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 ナガミノオニシバ Zoysia sinica var. nipponica の分布

今年の夏に発見したものだが(2017.7.19),島根県には過去の記録がない。今頃になっても “県初” が見付かることに驚く。隠岐で,何時まで続くのだろう…。

“海岸にしか生えない” という本来の海岸植物(狭義)で,砂浜の湿地が好みらしい。塩分には滅法強く,満潮時に海水を被るような砂泥地にも群落を作るという。
現地は高さ数メートルの海食崖の上の平地で,浅い小さな沼がある。 “塩沼池” とは思っていなかったが,時化ると海水の飛沫が降ってくるのだろう。水の中はカモノハシの大株が目立ち(優占種はミソハギ),周辺にはヤマイ・イソヤマテンツキといった,海辺を好む連中が集っている。

この場所には何度も来ているが,今までは単なるシバ Zoysia japonica だと思って見向きもしなかった。実際,周囲の乾いた場所にはシバが広がっている。
今回たまたま,「えっ!シバが水の中に生えるかな…?」との思いが浮かんだ。時間がたっぷりあって,のんびり気分だったのがよかったと思う。

同定上は,シバとの区別が問題になるが,以下の検索表に従った。
      (木場英久,2001)
 ・小穂長は5~7mm,海岸の湿地に生える ------- ナガミノオニシバ
 ・小穂長は2~4mm,内陸にも生える ----------- シバ(3mm内外)その他
シバとは見かけが相当違うし,その他の細かい差異も色々ある。これについては,今後丁寧に調べてみたい。

隠岐に自生する事の意義を知るために分布を調べてみた。図鑑類の記述は一様に  「本州(関東以西)~九州,朝鮮半島・中国(東北部)」  となっている。ただしこれは,大学や博物館等の公的な機関に収蔵されている標本に基づいたもので, “主たる” 分布域を表したものに過ぎない。

詳しい分布状況や例外的な隔離分布,南限・北限等を知るためには,地方植物誌や関係論文(報告書)をチェックする必要がある。地元の人はよく知っているのに,「図鑑の分布域には含まれてない」こともよくある。

分布が「関東以西」となっているものは,隠岐が北限自生地の可能性がある。早速,競合県(緯度が同じ)である福井県(日本海側)と茨城県(太平洋側)を調べたら,両県とも記録がない。さては!と喜んだがそうではなかった。悔しいので分布を細かく調べることにした。

 〔四国・九州〕
まず,四国と九州は全県の記録があるので,省略する。ただ,香川・高知・熊本・鹿児島の各県でレッドデータブックに載っており,ありふれているとまでは言えないようだ。
また,何故か沖縄県には自生しない。母種のコオニシバ Z. sinica var. sinica に置き換わっている。因みに,コオニシバの北限は種子島とされるが,実際には大分県南部にも自生あり(稀)。

 〔日本海側〕
本州については,まず日本海側。確認記録があるのは,山口・兵庫・新潟・青森の4県のみで,他の府県には記録がない。
 山口県: 普通種とされているが,主体は瀬戸内側。ただ,下関市にはある。
 兵庫県: RDB登載(NT)で,日本海側は浜坂町のみ。
 新潟県: 記録は古いもので(1971),『新潟県植物目録 2005』には出て来ない。
 青森県: 細井幸兵衛氏の目録で信頼できるが,場所や日付は不明。
取り敢えず,「日本海側では隠岐と兵庫県の浜坂町のみ」と考えておく。異常とも思える分布で,隠岐での確認は価値があった(日本海側の北限)。

 〔太平洋側〕
続いて太平洋側。生育記録のある都府県のみ(東京は不詳,内陸県は無視)。
 山口:普通, 広島:6地点の標本,  岡山NT
 兵庫NT,  大阪Ⅰ類,  和歌山::NT,  三重NT
 愛知:少ない,  静岡:少ない, 神奈川Ⅰ類, 東京:?, 
 千葉
Ⅱ類

 福島: 『福島県植物誌 1987』の記載は,「相馬市松川浦 まれ」。
 宮城: 『宮城県植物誌 2017』によると,海岸線のほぼ全域。
 岩手: 沿岸部の3市2町に生育。岩手県RDBに,「Dランク(北限)」として
    登載。
 青森: 現状が定かでない。

『日本の海岸植物図鑑(中西弘樹,2017)』の以下の見解に同意したい。
  「北限は岩手県宮古市,南限は奄美大島である。」

変った分布をする種だ。日本海側と太平洋側の大きな違いに加え,四国・九州中心の暖地系と思われるのに, “三陸海岸にも” 出現。黒潮の影響があるのかとも思ったが,黒潮は三陸に達しないようだ。


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  【 補遺 2019.6.16 】
前回,「実際,周囲の乾いた場所にはシバが広がっている。」と書いているが,これはとんでもない勘違い。周辺の岩場のものもナガミノオニシバであった!
そこが湿地ではないのと,大きさが余りにも小さい(1/3 程度)のでそう思い込んでしまった。シバは水の中には生えないであろうが,ナガミノオニシバは乾燥地にも出るということか。もっとも,塩沼池から2-3mしか離れていない場所なのだが。

前記の検索表(どの文献も同様)では「小穂長:5mm~」となっているが,実測値は全てがほぼ4mmで,5mm近いものはなかった。
但し,シバの約3mmとは明らかに異なる。4~5mmにはコオニシバ var. sinica があるが,種子島~琉球の分布なのでこれは論外。

なお,最新の『日本の野生植物 平凡社』では,記載が以下のようになっていた(茨木靖,2016)。
 ・ナガミノオニシバ -------- 4~7mm
 ・シバ ------------------ 約3mm

普通種のシバ Z. japonica ではあり得ないことは, “明瞭な葉舌” があることからも明かである。明瞭とは言うものの,長さ0.2mm弱の微小な毛状列で,高倍率ルーペによる丁寧な観察が必要。
シバの方は “葉舌はない” と考えてよい。時に,痕跡的な欠けらのようなものが見られることもあるが,部分的で±0.05mmと微細。

目視で判断するには,葉の形に注目するのもよい。シバの葉は短く幅広でふっくらとした感じがある。ナガミノオニシバは細くて長~い。
また,シバの葉の表面には,疎らな長毛があるのが普通であるのに,ナガミノオニシバは“無毛”(ごく稀に少毛)。

 ※※※ 2017年の収穫 ※※※

### 隠岐版 ###
            ※ 他の人の発見によるもの   
                 N:長岡桂太郎,Y:矢田貝繁明
               学名付きはコケ(蘚苔類)

 〔島根県初〕 ------ 県下の記録なし
ナガミノオニシバ
シロバナオキタンポポ(仮称)
Sphagnum squarrosum ウロコミズゴケ (N)

 〔隠岐初〕 ------ 隠岐の記録なし
コウヤワラビ (N)
ユクノキ (Y)
ウマノスズクサ
ヒロハスズメノトウガラシ
Polytrichum commune ウマスギゴケ

 〔初確認〕 ------ 情報のみで未見だった
ハマウツボ
サワヒヨドリ
アゼテンツキ

 〔再確認〕 ------ 長く現状不明だった
マメヅタラン
フウラン
ウシクグ
ウリクサ
Funaria serrata ノコギリヒョウタンゴケ
  (Syn. Funaria japonica ヤマトヒョウタンゴケ)

 〔再同定〕 ------ 同定の精密化
ケハンショウヅル
ヒヨドリバナ

 〔新産地〕 ------ 稀産種の新産地
イヌチャセンシダ
アオネカズラ
ウラボシノコギリシダ
オオカナワラビ?
ヨツバヒヨドリ
バリバリノキ
ニガキ
オオモミジ
ナミキソウ
ゴマノハグサ
ニガクサ
ホソバシュロソウ
タチシオデ
イガホオズキ
シカクイ
クロテンツキ
ヒメフタバラン
Sphagnum junghuhnianum ssp. pseudomolle コバノホソベリミズゴケ (N)

 〔島別新産〕 ------ その島で初確認
タチタネツケバナ(海士)
オカウコギ(海士)
クガイソウ(西ノ島)

 〔帰化・移入・逸出〕 ------ 初確認
Common calamint (英名)
ムシクサ
白花 タチイヌノフグリ
ギンパイソウ

 〔帰化種等新産地〕
クルマバザクロソウ
ホウキヌカキビ
アリアケスミレ
ワルナスビ
フサフジウツギ
アメリカアゼナ
アレチニシキソウ
アレチハナガサ

実に1年ぶりのブログの更新。怠けていたのでも,体調を壊したわけでもない。
たまたま,同定が厄介,分布が特殊,といった大きなテーマがなかった所為である。
今後は,隠岐の人向けの “小問題” についても言及したいと思う。

なお,コケ類については隠岐で390種を採集(通常1都道府県当り500種前後)。さすがにもう残ってないだろうと今は捜していない。もちろん,まだ10や20はあるかもしれないが, “ある” というのと “見付かる” というのは別問題である。
プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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