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 ヒメフタバラン Neottia japonica の分布

 1.県下の記録
このランを初めて知ったのは,以下の丸山巌氏の記事だったと思う。『島根県大百科事典(山陰中央新報社,1982)』

アオフタバラン 「… 隠岐島後に多い。 … なお,ヒメフタバランも … 隠岐島後に見られる。」

同氏の『国立公園候補地 隠岐島・島根半島・三瓶山(1960)』にはフタバラン属の記録はないので,その後になっての発見であろう。

『島根県の種子植物相(杉村喜則,2005)』では,
 「ヒメフタバラン 稀に分布:都万,布施」,
 「アオフタバラン 稀に分布」
となっている。はっきりはしないが,島根県では隠岐だけの記録のように思われる。

なお,『隠岐雑俎(岡部武夫,1950)』には,フタバラン(コフタバラン)1種が記録されている。しかし,亜高山帯の針葉樹林下のものなので誤認の可能性もある。

ヒメフタバランの標本は次の2点(記録)を確認できた。
 ・隠岐島後,萩庭丈寿 1977.4.22,国立科学博物館
 ・都万村那久,杉村喜則 1983.5.12,県立三瓶自然館

 2.群生地発見
長い間気にかかっていたが,この間(2014.4.16)やっと実物に出会った。旧布施村の林道沿い,5mほどの間に20株ほどが花を付けていた。一種の群生地と感じたが,非常に気付きにくい。2mも離れたら見えないし,近くで指差されてもじっと目を凝らさないと見えて来ない。花は地味な紫褐色,小さな2枚の暗緑の葉,背景の地面に沈んで区別ができないのである。

残る目標は,アオフタバラン N. makinoana の発見になるが,花期は7-8月。真夏の樹林内に踏み入るのはかなり厳しい。とりあえずはスギの植林地か…。

 3.分布状況
同定に問題はないので,分布状況を詳しく調べてみた。
       ※ ●:RDB登載,○:記録あり,×:記録なし

北海道 ×

青森 ×,秋田 ●,山形 ○,岩手 ×,宮城 ●,福島 ●

群馬 ×,栃木 ○,茨城 ●,埼玉 ●,東京 ●,千葉 ●,神奈川 ●

新潟 ●,富山 ×,石川 ×,福井 ×,岐阜 ●,長野 ●,山梨 ×,静岡 ●,愛知 ○

滋賀 ●,京都 ●,兵庫 ●,大阪 ×,奈良 ●,和歌山 ●,三重 ●

鳥取 ×,島根 ○,山口 ×,岡山 ×,広島 ●

香川 ×,徳島 ●,愛媛 ●,高知 ●

福岡 ●,佐賀 ●,長崎 ●,大分 ×,宮崎 ●,熊本 ×,鹿児島 ●,沖縄 ○

台湾 ○

分布は広いが,個体数は極めて少ない事が分かる。ただ,目につきにくいものなので過去の記録がなくても「無い」とは限らない。最近の調査によって初めて自生が明かになった県が数県ある。中国~近畿北部では以下のような感じである。

 ・島根県: 記録は隠岐だけ。40年かかってやっと確認できた。
        何故“絶滅危惧”になってないんだろう?
 ・広島県: 絶滅危惧Ⅱ類,現状確認されている産地は2-3?ヶ所。
 ・山口・岡山: 昔から詳しく調べられている県であるが記録がない。
 ・兵庫: 絶滅危惧Ⅰ類,「県内では1ヶ所に知られているが、最近は確認できない。」
 ・京都: 絶滅危惧Ⅰ類,「産地や個体数が極めて少ない。」
 ・滋賀: 情報不足,「比叡山に記録があるが,分布現況は明かではない。」

 ネコノメソウ Chrysoplenium grayanum

分布は全国で特に珍しいものではないが,隠岐にとっては重要種である。この冬にまとめた『隠岐版レッドデータブック』では “絶滅危惧ⅠA類” とした。隠岐には何故少ないかはっきりしないが,多分高い山がないからであろう。隠岐と同緯度で隠岐より標高の低い千葉県を調べてみたら,案の定 “準絶滅危惧種” になっていた。

本種は「本来夏緑林帯のものであるが,照葉林帯 “にも” 生える」という。そうではあろうが,近くに高い山の控えている低地と,低地しかない地域では事情が異なるはずである。つまり,暑い夏が続いて低地で絶滅したらそれで終りになる地域と,その後にも低地へ送り出す供給基地(高地)が残っている地域との違いである。

30年ほど昔の話になるが,皆市から那久方面への林道沿いの谷筋に広大な群生地があった(峠近くで標高300m)。その後,林道の拡幅工事で生育地が消滅,最近までわずかに数本残っていたが,それも今は見られない。

何故1ヶ所だけなのか?気になっていたが,今回ついに海士町の中里地区で見付けた(2014.3.31)。1群落のみであるが,長さ2mほどの密な群生で元気が非常によい。以前から「ここのは何か違う」とぼんやり感じてはいたのだが,「まさかこんな低い場所(海抜60m)に」という思い込みが邪魔をした。気付いたからいいようなものの…。

何はともあれ,ありふれているヤマネコノメソウ C. japonicum と区別できなければ困る。今まで同じに見えていたが,図鑑を読んでみたら,そしてよく見てみたら,はっきり違うものだった。難しい点は何もない。一目で見分けられる。

  ヤマネコノメソウ ⇒ ネコノメソウ
(1) 同定
・茎葉: 互生  ⇒ 対生
    ------ 茎に付く葉は少なく1(-2)枚  ⇒ 1-2対の対生葉がきちんとある
・雄蕊: 8本  ⇒ 4本
    ------ 時に6本程度のものも混じる  ⇒ 常に4本

(2) 見かけ
・葉の形: 広い円形  ⇒ 広卵形
    ------ 葉先は円弧状で全く尖らず  ⇒ 鈍頭ではあるが葉先は尖る
・葉の鋸歯: 幅広くて低い  ⇒ 細かく数多い
    ------ 鈍形で切れ込みも目立たない  ⇒ はっきりギザギザした本物の鋸歯
・苞葉の色: 淡黄緑  ⇒ 黄色味が強い(開花時)
    ------ あまり目立たない  ⇒ 明るくてパッと目立つ(果期には褪める)
・群落: 小さな固まりが散在  ⇒ 密に群生してマット状に広がる
    ------ 連続的な大集団は作らない  ⇒ 走出枝を出して広大な純群落を作る

(3) 環境
・環境: やや湿り気味  ⇒ 本当の湿地(別名ミズネコノメソウ)
    ------ 乾いた場所にも見られる  ⇒ 常に水に濡れている(流水)場所
・標高: 照葉林帯・里・低山地  ⇒ ・夏緑林帯・山・主に高地(和名が逆)
    ------ 山麓の林縁・水田付近  ⇒ 里にも出るが本来は山地の渓流沿い

皆よく似ていて難しいネコノメソウ属(変種を含めて20数種)だが,この2つは変り者なので安心してよい。雄蕊は8本が基本数で,4本に限るのはネコノメソウだけ。また,茎葉が互生のものは,ヤマネコノメソウの他には,タチネコノメソウ・エゾネコノメソウ・ツルネコノメソウの3種のみ。ただ,ヤマネコノメソウが “互生” だと言われても,普通は茎の上の方に葉が1枚ポツンとあるだけ。確かに “対生” ではないのだが,面喰らう。


他に隠岐の記録があるのは以下の2種。分布上はこちらの方が価値が高い。

 ホクリクネコノメ C. fauriei
分布は新潟県~島根県の日本海側。島根県は隠岐と島根半島が中心。県本土では稀なようだが隠岐には多い。ただし島前では,高崎山と焼火山でわずかに見られるのみ。

 ボタンネコノメソウ C. kiotense
分布は長野県から~島根県の脊梁山地。島根県の産地は中国山地の岡山・広島との県境地帯。分布の中心は,岐阜県~近畿のようで北陸には産しない。隠岐で発見できれば貴重である。

隠岐の唯一の記録は,高尾暖地林の標本(杉村喜則,1972)のみ。本当かな~と思っていたが,『日本の固有植物(2011)』の分布図にも出ていて驚いた。早速本気で捜すことにする。
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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