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 オオズミ Malus toringo var. zumi

ズミ M. toringo の変種。母種ズミはリンゴの日本版で,かつてはリンゴの接木の台木に使われたという。分布は日本全国に及ぶが,西日本では産地が内陸部の高地に限られ量も少ない。「高原に花咲く樹」のイメージがある。

 【同 定】
狭義のズミ M. toringo var. toringo との区別だけが問題である。最も重要な分類形質は “雌蕊(花柱)の数” なので,現地に座り込んで数えてみた。同一木から場所を変えて4本の枝を切り取り,着いていた花全部(計171個)について。
  3本:  23 /171 ------ 13%
  4本: 106 /171 ------ 62%
  5本:  42 /171 ------ 25%

検索表は
  「ズミ:3-4,オオズミ:多くは 4-5」となっているが,
更に詳しくは
  「ズミ:3が多く4が少し混ざる,オオズミ:4が普通で5も混ざる」だという。
つまり基本数は
  「ズミ:3,オオズミ:4」
上の数値から,オオズミとせざるを得ない。「3本のもあるけど?」と言う人がいるかもしれないが,「稀に3本もある」ことになっている。

外観がよく似ているエゾノコリンゴ M. baccata var. mandshurica について補足する。雌蕊の数は「普通5個,時に4個」で多少紛らわしいが,実は決定的な区別点がある。
  ズミ・オオズミ ------ 葉は幼時,表面を内側にして縦に2つ折となる。
  エゾノコリンゴ ------ 幼葉は両縁から中央に巻き込む。
これは冬芽の中でも,ほぐれたばかりの芽でもそうなっている。

他の分りやすい差異として “葉の形” がある。
  ズミ   ------ 長枝につくものは,しばしば3-5中裂する(特に先端の葉で)。
  オオズミ ------ 長枝のものも,ほとんど分裂しない。
ズミの「長枝には欠裂する葉がどこかにある」というコメントは役立つ(池谷裕幸,2004)。因みに,エゾノコリンゴの葉は全く裂けない。

分裂葉はミツバカイドウという別名の起源。ズミには単にコリンゴという別名もある。更に,近縁のオオウラジロノキ M. tschonoskii にはオオズミという別名もあって,和名までがややこしい。

隠岐のものを長年詳しく見てきたが,分裂した葉に出会った事がない。厳密に言えば一度だけ,葉縁がわずかに凹んだのを3-4枚見付けた事がある程度。

更に,確認できて安心した特徴。ズミは葉縁の鋸歯が明瞭であるが,オオズミははっきりしない細かい鋸歯で,特に花枝では全縁に近いという。たまたま持帰った一枝,ほとんどの葉が完全に全縁だった。

 【分 布】
まずズミから。本州では全都府県,九州は北部の3県のみで「福岡:絶滅,大分・佐賀:絶滅寸前」。四国は香川県の記録がなく「徳島:情報不足,高知:絶滅危惧」。

島根県では「中国山地沿いに稀に分布(杉村喜則,2005),三瓶山(丸山巌,1960)」。近くでは,「山口:やや稀,岡山:絶滅危惧,鳥取:準絶滅危惧,京都:準絶滅危惧」。

興味深いのはオオズミの分布状況であるが,一言で言えば「中部地方以北の本州」となる。中部以北で記録がないのは,北海道・青森・秋田,新潟・石川,愛知,千葉・神奈川。北海道に生育しないことに驚いた。

西日本(近畿以西)での確実な記録はないと思われる。ただし最近,京都府の「丹後地域で数本」が発見され『京都府改訂版レッドリスト2013』に,準絶滅危惧として追加された。隠岐と同緯度の,福井県と茨城県に普通にあることも心強い。実は,北方系の種が「福井・京都辺りから隠岐へ跳ぶ」パターンは他にも幾つか例がある。

 【雑 種】
オオズミは「ズミ × エゾノコリンゴの雑種?」,という説があるらしい。何時誰が言い出したのか分らないが,違和感をメモしておく。ただし,現在も交雑を繰返している普通の意味での “雑種” と見なして。

 (a) エゾノコリンゴの自生しない地域にも広く生育している。
 (b) 両親共普通に分布している北海道に,その記録がない。
 (c) 盛んに開花結実し,繁殖を続けている。
 (d) 片親も居ないような場所で,個体数が多すぎる。

 【隠岐の状況】
気付いたのは30年以上前。海士町知々井岬に2ヶ所,計4-5本がある。毎年開花結実し幼木も見られる。ただ,昔から増えた感じはない。そんなに減ってもいないが。海抜30m地点の渓流沿,すごく低い。

高い山もない狭い半島の知々井岬に,数多く貴重種が残っている理由は,江戸末期まで徳川幕府の直轄地で村人が入れなかった為であろう。隠岐ではここでしか確認していないが,木村先生から「都万?にらしきものがあると聞いた」と聞いたことがある。情報提供者は校長先生の奥さん,しかも又聞きではあるが。

島根県の記録はないと思っていたが,丸山先生が島根半島に「○」を付けている。三瓶山のズミと区別して認識されていたようだ。あっても不思議はない。しかし,杉村先生の目録になく,宮本巌氏の『島根半島植物誌(1973)』にも現れない。あってもごく稀なのであろう。情報不足による判断ミスもあり得る。

西日本に広く分布するズミが隠岐には無い。それなのに,西日本に(ほとんど)無いオオズミだけが残っている。これはちょっと了解に苦しむ事実である。「隠岐は西日本ではない」と考えてみたらどうだろう?隠岐と緯度が同じ福井県や茨城県では,ズミとオオズミが似たような場所に,個体数も大差なく共存しているように思える(地方植物誌からの推測)。その状態から両種ともに減って行けば,「ついにはどちらか一方だけ残る」のは当り前。不思議でも何でもない。


  【追記 2015.4.25】
『高原山のズミ Malus toringo (Siebold) Siebold ex Vriese (広義)には3型がある』(富永孝昭・星 直斗・高島路久 2013,栃木県立博物館)に以下の記述がある。これは原記載の引用である。ラテン語なので自分では読めないが。

「Matsumura(1899)は,オオズミの特徴として葉の大きさや欠刻がまれであることの他に,葉がほぼ全縁でまれに細鋸歯をつけること,萼裂片が披針形で萼筒部より長いことなどを挙げており,…」

花が咲いた頃だと行ってみたが,全く花がない。この木の満開状態を2回は見ているのに…,年によって違うとは驚いた。若葉が伸びていたので,“鋸歯”の様子をチェックすることにした。

肉眼では全縁に見える(老眼鏡をかけても)。しかしよく見ると,ほぐれたばかりの小さい葉には細かい鋸歯があった。成長につれて鋸歯が消えるようだ!成葉では「全縁」と言ってよいのではないか?これは過去の記憶とも一致する。捜せば稀に,“部分的に細鋸歯のある”葉が見付かる程度。

ズミやエゾノコリンゴは鋸歯が明瞭なので(以下の文献),この「限りなく全縁に近い」はオオズミの良い特徴の一つであろう。
  ・樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類 (林 将之 2014)
  ・拓本図譜 落葉樹の葉 (田仲啓幾 2008)
  ・日本の樹木 (初島住彦 1976)
  ・原寸イラストによる 落葉図鑑 (吉山 寛・石川美枝子 1992)

 ナンゴククガイソウ Veronicastrum japonicum var. australe

冬籠中の仕事として,隠岐版のレッドデータブックを作成中。本種は “絶滅危惧Ⅱ類” にした。隠岐では広く分布していて,高い場所(標高400m以上)で時々見かける。ただ,いつもポツンポツンで “見事な群生地” は知らない。島前でも高崎山には結構あるし,焼火山にもあったと思う。

クガイソウは “高原の花” というイメージで初期の頃から知っていた。初めて現物に出会った時も,皆が言うように “クガイソウ” で済ませた。小敷原山のものを自分で同定した時に「これはナンゴクだな」と思った記憶は残っているが…。今思うとこのナンゴククガイソウに少し冷たかったような気がする。ちゃんと 調べるのは,今が生涯で3度目。

クガイソウ var. japonicum との区別は次のようになっている。クガイソウの現物を見てないので,これ以上の差異(ある筈)は分らない。
 クガイソウ: 花序軸に微毛あり。 小花柄:1-3mm。
 ナンゴク : 花序軸は無毛。   小花柄:3-4mm。

分布は,西と東にきちんと分れる。奈良県のみ両方を記録。
 クガイソウ: 本州(近畿以東)
         ・・・西限:  京都府  (京都府RDB 1998)
 ナンゴク : 本州(近畿以西),四国,九州
         ・・・東限:  兵庫県氷ノ山  (村田源 2004)

近畿地方が境界線で他の県は。
 クガイソウ: 滋賀(分布上重要種)・京都(準絶滅危惧種)・奈良(絶滅寸前種)
 ナンゴク :奈良(絶滅寸前種)・和歌山(絶滅)・兵庫(2003年版ではCランク)
 記録なし :大阪

中国・四国・九州(中部)はナンゴククガイソウのみ。
 鳥取: 準絶滅危惧
 島根: 隠岐と中国山地沿に稀
 岡山: 記録なし
 広島: 中国山地沿に稀
 山口: 記録なし

四国山地の県境地帯にはかなりあるようだが,九州はほぼ絶滅状態。
 大分: 情報不足, 宮崎:絶滅,熊本:絶滅危惧Ⅰ類(1ヶ所のみ)

2012年,環境省のレッドリストに追加されたが当然のことであろう。絶滅危惧Ⅱ類(VU)。

これで見ると,隠岐はナンゴククガイソウの飛抜けた北限自生地ということになる。確かに隠岐は,地史的には西日本なのでナンゴククガイソウがあってもいい。しかし緯度から言えば,完全にクガイソウ var. japonicum の領分である。もう一度丁寧に調べた方がよい。もしかしたら,丸山巌氏の目録のように,或は奈良県のように,両変種が混在している可能性もある。


 【付 記】  2016.10.10

クガイソウ var. japonicum を一昨日鷲ヶ峯の遊歩道で確認した。丸山巌氏の記録以来56年ぶりの再発見ということになる。しかし,現地は銀座通りとも言える場所なので,単に今まで誰も調べなかっただけ。

まさか,ここ1ヶ所に限るという訳ではなかろう。今後,両変種の分布状況を調べてみると面白い。これで,両方ともが共存する特異地域は,奈良県と隠岐諸島ということになった。

なお,採集品は「花序軸に密毛,小花柄は2.5mm前後」で同定に何の問題もない。今後もっと調べる必要はあるが,「変異が大きく,中間型も現れる」ことはなさそうに思う。
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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