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 オオカナワラビ Arachniodes rhomboidea

学名と和名は『日本維管束植物目録(米倉浩司 2012)』に従う。平凡社の図鑑(岩槻邦男 1992)にある,変種カナワラビ A. amabilis var. fimbriata に相当する。他の2変種,ヤクカナワラビ・オキナワカナワラビも,それぞれ独立種の扱いに変っている。

ただし和名ついては,カナワラビではなく別名のオオカナワラビを使いたい。神奈川県植物誌(山本明 2001)・千葉県植物誌(中池敏之 2003)・新牧野日本植物図鑑(2008)も,そのようになっている。

隠岐のカナワラビ属,今までに知っているのは次の5種である。
 ・ リョウメンシダ A. standishii
 ・ ホソバカナワラビ A. exilis   これら2つはイヤになるほどある。
 ・ コバノカナワラビ A. sporadosora   現在確実な産地は,焼火山麓南
    の一部。
 ・ オニカナワラビ A. caudata   個体数はごく少ないが,結構あちこちで
    見かける。
 ・ カワヅカナワラビ A. x kenzo-satakei
    雑種(コバノカナワラビ × リョウメンシダ)。海士町の知々井岬で採集,
    志村義雄教授(静岡大)の同定を得たが,今は消滅。

カナワラビ類の新発見(自分にとって)は,実に30年振りということになる。場所は海士町保々見(イモグ)の谷。杉林の中に “1株だけ” あった。大昔は一帯が棚田だったと思われる。過去には丸山先生の「島根半島 ○,隠岐 ○」があるだけで,他の人は誰も記録していない。杉村先生は「出雲に稀産,石見部ではやや稀産。隠岐での分布は不明。」としている。

『日本のシダ植物図鑑』を見たら,本州の日本海側では福井県の若狭湾まで分布,しかし非常に稀である。太平洋側には産地が多いが,関東に来るとやはり少ない。北限は茨城県北茨城市であるが,その後能登半島の七尾湾で発見されている。現在はここが突出した(例外的な)北限自生地であろう。いずれにしても,隠岐と同緯度の地域では個体数が極端に少なく,福井・石川・埼玉各県ではレッドデータ種。島根県本土側(松江市・太田市)にあるのと,隠岐にあるのとでは,その意味が異なると言ってよい。

カナワラビ類は,シダ入門時の初期に苦労したので,難しいという先入観がある。今回も一目で「何か違う」とは思ったのだが,「ホソバカナワラビの一型か?」とすぐ弱気になった。葉を1枚しぶしぶ持ち帰ったものの,期待はゼロ。ただ一点, “ソーラスが極端に辺縁寄りについている” ことだけが頼りだった。こんなに速く,明快な同定ができるとは!

次の2つの条件を満たしていれば,オオカナワラビと確定できる。
(1) 葉身は2回羽状複生。ただし,羽片基部から出る長い小羽片は除いて。
  …… つまり,切れ込み方が一回少ない。他には,オニカナワラビや
     ハカタシダも2回。

(2) ソーラスは辺縁近くにつく。中間寄りではなくはっきり葉縁。
  …… 小羽片(最終裂片)が広いので非常によく目立つ。他の種では中間寄り,
     またはごちゃごちゃ混み合って不明瞭。

実は,次の1つだけでも断定してよい。
(3) 包膜の縁に顕著な突起または長い毛がある。
  …… ホソバカナワラビとコバノカナワラビは綺麗な全縁。オニカナワラビが波状
      縁で多少デコボコ。今回の採集品は包膜の上にも毛の出る型だった。

遠くから「ホソバカナワラビではない」と見分けるには, “群生しない・広がらない” ことを確かめればよい。根茎が短いので, “株状” に固まって葉が出る。つまり株が単独・孤立的で叢生することがない。また,近寄って見た感じは“羽片間の隙間が広く疎ら” だった。これらの傾向は,ハカタシダ A. simplicior でより明白である。なお今回,オオカナワラビよりハカタシダの方が普通種で分布も広いことを知った。隠岐にも確実な記録がある。今まで諦めていたが…。とにかく,群生状に広がってはいない,株状に孤立的な,カナワラビ類は要注意。

葉の形や葉質については,文献によって書いてあることが妙に異なる。ネット上の写真も色々ある。成長状態(大小)による葉形の変化があるようだ。しかしながら,上の3つを確かめれば何も心配しなくてよい。ただし, “雑種” ができるそうなので,その問題だけは気をつけた方がよい。胞子の熟す頃もう一度行くことにする。雑種と混同していたら悲惨だ。


 【追記 2013.7.13】
2週間経ったので,ソーラス(胞子嚢群)の様子を見に行って来た。どうも “雑種” と考えるしかない。胞子嚢は萎縮した小さなものが多く,まともに育っていない。もちろん裂開して胞子を飛ばしている胞子嚢も混じっているが,そんなに多くはない。胞子を検鏡してみたら,形は比較的揃っていたが(角張った欠けらのようなものはない)大小差が大きい。小さな球形のものや,その2倍以上大きい(楕円体)ものがかなり含まれている。胞子嚢の裂開状況と胞子の揃い方を,ホソバカナワラビと比較してみたが,確かに差がある。

本体はオオカナワラビそっくりなので,以下のいずれかということになる。
 テンリュウカナワラビ A. × kurosawae Shimura et Sa.Kurata
                (= オオカナワラビ × コバノカナワラビ)
 テンリュウカナモドキ A. × akiyoshiensis Nkaike
                (= オオカナワラビ × ホソバカナワラビ)
雑種に関する情報が少なくて,どちらであるのか検討のしようがない。取りあえず,より普産種と思われるテンリュウカナワラビと考えておくことにする。

今回の採集品は,下向き小羽片の複数(第1~第3)が顕著に発達し,しかも最下羽片だけでなくその上の羽片でも同様に巨大化している。これをテンリュウカナワラビの特徴の一つにする人もいる。実はこの点だけは,あまりオオカナワラビ的でないと引っかかっていた。各種文献で見るオオカナワラビの第1小羽片の発達(大型化)は控えめで,中には全く発達しないものもある。

なお,現地付近にはオオカナワラビもコバノカナワラビもない(ホソバカナワラビは何処にでもある)。両親がそばになくて,その雑種のみがあるという状況はあり得ることである。テンリュウカナワラビについてもそういう情報がある。しかし,普通のことではないかもしれない。いずれにしても,この雑種は最近できたものではない。大昔にできた雑種のみが生残っているのであろう(根茎による栄養繁殖+雑種強勢)。捜してみたら,5mほど離れてもう一株だけあった。


 【追記 2013.8.11】
やはり気になるので,現地へ再度行ってみた(8/5)。初めて出会った種はしつこく追求した方がよい。付近を丁寧に探し,数mおきに計5株を見付けることができた。「雑種だけが5株ある」というのはかなり不自然に思える。前回とは別の2株から標本を持帰った。

ソーラスは正常で,全てに胞子嚢がぎっしり詰っており,胞子も大量に飛んでいる。胞子の大きさ・形とも揃っていて “不整” ではない。ソーラスが乾燥して来ると,環帯(胞子嚢の外皮)がはじけて反り返り,胞子をばらまく。その後すぐに,空になった環帯は丸まって元に戻る。つまり,胞子の詰った黒光りの胞子嚢が,突如すけすけの抜殻に変る。環帯というバネ仕掛が一瞬で “伸びて縮む” とは知らなかった。その変化を,実体顕微鏡下でリアルタイムに観察することができる。肉眼でも何とか見えるが。

少なくとも2株はオオカナワラビ,1株が雑種であることが判った。これは願ってもない事態だ。親と子を,生きた現物で比較することができる。テンリュウカナワラビかテンリュウカナモドキかの推測も可能かもしれない。


 【追記 2015.9.30】
この雑種はテンリュウカナワラビ A. × kurosawae で正解だった。『日本産シダ植物標準図鑑(近刊)』の “分布図草案第14集” による。タイプ産地は静岡県天竜市。

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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