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 サンインヨロイグサ について

隠岐のシシウドは「葉の裏に毛がないが…」という指摘を受けて(西ノ島町の真野信茂さんから),隠岐4島のものを春からチェックして来た。確かに,今まで見た限りでは全て無毛である。今回,知夫村と海士町で果実を採集できたので(それぞれ1株ずつ),果実の断面を検鏡してみた。

分類は,山崎敬博士の以下の論文に従う。掲載誌はいずれも “植物研究雑誌” 。引用した和名・学名はネット上の “YList” でも採用されている。

 [Ymz1]: 日本におけるエゾノヨロイグサの変異 (1986)
 [Ymz2]: 日本におけるヨロイグサ,エゾノヨロイグサ,シシウドについて (1989)
 [Ymz3]: Umbelliferae in Japan Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ (2001)

[Ymz1]で以下のくだりをを読んで,「島根県周辺は妖しくて未解決,今後の課題か…」と残念に思った記憶がある。

 「… 問題なのは山陰地方のものである。 … 中国地方では瀬戸内側には普通のシシウドがあるが,京都府北部,兵庫県北部,鳥取県,島根県,山口県東北部には葉の裏面がほとんど無毛のものがある。中国地方の日本海側に一定の分布域をもつように思われる。
 葉は質が薄く,裏面は淡緑色であって,葉がやや厚く,裏面が白味を帯びるミチノクヨロイグサとは異なり,シシウドの一型と思われるが,果実の油管はややミチノクヨロイグサ型に似るものが多い。
 しかしこの地域のものがシシウドと実際に分布域が異なるのか,ミチノクヨロイグサもありはしないかといったことは資料不足で,現地を歩いて十分調べないと結論がだせない。 …」


実はその3年後に回答が出ていたのだが,公務が忙しく植物どころではなくなってしまった。それを今(27年後)になって読んでいることになる!
  サンインヨロイグサ
    Angelica sachalinensis Maxim. var. sachalinensis
                      f. saninensis T.Yamaz.
は,[Ymz2]で新記載された。解説文の一部を抄出する。

  「… 鳥取県大山にエゾノヨロイグサに似たものがあり, … これをどう扱うべきか解らなかった。ミチノクヨロイグサとは葉の形が似るが裏面が白くないので異なる。しかし,近畿地方や中国地方でシシウドと同定された標本の中にこれに類するものが見出され,おおよその分布を知ることができた。
 葉の最終裂片の形には大小の変化があるが,大体シシウドに似る。しかしシシウドは葉の裏面脈上に短毛がやや密に生えるのに対し,まったく無毛なので容易に区別できる。ただミチノクヨロイグサほど葉の裏は白くないので,シシウドと間違え易い。 …
 葉が無毛である以外に大きな特徴は,果実の背面の溝に沿う果肉内に1本ずつの太い油管が走ることである。しばしば細い油管がもう1本加わることもあるが,太い油管が1本走るのが基本である。シシウドではここに細い油管が2-3本走っている。
 こうした性質からすると,中国地方のエゾノヨロイグサは,外観が似ていて同所的に生育するシシウドとは直接の関係がなく,ミチノクヨロイグサや東北地方や北海道のエゾノヨロイグサと関係があり,それらと同種であると結論される。 …」


シシウドに外見はそっくりで実は別種,驚くべき結論である。同定は,
 ① 葉の裏面に毛がない,
 ② 果実背面の溝に油管が1(-2)本ずつ,
 ③ 葉の裏は白味を帯びない(単に淡緑),
を確かめればよい。

隠岐で果実を調べたのはまだ2例に過ぎないが,①・②・③とも明瞭にクリアしている。そして,今まで一度も “裏面脈上に毛のあるシシウド似” のものには出会ったことがない。隠岐は全部がサンインヨロイグサで,本当のシシウド A. pubescens はないのかもしれない!呆れた話である。今までは全部シシウドだと思い込んでいた。過去の記録や先人達の話を鵜呑みにして。

しかし,上記論文の引用標本(残念ながら隠岐のものは含まれていない)によると,本土側(京都府~山口県)にはシシウドとサンインヨロイグサが共存していることになる。サンインヨロイグサを確認している地元の人はいるんだろうか?何しろ2016年現在,サンインヨロイグサの載っている図鑑や植物誌がない。来年3月刊行予定の『改訂新版 日本の野生植物 5』が興味津々。サンインヨロイグサの図鑑デビューはあるか?

論文[Ymz2]後に植物誌『Flora of Japan Ⅱc』(1999)が刊行されたが,何故かサンインヨロイグサだけは落ちている。ウッカリミスなどという事はあり得ない。何も言及せず黙って無視するのか…!風の噂では学者間の感情問題も絡んでいるように思われる。
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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