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 ハナゼキショウ Tofieldia nuda

ハナゼキショウとチシマゼキショウに関する,最新の論文(田村実 他,2011・2013)を読んだら以下のように整理されていた。今まで,細部の扱いに学者による微妙な差異があったようだが,DNAを調べて決着をつけたという印象がある。因みに,ユリ科ではなくオモダカ目チシマゼキショウ科となっている。DNA分析恐るべし。

(A) ---------------------------------
★ハナゼキショウ T. nuda
 日本固有  本州(近畿北部),九州(佐賀県・長崎県)

 ヤシュウハナゼキショウ T. furusei
 日本固有  本州(栃木県・愛知県東部・和歌山県南部)

 ヤクシマチャボゼキショウ T. yoshiiana var. yoshiiana
 日本固有  九州(屋久島)

  ヒュウガチャボゼキショウ T. yoshiiana var. hyugaensis
  日本固有  九州(宮崎県)

  T. yoshiiana var. koreana
  韓国固有  朝鮮半島中部

(B) ---------------------------------
 チシマゼキショウ T. coccinea var. coccinea
 千島・樺太・朝鮮北部・…・シベリア・アラスカ・カナダ
 北海道(中部以北)

 アポイゼキショウ T. coccinea var. kondoi
 朝鮮半島,済州島
 北海道(南部),本州(北部・中部)

★チャボゼキショウ T. coccinea var. gracilis
 日本固有  本州,四国,九州(大分県)

 ナガエチャボゼキショウ T. coccinea var. kiusiana
 日本固有  宮崎県

 ゲイビゼキショウ T. coccinea var. geibiensis
 日本固有  岩手県

 アッカゼキショウ T. coccinea var. akkana
 日本固有  岩手県

 エダウチゼキショウ T. coccinea var. dibotrya
 日本固有  神奈川県(丹沢)

それぞれ主たる分布域が示してあるが,これ以外の地域には “分布しない” ということではない。そうは言っても隠岐としては,(A)のハナゼキショウと(B)のチャボゼキショウ以外は無視してよいだろう。他のものは,場所が大きくずれていたり,産地の限定された地方変異だったりする。アポイゼキショウがちょっと気になるが,標高1,200m以上で南限が赤石山脈だという。

そして,中国地方はハナゼキショウよりもチャボゼキショウの可能性が強そうに思える。大慌てで採集に行って来た。結果は目出度くハナゼキショウで一安心。(A)のハナゼキショウ類と(B)のチシマゼキショウ類には,次のような差がある。
 (A) ----- 葉の縁は滑らか
 (B) ----- 微小な突起が密生
  ※ 微小な突起と言っても,葉縁細胞の突出で高倍率のルーペが必要。実体顕微鏡ならなおよい。突起が明瞭ではない葉が混在している事もあるらしい。


隠岐のものはチャボゼキショウではなく,ハナゼキショウである事が分かったので(少なくとも今回採集したのは)その分布を詳しく調べておくことにする。要約すれば,
  (a) 分布の中心は近畿北部にある,
  (b) 北陸へ多少広がる,
  (c) 山陰・九州北部へわずかに(4地点)に跳ぶ,
  (d) 全産地でことごとく絶滅危惧状態。

     ※ Ⅰ:絶滅危惧Ⅰ類,Ⅱ:絶滅危惧Ⅱ類,準:準絶滅危惧,不:現状不明
 【中部】
新潟     ・・・(古い記録があるが詳細不明)
富山 〔準〕 ・・・3ヶ所(上市町東部、黒部市南東部、立山町南部)
石川 〔Ⅰ〕 ・・・1ヶ所(南部)
福井 〔Ⅱ〕 ・・・2ヶ所(中央部)
長野 〔Ⅰ〕 ・・・1ヶ所(北部)
山梨     ・・・(記録なし)
岐阜     ・・・(不詳)
静岡 〔不〕
愛知 〔Ⅱ〕 ・・・2ヶ所(東部) ※ ヤシュウハナゼキショウ?

 【近畿】
滋賀 〔Ⅱ〕 ・・・生育地局限
京都 〔Ⅱ〕 ・・・生育地は限られており個体数(株数)も少ない。
兵庫 〔準〕 ・・・10ヶ所  ※ 北部・中部と範囲が広く,隠岐よりも豊富そう。
大阪     ・・・(記録無し)
奈良     ・・・(稀)  ※ チャボゼキショウ:〔Ⅰ〕
三重 〔Ⅱ〕 ・・・10ヶ所以下(北部)
和歌山〔Ⅰ〕  ※ ヤシュウハナゼキショウか??

★【中国】
島根 〔Ⅰ〕
 ・・・「県内での生育地は隠岐諸島にのみ知られているが、隠岐(島後)でも生育地
   はかなり限られている。」
   ※ 隠岐で10ヶ所は確認,島前にもある。特に海士町の豊田には大群生が
     ある。
鳥取 〔Ⅰ〕
 ・・・「現状は県内東部の地域で,数個体が確認できるのみ。愛好家による採取圧
   もあり,絶滅に瀕している。… 自生地では貧弱な個体が数個体生育するのみ
   で,周辺にも生育は確認できていない」
   ※ チャボゼキショウ:〔Ⅰ〕,中国地方で唯一の自生地。
岡山  ・・・(記録無し)
広島  ・・・(記録無し)
山口  ・・・(記録無し)

 【九州】
佐賀 〔Ⅰ〕 ・・・1ヶ所(黒髪山)
長崎     ・・・平戸島の記録があるというが,レッドデータブックには載って
          いない。『長崎県植物誌(中西弘樹 2015)』にも記載なし。
宮崎 〔Ⅰ〕 ・・・1ヶ所で絶滅寸前。 ※ ヒュウガチャボゼキショウのことであろう。

 【その他】
北海道・東北・関東・四国には記録なし。 関東ではヤシュウハナゼキショウ,四国でチャボゼキショウの記録を確認。

 シマキツネノボタン Ranunculus sieboldii の怪

一言で言えば “九州” の植物だが,その外側の広がり方が奇妙である。図鑑類に書いてある分布は「本州(中国地方)・四国・九州・琉球,台湾・中国」で,昔から変っていない。問題は,中国地方と四国である。

中国地方は,山口県と島根県のごく一部。そして四国は,たぶん徳島県の一部。しかも,生育地は少数で点的に離れており,個体数も多くはない。島根県の場合,3ヶ所の記録が残っているが,3番目は海を越えた隠岐島である。隠岐4島の内2つの島に,それぞれ1ヶ所ずつ。40年前から知っているが,多少減った程度で消えてはいない。そうかと言って,生育範囲が広がることもない。

途中が大きく抜けた “隔離分布” と言えば,普通は寒冷期の生残り(遺存分布)だが,本種は暖地のものなので当らない。元々の自生種でそこだけに “残った” とはどうも考えにくい。新たな “進出” 組には,シダのような胞子・ラン類の微細種子・野鳥の羽毛にくっ着く等の例があるが,そのような種子ではない。残る可能性は,人の移動に伴う移入(国内帰化)だが,仮にそうだとしても,場所が極端に限定され,生育量も極少なのが不思議である。

分布の状況を調べたのでメモしておくことにする。隠岐でもいつまで安泰か分ったものではない。

 【本州】
=== 島根県 =====
(a) 『国立公園候補地 隠岐島・島根半島・三瓶山』 丸山 巌,1960
  三瓶山:×,島根半島:○,隠岐島:○

(b) 『島根県大百科事典』 丸山 巌,1982
  島根県内の浜田や美保関にも見られる。

(c) 『県立自然公園の指定植物』 島根県,1985
  分布限界種
・・・ 浜田海岸県立自然公園のことであろう。

(d) 『しまねレッドデータブック』 2013
  情報不足(DD)
  県内では出雲部および石見部での一部に生育地があるとされる記録があるが、現在のところ不明であって、消滅したとも思われる。しかし、県内のその他の地に生育地が確認される可能性が考えられる。

=== 山口県 =====
(a) 『山口県植物誌』 岡 国夫,1972
  下関 T.Hirotsu 1915  ごく稀
  台湾,琉球に多いもので,本州ではほかに島根県の浜田(池上義信 1937,丸山 巌 1952)の標本が京大にあるだけである。上記も広津藤吉氏の標本がただ一枚である。

(b) 『山口県産高等植物目録』 山口県植物研究会,2000
  ごく稀

(c) 『レッドデータブックやまぐち』 2002
  絶滅危惧IA類
  県内では生育地が限定されており,個体数もごく少数である。
・・・山口県の人のウェブサイトに,秋吉台で2010年に写した写真があった。曰く「4~5年前まで探し、最近は諦めていた....『秋吉台国定公園の高等植物』には記録がなく....」。

=== 和歌山県 =====
(a) 『近畿地方植物誌』 村田 源,2004
  和歌山市
・・・これは知らなかったが,京大に和歌山県産の標本があるらしい。

 【四国】
=== 『徳島県植物誌』 阿部近一,1990
  宍喰町那佐
・・・レッドデータブックに登載されない事情は何だろうか?雑草(人里植物)は,減少・絶滅に気付かない,忘れられる,無視される,という傾向はあるが…。

=== 『愛媛県産野生動植物目録』 愛媛県,2002
・・・記録があるが,いつのものかは分らない。

=== 『香川県植物誌』 香川県,1981
・・・記載なし。

=== 『高知県植物誌』 牧野記念財団,2009
・・・記載なし。

 【九州】
=== 福岡県
・・・ネット上で,福岡市大濠公園で撮った写真(2007.3.20)を確認。

=== 『佐賀県植物誌』 馬場胤義,1981
  所により普通
・・・5ヶ所の産地を記載。

=== 『長崎県植物誌』 外山三郎,1980
  肥前各地 対馬(厳原)

=== 『大分県植物誌』 植物誌刊行会,1989
  低地の水湿地? 〔少〕
・・・現在の産地が挙げてない。古い標本が4点引用されているのみ。

=== 『宮崎県の生物』 編集委員会,1992
・・・記載なし。

=== 『熊本県植物誌』 編集委員会,1969
  稀? 熊本市,倉岳町(棚底),八代市
  よくわからなかったので資料が少なく,ここで一応 “稀?” とした。
・・・ネット上で,熊本市・上益城郡嘉島町・球磨郡の最近の標本を確認。

=== 『鹿児島県植物目録』 初島住彦,1986
・・・県本土の産地が5ヶ所と,離島名10個が挙げてある。本種には, “県本土” や “県本土各地” の語を使ってないので,本土側ではありふれたものではないのかもしれない。

=== 『琉球列島維管束植物総覧』 島袋敬一,1990
  琉球諸島  畦道
・・・他の文献でも「各島 路傍・畑地」となっていた。サイト “沖縄の草木” に「道端,原っぱ,庭,畑などによく見られる野草」とある。少なくとも有人島では,ごくありふれた雑草のようである。


要するに,無人島も含め本場は “南西諸島” 。和名のシマは南西諸島のシマである。そして別名:ヤエヤマキツネノボタン,八重山諸島と言えばほとんど台湾である。九州本土では分布に粗密もあるようだが,いつ頃どうやって隠岐までたどり着いたのか?

蘚類のシマヒョウタンゴケ Entosthodon wichurae の事を思い出した。これも沖縄では普通のコケ。しかし,九州本土でも鹿児島県以外はほとんど記録がない。その他は,紀伊半島で昔1度採集されたことがあるらしい。それが,隠岐の中ノ島(海士町知々井岬・金光寺山)に生育している。2005年の発見当時,学者は信じなかった。
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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