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 オオハリイ Eleocharis congesta f. dolichochaeta

 ※ 学名はどれを使うべきかはっきりしないので,一番新しい『日本維管束植物目録』(米倉浩司,2012)に従う。

大井さんは(日本植物誌・日本の野生植物),ハリイ E. pellucida との区別をしていないが,保育社の原色図鑑(小山鐵夫,1964)には,検索表付きでちゃんと解説されている。しかも,ハリイとは “亜種” のレベルで分けて。小山博士による上記学名での新記載は1961年。

今まで島根県の記録がないのはどうしてだろうか?
 (1) オオハリイを知らなかった。
   … 保育社の図鑑が出る前の時代ならその可能性が強い。
 (2) 知ってはいたが,ハリイと区別しない(同一種)という見解。
   … 頑固な人か,詳しい人のどちらか。生育状況による変化があるの
    かもしれない。
 (3) ハリイだろうと思って見落した。
   … 姿・形がはっきりと違って見えるのだが…。半素人の自分も気付いた。
 (4) そもそも出会っていない。
   … ハリイより稀なものらしいのでこれもあり得る。私自身ハリイを知ってから
    40年目になる。

場所は隠岐の島町(今津)の “休耕田” 。刈株の痕跡がないので “耕作放棄田” と言うべきか。部分的に湧水があるのであろう,沼になっている場所があってそこに群生していた。このところの旱天続きで水が乾き泥が露出しているが,踏込むには勇気が要る。

単純に言えば和名通り「大形のハリイ」。茎(有花茎)が太いのが目につき,ハリイのような繊細さが感じられない。更に,茎が立上がらず放射状に開出,株が円盤状に開いて見えた。ハリイなら中央部の茎は立上がって,半球状に盛上がるはずである。それに,柔らかい沼の様な場所でハリイを見たことがない。しばしば,小穂の基部から芽が出る(クローン株)らしいが,ここの群落では “捜せばそんなのもある” という程度だった。

問題はハリイとの区別だけ。検索表は以下のようになっている(小山鐵夫,1964)。
 ・オオハリイ 穂は長さ6-8mm,巾は2.5-2.8mm,鱗片の長さは2-2.5mm。果実の長さは1.2mm。 〔稈の径:約0.8mm〕
 ・ハリイ   穂は長さ3-4mm,巾は1.5-2mm,鱗片の長さは1mm位。果実の長さは0.8-1mm。 〔稈の径:約0.2-0.4mm〕

  ※ 〔稈の径〕は,検索キーになっていないが,目視ではっきり判る差である。ただし,沈水状態のオオハリイは茎が細くなるという。

以下の検索表も有益である。『神奈川県植物誌2001』(堀内洋)
 ・オオハリイ 雄しべ2(~3)個。痩果本体は柱基を除いて長さ1mmくらい。刺針状花被片は柱基より明らかに高く痩果本体の1.5~2倍長。
 ・ハリイ   雄しべ1~2個。痩果本体は柱基を除いて長さ0.7~0.8mmくらい。刺針状花被片は痩果本体と同高~柱基と同高かやや高い程度。


数値を見て “微差” と思ってはいけない。 “大差” である。しかし,スケール付のルーペが必要になる。 “花茎が長い・小穂が大きい” で見当をつけ, “鱗片の長さ” で判断するのなら物指でも大丈夫。ともかく,初めて知った種だが同定に不安を感じない。また蛇足ではあるが,学名の f.(form.)を見て「なんだ品種か!」と思わないよう。ハリイの品種なのではなく,母種は日本に産しない種である。

以下は『神奈川県植物誌2001』から抄出。
 「オオハリイ …… 周年的に水位が安定した池の縁や谷津田の奥の,常に水があるような湿田の休耕田などで,ほかの草と混生していることが多く,ハリイに比べより自然で攪乱の少ない環境に生える傾向がある。」
 「ハリイ …… 水田周辺など周年的に見て乾燥を伴う水位変動がある場所や,時折攪乱を受ける場所にも生えることができるので,しばしば裸地的な環境にも生え,安定的な立地を好むオオハリイよりも生育環境の幅が広く,オオハリイより寒い地域まで分布している。 …… やや判断に迷うが生活型,生育環境,形態の違いを総合的に判断してオオハリイとは別種として扱う。分類群の階級をどう扱うかは別として,両者は上記のように形態的に明らかに区別できるので,まったく同じものとして扱うべきではない。」

分布についていては,分類に混乱があったこともありはっきりしない。『保育社の図鑑』の段階では「本州(東海地方以西)・四国・九州」となっていたが,「神奈川・千葉・茨城県」にも確実に自生がある。茨城県は隠岐と同緯度で,この辺りが “北限” という事もあり得る。

 【追記 2015.7.14】
今回別の産地でも確認した。自然度の高い林内の小湿地である。嬉しくなって調べてみたら,2006年にも放棄された湿田で採集していた。ハリイほど普通ではないが,超希産という訳ではなさそうである。

前回「島根県の記録がない」と書いたのは間違い。2014年刊の『杉村喜則氏収集植物標本目録(Ⅱ)』に,6ヶ所の標本が挙がっていた。しかし,同氏の『島根県の種子植物相(2005)』からは抜け落ちている。同様に,ヤリハリイ E. ×subvivipara もない。この “目録” は,こんなうっかりミスがあちこちにあって油断できない。

「茎が立上がらず放射状に開出,株が円盤状に開いて見えた」という生育形に不安を感じていたが,水が深く他の混生種がないというやや例外的な環境によるものか?今回の姿は,まばらに直立あるいは不規則に倒伏,高さは20~40cmで株状には見えなかった。

花茎に稜があって正五角形であることに驚いたが,稜については変化があるそうである。前回一番印象強かったのは,稈の太さであったが,今回は50cmに達する高さと,基部の赤紫部分の広さ(長さ)だった。ハリイとは比べものにならない。

 【追記 2015.7.16】
ハリイとオオハリイの見分け,簡単か?と思っていたがそうでもない。単に変異を知らないだけだった。確かに典型的なものについては一目で分かる。まだ昨日一日見歩いただけなので確実なことは言えない。以下は自分向けの中間報告(仮説)の積りである。

(1) オオハリイの方がずっと稀の積りだったが,今日はむしろオオハリイの方が
  多くて驚いた。
(2) 稈の高さ20cm(代表値で)がボーダーライン。安易過ぎる基準だが,ハリイが
  20cmを越えることはまずない。一方オオハリイは稈の大半が20cmを軽く
  越える。
(3) ハリイはコンパクトな株を作り,直線的に斜開する(放射状)。オオハリイの
  方は,・平開したり・カーブしたり・倒れたり,とにかくだらしがない。
  端正 vs. 乱雑。
(4) ハリイのよく成長したものはオオハリイに似てくる。検索表の数値からはみ
  出すこともある。その時は結構悩ましいが,刺針状花被片の長さが意外に有益。
  逆に,オオハリイが生育不良でハリイと紛らわしくなる状況は考えにくい。
(5) 時に中間型も現れるそうである。そういう時は一時的に“中間型”と同定して
  おくのも一案。判断できない型はハリイに含めてしまうのも一案。
  「何が何でも今すぐ正解を」と力むのは精神衛生上得策ではない。
(6) オオハリイは株元に常に水があるような場所を好む。不定芽(クローン株)が
  ぎっしり着いていればまずオオハリイ。
(7) オオハリイの稈は,時に稜が明瞭な整った多角形になることがある
  (正5~7角形)。

          ⇒ [オオハリイ 再説 2015.10.5]

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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