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オオバヤドリギ Taxillus yadoriki

風変りな植物であるが,本種のことを余り考えたことがない。隠岐に自生があり, “恐らく北限” という認識はあったが,完全な野生状態のものは絶滅したと思っていた。古くから西ノ島町別府の民家に残っているが(2軒),宿主は庭木であり人の管理によって存続しているものと思われる。

『隠岐雑俎(岡部武夫 昭25)』に「中村や銚子の奥部に多い」と書いてあるが,私自身は見たこともないし,噂を聞いたこともない。隠岐のオオバヤドリギはすっかり終ったと思い込んでしまった。なお今回,『島根の種子植物相(杉村喜則 2005)』に,産地として「布施」が挙っているのに気付いた(何時,何処でかは不明)。

昨日(2013.3.6), 中村の“高尾暖地性濶葉樹林” を歩いていて(どん詰りの最上部,300m alt.),落ちている奇妙な枝が目に入った。1本だけだがまだ生きた状態で。ほとんど人の入込まない自然林内である。やはり人家の庭とは,出会いの衝撃が違った。

場所が場所だけに,かろうじて生残っている最後の一株だとは考えにくい。丁寧に捜せば更に見付かる可能性がある。もちろん,種子は “鳥散布” 。雪折れで落ちて来たに違いないが,宿主の確認はできなかった。樹高が高すぎてどれだかよく見えない。樹種(落葉樹)も同定できなかった。

余計なことであるが,葉縁に米粒ほどの “虫こぶ” が並んでいる葉が何枚もあった。葉の縁だけに1列に出る虫こぶは初めて見た。中を開けてみたら,孵ったばかりの赤ちゃん虫が緩慢に動いていた。虫の名前は分らないが,寄生者にまた寄生しているわけだ。インターネットを捜したら,この虫こぶに触れているサイトが一例だけあった。余り一般的ではないんだろうか。

取りあえず,隠岐が北限自生地かどうかを確かめておきたい。図鑑では「本州(関東南部以南)」などとなっている。確かに,東北6県の記録はない。
  ※ ●:レッドリスト,△:少ない,○:記録あり,×:なし,?:不詳

栃木 ×,茨城 ×,千葉 ●,東京 ?,埼玉 ×,神奈川 △
山梨 ×,長野 ×,岐阜 ?,静岡 △,愛知 ×,三重 ●
石川 ×,福井 ●
兵庫 ×,京都 ●,滋賀 ×,大阪 ×,奈良 ●,和歌山 ●
鳥取 ×,島根 △,岡山 ×,広島 △,山口 ●
香川 ×,愛媛 ●,徳島 ●,高知 ●
福岡 ○,佐賀 △,長崎 △,大分 ●,熊本 ●,宮崎 ○,鹿児島 ●,沖縄 ○

自生のある多くの府県でレッドリストに選定,その他の県でも分布域が限られていたり個体数が少なかったり,全国的に稀なものであることが分る。そう言えば,本種が載っていない図鑑類も結構多い。

千葉県は房総半島南部,福井県は若狭湾沿海地,隠岐が確実な北限であることが分る。北限に近い千葉・福井でレッドリストに含まれているのは納得ができる。

島根県は益田市~松江市に数ヶ所の記録はあるが,絶滅の心配はないんだろうか。少なくとも隠岐では急速に個体数が減ったことになる。減った原因はよく分らないが,気候変化ではないであろう。人里付近の開発によって大きな樹木が伐られたり(邪魔なので),低山地の人工林(針葉樹)が増えて自然林がほとんどなくなった。そのことが関係しているような気がする。普通のヤドリギ Viscum album ssp. coloratum も急速に減って,今や隠岐では絶滅寸前の状態だ。山は削れ・湿地は埋めろ・樹は切倒せ,という文化はいつまで続くのか。

 【追記】
その後,島後(卯敷)の野津大さんから以下の情報をいただいた。一生のうち4回というのは決して多い数ではないが,ある程度分布が広いことを知って少し安心できた。ただ,個体数が一定数を割ると危険なので,今後どうなるかが気懸り。

 (1) 卯敷集落から約1キロメートル山地に入った所のスギに寄生していた。かなり大きな株であったが,周囲の樹木が茂りすぎて枯死した。
 (2) 布施の “蓬莱園” 近くのケヤキの木に小さな株が見られたが,今は見つからない。
 (3) 西郷中学校の門から出て少し歩いた所,中華専門店の庭木に寄生していたが,最近確かめてはいない。
 (4) 卯敷から約1.5キロ山地入った所にメタセコイヤがあり,たぶんオオバヤドリギだと思う植物が寄生していた。樹高が高すぎて確かめていない。

 【追記2】
島後布施地区の北谷で,ホウノキの梢に2株着いているのを確認(13.11.2)。近くのウラジロガシの巨木(直径1m)には,ナゴランも数株。やはり人の入込まない場所には自然状態が残っている。

隠岐で一番寒い場所である北谷。そこに北限産地の2種が残っているのが意外だった。しかも,すくすくと元気一杯。両種とも昔に比べ全体に数が減っているとは思うが,気温はそんなに関係ないことが分る。ここは,斧の入っていない峡谷で,風も吹込まず空中湿度の高い場所。

 【追記3】
『神奈川県植物誌2001』に葉の図版があり虫こぶ(Gall)も描いてあった。以下引用。薄葉重氏は虫こぶの研究家。

「なお,小田原市では,葉の縁の裏側に長さ3mmほどの楕円形のゴールが並んでいるのがみつかっているが,薄葉重氏によれば,このゴールは未記載のものであり寄生者の解明が待たれる。」

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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