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コセイタカシケシダ 〔追記〕

〔前回〕の雑種親の推論が不十分なので補足したい。本品の包膜は “内曲” してるので,親は “平坦” 同士(平坦 × 平坦)ではあり得ない。ただ, “平坦 × 内曲” はあってもいいので,(2) で挙げた「平坦なので」は,この時点では理由になっていない。

ここは,相手方の(4) と(5) を先き取りした上での結論だった。(4) の3つの内シケシダ以外は “平坦” なので,もしムクゲシケシダを認めると “平坦” × “平坦” になってしまう。(1) ~(7) の順で推理が直線上に進んだわけではない。

(4) の残りの2種,フモトシケシダは隠岐で1株のみ,コヒロハシケシダは未見である。(6) のナチシケシダは近くにいくらでもあると思うので,可能性はゼロとはいえない。じゃあ正解はどうすれば分るのか?文献を捜してもありそうにない。胞子の観察も思いつくが 100%ではない。

後は「両親を並べて栽培し,雑種を作らせてみる」くらいしか思い浮ばないが,そこまでやる気はない。いやいや,植えておけば勝手に雑種ができるので面白そうだ。同一品ができれば誰も文句は言わないだろう。


なお,前記芹沢氏の論文に「この類はイノデやイヌワラビなどの類と異なり根茎が匍匐するので,雑種と推定される個体でも栄養的に繁殖して,大きな群落をつくっている事がある。場合によってはこのような個体のみが目につき,両親と推定されるものがあたりにほとんど見当らない事さえある。」という部分がある。

シダでは,「雑種があれば近くに両親あり」が常識である。雑種は有性生殖ができないので,単独では増えることはない(一代限り)。何故両親が「見当らない」のか不思議な気がした。以下は愚考の結果。

シダの根茎には,直立型・斜上型・横走型の3タイプがあるが,このうちの直立型や斜上型は「根茎を横に伸してどんどん増える」事をしないであろう(クサソテツなど例外はあるが)。日頃の観察でもポツンポツンと点在している。そうだとすれば,できた雑種個体はその後何十年生きたにしてもただ1株のまま。繁殖能力のある親が絶えて,少数派の「子だけが残る」とは考えにくい。親以上に絶滅しやすい事であろう。「子があれば親がある」は当然である。

ところが,シケシダ類のように地下茎を引いて繁殖するタイプ(横走型)は事情が異なる。環境が合えば親以上に広がり,“雑種強勢” でより繁栄する可能性だってある。環境の変化に対する耐性も親に劣らないはずである。子だけが生残っても不思議ではない。雑種ができた時には親は近くにあったはずなので,その後親だけが絶えたと考えるしかない。

奇しくもすぐ近くにその実例があった!世界で焼火山でしか見付かっていない,タクヒデンダ(オオエゾデンダ × オシャグジデンダ) Polypodium × takuhinum Shimura 。できたのは,片親オシャグジデンダが島前から消える以前の時代であろう。それから何1000年経ったことか。

ここまで書いた所で仰天の事実に気付いた。タクヒデンダの学名を確認するために “Flora of Japan (K. Iwatsuki, 1995)” を開いたら,分布が「北海道,本州(東北地方・北陸の一部・隠岐島)」となっている。これはビックリ,冷汗が出そうになった。

確かに両親がある場所ならタクヒデンダができても不思議ではない。むしろ隠岐だけというのが不自然である。胞子の熟期がずれていて雑種ができにくいとは言われていたが,北海道にはあって当然だろう。だけど北陸というのは何処なんだろう?今まで聞いたこともないし,北陸各県の植物誌でも見たことはない。

ついでにオオエゾデンダの新しい産地も知った。今まで知られていたのは,北海道・青森県(八戸市海岸部に点在)・鳥取県(羽合町の海蝕崖)・隠岐島,の4ヶ所。そこへ新たに岩手県が加わり,以下は『岩手県レッドデータブック』の記述。
  ※(注) 既に『岩手県植物誌(1970)』に記録があった事をその後知った。

「北海道、本州(北部、山陰地方)、北半球の温帯に広く分布する。本州では青森県、岩手県、鳥取県、島根県だけに記録がある。岩手県内では六角牛山と和賀岳で確認され、個体数は多くない。」


依然として “北陸の何処” かは分らない。オオエゾデンダもあることになっているのに,県のレッドデータブックに挙ってこないのは変だ。地元の人も知らないのか!


 【追記 2013.7.18】
今までの論理を読直してみたが,正しいかどうか今一つはっきりしない。少し別の観点からも考えてみた。

シケシダ類を,大きさによって次の 3つに区分する(ナチシケシダの小型タイプは除き)。
 (a) 小型: ホソバシケシダ・フモトシケシダ
 (b) 中型: シケシダ・ナチシケシダ
 (c) 大型: セイタカシケシダ・ムクゲシケシダ

(1) この雑種は “中型” なので,「小型×小型」と「大型×大型」は考えないことに
  する。
(2) 「中型×小型」はより小さく,「中型×大型」はより大きい,雑種ができるはず
  なので検討から外す。
(3) 「中型×中型」の雑種サツマシケシダは,葉身の概形や葉質がナチシケシダに
  近いという。しかし採集品は,羽片は直角に出て斜上気味ではなく,葉質も薄い。
  何よりも毛が多すぎる。
(4) よって,「大型×小型」の組合わせだけが残る。ムクゲシケシダが片親の・ホソバ
  ムクゲシケシダと・ムクゲフモトシケシダについては,和名のみで情報がない。
  考えない方がよさそうだ。
(5) セイタカシケシダ×フモトシケシダ(セイタカフモトシケシダ)は,「最下羽片は
  長く,下を向く傾向がある」という点で異なる。そんな傾向は見られない。
(6) セイタカシケシダ×ホソバシケシダ(コセイタカシケシダ)のみが残った。

 【追記 2017.7.15】
コセイタカシケシダで正解であった。『日本シダ植物標準図鑑』(海老原淳 2017)による。

テーマ:自然科学 - ジャンル:学問・文化・芸術

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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