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隠岐にエゾノカワヤナギ??

難しいと言われているヤナギ属の同定だが,検索表(木村有香 1989)を読んで “花があれば何とかなりそう” と思っていた。ところが “何とかならない” ものに出会ってしまった。鬱陶しいと嘆くべきではないだろう。面倒で難しいの大いに結構,あまり気にしなければよい。

“雄株による検索表” によるがピッタリしない点があるので,今後 “若葉と成葉” の観察が必要である。 “若葉” とは,芽が完全に展開して大きさ形とも “成葉” と同じになった時を言う。その後時間の経過と共に成葉が出来上って行く。色・葉質・毛の脱落等。

B.腺体は1個(腹腺体)ある。
 C.雄蕊は2個ある。
  D.花糸は全長にわたり合着する。苞の上部は黒色である。
…… ここまでは疑う余地がない。「苞の上部は黒色である。」に問題があるが,そうかと言って「D.花糸は離生する。」ではあり得ない。なお,花糸の上部が合着し切れないY字形の雄蕊も少数混じるが,これは変異の範囲内である。保育社の図鑑のカワヤナギの図がそうなっている。

E.花糸は下部に毛がある。成葉は両面とも無毛である。
…… 「E.花糸は無毛である。」とは明らかに違う。成葉の観察は不十分だが,毛はなかったと思う。

 F.成葉は常に互生する。枝端の若葉は先端部を除き縁は裏側に巻き,両面に白色軟毛があるが,やがて無毛となる。
…… 「F.成葉はふつう対生,またはやや対生,あるいは互生する。」のは,イヌコリヤナギとコリヤナギであるが,明らかにこの2つ(隠岐では栽培種)ではない。

“枝端の若葉”の特徴。ほぐれかけた新芽は今のところ “裏側に巻いても反っても”いない。この点に関しては文献によって微妙に表現が異なり検討を要する。以下はカワヤナギについて。
『神奈川県植物誌2001』:
 春季の新葉は伏綿毛が密生し内巻するが,しばしば二次的に外旋する。
山口純一さんのWebサイト:
 筆者の観察では新葉は展開を完了するまでの間に、側縁が裏側に軽く弧状に反る

  G.今年生の枝は早く無毛になる ----------------- エゾノカワヤナギ
  G.今年生の枝に灰色の細軟毛が密生し,この毛は前年生の枝では汚灰色になり,所々に残る。枝端の若葉の毛は特に密生する --------- カワヤナギ
検索表に従う限り,どうしてもこの2つのいずれかになってしまう。そして枝を観察した限りでは無毛なのでエゾノカワヤナギになる。「枝端の若葉の毛は特に密生する」とも思えない。現在,芽が半分ほどほぐれているが葉面に毛はほとんどない。もちろん今後生えて来るはずもない。

これはエライことになった。エゾノカワヤナギ Salix miyabeana ssp. miyabeana は,日本では北海道にしかないことになっている!どうも釈然としないが理屈の上ではこうなってしまう。カワヤナギ S. miyameana ssp. gymnolepis であれば,過去の記録はあるのだが。

エゾノカワヤナギが本当に本州にはないか?と調べてみたら,青森県と長野県に信頼できる記録があった。青森県は細井幸兵衛氏による。長野県は植物誌(1997)にあるが,絶滅危惧種ⅠA類にも指定されている。北海道・本州(長野まで)・隠岐,確かにこれに近い分布例がないわけではないが…。

この2種の区別,『Flora of Japan (H. Ohashi 2006)』では次のようになっていた。雌花の子房に関する部分は平凡社の図鑑と同一である。
  ・ 一年生枝は無毛。葉面は中央より上部で最大幅。葉縁の鋸歯は中央部に比べ下部が少ない。子房はほとんど無柄,花柱は0.3-0.5mm。 -------- エゾノカワヤナギ
  ・ 一年生枝は軟毛密生。葉面は中央部で最大幅。葉縁の鋸歯は全体に均等。子房の柄は長さ0.3-0.5mm,花柱は0.4-0.8mm。 ---------------- カワヤナギ

“分布” 以外に気になる点。
 (1) 花の時期 …… 両種とも “花が葉の展開前に咲く” ことになっている。どう考えても “葉の展開と同時” に咲いた。しかしこの点に関しては,平凡社図鑑のエゾノカワヤナギの記載が「(花穂は)葉より先または同時に現れ」となっていた。 “または同時” の一語に救われた。

 (2) 苞の形質 …… いわゆる「上部は黒色」グループとははっきり異なる。花穂の一部が微かに淡紫色がかる “こともある” 程度である。「両面にふつうは長軟毛をしき」:長軟毛は辺縁以外はごく疎らであるが, “ふつうは” と断ってあるので変異の範囲内かもしれない。「倒卵状へら形」:へら形というには下部のくびれがやや少ない。

そして残された作業は,若葉・成葉・托葉の観察と雌木の探索。雌木が見付かれば確実な同定ができる。また自生の記録のあるカワヤナギを探し回るのもよい。最近の学名の扱いは亜種 subsup. になっているので, “どちらつかず” もあるのだろうか。


 【追記 2013.7.22】
誤解を与えるとよくないので,取りあえず結果だけを報告しておきたい。本品は,木村有香博士が「岡山県和気町(吉井川流域)の標本で1926年に新種記載」された,
  ワケノカワヤナギ Salix mictostemon Kimura
であった。現在は,カワヤナギとジャヤナギの雑種 Salix × mictostemon Kimura という扱いになっている。

岡山県でヤナギを研究されている片山久さんに,雄花つきの生きた枝を見ていただいた。片山さんは岡山県のヤナギ全種につき,神奈川県の長谷川義人氏の同定・指導を得ておられる。

詳しい特徴や分布については他日を記すが,雑種は検索表には出て来ないので「カワヤナギ or エゾノカワヤナギ」の箇所で行き詰ったことには意味があった。

         [⇒ ワケノカワヤナギ]
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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