  ・半低木: 冬季に幹が大きく枯れ込む。
  ・基部の葉: ハギ類は葉腋から花序が出るが,その部分の葉(3小葉から
   なる)。
  ・成葉: 十分生長した葉。
  ・旗弁の基部: 上側の花弁を引っこ抜いて見る。
  ・急に細くなる: (花弁が内曲した)耳状突起の所で激しくくびれ,爪部が明か
   (柄がある感じ)。
  ・漸先形: 三角形状に直線的に細くなり,くびれがない。
  ・ルーペでやっと見える: ×10 程度のルーペで,うっかりすると見逃すような
   短毛!
(1/4mm以下)。
  ・萼裂片の尖り方は微妙なこともある。成葉葉面の毛の状態で判断するのが最も
   確実。ただし,ニシキハギは表面でツクシハギは裏面。 丁寧に慎重に見る
   こと。光を当てる方向を色々変えて。

         [⇒ 隠岐のハギ類 Ⅱ.]
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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