FC2ブログ

 サツマシケシダ Deparia japonica × D. petersenii

雑種 “シケシダ × ナチシケシダ” である。自宅の庭に群生があり,昔からシケシダと信じ切っていた。たまたま胞子を観察して仰天,いわゆる「胞子が不定形で,大きさも不揃い」の見本のような有様だった。正常な楕円体の胞子は少なく,欠けらのような小さいのが大量に混じる。ちなみに,顕微鏡はなくても 30倍程度の高倍率ルーペ或は実体顕微鏡があれば,胞子が “不整” かどうかの判断はできます。両親種と比較すれば更によい。

 1.気付かなかった訳
シケシダあるいはナチシケシダにそっくりだったからである。
  ※ ナチシケシダは普通にあるタイプ(4倍体)を意味する。極端に小さい型(6倍体)もあるそうであるが,それにはまだ出会っていない。

そもそも両親がよく似たものなので,その雑種の見分けがつかないのは当然かもしれない。それぞれに変化があるのに,その両者の “中間形” と言われても困る。

普通は,同定に行き詰った時に雑種を疑うものだ。最近もう一度同定してみたがすんなりシケシダに行着いた。包膜が内曲するのでナチシケシダではない。その他の種とは,検索表をたどるまでもなく見かけからして違う。疑う理由は何もなかった。

雑種の場合,普通は胞子の検鏡までしなくても,胞子嚢群(ソーラス)をよく見れば「何となく変」だと感じるものである。
 ・ 包膜だけで,中に胞子嚢がほとんどなかったり,
 ・ 胞子嚢は数多くできても,小さく萎縮して育たなかったり,
 ・ 胞子嚢が空っぽの “しいな” だったり,
 ・ 結果,胞子嚢が裂開しても少量の胞子を飛ばすのがせいぜいである。

つまり雑種は,胞子をまともに飛ばさないのが普通であるのに,このサツマシケシダはぎっしり胞子嚢ができて大量の胞子を飛ばす。何から何までシケシダそのものと変らない。

 2.両親の推定
大きさがシケシダと同じ “中型” なので, “小型” のホソバシケシダ・フモトシケシダの関与は考えにくい。また, “大型” のセイタカシケシダ・ムクゲシケシダが片親ならもっと大きくなりそうな気がする。唯一, “大型 × 小型” の可能性は残るが,葉や中軸に軟毛がほとんどないのが気に入らない。更に,大型2種は山地のもので人家の庭とは関係がなさそうに思う。結局,人里の雑草的な中型2種が交雑したのではないか?

もっとよい証拠がある。“二形性が全く現れない”雑種であること。中型以外の親候補は,皆二形性が明瞭。

サツマシケシダの原記載は以下のようになっている(芹沢俊介 1973)。
 「シケシダとナチシケシダの雑種と推定される。葉身の概形や葉質,羽片の形状はややナチシケシダに近いが,包膜は若時内側に折れ込んでいる。」

葉質がやや “厚ぼったくがっちり” した印象,色は “明るい黄緑” で,ナチシケシダ的であると思う。羽片が斜上してつく傾向は,シケシダ・ナチシケシダ共通の特徴である。葉身にほとんど毛がないこともこの推定の補強となる。イメージは「若時の包膜がシケシダ的なナチシケシダ」。後知恵ではあるが,シケシダに比べ包膜の “細長い感” が多少不足かなと思った。

 ※ 若時: “じゃくじ” と読むのだろうか。シケシダ類の記述に出て来る用語。包膜は完成しているが,まだ胞子嚢が未熟で平坦,色が白くて幼い時期。平たくペタリと貼付いているか,縁に沿って狭く折れ込んでいるか,を観察する。内に折れていると,縁のギザギザが見えず “外見上の” 全縁になる。

 3.認知度
ほとんど情報がゼロなので, “Google” で検索してみた。如何に世に知られていないかが分る。
 ・ シケシダ      2,560
 ・ ホソバシケシダ  1,680
 ・ ナチシケシダ   1,280
 ・ ムクゲシケシダ  1,040
 ・ セイタカシケシダ  714 
 ・ フモトシケシダ    506
 ・ サツマシケシダ    65
ヒット数65件。参考になったサイトは,『神奈川県のシダ植物(高栄博・山下英希)』のみだった。他は和名が出て来るだけのが数件(分布記録)。以下に全文を引用させていただきます。「包膜の辺縁が一部は激しくほつれていて」が興味深い。

 「玉簾ノ滝や畑宿までの途中のホテル前の石垣,畑宿では渓流公園近く林縁のよく陽のあたるウエットな草原など全域で見られ,人家や人手の入ったところで見られました。見た目は葉の厚いtypeのナチシケシダに見えました(ナチシケシダは多形で葉身の形・葉の質・厚さ等に変化が多い)が,ルーペで包膜を観察するとナチシケシダとシケシダの雑種のサツマシケシダと考えられます。今回1日歩いた中で玉簾ノ滝から畑宿までの間で3箇所もサツマシケシダを見ました。今回の地域にはある程度多く生育していると考えてよいと思います。特徴は,包膜の辺縁が一部は激しくほつれていて(ナチシケシダの特徴),一部は胞子のう群を包み込むように巻き込んでいます(シケシダの特徴)。2形性は示しません。」

図鑑の分布(“Flora of Japan” M.Kato, 1995)は,「本州(近畿地方以西)・九州」となっているが,そんなに少ないものとは思えない。自分と同じようにシケシダと思い込み,気付いていない人が多いのが原因ではないか?シケシダは北海道を除く全国,ナチシケシダも関東以南に広く分布している。そしてシケシダ類は「必ず雑種を作る」と言われている。

現に,自分が隠岐で確認しているのは,シケシダ・ナチシケシダ・ホソバシケシダの3種だけだが,雑種はここ2年間で4種類に遭遇。更にありそうな気がする。とにかく,シケシダ類の “検索表” は,まず「雑種であるかないか」の切り分けから始めるべきだと痛感する。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Access Counter
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR