ヨシノヤナギ Salix yoshinoi か?
ヤナギを調べ始めてから今年で5年目。隠岐の状況は以下のようになった。
〔確認種〕
マルバヤナギ S. chaenomeloides ごく稀(1ヶ所)
タチヤナギ S. triandra 稀(3)
オオタチヤナギ S. pierotii 普通
イヌコリヤナギ S. integra ごく稀(2)
ワケノカワヤナギ S. × mictostemon 稀(5)
ネコヤナギ S. gracilistyla 普通
〔過去の記録のみ〕
ジャヤナギ S. eriocarpa
カワヤナギ S. miyabeana ssp. gymnolepis
〔植栽品〕
*シダレヤナギ S. babylonica
*ウンリュウヤナギ S. matsudana cv. Tortuosa
*イヌコリヤナギ
*コリヤナギ S. koriyanagi
*ヤマヤナギ S. sieboldiana
*フリソデヤナギ S. × leucopithecia
そしてこの〔不明種〕,海士町中里地区の溜池の中に2本(♀)だけある(発見:2012.11.29)。 高さは4mほど,“葉が小さく細い” のが何よりの特徴。枝は細くて柔らかに混み合い,なよなよと女性的な感じがする。
ヨシノヤナギでないとすれば, “雌花” の特徴からシロヤナギ S. dolichostyla ssp. dolichostyla 又はその亜種コゴメヤナギ S. dolichostyla ssp. serissifolia 以外は考えられないが次のような矛盾がある。
なお,花穂は開化し終って柱頭が黒ずみ始める段階で観察した。更に成熟が進むと花穂が伸張し,子房も大きくなるので。
(1) 雌花穂の長さが約1.3cm。
-----> シロヤナギは約3cm。
(2) 子房は先端部を除き長毛が密生する。
-----> コゴメヤナギは基部にのみ微毛があるか又は無毛。
(3) 花柱は明瞭で,柱頭(両側に反り返る)とほぼ等長。
-----> シロヤナギ・コゴメヤナギとも花柱は殆どなく,柱頭の方がはっきり長い。
以上からヨシノヤナギという結論にせざるを得ない。それでよいとも思ったが,やや不満な点(数値の微妙なずれ等)があるので,それを書いておく積りであった。決定的な矛盾があったわけではない。ところが,今になって腺体2個の雌花が混じっている花穂が見付かった。時々背腺体が発達するのはシロヤナギに限る特徴のようである!
以前から疑っていたことであるが,雑種の可能性も考えられる。雑種なら素人はお手上げである。雑種を解説した文献はまずないし,そもそもまだ記載されていない可能性さえある。雑種であるかどうかの判断も,外部形体からは “推測” に拠る他ない。しばらく休戦。スッキリするのは何時になることやら…。気を永~く持つことにする。
【追記 2015.4.9】
ヤナギ類の記載は著者によって微妙に違っている事がある。上記の3種について形質の一覧(対照)表を作るべく,基本的な4つの文献を丁寧に読んでいた。
※ 以下,和名は狭義。
『Flora of Japan (H. Ohashi, 2006)』のヨシノヤナギの記載中,「雌花の腺体は1,稀に2(背腺体と)」という部分に気付いた。知らなかった!他の文献は皆「腺体は1」となっている。
今後は「“時々”腺体2がシロヤナギ,“ごく稀に”腺体2がヨシノヤナギ」と見なすことにする。前回,腺体2の雌花を高い頻度で含む花穂にぶつかり,「雑種かぁ~」と落込んでブログを中断したがこれでまた元気が出て来た。むしろ,ヨシノヤナギである可能性が高まったような気がする。
実は前回中断後,「どの程度のものか」と10数個の花穂を調べてみたのだが,そんな例は結局2個しか見付からなかった。そして,ヤナギの花に時に現れる単なる例外では?と無視しようとしていたところだった。
突然光が見えてきたので,候補が本当に上記3種に限られるかどうか再チェックしてみた。ついでに「隠岐版検索表」もより精密なものに直した。
[⇒ ヤナギ属の検索表 (隠岐版)]
ヨシノヤナギで不安に感じていた点も,点検し直したらそれほど大きなものではなかった。[ ]内は標準値。
(a) 雌花穂の長さが±1.3cmとやや長い。 [1~1.2cm]
(b) 花柱の長さが±0.4mmと短い。 [0.5-0.8mm]
種内変異の範囲と考えることにする。少なくとも雑種を疑うほどの差異とも思えない。
念の為に『Flora of Japan』にリストアップされた雑種40種類に当ってみたが,ヨシノヤナギが関係するものはなかった。唯一シロヤナギ×シダレヤナギがあったがこれは考えなくてよいだろう。
まだ成葉でのチェックが不完全だが,雌花については一段落したと思う。ついでに,奇妙な特徴をメモしておくことにする。
開花の各段階(蕾~果実)を点検するため,何度も枝の “水挿し” をやって来た。ところが,このヤナギは極めて水揚げが悪い。一日も持たないで萎れ,花穂や葉が垂れ下がる。他のヤナギとは全く事情が違う。他のは皆元気一杯,花瓶の中に根を張り巡らせる。恐らくこの2本の個体に限った生態変異であろう。種としての特徴とは考えにくい。
【追記 2015.4.30】
西日本で初めてシロヤナギを発見された(2000?)片山久氏の,『岡山県産ヤナギ科植物Ⅰ』(2004)にある検索表を抄出する。雌花穂に関して。
G1 受粉後の穂は25mm以上に伸張する・・・・・・・・・シロヤナギ
G2 受粉後の穂は伸張しても20mmまでである
H1 葉は両面とも黄緑色,子房は無毛・・・・・・・・・コゴメヤナギ
H2 葉の上面は緑色,下面は淡緑色,子房は多毛・・・・ヨシノヤナギ
H3 葉の上面は濃緑色,下面は粉白色,子房は少毛・・・ウラジロヨシノヤナギ
開花を見てから20日以上過ぎたので,花穂の伸び具合を見に行って来た。実測値は最大でも19mm,1.5倍の長さになっていた。
子房ははっきり “多毛” ,葉の下面は “粉白” でもないので,ヨシノヤナギと見なすことにする。
〔確認種〕
マルバヤナギ S. chaenomeloides ごく稀(1ヶ所)
タチヤナギ S. triandra 稀(3)
オオタチヤナギ S. pierotii 普通
イヌコリヤナギ S. integra ごく稀(2)
ワケノカワヤナギ S. × mictostemon 稀(5)
ネコヤナギ S. gracilistyla 普通
〔過去の記録のみ〕
ジャヤナギ S. eriocarpa
カワヤナギ S. miyabeana ssp. gymnolepis
〔植栽品〕
*シダレヤナギ S. babylonica
*ウンリュウヤナギ S. matsudana cv. Tortuosa
*イヌコリヤナギ
*コリヤナギ S. koriyanagi
*ヤマヤナギ S. sieboldiana
*フリソデヤナギ S. × leucopithecia
そしてこの〔不明種〕,海士町中里地区の溜池の中に2本(♀)だけある(発見:2012.11.29)。 高さは4mほど,“葉が小さく細い” のが何よりの特徴。枝は細くて柔らかに混み合い,なよなよと女性的な感じがする。
ヨシノヤナギでないとすれば, “雌花” の特徴からシロヤナギ S. dolichostyla ssp. dolichostyla 又はその亜種コゴメヤナギ S. dolichostyla ssp. serissifolia 以外は考えられないが次のような矛盾がある。
なお,花穂は開化し終って柱頭が黒ずみ始める段階で観察した。更に成熟が進むと花穂が伸張し,子房も大きくなるので。
(1) 雌花穂の長さが約1.3cm。
-----> シロヤナギは約3cm。
(2) 子房は先端部を除き長毛が密生する。
-----> コゴメヤナギは基部にのみ微毛があるか又は無毛。
(3) 花柱は明瞭で,柱頭(両側に反り返る)とほぼ等長。
-----> シロヤナギ・コゴメヤナギとも花柱は殆どなく,柱頭の方がはっきり長い。
以上からヨシノヤナギという結論にせざるを得ない。それでよいとも思ったが,やや不満な点(数値の微妙なずれ等)があるので,それを書いておく積りであった。決定的な矛盾があったわけではない。ところが,今になって腺体2個の雌花が混じっている花穂が見付かった。時々背腺体が発達するのはシロヤナギに限る特徴のようである!
以前から疑っていたことであるが,雑種の可能性も考えられる。雑種なら素人はお手上げである。雑種を解説した文献はまずないし,そもそもまだ記載されていない可能性さえある。雑種であるかどうかの判断も,外部形体からは “推測” に拠る他ない。しばらく休戦。スッキリするのは何時になることやら…。気を永~く持つことにする。
【追記 2015.4.9】
ヤナギ類の記載は著者によって微妙に違っている事がある。上記の3種について形質の一覧(対照)表を作るべく,基本的な4つの文献を丁寧に読んでいた。
※ 以下,和名は狭義。
『Flora of Japan (H. Ohashi, 2006)』のヨシノヤナギの記載中,「雌花の腺体は1,稀に2(背腺体と)」という部分に気付いた。知らなかった!他の文献は皆「腺体は1」となっている。
今後は「“時々”腺体2がシロヤナギ,“ごく稀に”腺体2がヨシノヤナギ」と見なすことにする。前回,腺体2の雌花を高い頻度で含む花穂にぶつかり,「雑種かぁ~」と落込んでブログを中断したがこれでまた元気が出て来た。むしろ,ヨシノヤナギである可能性が高まったような気がする。
実は前回中断後,「どの程度のものか」と10数個の花穂を調べてみたのだが,そんな例は結局2個しか見付からなかった。そして,ヤナギの花に時に現れる単なる例外では?と無視しようとしていたところだった。
突然光が見えてきたので,候補が本当に上記3種に限られるかどうか再チェックしてみた。ついでに「隠岐版検索表」もより精密なものに直した。
[⇒ ヤナギ属の検索表 (隠岐版)]
ヨシノヤナギで不安に感じていた点も,点検し直したらそれほど大きなものではなかった。[ ]内は標準値。
(a) 雌花穂の長さが±1.3cmとやや長い。 [1~1.2cm]
(b) 花柱の長さが±0.4mmと短い。 [0.5-0.8mm]
種内変異の範囲と考えることにする。少なくとも雑種を疑うほどの差異とも思えない。
念の為に『Flora of Japan』にリストアップされた雑種40種類に当ってみたが,ヨシノヤナギが関係するものはなかった。唯一シロヤナギ×シダレヤナギがあったがこれは考えなくてよいだろう。
まだ成葉でのチェックが不完全だが,雌花については一段落したと思う。ついでに,奇妙な特徴をメモしておくことにする。
開花の各段階(蕾~果実)を点検するため,何度も枝の “水挿し” をやって来た。ところが,このヤナギは極めて水揚げが悪い。一日も持たないで萎れ,花穂や葉が垂れ下がる。他のヤナギとは全く事情が違う。他のは皆元気一杯,花瓶の中に根を張り巡らせる。恐らくこの2本の個体に限った生態変異であろう。種としての特徴とは考えにくい。
【追記 2015.4.30】
西日本で初めてシロヤナギを発見された(2000?)片山久氏の,『岡山県産ヤナギ科植物Ⅰ』(2004)にある検索表を抄出する。雌花穂に関して。
G1 受粉後の穂は25mm以上に伸張する・・・・・・・・・シロヤナギ
G2 受粉後の穂は伸張しても20mmまでである
H1 葉は両面とも黄緑色,子房は無毛・・・・・・・・・コゴメヤナギ
H2 葉の上面は緑色,下面は淡緑色,子房は多毛・・・・ヨシノヤナギ
H3 葉の上面は濃緑色,下面は粉白色,子房は少毛・・・ウラジロヨシノヤナギ
開花を見てから20日以上過ぎたので,花穂の伸び具合を見に行って来た。実測値は最大でも19mm,1.5倍の長さになっていた。
子房ははっきり “多毛” ,葉の下面は “粉白” でもないので,ヨシノヤナギと見なすことにする。