マツザカシダ Pteris nipponica W.C.Shieh
今この記事をアップする必然性はないのだが,広告がうるさくてしょうがないので過去(2011年)に書いていたものを貼付けることにする。ブログを一ヶ月間更新しないでいると,画面のトップに “スポンサーサイト” が現れるようだ。
世の中には私同様マツザカシダに悩んでいる人がいるかもしれない。このシダに初めて逢ったのは30年以上前,西ノ島の耳々浦周辺を今は亡き木村先生と歩いている時だった。「マツザカシダと思います。調べてみて下さい」と言われ,同定はしたのだが自信は70%止まり。不安を抱えたまま長くほったらかしていたことになる。他では目にしたことがなく,過去の記録もないことが原因だったようだ。ところがその後,島後のあちこちで出会って驚いている。
今調べたら隠岐での “唯一” の記録は,福岡の筒井貞雄さんのものだった(1971,西郷町中村)。シダの大家が隠岐に来られていたとは!
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問題はオオバノイノモトソウ P. cretica L. との区別だけと考えてよい。オオバノイノモトソウは種内変異が多く多型だというが,マツザカシダは一様で変異は少ないらしい。万一訳の分からない個体に出会ったら,オオバノイノモトソウの一型と考えておくべきだろう。
かつては,オオバノイノモトソウの変種である斑入りの栽培品(P. cretica var. albolineata Hook.)と同一とされたが,現在はこの学名自体がマツザカシダのシノニムに落とされている。「田川図鑑(1959)」にはまだこの学名で出ているが,ちゃんと「別種であると思う」との注記がある。
新種としての記載は1966年で,タイプ産地は長崎県壱岐である(謝萬権,東京教育大学)。オオバノイノモトソウの変種であるとか,同一種かもしれないなどいう思い込みは,同定を迷わす有害なデマだと思う。
以下に検索キーを列挙するが,この中で一番重要なのは (1) である。ただし,両種ともよく生長した株全体を見て判断すること。発育不良の個体や,葉1枚だけにこだわってはいけない。「よく生長した正常なマツザカシダ」の見極めがポイントで,一言で言えば「小さい」。それが本来の姿。今回のブレークスルーは,この外観(繁り方)の違いからやって来た。水の滲むような環境では高く育つこともあるが,株はあまり太らず葉も疎ら。
「※」をつけた文は,単なる印象で検証不十分。 ⇒: オオバノイノモトソウ
(0) 葉に円みがあってふっくら。 ※ 小さい(低い)。
⇒: 葉は直線的で細く長い。 ※ 大きい(高い)。
マツザカシダで大きく茂ったのはあまり見ない。その多くが発育不良だとはとても思えない。大きさと葉の「感じ」がポイント。 ※ 明瞭な差があると思う。
(1) 側羽片は1-2(-3)対。
⇒: 3-7対。
頂羽片1枚は除いて考える。側羽片はしばしば2分岐する(小羽片)。
(2) 側羽片は長さの割に幅広くて,やや急に尖る。先端部は凸曲線で円みを帯びる。
⇒: 細く長く漸尖(又は尾状)し,先端は鋭く尖る。
マツザカシダ最下部の小羽片は,鈍頭~円頭になりやすい。短くてでっぷりした印象を受ける。
(3) 多くは羽軸付近に淡白い斑が現れる
⇒: ※ そのような傾向はまずない。
野生で真っ白な斑が入る(栽培型)ものはまだ見たことがない。ただよく見ると,中肋沿いは淡い緑色になり,色の変化が感じられることが多い。 ※ 常にそうなるとは限らないようだが,ほとんどの場合これで同定できてしまう! ※ オオバノイノモトソウでそんな例は見たことがない。
(4) 側羽片は鎌形に斜上(やや曲がる)。
⇒: 直線状に斜上。
(5) 葉面はくすんだような暗緑色。
⇒: 黄緑色(~鮮緑色)
この差も面白い。今までの経験ではこれに反した例はない。
(6) 薄暗い林内の, ※ 渓流沿いの岩上に生える。
⇒: 明るい林縁の急斜面(崖)。
マツザカシダは湿った場所が好きであまり日向に生じない。これも注目すべき生態差。
(7) ※ 株はせいぜい数本からなり密生しないで,寂しく貧相。
⇒: ※ 普通は密生して大きな株を作り,にぎやか。
(8) ※ しばしば葉縁が強く波打ってそれがよく目立つ。
⇒: ※ そのような傾向はあまりない。
〔分布について〕
オオバノイノモトソウは世界の広布種(地中海諸島・インド・中国・フィリピン・オーストラリア・マダガスカル島・オーストラリア)で,タイプは地中海のクレタ島のもの。
マツザカシダは,国外は台湾と韓国南部のみ。国内分布は,「千葉県以西」とされているが「千葉県以南」の方が実態を表している。1979年時点の分布図を見ると(日本のシダ植物図鑑 1),本州では「関東・東海・近畿の太平洋岸」と「山口・島根」で,その他の地域にはほとんど標本がない。日本海側では大社町から福井県の敦賀湾に跳んでここが東限である。
隠岐(西郷町中村)は打っ千切りの北限であったが,近年もっと北でも発見された。石川・長野・栃木・福島・宮城,現在の北限は宮城県である。しかしながら,この内栃木(産地2ヶ所)を除く各県でレッドデータブックに登載されているし,県の植物誌にも記載がない。よほど稀なのであろう。
隠岐は北限ではなくなったが,依然として重要な産地であることに変りはない。そもそも,隠岐のように普通種として広く分布しているのと,絶滅危惧状態で局所的にわずかにあるのとでは,「ある」意味が異なる。シダでは,例外的にとんでもない場所に進出(或いは遺存)する例が時々ある。
世の中には私同様マツザカシダに悩んでいる人がいるかもしれない。このシダに初めて逢ったのは30年以上前,西ノ島の耳々浦周辺を今は亡き木村先生と歩いている時だった。「マツザカシダと思います。調べてみて下さい」と言われ,同定はしたのだが自信は70%止まり。不安を抱えたまま長くほったらかしていたことになる。他では目にしたことがなく,過去の記録もないことが原因だったようだ。ところがその後,島後のあちこちで出会って驚いている。
今調べたら隠岐での “唯一” の記録は,福岡の筒井貞雄さんのものだった(1971,西郷町中村)。シダの大家が隠岐に来られていたとは!
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問題はオオバノイノモトソウ P. cretica L. との区別だけと考えてよい。オオバノイノモトソウは種内変異が多く多型だというが,マツザカシダは一様で変異は少ないらしい。万一訳の分からない個体に出会ったら,オオバノイノモトソウの一型と考えておくべきだろう。
かつては,オオバノイノモトソウの変種である斑入りの栽培品(P. cretica var. albolineata Hook.)と同一とされたが,現在はこの学名自体がマツザカシダのシノニムに落とされている。「田川図鑑(1959)」にはまだこの学名で出ているが,ちゃんと「別種であると思う」との注記がある。
新種としての記載は1966年で,タイプ産地は長崎県壱岐である(謝萬権,東京教育大学)。オオバノイノモトソウの変種であるとか,同一種かもしれないなどいう思い込みは,同定を迷わす有害なデマだと思う。
以下に検索キーを列挙するが,この中で一番重要なのは (1) である。ただし,両種ともよく生長した株全体を見て判断すること。発育不良の個体や,葉1枚だけにこだわってはいけない。「よく生長した正常なマツザカシダ」の見極めがポイントで,一言で言えば「小さい」。それが本来の姿。今回のブレークスルーは,この外観(繁り方)の違いからやって来た。水の滲むような環境では高く育つこともあるが,株はあまり太らず葉も疎ら。
「※」をつけた文は,単なる印象で検証不十分。 ⇒: オオバノイノモトソウ
(0) 葉に円みがあってふっくら。 ※ 小さい(低い)。
⇒: 葉は直線的で細く長い。 ※ 大きい(高い)。
マツザカシダで大きく茂ったのはあまり見ない。その多くが発育不良だとはとても思えない。大きさと葉の「感じ」がポイント。 ※ 明瞭な差があると思う。
(1) 側羽片は1-2(-3)対。
⇒: 3-7対。
頂羽片1枚は除いて考える。側羽片はしばしば2分岐する(小羽片)。
(2) 側羽片は長さの割に幅広くて,やや急に尖る。先端部は凸曲線で円みを帯びる。
⇒: 細く長く漸尖(又は尾状)し,先端は鋭く尖る。
マツザカシダ最下部の小羽片は,鈍頭~円頭になりやすい。短くてでっぷりした印象を受ける。
(3) 多くは羽軸付近に淡白い斑が現れる
⇒: ※ そのような傾向はまずない。
野生で真っ白な斑が入る(栽培型)ものはまだ見たことがない。ただよく見ると,中肋沿いは淡い緑色になり,色の変化が感じられることが多い。 ※ 常にそうなるとは限らないようだが,ほとんどの場合これで同定できてしまう! ※ オオバノイノモトソウでそんな例は見たことがない。
(4) 側羽片は鎌形に斜上(やや曲がる)。
⇒: 直線状に斜上。
(5) 葉面はくすんだような暗緑色。
⇒: 黄緑色(~鮮緑色)
この差も面白い。今までの経験ではこれに反した例はない。
(6) 薄暗い林内の, ※ 渓流沿いの岩上に生える。
⇒: 明るい林縁の急斜面(崖)。
マツザカシダは湿った場所が好きであまり日向に生じない。これも注目すべき生態差。
(7) ※ 株はせいぜい数本からなり密生しないで,寂しく貧相。
⇒: ※ 普通は密生して大きな株を作り,にぎやか。
(8) ※ しばしば葉縁が強く波打ってそれがよく目立つ。
⇒: ※ そのような傾向はあまりない。
〔分布について〕
オオバノイノモトソウは世界の広布種(地中海諸島・インド・中国・フィリピン・オーストラリア・マダガスカル島・オーストラリア)で,タイプは地中海のクレタ島のもの。
マツザカシダは,国外は台湾と韓国南部のみ。国内分布は,「千葉県以西」とされているが「千葉県以南」の方が実態を表している。1979年時点の分布図を見ると(日本のシダ植物図鑑 1),本州では「関東・東海・近畿の太平洋岸」と「山口・島根」で,その他の地域にはほとんど標本がない。日本海側では大社町から福井県の敦賀湾に跳んでここが東限である。
隠岐(西郷町中村)は打っ千切りの北限であったが,近年もっと北でも発見された。石川・長野・栃木・福島・宮城,現在の北限は宮城県である。しかしながら,この内栃木(産地2ヶ所)を除く各県でレッドデータブックに登載されているし,県の植物誌にも記載がない。よほど稀なのであろう。
隠岐は北限ではなくなったが,依然として重要な産地であることに変りはない。そもそも,隠岐のように普通種として広く分布しているのと,絶滅危惧状態で局所的にわずかにあるのとでは,「ある」意味が異なる。シダでは,例外的にとんでもない場所に進出(或いは遺存)する例が時々ある。