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 アオミヤマカンスゲ Carex multifolia var. pallidisquama

4月から,ワケノカワヤナギ,シロヤナギ,そして本種。超弩級の発見が3つ続いて疲れ気味である。

1931年に大井博士が記載したものであるが(京都帝国大学理学部紀要),すっかり忘れられその後のあらゆる “図鑑・植物誌” のたぐいから落ちてしまった。例外は,『極東亜産スゲ属植物』(秋山茂雄,1965)であるがこれを持っている人はそういない。現在でも古書価格は15万円以上,一時は50万円していたこともある。もう1冊『日本草本植物総検索誌』(杉本順一,1973)にもちゃんと載っていたが,あまりメジャーなものではない。

初めて世に知られるようになったのはごく最近,『日本のスゲ』(勝山輝男,2005)以来のことである。そういう訳なので,本種の分布情報等はほとんど無に等しい。唯一,2009年に出版された『高知県植物誌』に「高知市から日高村にかけての蛇紋岩地」とあって,標本が3点引用されていた。

上記 “極東亜産スゲ属植物” では以下のようであるが,現在もこの範囲と似たり寄ったり,まだ解明不十分という気がする。
  〔産地〕 本州(伊賀,大和,河内,紀伊,和泉,備中),四国(伊予).

現在確認されている産地は,
  京都・大阪・奈良・和歌山・三重, 四国4県, 岡山・広島・山口

で, “瀬戸内海が中心” , “紀伊半島が東限” と推測されている。 “紀伊半島におけるミヤマカンスゲ類(カヤツリグサ科)の分布” (織田二郎 他,2010)に拠る。

上記 “日本のスゲ” や『日本カヤツリグサ科植物図譜』(星野卓二 他,2011)には,「九州」も含まれているが,単に “屋久島とトカラ列島(黒島)” のことではないかと思われる。
   〔補記 2013.1.16〕 福岡県前原市の標本がある。

一昨日(2013.5.9),大満寺山の西側山腹の林内(標高420m),延々と続く母種ミヤマカンスゲ C. multifolia var. multifolia の中に1株だけあった。最初はミヤマカンスゲの色変り品だろうと思い採集に乗気でなかった。青芽・赤芽はよくある現象である。しかしどうも感じが違う。回りを取巻いているミヤマカンスゲとの中間形らしきものもない。まあ念の為と,引きちぎって持って帰った。本当はスゲの標本は根を掘らないと意味がないのだが。

同定は全然難しくない。検索表に言うように,ミヤマカンスゲの雄鱗片・雌鱗片が明瞭な “紫褐色” であるのにこちらは “淡緑色” ,基部の鞘もこれに連動するという(ミヤマカンスゲより色づく範囲が狭い)。ミヤマカンスゲを知っている人なら一目で分る。

また,図鑑にもあるようにミヤマカンスゲに比べ,「葉が薄くて柔らかく」(触っただけで分る)なよなよとして女性的な印象がある。有花茎も繊細でより柔らかい。ミヤマカンスゲが葉を開出し有花茎も立てているのに,こちらはうなだれるように地に伏していた。全体に色も淡い。ウスイロミヤマカンスゲという別名もあるが,その方が好ましいと思った。とにかく,そこいらに沢山あるミヤマカンスゲと比べてみれば,この外観の差異は明瞭に感じ取れる。

ミヤマカンスゲには,現在6つの変種が認められているが,最近の研究によると “形態・生態・分布” にそれぞれ明確な差があって,中間形はないという。別種も含まれるのでは?と推測されている。現にアオミヤマカンスゲは染色体数がミヤマカンスゲとは異なることも確かめられた。同定に悩まされる難解な変種群ではなく,言わば素性のよい爽やかな連中のようだ。

『日本の固有植物』(加藤雅啓 他,2011)の分布図を見たら,紀伊半島から遠く離れて山形県の飛島と思われる位置にマークがついていた。これは以下に勝山輝男氏の言うミヤマカンスゲの一型ではないだろうか。

「東北地方や日本海側の多雪地のミヤマカンスゲにも雄鱗片や雌鱗片がほとんど着色しないものがあり,基部の鞘の色や鱗片の色だけで確実に区別するのは難しい。しかし,アオミヤマカンスゲは葉がやや薄質,有花茎は繊細で雌小穂もやや疎らに花をつける。これらを総合すれば,ミヤマカンスゲの変種としての区別が可能と考える。」

その後, “有花茎” の出方にも差がある,という論文が出ている。 “ミヤマカンスゲ(カヤツリグサ科)の有花茎の着く位置” (織田二郎・永益英敏,2007)。これは現地で早速確認する積りであるが,トカラ列島の黒島や隠岐は何なんだろう?


 【追記 2013.5.15】

ミヤマカンスゲの大集団の中に「1株だけ」。気になって仕方がないので再度行ってみた。結局4株(ポツンポツンと)を確認できたが,数の不均衡が不思議に思える。よく淘汰されてしまわないものだ。何かバランスが維持される理由があるのであろう。更に,両者の中間型もあるか?と捜したがそれは見当らなかった。

まず,前回よく見ていなかった “基部の鞘” の色を調べた。確かに有意の差がある。もちろん第一の注目点は,小穂(♀・♂)の色であるが,ルーペでよく見ると “かすかに” 薄茶色が感じられることもある。迷ったら,基部の鞘の色で安心できると思った。アオミヤマカンスゲは,ほとんど色付かないし,紫褐色(小豆色)部分があってもごく一部に過ぎない。両者を並べてみると,違いがはっきりする。

現地に1時間ほど座り込んで, “織田・永益 2007” に従い「葉腋から出る有花茎の数」を数えてみた。「2本ずつ」が,他の5変種(1本ずつ)には見られない特徴だそうだ。これは有難い!

 ・アオミヤマカンスゲ: 2本ずつ (ごく稀に,1又は3)
 ・ミヤマカンスゲ:   1本ずつ (ごく稀に2)

それぞれ基本数が「2と1」であることは疑うべくもなかった。アオミヤマカンスゲは,有花茎が多く出るが(何しろ出方が2対1),細くて繊細な有花茎なのでミヤマカンスゲ以上に目立つわけでもない。

外側の葉から順に,丁寧に1枚ずつ剥がしてゆくこと。もちろん0本の場合もある。なお,上記論文に言う,「株単位の中央は葉しか出ず」はよく分らなかった。両者とも,中央からも(葉腋ではなく)出ているように見えた。時に中央に,葉だけの大きなシュートが見られたが,これは当年枝で後から伸び出したものである。

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
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 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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