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 シウリザクラ Padus ssiori

長い間探していたシウリザクラの成木を発見。植物仲間に書いたメールを,そのまま掲載することにした。昨年見付けたのは幼木(1.5m)で,樹肌はサクラそっくり。葉も似ていたので,必死になって “サクラではない” ことを確かめている。

----<2012.5.7>-----------------------------
エライことが起りました。幻のシウリザクラの発見です!杉村さんはレッドデータブックで「隠岐に分布の記録があるが,現状は不明」と書いています。捜したはずですが諦めたんでしょう。私ももちろん諦めていました。岡国夫さんの報告文を明日捜し出します。記憶では「鷲ヶ峰に老木が1本だけ残っていた」ような…。

代表として保育社図鑑の分布記載を転記します。他の図鑑にも,わざわざ「隠岐島」が明記されていますが,あまりにも異常だからでしょう。根拠はもちろん,京大にある1点の標本のみです。今まで岡さん以外に実物を見た人はいないと思います。奥様の運転によるルート変更が当りましたね。今まで “神原高原” の見方が足りないと思っていたら,案の定でした。

『温帯上部:本州(隠岐島,中部以北)・北海道・南千島・樺太・中国東北部・ウスリー。シウリはアイヌ名である。北海道には普通にあるが,本州では少ない。』

花が咲けば見る聞くなしなんですが,葉だけでもハッキリ同定できます。詳細は追って報告しますが,細かな特徴がことごとく一致します。1点の疑いもありません。若木があるということは,繁殖もしているんですね。

嘘のような本当の話です。今日弁当を食べながら,「最近,隠岐はやはり特別な地域だと思い始めた」と述懐したのを思い出しました。

----<2012.5.8>-----------------------------
シウリザクラ Padus ssiori の続きです。シウリザクラの葉っぱを征服しました。花や果実が得られない時の同定に役立つでしょう。

6月(花期)にもう一度歩いてみて,他に見付からないようだったら,「伐るな」という意味の立札でも考えた方がよさそうです。遊歩道際ですので簡単に伐られます。刈払機で刈られること必至です。本種をむざむざ消滅させるようなことになると,非常に後味が悪いです。罰も当るかも…。

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 Ⅰ。同定
家に帰り着いたら,タイミングよく『サクラ ハンドブック』(大原隆明 2009,文一総合出版 ¥1,200)が届いていた。氏は富山県中央植物園主任,サクラ属の分類に詳しい。本書の「サクラ」とは普通に言う「桜」,つまり「バラ科>サクラ亜科>サクラ属>サクラ亜属>サクラ節」に限る。つまりヤマザクラ類のこと。今は野生種だけを考えればよいので,わずか25ページを読めば足りる。

葉は「短枝につく上から2番目の葉を見る」べしという注意があった。変異が少なく特徴がよく出ていることが多いという。さすが専門家!こんな丁寧な解説を初めて読んだ。

葉縁の鋸歯のスキャン画像も見事。実物を見ているのと変らず,ペンによる従来の図を越える時代が来た。「種類を調べる上で最も重要な部分。葉上部の最も丸みがある部分の鋸歯の形や向き,先端の伸び方に注目。」とあって,他の図鑑類の文章とは一線を画している。鋸歯を最重視したのは,葉形(全体や基部)に比べ変異が少ないからである。卓見であろう。自分も同意できる。

 (1) 鋸歯
そういうわけで,まずスキャン画像を1枚ずつ見て行った。今春自分で観察した結果を再確認することになったが,どれともハッキリ異なる。オオシマザクラに一番近いが,オオシマザクラは鋸歯の先端が針状に尖っている。これは本物が自宅近くに植栽されているので,間違えようがない。

後で気付いたことだが,鋸歯が芒状にハッキリ伸びて先端に微小な腺。しかもその芒状部分が微妙によれて反るような感じは独特で何とも言えない。他に似たものがないという気がする。高度に感覚的な把握だが,この部分だけでも同定できそうである。

 (2) 脈腋の毛
鋸歯の感じがどうも違うので,サクラ節ではないかもしれないと思い始めた。そうするとウワミズザクラ属だが,イヌザクラは既知種で葉の形が全く別。ウワミズザクラかもしれない?が問題になる。シウリザクラの葉の特徴を調べてみたら「下面の側脈の腋に毛がかたまって生える」のがポイントらしい。「淡褐色の毛」となっている文献もあるのだが,そんなものは見えない。「こりゃ駄目だは…」と思い,他の特徴を当ることにした。

結局最後には気付いたのだが,毛は確かにあった!主脈から側脈が分れる付け根の所(そこだけ)に,白い毛がかたまって生えていた。手許に高性能の実体顕微鏡が鎮座している効果である。毛は稀に無い事もあるようだが,この毛を確認できれば同定終了としてよさそうだ。毛が色付いていないのは若葉だからであろう。

 (3) 葉基部の凹入
現地で気になって仕方がなかったことである。葉の基部がほとんど例外なく,明瞭に切れ込んでいる。サクラ節で葉柄の付着点がハート型にくぼむ(心形)のは,カスミザクラとオオヤマザクラであるが,「多少とも心形の葉が混ざる」という程度で,こんなに深くは切れ込むことは断じてない。

この切れ込み部分,何だかエロい感じがして忘れそうにない。この凹入と脈腋の毛の2点で本種であることを確信した。

 (4) 葉形
現地でどうも変だと感じたのは,葉が長楕円形を思わせる点にもあった。今ままで見て来たものはサクラ節,卵状・倒卵状・披針形を混ぜたような型しかなく,「長~い楕円」を感じたことはなかった。

 (5) 葉質
成葉ではないという前提ではあるが,葉がやや柔らかく皺が寄りやすい感じで,しわくちゃ感がある。葉脈の裏面への隆起もサクラに比べよく目立つ(細脈までも)。葉柄が濃い赤味を帯びるのも一つの特徴のようだ。

花が無いために,葉を徹底的に観察することになった。成木でなかったことも幸いした。成木の樹皮は全然サクラ肌ではないという。もし簡単に同定できていたら,ここまで葉にかかずらうことはなかったに違いない。

 Ⅱ。分布
『原色日本林業樹木図鑑』(倉田悟,1971)によると,中部地方の西限は長野県で岐阜県境付近の山地帯,南限は神奈川県の丹沢山地になる(神奈川と東京で絶滅危惧種)。各県の植物誌を見たら,標本産地はすべて標高 1,200m以上の高山であった。日本海側の富山・石川・福井各県には産しない。もちろん,隠岐は突出した西限自生地である。

 Ⅲ。隠岐の記録
岡国夫氏の報告『隠岐の植物』(北陸の植物 Vol.16 No.2,1968)を転記。今から40年以上前の記事である。

「 シウリザクラは布施村鷲ヶ峯の頂上に近い海抜約500mの林中に少数混生している。大きいもので直径10cm程度である。本種は元来,本州中部,日光山彙以北,北海道,千島,満州(大井:日本植物誌)に分布することになっていたもので,著しい北方系の植物を更に加えたことになる。
 総状花序をなすウワミズザクラ亜属のうち,常緑の2種を除き,中国地方としては,ウワミズザクラ,シウリザクラ,イヌザクラの3種となる。このうち,ウワミズザクラは日本列島に広く,かつ多量に産しながら隠岐には従来全く記録がなく,筆者も一本も見だし得なかった。これに対し,中国地方の本土には見られない北方系または大陸系のシウリザクラの方を隠岐に産することは注目すべきで,これはやはり,この群島成立の歴史とウワミズザクラ亜属の系統との関連において考究すべき今後の課題であろう。」

岡氏の採集以前も以後も記録は全くなかったが,2012.5.7 丹後亜興・野津大両名が再発見した。幼木1株で,場所は布施地区中谷の神原高原(420m alt.,36゜16'17"N,133゜19'36"E)。

----<2013.4.27>-----------------------------
直径15cm,高さ8mの成木を,ついに見付けました!樹肌はサクラとは似ても似つかないものです。ハシドイ Syringa reticulata が並んで立っていましたが,こちらの方がサクラ肌です(むしろモモ肌,ただし太い樹幹はやはり変化)。双眼鏡による若葉の確認のみですが間違いはありません。ひょろひょろと高い木で,猿でない限り枝には手が届きません。証拠が欲しければ花の時期(6月中旬)に写真も撮れます。私は葉っぱが1枚あれば同定できますので,台風の直後,或は晩秋の黄落季も “あり” です。

林床は,ニシノヤマタイミンガサ・ルイヨウボタン・ミチノクエンゴサク,錚々たるメンバーの群生地です。歩道の直ぐ近くなので却って盲点になっているのかもしれません。こんなに大量のルイヨウボタンを初めて見ました。

ちょっと公開したくない場所だな,と思いました。踏んだら終りです。高崎山での苦い経験があります。私(一人ですが)の歩いた踏み跡が数年残ったのです。何十年も人が入ったことのない場所,人に踏まれた経験のない植生なので,影響が出るのは当然です。植物達も人に踏まれてさぞ驚いたことでしょう。

なお,昔岡国夫さんが発見(複数本)した場所はここではないようです。残っていればもっと老木になっているはずですし,標高も違います。私は以前,屏風岩の近くと思って双眼鏡で上から眺めたことがあります。しかし今回気付いたのですが,必ずしも花の時期に探すのが最良とは言えません。他の木々も葉を茂らせているので, “見える” とは限らないのです。ヘリコプターではないし。

今の時季はまだ多くの木々が新葉を広げていません。 紅味の強い葉をいち早く展げるシウリザクラはよく目立ちます(ただし展開し終ると紅味が消えるので要注意!)。今日も前回の幼木の近くをぐるりと見廻して,「アーあれだ!」と直ぐに気付きました。そして,今日のところは “1本” だけということも。幼木ならもう一本ありました。繁殖していることは確実ですね。

 オカウコギ Eleutherococcus spinosus var. japonicus

オカウコギ,ヤマウコギ E. spinosus var. spinosus ,ウラゲウコギ E. spinosus var. nikaianus ,この3つの区別は難しいと言われている。3変種とも隠岐には過去の記録があるが,本当なんだろうか?

今まで葉の形だけで何となく判断してきたので,詳しく観察してみることにした。ただ,まだ若葉の状態で時季がよくない。成葉や花序を調べるための予習の積りである。

代表的な “検索表” を複数抄出したが,重視する形質やその表現に微妙な差があって興味深い。検索表間で多少の矛盾もある。それだけ変異が多いのかもしれない。

稀なことではあろうが,検索表から僅かに外れる変異型の存在はあり得る。つまり,どの検索表も絶対ではない可能性がある。できる限り多く複数の特徴を使って判断すること。

   (1) 原色日本植物図鑑(村田源 1971)
 1.小葉は長さ3-7cm,幅1.5-4cm,鋸歯は低くて内曲,重鋸歯にはならない。
   脈は下面に隆起しない ------------------------- ヤマウコギ
 1.小葉は長さ1.5-4cm,幅0.7-2cm,ややくさび状で,鋸歯は若木では
   欠刻様重鋸歯となる。脈は多少下面に隆起する
  2.葉は脈上に少数の毛状突起はあっても毛はない ----- オカウコギ
  2.葉は脈上に少数の毛状突起がある他に毛がある ----- ウラゲウコギ

 ・・・ “欠刻様” がポイント。鋸歯がはっきり(深く)切れ込む。更に,小葉の大きさにも差がある!
“突起はあっても毛はない” , “突起がある他に毛がある” ,この部分に感動。意味がはっきり分る。

   (2) 日本の野生植物(山崎敬 1989)
 1.高さ2-4m。葉は大きく,小葉は長さ3-7cm,幅1.5-4cm,鋸歯は低く,
   先は内曲し,重鋸歯にはならない ------------------- ヤマウコギ
 1.高さ0.7-1m。葉は小さく,小葉は長さ1.5-3cm,幅1-1.5cm,縁には
   しばしば重鋸歯ができる -------------------------- オカウコギ
   (変種)ウラゲウコギ: 葉の両面にあらい毛が散生する。

 ・・・樹高の比較が新鮮。確かに背丈を越えるものには1度しか出会っていない。これはヤマウコギの可能性もあるのでもう一度見に行くことにしよう。

   (3) 日本植物誌(大井次三郎 1978)
 1.葉は下面に毛がない
  2.小葉はやや小形であって,長さ2.5-4cm,草質で,円頭,基部が長く楔形
    に細くなり,側脈および小脈は下面がやや顕著であって,少し隆起する
             ----------------------------------- オカウコギ
  2.小葉は長さ3-7cm,膜質,鋭頭または鈍頭,側脈は隆起しない
            ------------------------------------ ヤマウコギ
 1.葉は下面に硬い短毛があり,脈は隆起しない ---------- ウラゲウコギ

 ・・・確かに葉脈の裏面への突出ははっきり感じられる。主脈だけでなく “側脈も” である。

   (4) 神奈川県植物誌2001(長谷川義人)
 1.葉の上面脈上に立毛がある。小葉は小型で同大。小葉は先端部に欠刻状粗鋸歯があり,基部はえぐれるようなくさび形。下面脈腋の膜状物は発達せず繊毛はやや露出する。散形花序の小花柄は長さ5~8mm
                           ---------------- オカウコギ
 1.葉の上面に毛がない。小葉5枚のうち中央の1枚はほかより大きく不同大。小葉は上半部に低平な鈍鋸歯があり,基部はくさび形。下面脈腋の膜状物は目立ち繊毛は内蔵され,ダニ室をつくる。散形花序の小花柄は長さ8~12mm
                           ---------------- ヤマウコギ

 ・・・ “立毛” となっているが刺状の突起のことであろう。葉先に向って斜めに出る。特に主脈の基部では著しい。 “薄膜”の有無も重要な区別点。 “ダニ室” が必ずあるなら最も簡明。本書の付図によると,オカウコギの鋸歯に極めて変化が多い。

   (5) 千葉県植物誌(大場達之 2003)
 1.高さ1~3m。小葉は長さ3~7cmでやや厚く,黄色みがかった緑色で内側に曲った低い鋸歯があるが,若枝では重鋸歯状になることがある。葉の下面の脈腋に膜があって下に毛が見える。葉柄の先端に刺針があるか,あるいは全く刺針はない。小花柄は長さ8~12mm
              --------------------------- ヤマウコギ
 1.高さ50cm内外。小葉は長さ1.5~4cmで濃い緑色,鋸歯は細かいが外向きではっきりしており,少なくとも一部の葉は重鋸歯状になる。葉柄は中間にも刺針がある。葉の下面の脈腋の膜は目立たない。小花柄は3~4mm
              --------------------------- オカウコギ

 ・・・高さ50cm内外,確かに!専ら地上を這い回っているものもある。しかし,1mを越えるものも稀ではない。 “脈腋の膜” はいくら捜しても見えなかった。膜がないことも特徴の一つであろう。葉質・色の対照は非常に面白い。

   ★ 自家用(試作)
 1.小葉上面の脈上に剛毛状の小さな刺が散生する ------ オカウコギ
 1.脈上に剛毛状突起はない
  2.小葉の先端部に,はっきり切れ込んだ鋸歯が出る
   3. 葉は両面とも毛はない(脈上以外) -------------- オカウコギ
   3. 葉の両面,特に下面に短硬毛が多い ----------- ウラゲウコギ
  2.小葉上部の鋸歯は低く,鈍頭~波状で弱い --------- ヤマウコギ


学名は新記載である, “Flora of Japan(KODANSHA,H. Ohba 1999)” のものを使った。同書の検索表は “日本植物誌” とほとんど変らない。

平凡社の図鑑では,オカウコギの分布が「関東地方南部・東海地方・紀伊半島」となっている。しかし現在は,もっと広く分布していることが分っている(中国地方・九州等)。むしろ,ウラゲウコギの方が分布が限られているようである。近畿地方と九州北部の周辺。


取りあえず分ったこと。
 ・ヤマウコギではあり得ない(今まで隠岐で見たものは)。
 ・ウラゲウコギでもないと思うが,この種は実態がやや不明瞭。
 ・小花柄の長さが分類形質として有力そう。
 ・変種間の交雑の可能性に言及した文献が一つだけあった。


 【追記 2013.5.3】
島後地区の皆市・歌木方面を一日歩いた。オカウコギにも注意して。何と10ヶ所以上で確認した。湿った場所には大抵ある。隠岐ではケヤマウコギ E. divaricatus より稀だと思っていたが,大きな間違いだった。

 
 【追記 2013.6.20】
オカウコギを気にしながら歩いていて,ケヤマウコギ E. divaricatus (隠岐には多い)の前で立ち止ってしまうことがあった。小さな若木は,オカウコギと結構紛らわしい。 “葉裏や葉柄に縮れた毛が多い” ので区別できるものの,葉の形だけ見るとオカウコギによく似ている。

花序や果実があれば,葉腋ではなく枝の先端につくのがケヤマウコギ。もっと簡単な,いつでも判る方法はないだろうか?実はあった。これなら,葉のない冬の枝(葉痕・冬芽)でも確実に判定できる。当然花や果実も不要。

枝に出る刺(とげ)の位置に着目すればよい。オカウコギやヤマウコギの枝上の刺は,葉柄の基部(付け根)に接して出る。一方ケヤマウコギの刺は,葉柄の基部ではなく葉と葉の中間部分に散在する。


 【追記 2014.12.25】
『葉上の小器官「ダニ室」 (西田佐知子 2004)』に拠ると,オカウコギにもダニ室ができることがある。上記検索表のダニ室は蓋然性(頻度)の問題と考えるべきである。また,『樹木の葉 (林将之 2014)』では次のように表現されている。
 ヤマウコギ : 葉裏の脈腋に水かき状の膜があり目立つ。
 オカウコギ : 脈腋に水かき状の膜はないか,多少ある。

 コスミレ その2

変ったコスミレに出会ったついでに,今までの経験をメモしておくことにした。個人の感想のようなものなので,誰か補足・修正して下さるとありがたい。

 (1) 新型(自分にとって)の産地
2013.4.4,西郷地区犬来と西郷地区東郷,集落を出外れた農耕地周辺の路上。いかにも本種の好みそうな場所である。そう言えば, “スミレ” が生えるようなこんな道が珍しくなっている。舗装されたり,車が踏固めたりで。今や懐かしい風景というか…。

 (2) 環境と花期
似たような環境を好むスミレ達に,ノジスミレ・ヒメスミレ・アリアケスミレがある。この3種は元々隠岐にはなくて,近年本土から入ったものと思っているがどうなんだろう。古い記録には出て来ないし,以前はほとんど目にすることがなかった。コスミレはこれらとは少し違い,昔からあったようだし,人の行かないような山地の林内でも出会うことがある。

ついでに言えば,最近やたらに市街地で目立つようになった本来のスミレ V. mandshurica 。これも,どっかからやって来たような気がしてならない。かつては今のようにありふれていなかったし,自生場所の自然度は極めて高かったように記憶する。

花期は,ノジスミレよりは遅れるものの相当早い。ヒメスミレ・アリアケスミレの開花はこれからだし,スミレもやっと局所的に咲始めたばかりだ。花期の違いも同定の参考になる!

 (3) 隠岐での分布
島前(3島)と島後では全然様相が違う。島前にはほとんど無いと言ってよい。焼火山中で2005年に深谷治氏が発見したのが唯一の記録である。ここは近くにクマガイソウがある杉林の一画で,コスミレとマルバスミレが共存している。

海士町役場構内の築山にもあったが,これは芝と一緒に持込まれたものである。長く繁栄していたが先日行ってみたら消えていた。いじけたスミレがパラパラ残るだけ。芝刈りのやり過ぎである。

一方,島後ではあちこちに普通に見られた。皆市と都万目の記憶がはっきり残っている。集落内はもちろん,周縁の林縁にも沢山あった。決して捜して見付けるようなものではなかった。島前と島後での分布の違い,これもその一例だと思ったものだ。

 (4) 生育量の消長
ところがここ最近,何年もコスミレの群落を目にしていない。捜してみたわけではないが…。この間自転車で走りながら路上に1株見付け(近石付近),何年振りだろうと感慨にふけったくらいである。そもそも記憶に頼って現況を書いていること自体がおかしい。昔(30年前)コスミレが賑やかに咲いていた皆市・都万目地区にはよく行っているのだが。

もし極端に減ったのが事実とすれば,その理由が分らない。環境の荒れ地化・乾燥化・藪化・帰化種との競合,もしそうだとしても原因の一部でしかないであろう。あるいは,そういう増えたり減ったりする性質の持ち主しなのか?今回発見した自生地は,続けて観察した方がよい。


 〔追記〕 2013.4.16
焼火山のコスミレの産地に行ってみた。自分のイメージ通りの従来型であったが,葉の表面の毛ははっきりあるし,葉の裏も薄くはあるが紫色を帯び勝ちであった。過去には,そこまで細かく観察してなかったのかもしれない。

下の林道沿いにも10数株が進出していた。これは今回の “変ったコスミレ” にかなり近づいたもので, “変った” は変異というより単なる “生態差” かな,と思った。特に日照条件による。ただし,過去にも日当りのよい場所でコスミレを沢山見てきているので,完全に納得したわけではない。

側弁基部が有毛な型(ヒゲコスミレ f. barbata)も混じっていたが,区別することに意味はないと感じた。

全ての個体で距の外側に毛が生えていることに,ちょっと驚いた。やや例外的な現象と思っていたが…。隠岐のものは皆そうなんだろうか?

 コスミレ Viola japonica の変化

ちょっと変ったコスミレに出会ったので記録しておくことにする。今後,私と同じように戸惑う人がいるかもしれないので。

コスミレは昔からよく知っていて,一目で分る自信があった。固定的なイメージができていて(隠岐での経験に限るが),それで同定に迷ったことはない。ところが今回現地で浮んだ名前は,ノジスミレ V. yedoensis ・ヒメスミレ V. inconspicua ssp. nagasakiensis の2つだけ。自分にとっては全く初めての変化型ということになる。

(1) 葉の表面に立毛が密生~全草毛だらけ。
  …… 今まで本種が毛深いという印象はなかった。通常の図鑑でも,「まばらに毛があるかまたはほとんど無毛」とか,「ふつうは無毛だが,ときに葉の表面に毛のあるものもある」となっている。

(2) 葉の裏は濃い紫色で,表面はくすんだ暗い緑。
  …… 淡い黄緑色。黒っぽいという記憶はない。裏面が濃い紫でもなかった。

(3) 長めの三角形を思わせる卵形。
  …… 柔らかな草質で,幅が広めのふっくらとした長卵形だった。ほとんどこの一点でコスミレと判断していたのだが。

家に帰って,ノジスミレやヒメスミレでないことはすぐに分ったが,アカネスミレ V. phalacrocarpa (隠岐の記録なし)を否定するのに時間がかかった。唇弁の距に毛があったからである。花弁の外側に毛が生えるとは!距に毛があるのはアカネスミレとゲンジスミレだけの特徴とされている。

結局「アカネスミレの側弁の基部は “必ず” 有毛」という特徴を突止めた。持帰った標本の側弁がたまたま無毛でよかったのだが,ここが有毛だったら(西日本に多いという)どうしよう。萼や子房の毛の有無を調べるんだろうか。

『増補改訂 日本のスミレ(いがりまさし 2005)』
  「花の色や形態に変化が多く,観察者を困らせるスミレのひとつでもある。」
『日本のスミレ(橋本保 1971)』
  「本州では全体無毛,淡紫花の型が多いのですが,九州では,あちこちに毛が生え,花色の変化に富み,分類に困難を感じることが少なくありません。」

色々探し回ったが,「コスミレの距に毛が出ることがある」との言及があるのは,『野に咲く花(山と谿谷社 1989)』と,いがりまさし氏のWebサイトのみであった。総合的な判断で答の見当はついていたのだが,初心者はいつまでも不安なものである。

 ヤマザクラ発見法

  さん

「海士にはカスミザクラばかり,ヤマザクラは無い」という私の一昨年からの広言,100%確かとはもちろん言えません。例えば,海士町全体でヤマザクラが5本あるとして,その探索は困難を極めます。偶然の幸運に頼るしかないでしょう。

「あるとは言えても,無いとは言えない」という説の人もいますが, “全数調査が絶対条件” はナンセンスです。先人が「隠岐には無い」と言っていたものが,何十年か後に見付かった例は幾つかあります。間違った認識だったというべきなんでしょうか。私はそうは思いません。

ヤマザクラの探し方,有力そうな方法があります!今現在(ソメイヨシノの満開末期)山を眺めて,白く満開のサクラがあればそれはヤマザクラの可能性が大です。ヤマザクラが普通にある島(海士町以外)なら高い確率で。カスミザクラはまだこれからですから。とは言っても,遠くに見える株までたどり着くのは大変ですが。毎年自宅の庭から見廻して,30本以上の “山桜” が見えるのですが,今1本だけ白く目立っているのがあります。こいつはいつも例外的に早いのです(だけど多分カスミザクラ)。

海士町の場合を具体的に述べると,ソメイヨシノが満開に達してから5日間くらい経過しました。ヤマザクラ(植栽品)は今やっと満開のようです。そしてカスミザクラはチラホラ咲き始めたものがあるという状態です。1分咲き未満,目を凝らさないと花に気付きません。ただしごく少数ですが,もう5分咲きくらいなっている気の早いのも混じっています。野生種はソメイヨシノ(基本的にクローン)のように, “皆が一斉に咲き一斉に散る” わけではありません。

この判定法は,島後の男池付近で思い付きました。遠くの山に満開の桜が見えたのでビックリ(4/4),頑張って調べてみたらヤマザクラでした。今まで「ソメイヨシノより開花が10日間は遅れる」と思っていたんですが,海士町のカスミザクラが原因の勘違いです。長い間カスミザクラをヤマザクラであると思い込んでいたのでした(汗)。ヤマザクラは遅れても僅か数日,ソメイヨシノとほとんど同時に咲き始めます。

実際に今(4/5),浦郷地区でも一面に山の桜が咲いています。きちんとは調べませんでしたが,これらはヤマザクラ・オオヤマザクラ・両者の雑種,の3つが共存しているようです。よって,「西ノ島にはヤマザクラはほとんどない」という私の勘も怪しくなって来ました。

面白いことに,黒木・美田地区(高崎・焼火山系)はまだ白くなっていません。こちらはオオヤマザクラとカスミザクラが主体のはずです。今咲いているオオヤマザクラは低地のものに限ると思います。自宅と豊田神社に植えたオオヤマザクラは今が満開です。

チャンスは今だけのここ数日。ボヤボヤしていると開花が重なって来てごちゃ混ぜになります。また,サクラの開花時期は年によって大きくズレますので日付は役に立ちません。その年のソメイヨシノの開花状態が指標です。

サクラの調査はそろそろ終りかと思っていたのですが,まだまだのようですね。同定の自信はついたものの,まだ雑種への対応があります。分布や生態の地識も不十分ですし。


 〔追記〕 2013.4.16
自宅の庭から見渡すと(海士町豊田,標高100m前後の北向きの山腹),80本を越える満開状態の山桜が見える。照葉樹林が残り自然度の高い場所だが,少し数が多すぎる気もする。皆カスミザクラである。

ソメイヨシノが散り終ってから,既に5日以上が過ぎている。ヤマザクラとオオヤマザクラの開花は,数日遅れでソメイヨシノに連続するが,カスミザクラははっきり遅いことが分る。

 オオタチヤナギ その後

   さん

今日明日は雨ということで暇ができました。この時季はよく雨になります。 “菜種梅雨” というんでしょうか。 “花の雨” (桜)という俳句の季語もあります。

本来の隠岐神社の祭は4月4日です。海士では,「今日は隠岐神社の祭だから雨が降る」と私が子供の頃から言われていました。 “後鳥羽院” の涙雨というわけです。

ヤナギ調査が一段落しました。後は5月に “若葉” の観察が必要です。海士・西ノ島・旧西郷町内をほとんど回りましたが,全てオオタチヤナギです(島後のネコヤナギ以外)。隠岐のヤナギの主体はオオタチヤナギだということになります。他にあったとしても,ネコヤナギを除けば “ごく稀” でしょう。

以下オオタチヤナギで気付いたことをダラダラと。
 ・ 数十株をチェックしているが全て雌木ばかり。「雌木が多い」とは言われているものの,雄木が1本もないのは奇妙。種子繁殖をほとんどしていないのではないか?環境の改変で自然繁殖できる場所がなくなって。

事実,休耕田や河川敷など個体数の多い場所は全て若木で,落ちて散らばった枝によるクローン繁殖に見える。そもそも,虫媒花で雄木が少ないと,まともな種子ができないのではないだろうか?

 ・ 短期間に何故そんなに多くチェックできたのか?大きな木なら竿を捜して来て枝先を叩くという方法で,簡単に標本が手に入る。実際木の下には,落葉のようにバラバラと小枝が落ちてたまっている。これが本種の特徴で,ちょっとした強風でも落ちそうだ。

「枝は分岐点で極めて折れやすい特性がある」ことになっているが,枝自体が特に “折れやすい” わけではない。むしろ若い枝は強靱で,引っ張ってもちぎれない。 “小枝の分岐点” (二股部分)が “もろくて外れやすい” という意味である。 “股を少し開こう” と指1本で軽く引っ張ってみるとよい。アッと驚くこと請合いです。

この「分岐点付近がごくもろく,小枝が折れやすい」という性質,面白いので全ての種についてチェックしてみた。その特徴が明記されていたのは以下の4種のみだった。有力な判断基準になると思う。
  オオタチヤナギ, ジャヤナギ,  シロヤナギ, コゴメヤナギ

 ・ 実はもっと安易な奥の手があって,手が届かなくても目視で何とかなるのである。双眼鏡があれば,10m程度の距離でも軽々と同定できる。花穂(雌花序)の短さが独特で,紡錘形の “豆” という感じ。こんなミニサイズで丸っこい花穂は他にあまり例がない。少なくとも隠岐にはあり得ない。

ただし,ジャヤナギとの区別だけは手に取ってルーペで見ないと不可能。しかし,ジャヤナギは未だ1本も確認できていない。情報は,杉村先生の「赤禿山 1992.9.19」という採集記録のみ。

 ・ 島後では小形の幼木ばかり見てきたが(島前には老木が残っている), “男池” だけは例外である。池の周囲に大きな木が50本はある。

ついでに “女池” も見ておこうと行ったみたら,ヤナギはただの1本もなかった。目を凝らしてもない。つくづく,人の生活圏内の種だと思う(男池は水田)。自然度では女池の方が格上なのであろう。今回初めて気付いたが,古びた祠も祀られていて昔の人の思いが想像できる(神様が作った池)。賽銭は,明治期の大きな硬貨が1枚だけ。私もお世話になっているので100円硬貨1枚を追加。

                   ⇒  [オオタチヤナギ]

隠岐にエゾノカワヤナギ??

難しいと言われているヤナギ属の同定だが,検索表(木村有香 1989)を読んで “花があれば何とかなりそう” と思っていた。ところが “何とかならない” ものに出会ってしまった。鬱陶しいと嘆くべきではないだろう。面倒で難しいの大いに結構,あまり気にしなければよい。

“雄株による検索表” によるがピッタリしない点があるので,今後 “若葉と成葉” の観察が必要である。 “若葉” とは,芽が完全に展開して大きさ形とも “成葉” と同じになった時を言う。その後時間の経過と共に成葉が出来上って行く。色・葉質・毛の脱落等。

B.腺体は1個(腹腺体)ある。
 C.雄蕊は2個ある。
  D.花糸は全長にわたり合着する。苞の上部は黒色である。
…… ここまでは疑う余地がない。「苞の上部は黒色である。」に問題があるが,そうかと言って「D.花糸は離生する。」ではあり得ない。なお,花糸の上部が合着し切れないY字形の雄蕊も少数混じるが,これは変異の範囲内である。保育社の図鑑のカワヤナギの図がそうなっている。

E.花糸は下部に毛がある。成葉は両面とも無毛である。
…… 「E.花糸は無毛である。」とは明らかに違う。成葉の観察は不十分だが,毛はなかったと思う。

 F.成葉は常に互生する。枝端の若葉は先端部を除き縁は裏側に巻き,両面に白色軟毛があるが,やがて無毛となる。
…… 「F.成葉はふつう対生,またはやや対生,あるいは互生する。」のは,イヌコリヤナギとコリヤナギであるが,明らかにこの2つ(隠岐では栽培種)ではない。

“枝端の若葉”の特徴。ほぐれかけた新芽は今のところ “裏側に巻いても反っても”いない。この点に関しては文献によって微妙に表現が異なり検討を要する。以下はカワヤナギについて。
『神奈川県植物誌2001』:
 春季の新葉は伏綿毛が密生し内巻するが,しばしば二次的に外旋する。
山口純一さんのWebサイト:
 筆者の観察では新葉は展開を完了するまでの間に、側縁が裏側に軽く弧状に反る

  G.今年生の枝は早く無毛になる ----------------- エゾノカワヤナギ
  G.今年生の枝に灰色の細軟毛が密生し,この毛は前年生の枝では汚灰色になり,所々に残る。枝端の若葉の毛は特に密生する --------- カワヤナギ
検索表に従う限り,どうしてもこの2つのいずれかになってしまう。そして枝を観察した限りでは無毛なのでエゾノカワヤナギになる。「枝端の若葉の毛は特に密生する」とも思えない。現在,芽が半分ほどほぐれているが葉面に毛はほとんどない。もちろん今後生えて来るはずもない。

これはエライことになった。エゾノカワヤナギ Salix miyabeana ssp. miyabeana は,日本では北海道にしかないことになっている!どうも釈然としないが理屈の上ではこうなってしまう。カワヤナギ S. miyameana ssp. gymnolepis であれば,過去の記録はあるのだが。

エゾノカワヤナギが本当に本州にはないか?と調べてみたら,青森県と長野県に信頼できる記録があった。青森県は細井幸兵衛氏による。長野県は植物誌(1997)にあるが,絶滅危惧種ⅠA類にも指定されている。北海道・本州(長野まで)・隠岐,確かにこれに近い分布例がないわけではないが…。

この2種の区別,『Flora of Japan (H. Ohashi 2006)』では次のようになっていた。雌花の子房に関する部分は平凡社の図鑑と同一である。
  ・ 一年生枝は無毛。葉面は中央より上部で最大幅。葉縁の鋸歯は中央部に比べ下部が少ない。子房はほとんど無柄,花柱は0.3-0.5mm。 -------- エゾノカワヤナギ
  ・ 一年生枝は軟毛密生。葉面は中央部で最大幅。葉縁の鋸歯は全体に均等。子房の柄は長さ0.3-0.5mm,花柱は0.4-0.8mm。 ---------------- カワヤナギ

“分布” 以外に気になる点。
 (1) 花の時期 …… 両種とも “花が葉の展開前に咲く” ことになっている。どう考えても “葉の展開と同時” に咲いた。しかしこの点に関しては,平凡社図鑑のエゾノカワヤナギの記載が「(花穂は)葉より先または同時に現れ」となっていた。 “または同時” の一語に救われた。

 (2) 苞の形質 …… いわゆる「上部は黒色」グループとははっきり異なる。花穂の一部が微かに淡紫色がかる “こともある” 程度である。「両面にふつうは長軟毛をしき」:長軟毛は辺縁以外はごく疎らであるが, “ふつうは” と断ってあるので変異の範囲内かもしれない。「倒卵状へら形」:へら形というには下部のくびれがやや少ない。

そして残された作業は,若葉・成葉・托葉の観察と雌木の探索。雌木が見付かれば確実な同定ができる。また自生の記録のあるカワヤナギを探し回るのもよい。最近の学名の扱いは亜種 subsup. になっているので, “どちらつかず” もあるのだろうか。


 【追記 2013.7.22】
誤解を与えるとよくないので,取りあえず結果だけを報告しておきたい。本品は,木村有香博士が「岡山県和気町(吉井川流域)の標本で1926年に新種記載」された,
  ワケノカワヤナギ Salix mictostemon Kimura
であった。現在は,カワヤナギとジャヤナギの雑種 Salix × mictostemon Kimura という扱いになっている。

岡山県でヤナギを研究されている片山久さんに,雄花つきの生きた枝を見ていただいた。片山さんは岡山県のヤナギ全種につき,神奈川県の長谷川義人氏の同定・指導を得ておられる。

詳しい特徴や分布については他日を記すが,雑種は検索表には出て来ないので「カワヤナギ or エゾノカワヤナギ」の箇所で行き詰ったことには意味があった。

         [⇒ ワケノカワヤナギ]
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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