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 シウリザクラ Padus ssiori

長い間探していたシウリザクラの成木を発見。植物仲間に書いたメールを,そのまま掲載することにした。昨年見付けたのは幼木(1.5m)で,樹肌はサクラそっくり。葉も似ていたので,必死になって “サクラではない” ことを確かめている。

----<2012.5.7>-----------------------------
エライことが起りました。幻のシウリザクラの発見です!杉村さんはレッドデータブックで「隠岐に分布の記録があるが,現状は不明」と書いています。捜したはずですが諦めたんでしょう。私ももちろん諦めていました。岡国夫さんの報告文を明日捜し出します。記憶では「鷲ヶ峰に老木が1本だけ残っていた」ような…。

代表として保育社図鑑の分布記載を転記します。他の図鑑にも,わざわざ「隠岐島」が明記されていますが,あまりにも異常だからでしょう。根拠はもちろん,京大にある1点の標本のみです。今まで岡さん以外に実物を見た人はいないと思います。奥様の運転によるルート変更が当りましたね。今まで “神原高原” の見方が足りないと思っていたら,案の定でした。

『温帯上部:本州(隠岐島,中部以北)・北海道・南千島・樺太・中国東北部・ウスリー。シウリはアイヌ名である。北海道には普通にあるが,本州では少ない。』

花が咲けば見る聞くなしなんですが,葉だけでもハッキリ同定できます。詳細は追って報告しますが,細かな特徴がことごとく一致します。1点の疑いもありません。若木があるということは,繁殖もしているんですね。

嘘のような本当の話です。今日弁当を食べながら,「最近,隠岐はやはり特別な地域だと思い始めた」と述懐したのを思い出しました。

----<2012.5.8>-----------------------------
シウリザクラ Padus ssiori の続きです。シウリザクラの葉っぱを征服しました。花や果実が得られない時の同定に役立つでしょう。

6月(花期)にもう一度歩いてみて,他に見付からないようだったら,「伐るな」という意味の立札でも考えた方がよさそうです。遊歩道際ですので簡単に伐られます。刈払機で刈られること必至です。本種をむざむざ消滅させるようなことになると,非常に後味が悪いです。罰も当るかも…。

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 Ⅰ。同定
家に帰り着いたら,タイミングよく『サクラ ハンドブック』(大原隆明 2009,文一総合出版 ¥1,200)が届いていた。氏は富山県中央植物園主任,サクラ属の分類に詳しい。本書の「サクラ」とは普通に言う「桜」,つまり「バラ科>サクラ亜科>サクラ属>サクラ亜属>サクラ節」に限る。つまりヤマザクラ類のこと。今は野生種だけを考えればよいので,わずか25ページを読めば足りる。

葉は「短枝につく上から2番目の葉を見る」べしという注意があった。変異が少なく特徴がよく出ていることが多いという。さすが専門家!こんな丁寧な解説を初めて読んだ。

葉縁の鋸歯のスキャン画像も見事。実物を見ているのと変らず,ペンによる従来の図を越える時代が来た。「種類を調べる上で最も重要な部分。葉上部の最も丸みがある部分の鋸歯の形や向き,先端の伸び方に注目。」とあって,他の図鑑類の文章とは一線を画している。鋸歯を最重視したのは,葉形(全体や基部)に比べ変異が少ないからである。卓見であろう。自分も同意できる。

 (1) 鋸歯
そういうわけで,まずスキャン画像を1枚ずつ見て行った。今春自分で観察した結果を再確認することになったが,どれともハッキリ異なる。オオシマザクラに一番近いが,オオシマザクラは鋸歯の先端が針状に尖っている。これは本物が自宅近くに植栽されているので,間違えようがない。

後で気付いたことだが,鋸歯が芒状にハッキリ伸びて先端に微小な腺。しかもその芒状部分が微妙によれて反るような感じは独特で何とも言えない。他に似たものがないという気がする。高度に感覚的な把握だが,この部分だけでも同定できそうである。

 (2) 脈腋の毛
鋸歯の感じがどうも違うので,サクラ節ではないかもしれないと思い始めた。そうするとウワミズザクラ属だが,イヌザクラは既知種で葉の形が全く別。ウワミズザクラかもしれない?が問題になる。シウリザクラの葉の特徴を調べてみたら「下面の側脈の腋に毛がかたまって生える」のがポイントらしい。「淡褐色の毛」となっている文献もあるのだが,そんなものは見えない。「こりゃ駄目だは…」と思い,他の特徴を当ることにした。

結局最後には気付いたのだが,毛は確かにあった!主脈から側脈が分れる付け根の所(そこだけ)に,白い毛がかたまって生えていた。手許に高性能の実体顕微鏡が鎮座している効果である。毛は稀に無い事もあるようだが,この毛を確認できれば同定終了としてよさそうだ。毛が色付いていないのは若葉だからであろう。

 (3) 葉基部の凹入
現地で気になって仕方がなかったことである。葉の基部がほとんど例外なく,明瞭に切れ込んでいる。サクラ節で葉柄の付着点がハート型にくぼむ(心形)のは,カスミザクラとオオヤマザクラであるが,「多少とも心形の葉が混ざる」という程度で,こんなに深くは切れ込むことは断じてない。

この切れ込み部分,何だかエロい感じがして忘れそうにない。この凹入と脈腋の毛の2点で本種であることを確信した。

 (4) 葉形
現地でどうも変だと感じたのは,葉が長楕円形を思わせる点にもあった。今ままで見て来たものはサクラ節,卵状・倒卵状・披針形を混ぜたような型しかなく,「長~い楕円」を感じたことはなかった。

 (5) 葉質
成葉ではないという前提ではあるが,葉がやや柔らかく皺が寄りやすい感じで,しわくちゃ感がある。葉脈の裏面への隆起もサクラに比べよく目立つ(細脈までも)。葉柄が濃い赤味を帯びるのも一つの特徴のようだ。

花が無いために,葉を徹底的に観察することになった。成木でなかったことも幸いした。成木の樹皮は全然サクラ肌ではないという。もし簡単に同定できていたら,ここまで葉にかかずらうことはなかったに違いない。

 Ⅱ。分布
『原色日本林業樹木図鑑』(倉田悟,1971)によると,中部地方の西限は長野県で岐阜県境付近の山地帯,南限は神奈川県の丹沢山地になる(神奈川と東京で絶滅危惧種)。各県の植物誌を見たら,標本産地はすべて標高 1,200m以上の高山であった。日本海側の富山・石川・福井各県には産しない。もちろん,隠岐は突出した西限自生地である。

 Ⅲ。隠岐の記録
岡国夫氏の報告『隠岐の植物』(北陸の植物 Vol.16 No.2,1968)を転記。今から40年以上前の記事である。

「 シウリザクラは布施村鷲ヶ峯の頂上に近い海抜約500mの林中に少数混生している。大きいもので直径10cm程度である。本種は元来,本州中部,日光山彙以北,北海道,千島,満州(大井:日本植物誌)に分布することになっていたもので,著しい北方系の植物を更に加えたことになる。
 総状花序をなすウワミズザクラ亜属のうち,常緑の2種を除き,中国地方としては,ウワミズザクラ,シウリザクラ,イヌザクラの3種となる。このうち,ウワミズザクラは日本列島に広く,かつ多量に産しながら隠岐には従来全く記録がなく,筆者も一本も見だし得なかった。これに対し,中国地方の本土には見られない北方系または大陸系のシウリザクラの方を隠岐に産することは注目すべきで,これはやはり,この群島成立の歴史とウワミズザクラ亜属の系統との関連において考究すべき今後の課題であろう。」

岡氏の採集以前も以後も記録は全くなかったが,2012.5.7 丹後亜興・野津大両名が再発見した。幼木1株で,場所は布施地区中谷の神原高原(420m alt.,36゜16'17"N,133゜19'36"E)。

----<2013.4.27>-----------------------------
直径15cm,高さ8mの成木を,ついに見付けました!樹肌はサクラとは似ても似つかないものです。ハシドイ Syringa reticulata が並んで立っていましたが,こちらの方がサクラ肌です(むしろモモ肌,ただし太い樹幹はやはり変化)。双眼鏡による若葉の確認のみですが間違いはありません。ひょろひょろと高い木で,猿でない限り枝には手が届きません。証拠が欲しければ花の時期(6月中旬)に写真も撮れます。私は葉っぱが1枚あれば同定できますので,台風の直後,或は晩秋の黄落季も “あり” です。

林床は,ニシノヤマタイミンガサ・ルイヨウボタン・ミチノクエンゴサク,錚々たるメンバーの群生地です。歩道の直ぐ近くなので却って盲点になっているのかもしれません。こんなに大量のルイヨウボタンを初めて見ました。

ちょっと公開したくない場所だな,と思いました。踏んだら終りです。高崎山での苦い経験があります。私(一人ですが)の歩いた踏み跡が数年残ったのです。何十年も人が入ったことのない場所,人に踏まれた経験のない植生なので,影響が出るのは当然です。植物達も人に踏まれてさぞ驚いたことでしょう。

なお,昔岡国夫さんが発見(複数本)した場所はここではないようです。残っていればもっと老木になっているはずですし,標高も違います。私は以前,屏風岩の近くと思って双眼鏡で上から眺めたことがあります。しかし今回気付いたのですが,必ずしも花の時期に探すのが最良とは言えません。他の木々も葉を茂らせているので, “見える” とは限らないのです。ヘリコプターではないし。

今の時季はまだ多くの木々が新葉を広げていません。 紅味の強い葉をいち早く展げるシウリザクラはよく目立ちます(ただし展開し終ると紅味が消えるので要注意!)。今日も前回の幼木の近くをぐるりと見廻して,「アーあれだ!」と直ぐに気付きました。そして,今日のところは “1本” だけということも。幼木ならもう一本ありました。繁殖していることは確実ですね。
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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