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 ハマアオスゲ Carex fibrillosa

いわゆるアオスゲ類は,差異が微妙でまだよく理解できていない。何かを書く資格はないのだが,ハマアオスゲの大集団に出会って仰天,そのことを記録しておきたくなった。ただ今勉強中の途中経過ということで,今後ブラッシュアップしたい。

 【1.イソアオスゲの苦労】
海岸生のアオスゲの仲間にもう1つ,イソアオスゲ C. meridiana というものがある。実は隠岐の海岸に普通にあるのは,イソアオスゲの方なのだがこれが図鑑に載っていない!保育社や平凡社のものもそうだし,スゲをやるには必須と言われた『日本産スゲ属図譜』(吉川純幹,1957)にも,ハマスアオゲ1種しか出て来ない。本種が復活して一般に知られるようになったのは,『日本のスゲ』(勝山輝男,2005)からであろう。同氏の論文, “日本産アオスゲ類の再検討” は1993年の発表。

イソアオスゲは海岸の岩場に幾らでもあるので,かつて同定に挑戦したことがある。該当しそうなものはハマアオスゲしかないのに,記載を読んでみるとどうもピッタリしない。図鑑にはハマアオスゲの特徴しか書いてないので無理もない。もう昔の思い出だが,これには苦労させられた。アオスゲ C. leucochlora の海岸型だろうかと考えたりもしたが,アオスゲが海岸に生えるという情報はない。いよいよ訳が分らなくなり放置したが,気分の悪さは続いた。

しかし今考えると,イソアオスゲはアオスゲに含まれて(同一視)いたので,当時の扱いに従えば “アオスゲ(海岸型の)” でよかったことになる。過去の隠岐の記録には(隠岐に限ったことではないが),アオスゲ同様ハマアオスゲも普通種のように出て来る。しかし現状から見て,隠岐4島全てにハマアオスゲが普通だったとは考えにくい。海岸生ということで,これ(実はイソアオスゲ)をハマアオスゲと誤認したということはなかっただろうか?採集地をチェックしたら,「確実に誤認」と思われる記録もあった。

 【2.ハマアオスゲとの出会い】
上記『日本のスゲ』が出版され,「なるほどそういうことか」と(イソアオスゲではない)ハマアオスゲを捜した。やっと2007年に,島後の中村海岸で見付けることができた。砂浜に沿う遊歩道の片隅に “2本” だけ。とても “2株” とは呼べないような姿で。近いうちに消滅必至と気に病んでいたが,先日(5/27)行ってみたら1株残っていた。

とは言っても安心できるような状態ではない。しばらくぼ~っと考えていた。「本来の生育地は,砂浜よりもその背後のクロマツ林のはず。しかし,芝生になってしまっているし…,横目で見ても芝が広がってるだけだし…」。ハッと気付いた。昔のままのクロマツ並木が少し残っていることを。行ってみたらあるわあるわ!30cmもの高さになって,密な大群集が松の根元を取り巻いていた。分厚いクッションで,腰を下ろすと気持よさそうだ。

ハマアオスゲに限らず,スゲ類は環境が良いと “草丈と株の太さ” がしばしば巨大化する(例えば栽培)。知らないと別の種と思ってしまう。アオスゲやイソアオスゲでも同じ状況を経験,最初は別種だと思い込んでいた。

 【3.ハマアオスゲの特徴】
難しいアオスゲ類の中では例外的に分りやすい。(e)と(f)が有力。
 (a) 砂浜またはその後背地の林縁
     ・・・・・・ クロマツ林が好み。
 (b) ごく稀
     ・・・・・・ 少なくとも隠岐では。今のところ中村海岸のみ。
 (c) 葉質は厚く硬い
     ・・・・・・ 内陸性の種とははっきり差がある。色も暗緑色。
 (d) 匐枝(匍匐根茎)が顕著
     ・・・・・・ 本種の重要な特徴だがきちんと確かめてはいない。
 (e) 果胞に短毛が密生
     ・・・・・・ イソアオスゲもやや多い。その他の種はごく疎らで見えにくい。
 (f) 果胞は熟すと黄白色を帯びる
     ・・・・・・ 白+黄。これ一つで同定が可能。熟期は5月下旬~6月上旬。
 (g) 果実が熟す頃になると雌鱗片がはがれ落ちる
     ・・・・・・ 面白い。触っただけでポロリと外れる。
 (h) 雄小穂は太い棍棒状
     ・・・・・・ 類似種中一番大きい。上部が大きくふくらむ。

 【4.イソアオスゲの特徴】
まずアオスゲとの違いを確認するとよい。(e)と(f)が使い易い。果実がないとハマアオスゲとの区別が多少厄介。葉質もハマアオスゲに近い。
 (a) 海岸の岩場の割れ目・凹み
     ・・・・・・ 近くの,土の斜面や人家の石垣などにも。
 (b) ごく普通
     ・・・・・・ 少なくとも隠岐では。どこの海岸でも見られる。
 (c) 時に半地上性の匐枝を伸す
     ・・・・・・ 分りにくい。平地の土上の株で見るのがよい。
 (d) しばしば根際に短い雌小穂をつける
     ・・・・・・ アオスゲやハマアオスゲはこれをつけない。
 (e) 苞の葉身が極端に長い
     ・・・・・・ 花序よりも高く抜け出る。ハマアオスゲもやや長い。ごく稀に
      アオスゲも長いのを出すことがある。
 (f) 雌鱗片の芒はごく短い
     ・・・・・・ 他の種は針状の長芒が突き出る。
 (g) 葉はほとんどザラつかない
     ・・・・・・ 手で触ってみる。
 (h) 雌小穂の花数は少なく普通10個以内
     ・・・・・・ 雌小穂は短くて丸っこい。

 【5.匐枝の有無】
根から堀り上げて,匐枝の有無を確かめるのは大変である。大きな株では特に。一般論であるが気付いたこと(仮説)をメモしておきたい。
 (1) 匐枝の出ないものは,円い密な株を作る(葉も放射状に広がる)。株は単独で孤立的。
 (2) 匐枝を伸すものは,小さな株が散在し疎らな広がりを作る。全体がつながっている印象。
 (1’) 匐枝のないものは,密な群生状態でも “株という単位” が感じられる。つまり, “円い株” の接触からなる集合。
 (2’) 匐枝のあるものが密な集団を作ると,境目が定かではない単なる “不定形” の広がりになる。
 (1’’) 株は締まっていて固く,引っ張っても頑として抜けない。掘り取るのは大変。
 (2’’) 株はふわっと軟らかく,強く引っ張ると抜けてくる。掘り取りは手でも何とかなる。

 アオミヤマカンスゲ Carex multifolia var. pallidisquama

4月から,ワケノカワヤナギ,シロヤナギ,そして本種。超弩級の発見が3つ続いて疲れ気味である。

1931年に大井博士が記載したものであるが(京都帝国大学理学部紀要),すっかり忘れられその後のあらゆる “図鑑・植物誌” のたぐいから落ちてしまった。例外は,『極東亜産スゲ属植物』(秋山茂雄,1965)であるがこれを持っている人はそういない。現在でも古書価格は15万円以上,一時は50万円していたこともある。もう1冊『日本草本植物総検索誌』(杉本順一,1973)にもちゃんと載っていたが,あまりメジャーなものではない。

初めて世に知られるようになったのはごく最近,『日本のスゲ』(勝山輝男,2005)以来のことである。そういう訳なので,本種の分布情報等はほとんど無に等しい。唯一,2009年に出版された『高知県植物誌』に「高知市から日高村にかけての蛇紋岩地」とあって,標本が3点引用されていた。

上記 “極東亜産スゲ属植物” では以下のようであるが,現在もこの範囲と似たり寄ったり,まだ解明不十分という気がする。
  〔産地〕 本州(伊賀,大和,河内,紀伊,和泉,備中),四国(伊予).

現在確認されている産地は,
  京都・大阪・奈良・和歌山・三重, 四国4県, 岡山・広島・山口

で, “瀬戸内海が中心” , “紀伊半島が東限” と推測されている。 “紀伊半島におけるミヤマカンスゲ類(カヤツリグサ科)の分布” (織田二郎 他,2010)に拠る。

上記 “日本のスゲ” や『日本カヤツリグサ科植物図譜』(星野卓二 他,2011)には,「九州」も含まれているが,単に “屋久島とトカラ列島(黒島)” のことではないかと思われる。
   〔補記 2013.1.16〕 福岡県前原市の標本がある。

一昨日(2013.5.9),大満寺山の西側山腹の林内(標高420m),延々と続く母種ミヤマカンスゲ C. multifolia var. multifolia の中に1株だけあった。最初はミヤマカンスゲの色変り品だろうと思い採集に乗気でなかった。青芽・赤芽はよくある現象である。しかしどうも感じが違う。回りを取巻いているミヤマカンスゲとの中間形らしきものもない。まあ念の為と,引きちぎって持って帰った。本当はスゲの標本は根を掘らないと意味がないのだが。

同定は全然難しくない。検索表に言うように,ミヤマカンスゲの雄鱗片・雌鱗片が明瞭な “紫褐色” であるのにこちらは “淡緑色” ,基部の鞘もこれに連動するという(ミヤマカンスゲより色づく範囲が狭い)。ミヤマカンスゲを知っている人なら一目で分る。

また,図鑑にもあるようにミヤマカンスゲに比べ,「葉が薄くて柔らかく」(触っただけで分る)なよなよとして女性的な印象がある。有花茎も繊細でより柔らかい。ミヤマカンスゲが葉を開出し有花茎も立てているのに,こちらはうなだれるように地に伏していた。全体に色も淡い。ウスイロミヤマカンスゲという別名もあるが,その方が好ましいと思った。とにかく,そこいらに沢山あるミヤマカンスゲと比べてみれば,この外観の差異は明瞭に感じ取れる。

ミヤマカンスゲには,現在6つの変種が認められているが,最近の研究によると “形態・生態・分布” にそれぞれ明確な差があって,中間形はないという。別種も含まれるのでは?と推測されている。現にアオミヤマカンスゲは染色体数がミヤマカンスゲとは異なることも確かめられた。同定に悩まされる難解な変種群ではなく,言わば素性のよい爽やかな連中のようだ。

『日本の固有植物』(加藤雅啓 他,2011)の分布図を見たら,紀伊半島から遠く離れて山形県の飛島と思われる位置にマークがついていた。これは以下に勝山輝男氏の言うミヤマカンスゲの一型ではないだろうか。

「東北地方や日本海側の多雪地のミヤマカンスゲにも雄鱗片や雌鱗片がほとんど着色しないものがあり,基部の鞘の色や鱗片の色だけで確実に区別するのは難しい。しかし,アオミヤマカンスゲは葉がやや薄質,有花茎は繊細で雌小穂もやや疎らに花をつける。これらを総合すれば,ミヤマカンスゲの変種としての区別が可能と考える。」

その後, “有花茎” の出方にも差がある,という論文が出ている。 “ミヤマカンスゲ(カヤツリグサ科)の有花茎の着く位置” (織田二郎・永益英敏,2007)。これは現地で早速確認する積りであるが,トカラ列島の黒島や隠岐は何なんだろう?


 【追記 2013.5.15】

ミヤマカンスゲの大集団の中に「1株だけ」。気になって仕方がないので再度行ってみた。結局4株(ポツンポツンと)を確認できたが,数の不均衡が不思議に思える。よく淘汰されてしまわないものだ。何かバランスが維持される理由があるのであろう。更に,両者の中間型もあるか?と捜したがそれは見当らなかった。

まず,前回よく見ていなかった “基部の鞘” の色を調べた。確かに有意の差がある。もちろん第一の注目点は,小穂(♀・♂)の色であるが,ルーペでよく見ると “かすかに” 薄茶色が感じられることもある。迷ったら,基部の鞘の色で安心できると思った。アオミヤマカンスゲは,ほとんど色付かないし,紫褐色(小豆色)部分があってもごく一部に過ぎない。両者を並べてみると,違いがはっきりする。

現地に1時間ほど座り込んで, “織田・永益 2007” に従い「葉腋から出る有花茎の数」を数えてみた。「2本ずつ」が,他の5変種(1本ずつ)には見られない特徴だそうだ。これは有難い!

 ・アオミヤマカンスゲ: 2本ずつ (ごく稀に,1又は3)
 ・ミヤマカンスゲ:   1本ずつ (ごく稀に2)

それぞれ基本数が「2と1」であることは疑うべくもなかった。アオミヤマカンスゲは,有花茎が多く出るが(何しろ出方が2対1),細くて繊細な有花茎なのでミヤマカンスゲ以上に目立つわけでもない。

外側の葉から順に,丁寧に1枚ずつ剥がしてゆくこと。もちろん0本の場合もある。なお,上記論文に言う,「株単位の中央は葉しか出ず」はよく分らなかった。両者とも,中央からも(葉腋ではなく)出ているように見えた。時に中央に,葉だけの大きなシュートが見られたが,これは当年枝で後から伸び出したものである。
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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