ヤマイ Fimbristylis subbispicata
K さん
何の変哲もないカヤツリグサ科のヤマイ,何故今頃そんな話が出て来るんだと言われそうですね。その動機には末尾で触れますが,取りあえずは次の3点を検討してみるのが目的です。以前から何となくこのように感じていました。
・ 隠岐では非常に稀
・ 海辺を好む
・ 生育地の環境は自然度が高い
ヤマイの分布状況を調べ始めたのですが,北海道と沖縄,隠岐と同緯度の福井・長野・茨城,その他数県でやめました。何処でも “普通種” で調べる意味がありません。
しかし,私のヤマイ経験は以下に書いたのが全て。岡部さんや丸山先生の目録にも現れない事を考えると,隠岐ではこんなものなんでしょうか。なお,杉村先生は県下で6回採集していますが(標本目録1),その内の2回は西郷町加茂です。
(1) 私が初めて出会ったのは遙か昔,植物を調べ始めて間もない頃でした。知々井岬のカキラン Epipactis thunbergii の群生地。ぎっしりあって一体何だろうと思ったものです。大の字で数人が寝転べるぐらいの広さでした。現在もカキランは残っていますがヤマイは消滅しました。以前よりも乾燥化が進んでいます。その原因は分りません。海岸から100mほど入った渓流で標高は30mの地点。
(2) 2度目もその近くの海岸で,こちらは標高1mで波打際から3mの位置でした。小さな流れが浜へ出て岩を濡らし,ヤマサギソウ(ラン科)とシオクグ(塩湿地のスゲ)がありました。現在残っているのはシオクグだけです。樹が成長して日蔭になったためでしょう。
(3) 次が,島後○○○の海岸です。職場の出張で○○○○に一泊,早朝の散歩で見つけました。30年以上前になりますが,「ここにもあった!」と思った事を覚えています。ハナゼキショウ Tofieldia nuda を見たのもその時だったような…。
インターネットの「日本の水生植物」というサイトに以下のように書いてありました。
「和名はヤマイ(山藺)であるが、山岳部の植物ではない。山地の湧水近くに偏在することがありこう呼ばれるようになったらしいが、平野部湿地にも自生する湿地植物であり、むしろ海岸に近い環境を好む植物である。画像は新潟県佐渡の海岸にアイアシと共に群生していたもので、満潮時には潮を被る場所であり、どちらかと言えば塩湿地に育つ耐塩性を持つ海浜植物の印象だ。」
我が意を得たりと思いましたが,内陸部の山地にも多いのでいわゆる “海岸植物”ではないでしょう。ただし “塩分に強い” ことは間違いありません。日本の図鑑類にはほとんど “海岸” の文字が出て来ないんですが,「中国植物誌 Flora of China」は,「丘陵地・谷筋・ 低湿地・河辺・水辺・海岸・塩沼地」と詳しいです。
その後は退職後ここ10年間の経験です。3回しか出会っていません。これは少ない数です。別に捜しているわけではありませんが,水辺ですのであれば気付くはずです。隠岐に少ない理由,全国の離島の状況を調べれば何か分るんでしょうか?
(4) 上那久の壇鏡神社へ向う道路際に一握り,そこは水田地帯できれいな水が浸み出していました。今まで見てきた中で唯一人為的な攪乱(溝掃除・草刈)のある場所です。ただし,必要なのは水と日当りであって,人の干渉を好むかどうか?もしそうであればもっと沢山あってもよさそうなものです。草刈の頻度と時期によってはすぐに消えてしまいそうな気がします。
(5) 津戸に至る半島の付け根,海蝕崖の上の斜面です。ここは一見乾いていましたが,すぐ下には小さな窪地もあってカモノハシが生えていました。海岸近くの岩は結構水が浸み出しているものです。
(6) 最後が島後○○○海岸での再会。生育状態が大変よく感動しました。30年間環境が変っていないのだと思います。そしてここが驚異のヒオウギアヤメ Iris setosa の生育地です。一昨年現地を見た時,人手が加わっていない場所だと思いましたが,感じだけで裏付けがありません。ヤマイの存続が一つの証拠になりました。
国賀のホタルサイコの自生地に,三瓶自然館の井上さんを昨年案内したことがあります。初めて出会った目的の種よりも,氏がその周りの植物を丁寧に見ているような気がして,なにか違和感を覚えました。少し経ってから「さすが生態学出身」と思い直したのですが。私なぞは当の現物しか目に入りません。周りのものがありふれた種ならなおのこと,記憶にも残りません。第1回目の知々井岬のヤマイ群落さえ,あれほどあったものが何に置き換わったかを確かめていません。
○○○海岸のこの場所,何故雑草や雑木が生えないんでしょうか。「人の管理によって」は論外です。次のように考えました。
・岩上の浅い池で泥土がほとんどない。
・絶えず山からの清水が供給されている。
・年に何度か波が洗い塩分の影響が強い。
他には滅多にないような特別な環境だと思います。他の植物が進出できないんではないでしょうか。ヤマイはもとより,ヒオウギアヤメの生育も容認できる気がして来ました。標高差問題(1m対1,000m)については稿を改めます。
なお,ヒオウギアヤメは「何故(Why)あるのか」と問うのではなく,「如何にして(How)遺り得たか」と捉えるべきです。かつての寒冷期には,広く分布していたはずですので。
何の変哲もないカヤツリグサ科のヤマイ,何故今頃そんな話が出て来るんだと言われそうですね。その動機には末尾で触れますが,取りあえずは次の3点を検討してみるのが目的です。以前から何となくこのように感じていました。
・ 隠岐では非常に稀
・ 海辺を好む
・ 生育地の環境は自然度が高い
ヤマイの分布状況を調べ始めたのですが,北海道と沖縄,隠岐と同緯度の福井・長野・茨城,その他数県でやめました。何処でも “普通種” で調べる意味がありません。
しかし,私のヤマイ経験は以下に書いたのが全て。岡部さんや丸山先生の目録にも現れない事を考えると,隠岐ではこんなものなんでしょうか。なお,杉村先生は県下で6回採集していますが(標本目録1),その内の2回は西郷町加茂です。
(1) 私が初めて出会ったのは遙か昔,植物を調べ始めて間もない頃でした。知々井岬のカキラン Epipactis thunbergii の群生地。ぎっしりあって一体何だろうと思ったものです。大の字で数人が寝転べるぐらいの広さでした。現在もカキランは残っていますがヤマイは消滅しました。以前よりも乾燥化が進んでいます。その原因は分りません。海岸から100mほど入った渓流で標高は30mの地点。
(2) 2度目もその近くの海岸で,こちらは標高1mで波打際から3mの位置でした。小さな流れが浜へ出て岩を濡らし,ヤマサギソウ(ラン科)とシオクグ(塩湿地のスゲ)がありました。現在残っているのはシオクグだけです。樹が成長して日蔭になったためでしょう。
(3) 次が,島後○○○の海岸です。職場の出張で○○○○に一泊,早朝の散歩で見つけました。30年以上前になりますが,「ここにもあった!」と思った事を覚えています。ハナゼキショウ Tofieldia nuda を見たのもその時だったような…。
インターネットの「日本の水生植物」というサイトに以下のように書いてありました。
「和名はヤマイ(山藺)であるが、山岳部の植物ではない。山地の湧水近くに偏在することがありこう呼ばれるようになったらしいが、平野部湿地にも自生する湿地植物であり、むしろ海岸に近い環境を好む植物である。画像は新潟県佐渡の海岸にアイアシと共に群生していたもので、満潮時には潮を被る場所であり、どちらかと言えば塩湿地に育つ耐塩性を持つ海浜植物の印象だ。」
我が意を得たりと思いましたが,内陸部の山地にも多いのでいわゆる “海岸植物”ではないでしょう。ただし “塩分に強い” ことは間違いありません。日本の図鑑類にはほとんど “海岸” の文字が出て来ないんですが,「中国植物誌 Flora of China」は,「丘陵地・谷筋・ 低湿地・河辺・水辺・海岸・塩沼地」と詳しいです。
その後は退職後ここ10年間の経験です。3回しか出会っていません。これは少ない数です。別に捜しているわけではありませんが,水辺ですのであれば気付くはずです。隠岐に少ない理由,全国の離島の状況を調べれば何か分るんでしょうか?
(4) 上那久の壇鏡神社へ向う道路際に一握り,そこは水田地帯できれいな水が浸み出していました。今まで見てきた中で唯一人為的な攪乱(溝掃除・草刈)のある場所です。ただし,必要なのは水と日当りであって,人の干渉を好むかどうか?もしそうであればもっと沢山あってもよさそうなものです。草刈の頻度と時期によってはすぐに消えてしまいそうな気がします。
(5) 津戸に至る半島の付け根,海蝕崖の上の斜面です。ここは一見乾いていましたが,すぐ下には小さな窪地もあってカモノハシが生えていました。海岸近くの岩は結構水が浸み出しているものです。
(6) 最後が島後○○○海岸での再会。生育状態が大変よく感動しました。30年間環境が変っていないのだと思います。そしてここが驚異のヒオウギアヤメ Iris setosa の生育地です。一昨年現地を見た時,人手が加わっていない場所だと思いましたが,感じだけで裏付けがありません。ヤマイの存続が一つの証拠になりました。
国賀のホタルサイコの自生地に,三瓶自然館の井上さんを昨年案内したことがあります。初めて出会った目的の種よりも,氏がその周りの植物を丁寧に見ているような気がして,なにか違和感を覚えました。少し経ってから「さすが生態学出身」と思い直したのですが。私なぞは当の現物しか目に入りません。周りのものがありふれた種ならなおのこと,記憶にも残りません。第1回目の知々井岬のヤマイ群落さえ,あれほどあったものが何に置き換わったかを確かめていません。
○○○海岸のこの場所,何故雑草や雑木が生えないんでしょうか。「人の管理によって」は論外です。次のように考えました。
・岩上の浅い池で泥土がほとんどない。
・絶えず山からの清水が供給されている。
・年に何度か波が洗い塩分の影響が強い。
他には滅多にないような特別な環境だと思います。他の植物が進出できないんではないでしょうか。ヤマイはもとより,ヒオウギアヤメの生育も容認できる気がして来ました。標高差問題(1m対1,000m)については稿を改めます。
なお,ヒオウギアヤメは「何故(Why)あるのか」と問うのではなく,「如何にして(How)遺り得たか」と捉えるべきです。かつての寒冷期には,広く分布していたはずですので。