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 セイタカハリイ Eleocharis attenuata

オオハリイを調べていて,以前本種を見付けていたことを思い出した。稀産種らしいと気付いたのであわてて確かめに行って来た。場所は都万のロンザの池,今から7年前(2008.9.5),コケに熱中していた時代でぼんやりとしか覚えていない。信じられないようなコケ(オチツボミゴケ)を発見,そのそばにあった本種もついでに持ち帰ったもの。

同定はすんなり行った記憶があるが,どんな感じでどの程度生育していたかは忘れてしまっている。同定を盤石にしておきたいし,現状確認もしたい。結果は流石ロンザの池,昔のままの状態(多分)で残っていた。この池は隠岐でも数少ない自然度の高い沼で,利用価値がなくて人が行かないのが何より。

40cm前後の茎(稈)をおっ立てて見事な株がズラリ,胸をなで下ろした。ハリイという名はついているが,これを見てハリイ E. pellucida を連想する人はそういないだろう。ハリイとはまるで大きさが違う。ハリイ属 Eleocharis の同定は結構難しいのだが,本種は「(a) でかい柱基と (b) 短い刺針状花被片」で明快そのもの。実に気持ちが良い。「小穂は色が淡くて,幅広い卵形」が外見上の特徴。

あちこちでレッドデータブックに登載されているので,全国の分布状況を丁寧に調べることにした。
       (×:記録なし,●:レッドリスト種,◎:稀,○:やや普通,?:資料なし)
北海道:×
青森:◎,岩手:●,宮城:○,福島:◎,秋田:●,山形:●
茨城:◎,栃木:●,群馬:●,千葉:●,東京:●,埼玉:×,神奈川:◎
長野:×,岐阜:?,山梨:×,静岡:◎,愛知:●,
新潟:×,富山:×,石川:×,福井:◎
滋賀:●,奈良:●,和歌山:●,京都:●,大阪:●,兵庫:◎
鳥取:◎,島根:○,岡山:◎,広島:×,山口:×
香川:◎,徳島:●,愛媛:●,高知:●
福岡:●,佐賀:×,長崎:×,大分:◎,熊本:×,宮崎:●,鹿児島:○,沖縄:●

分布は広いが全国的に稀産。やや普通かと思われたのは,宮城・島根・鹿児島の3県のみ。南北の外れの2県と島根,ちょっと気になる。県下に杉村喜則氏による計15地点での標本がある。隠岐産は西ノ島町美田貯水池(1991.8.11)。なお,長野県の記録はあるが(横内齋 1983),『長野県植物誌(1997)』は“未確認種”として記載せず。


2015.7.15 ロンザの池


  ### 隠岐版 ### 
 【追記 2015.7.21】
杉村先生の記録にある美田ダム奥の溜池(西ノ島町)へ昨日行ってみた。採集は20年以上昔の事だが,この溜池は改修されていないので,ひょっとしたらという期待はあった。近年の改修工事によって隠岐の溜池のほとんどは死の世界と化したが,ここは貴重な例外。西ノ島で田を作る人がいなくなったのが幸いした。耕作放棄田ばかりでは改修工事の大義名分が立たない。

有り難いことに10株程度の生育を確認できた。茎の高さ20~50cm程度。水が乾き気味だったためか,小穂が長さ5mmまでの短い卵形,本種の特徴が一層よく出ていて一目で確信した。鱗片が幅広くて円頭(~切頭)であるのも分かり易い特徴。

以下は他県のレッドデータブックの引用。
  〔福岡県〕 絶滅危惧ⅠA類
1970~80年代に既に希少な植物だった。福岡市で1975年に,北九州市で1982年に採集されて以後,確認情報がない。ため池の改修などにより特に絶滅が危惧される。
  〔愛媛県〕 絶滅危惧Ⅱ類
いくつかの溜め池や休耕田で生育が確認されたため、前回の情報不足(DD)を絶滅危惧Ⅱ類(VU)に変更したが、自生地開発や植生遷移で減少している。

 ヤマアジサイとエゾアジサイとの区別

  ### 隠岐版 ### 

 Ⅰ.難問
樹木の図鑑に以下のようなくだりがある。図鑑に“中間形”という言葉が出て来たのは記憶にない。中間形自体はしばしば例があるのだが,それが稀にしか見られなかったり分布が限定的であればそれほと問題ではない。普通に,しかも広い地域で出現するということだろうか。おまけに変異も多いという。
 (a) 「エゾアジサイとヤマアジサイとの分布の接するところでは中間型がある。」
       (北村四郎,1979)
 (b) 「九州から山陰,北陸地方には中間形があって,区別に悩まされる。」
       (倉田悟,1976)

 Ⅱ.検索表
手掛かりはまず検索表,『Flora of Japan (H. Ohba, 2001)』のものを使う。
・ヤマアジサイ Hydrangea srrata var. serrata
   ------ 葉の長さ:5-10(-13)cm,幅:(3-)4-5cm。
        蒴果の長さ:3-4(-5)mm。
・エゾアジサイ Hydrangea serrata var. yesoensis
   ------ 葉の長さ:(10-)13-17cm,幅:5-10cm。
        蒴果の長さ:5-7mm。

明快な検索表である。「葉の長さ:13cm以上,幅:6cm以上」と覚え込んで,自宅近くを2-3日見歩いた。結果は予想に反して「全部エゾアジサイ」になった(どこが中間型?)。葉の幅が特に広く(茎の途中に着くよく生長したもの),5cm以下のものなど存在しない。隠岐には(少なくとも海士町には)“中間型”はないということか・・・。

ところが,蒴果(昨年のが枯れ残っていて好都合)に注目したらそうでもなかった。長さ3mm強の小さなものがほとんどで,確実に長さ5mmを越える株はまだ1株しか確認できていない。より安定しているように見える蒴果の大きさを重視すると「全部ヤマアジサイ」となってしまう!確かに簡単ではなさそうだ。

※ 蒴果の長さは花柱(普通3)を含めて測る。「花柱とともに」ときちんと書いてあったのは『大井:日本植物誌』のみ,流石だ!保育社の図鑑にある
  「蒴果の幅(径)が,ヤマ:2mm,エゾ:2.5~3mm」も使い易い。

 Ⅲ.葉形
大きさのみの機械的な判断は駄目そうなので,葉の形の違いを検討してみた。変異があるので常にそうなるとは限らないが,一つの典型(標準型)としての意味がある。イメージとして,ヤマアジサイは『樹木の葉(林将之,2014)』,エゾアジサイは『樹に咲く花(茂木透 他,2000)』の写真を選ぶ。ただし本物を知らないので文献一辺倒。恐らく,ヤマアジサイの本場は関東,エゾアジサイは北海道であろうが。
 ・ヤマアジサイ: 葉身は長楕円形,
            基部は狭い楔形,先端は漸尖し細長く伸びる。
 ・エゾアジサイ: 葉身は広楕円形~卵状広楕円形,
            基部は広い楔形~やや切形,先端は急に尖り尾状に突出。

エゾアジサイの葉の極端形で,葉基部がほとんど切形で広卵形のものがある。今後,このタイプのエゾアジサイをもっと探したい。同時に,葉のはっきり小さく細いヤマアジサイも。稀にだが過去に見た記憶はある。

結局隠岐では,「ごく少量の ①典型ヤマアジサイと ②典型エゾアジサイ,そして大量の ③中間型アジサイ」がありそうな気がする。この中間型がどちらなのかが問題である。大量にある集団が,2種類からなる混生だとは考えにくい。どちらか一方なのではないか・・・。“自分の結論”が必要だが少し時間がかかりそう。

 Ⅳ.記録
まず地元の人から。
(1) “国立公園候補地 隠岐島・島根半島・三瓶山”(丸山巌,1960)
 「ヤマアジサイ:三瓶山,エゾアジサイ:三瓶山・島根半島・隠岐島」
そして,島根県大百科事典(丸山巌,1982)で次のように述べる。
 「一般に山陰地方のヤマアジサイは,日本外帯産のものとエゾアジサイとの中間的形態を示し」
   ----- 県下ではエゾアジサイの方が普通という見解。隠岐には
       ヤマアジサイはない。
(2) “島根県の種子植物相”(杉村喜則,2005)
  「ヤマアジサイ:全域に分布,エゾアジサイ:隠岐,出雲部に稀に分布」
   ----- ヤマアジサイの方を分布が広いと判断。隠岐での採集標本は,
       ヤマアジサイ:1,エゾアジサイ:6。
(3) 『原色日本林業樹木図鑑』(地球社,1976)他
  「ヤマアジサイ:焼火山」
(4) 『日本の固有植物』(東海大学出版会,2011)
  「エゾアジサイ:分布図のプロットが,隠岐:1,鳥取:1。本文に,“島根以東…”」

 Ⅴ.分布
(a) 『原色日本植物図鑑』(保育社,1979)
 ヤマアジサイ: 本州(関東以西太平洋側)・四国・九州・朝鮮南部
 エゾアジサイ: 北海道・本州(東北地方,北陸地方以西は日本海側)・九州
(b) 『Flora of Japan』(KODANSHA, 2001)
 ヤマアジサイ: 本州(福島県以南の太平洋側)・四国・九州。日本固有。
 エゾアジサイ: 北海道・本州(青森県~京都府の日本海側)・九州(北部と大隅半島)
(c) “アジサイの新変種ナンゴクヤマアジサイ”(山崎敬,2001)
 大隅半島産の新変種。以下はその記載文の一部。
「・・・エゾアジサイは北九州にもあるとされることがあるが,北九州のものはヤマアジサイの葉の広い個体であって,エゾアジサイとし得るものは鳥取県の大山あたりが西限とみられる。・・・」
(d) 『近畿地方植物誌』(村田源,2004)
 加えて,近畿地方に両方共あることを明記しておきたい。これは疑いようがない。現行の“形態学的種”としては。
 「ヤマアジサイ:全7府県,エゾアジサイ:兵庫・京都・滋賀」
 エゾアジサイの“葉は大きくて円い”との付記あり。

 Ⅵ.DNA分析
そもそもこの2つは区別できるのか?(特に近畿以西の日本海側で)という疑問もあるが,昨年興味深い論文が発表されている。
“Phylogenetic Relationship of Hydrangea macrophylla (Thunb.) Ser. and H. serrata (Thunb.) Ser. Evaluated Using RAPD Markers and Plastid DNA Sequences” (T. Uemachi, Y. Mizuhara, K. Deguchi, Y. Shinjo, E. Kajino and H. Ohba,2014)

サンプルは日本全国の広い範囲から取られているが,園芸品種として栽培されている野生種に限っているので,わずか41地点と少ない。なので,結論がどの程度一般化できるかはまだ分からない(第2弾を切望する)。島根県からは益田市産の“コモチシチダンカ(子持七段花)”が選ばれている。

この論文によると,エゾアジサイとヤマアジサイは2つ(別系統)に分かれている。更に,ヤマアジサイは ① 東海・関東型,② 四国・九州型,③ 近畿・中国型の3グループに分かれるという。従って,エゾアジサイとヤマアジサイとはそれぞれ独立種とすべきという言及もある(学名上も)。

気になるのは,エゾアジサイが東北と新潟のサンプルのみで,近畿以西のものは全てヤマアジサイグループになっている点である。まさか,近畿以西のものは全て,
“実はエゾアジサイ似の葉の大きいヤマアジサイだった”・・・??

 Ⅶ.葉の表皮細胞
“アジサイ(広義)の葉の解剖学的研究”(横浜国立大 佐藤嘉彦,1989)という報告もある。葉の薄い切片を作るのが難しいが,いざという時には同定の役に立ちそうである。

5例ほど実際に試してみたが,ガクアジサイ以外はすべてヤマアジサイに見える!隠岐に沢山あるアジサイ群(中間型)は,果たしてエゾアジサイなのかヤマアジサイなのか?
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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