FC2ブログ

 ツシママンネングサ Sedum polytrichoides ssp. yabeanum

 新学名の
Sedum polytrichoides Hemsl. subsp. yabeanum (Makino) H.Ohba var. yabeanum (Makino) H.Ohba in Flora of Japan 2b: 27, 2001
 を目にする機会は少ないと思われるので紹介しておきたい。

以前に書いたメールの一部を転載したが,今読返してみたら同定の詳細が書いてない。間違いなし!という印象だけが残っていて,何故そう感じたのか思い出せない。植えていたのは枯れてしまったし,ウンゼンマンネングサやセトウチマンネングサを見たこともない。自信ありそうな文面であるが,「首をかけるか」と言われたらちょっと困る。

ただし,“日本草本植物総検索誌(杉本順一 1978)” には「分布: 隠岐・対馬・平戸・五島」となっている。この検索誌シリーズには時々驚かされる。


---------------------------------
  K さん

隠岐にあるこのものを何と呼んでいますか?私はウンゼンマンネングサと言って来ました。ウンゼンマンネングサ・ツシママンネングサ・セトウチマンネングサ,一体どれなんだと思ったこともありますが,平凡社の図鑑がこの3つを同一種にまとめてウンゼンマンネングサとしたので(大場秀章 1982),これは楽でいいとそれに従ったまでです(笑)。

隠岐のものは何時誰が発見したのか知りませんが,当初はウンゼンマンネングサと同定されていたそうです。島根県大百科事典(1982)で,丸山先生は「今はツシママンネングサと見られるに至った」と書いています。ところが平凡社の図鑑の影響は絶大で,その後ツシママンネングサとセトウチマンネングサは世の中から消えてしまいました。同調しない学者も一部にはありましたが。

この状況は今も続いていて,ネット上で見たら対馬の人が「昔はツシママンネングサと言っていた」などと書いていました。セトウチマンネングサのタイプ産地の『岡山県野生生物目録(2003)』をはじめ,『兵庫県レッドデータブック(2003)』でもウンゼンマンネングサのままです。小豆島の人は,セトウチマンネングサだと頑張っているようでしたが。

実は2001年,大場秀章博士が “Flora of Japan” で新たに学名を組替え3つを分離しました(亜種と変種で)。同一種に統合した御本人が,また「元に戻した」ことになります。この書籍を持っている人はほとんどいないでしょうから,なかなか世に広まりません。

この最新の見解に従うと,隠岐のものは晴れてツシママンネングサとなりました。今回分布を詳しく調べました。

(1) ウンゼンマンネングサ S. polytrichoides Hemsl. ssp. plytrichoides
   中国,朝鮮。 九州北部(雲仙岳・多良岳・黒髪岳・英彦山・由布岳・久住山)。

(2) ツシママンネングサ S. polytrichoides ssp. yabeanum var. yabeanum
   固有亜種。 対馬・平戸・壱岐・五島列島・隠岐。
※ 隠岐雑俎・丸山目録はいずれもウンゼンマンネングサ(時代が古いので当然),杉村目録も学名はウンゼンマンネングサだが,和名は敢てツシママンネングサを使用!

(3) セトウチマンネングサ S. polytrichoides ssp. yabeanum var. setouchiense
   ツシママンネングサの変種。 岡山・兵庫・香川(小豆島)。
※ 山口・広島にはない。鳥取は微妙(三得山)。

いずれの産地も “稀” または “少ない” となっています。広義のウンゼンマンネングサは,長崎・佐賀・福岡・大分・兵庫で県のレッドデータブックに登載されています。分布していて取り上げていない県は,岡山・島根・香川の3県。岡山はまだしも(分布が広い),香川や島根は忘れたんでしょうか。環境省指定の“絶滅危惧Ⅱ類”でもあるんですが。

もっとも,隠岐の島後には広くあって絶滅しそうにはないですが…。山地の陽当りのよい岩場(木が少なく禿げた場所)には必ずある,という感じです。何故か海岸付近ではあまり見かけません(五箇重栖湾は例外)。島後には普通にあるのに,島前にはないのも不思議です。オオエゾデンダの逆ヴァージョンですね。

そもそもこれを調べたきっかけは,この間再チェックした「大山隠岐国立公園(指定植物リスト)」に含まれていないのが不満だったからです。例を見ない特異な分布なのに(隔離・北限・東限)どうしたんでしょう。そう言えば地元でもあまり注目されてないような…。鷲ヶ峰でオオイワカガミには名札が立っていましたが,すぐそばにある本種は無視されています。立札に値するのはこちらなんですが…,レベルが違う。昔,京大の一行が来島した時(この時オキノアザミを新記載),場所を教えて欲しいと頼まれたのが本種とハイハマボッスの2つでした。

以下は3種を比較した特徴です。依拠したのは,
 “Flora of Japan”,
 “日本草本植物総検索誌”,
 “セトウチマンネングサについて(村田源・湯浅浩史 1975)”。

(1) ウンゼンマンネングサ
・花序枝の上部に葉を密集してつける。
・葉は線形で先端は鋭く尖る。
・長さ0.6-1.3 cm ,幅 0.8-1.7 mm。2n=50?。

・葉は扁平で線形,幅2mm以下,葯は黄色。果実はやや内曲する。

・葉はマツバボタン状で茎はほぼ基部から直立する。茎の下部の葉はあまり短くならない。

(2) ツシママンネングサ
・葉は線形~狭楕円状披針形または線状のさじ形。
・長さ (1-)1.3-2cm ,幅 2-3.5(-4.5)mm。2n=48。

・葉は扁平で倒披針形,先尖り,幅は2~4.5mm,葯は橙色。

・茎はやや長く這って,茎の先や側枝は立ち上がる。茎の下部の葉は次第に
短く褐色鱗片状に移行する傾向が顕著。

(3) セトウチマンネングサ
・葉は広い線形~狭楕円状披針形。
・長さ 0.6-1.3(-1.5) cm,幅 1-2(-3)mm。2n=64。

・葉は半円棒状に肥厚し,幅0.5-2.5mm,鈍頭,葯は赤味がかる。

・茎は基部が少し這って斜上し,赤褐色を帯びる。葉はツシママンネングサ
より更に肉厚で 1-1.5mm。茎下部の葉は多少短くなる傾向が見られる。


隠岐のもので取りあえず確認できた特徴をメモしておきます。
 ・花序枝の上部に葉が密集することはない。
 ・茎はやや長く這い,茎の先や側枝は立ち上がる。
 ・葉は扁平で倒披針形,先端は尖る。
 ・葯は黄色。

う~ん,差異は微妙と言えば微妙ですが,染色体数が違うようですね。それに,綺麗に地理的に分れます。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Access Counter
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR