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 エゾノサヤヌカグサ Leersia oryzoides (L.) Swartz

以下は,2010年に知人に送ったメールの一部であるが,使えそうなのでアップすることにした。サヤヌカグサ L. sayanuka との区別が目的であるが,両種とも知らない人(自分自身がそうだった)向けの内容になっている。最初に出会うのはいずれか一方,2つを比較できないのでけっこう悩むはずである。例え2つが明瞭に異なった種であっても。

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初めて出会ったのは一昨年(2008.10.25 旧都万村 油井の池)。当時はアシカキ L. japonica しか知らなかったので「巨大なアシカキなんだろうか?しかし,まさかね~」と思ったものだ。アシカキとはまるで大きさが異なる。杉村先生の目録に「稀に分布: 都万」となっていたので,俄然力が入った。その時の結論は,(1) エゾノサヤヌカグサであることを疑う余地はない,(2) しかし,その根拠(サヤヌカグサの否定)を聞かれると少々困る,というものだった。

継続して観察しようと思っていたのだが,今回地元の海士町で見付けたので同定を徹底することにした。あった場所は中里地区の用水路の水中。ここには,海士では稀なミズオオバコやヤノネグサが残っている。しかしそれよりも“隠岐で唯一のコガマの自生地”として重要である。そしてそこに,島根県では隠岐の都万村でしか見付かっていない,本種が残っていた。

ちなみに近隣では,山口:無し,広島:無し,岡山:少ない,であった。サヤヌカグサの方は,いずれの県でも「普通種」。東日本ではこれが逆になって,エゾノサヤヌカグサの方が普通になる。隠岐は東日本型かもしれない。

前回の同定は,複数の形質からなる“総合的な判断”だったので,いずれ“決定的な判定基準”を明確にしたいと考えていた。結果の正しさを確信している種に,まる3日をかけた。現地にも3度往復,何かつまらんことをやっているような厭世的な気分にもなった。だけど,スッキリしない気持ちをそのまま放置もできない。


定番の検索表(1978 大井次三郎)は以下のようになっている。
          (S: サヤヌカグサ,O: エゾノサヤヌカグサ)
  S: 小穂は線状長楕円形で長さ5-6.5mm,幅は約1.5mm,全面が淡緑色,
    縁辺には短い剛毛がある。
  O: 小穂は長楕円形,長さ4.5-6mm,幅2mmぐらいまでとなり,白色で,脈上
    および竜骨上は幅が広く淡緑色をなし,縁辺に長い剛毛がある。
  ・・・この中で使えそうなのは「幅」である(長さは重なって厄介)。残りの形質は
    顕著な差かもしれないが,「現物・写真・図」のいずれかで両方を見比べな
    いと感じがつかめない。と言うか意味すらはっきりしない。

そして今回の採集品は,
  ⇒: 小穂は長楕円形,長さ5-6mm,幅1.6-1.9mm,白い部分が広く脈沿い
     のみが緑色,縁辺の剛毛は長く太い。
  ・・・幅の実測値は,1.7-1.8mmに集中していたので合格である(両側の刺を
    含めると約2.0mm)。両種を分ける境目の数値は“1.5mm”であるようだ
    (T. Koyama 1987)。
    これだけでは危険だが,両種の拡大写真と部分図も見て納得できたので
    もう同定は終わっている。しかし何故だかスカッとしない。
    前回はこの辺止まりだった。

新しい検索表を追加する。
『神奈川県植物誌 2001』に拠る(サヤヌカ属は佐藤恭子氏の執筆)。
【Ⅰ】
  S: 小穂は線状楕円形,花序は比較的小さい。葉身は柔らかく,長さ7-10cm,
    幅6-10mm。全体に青緑色を帯びる。
  O: 小穂は長楕円形,花序は大きく広がる。葉身は硬く長さ15-25cm,
    幅8-12mm。全体に黄緑色を帯びる。
  ・・・葉の長さがポイントである。随分大きな差だが,他の文献もこの数値に
    なっていた。他の感覚的な形質については,一方の現物がないので
    何とも言えない。

実測値は,
  ⇒: 葉身の長さ17~29cm,幅12~16mm。
  ・・・葉の大きさはバラツキが少なく,よく揃っていて気持ちよかった。これが一番
    簡単な区別点で,大賛成である。ルーペも要らない。
    ただし,まともに育った典型的な個体(群落中の代表値・平均値)を選ぶこと。

更に,本書の記載文に出て来る“花序の大きさ”の差も有益である。
【Ⅱ】
  S: 花序は比較的小さく,長さ10cm前後。
  O: 花序は大きく広がり,長さ15~20cm。
  ⇒: 花序は15cmを軽く超え,枝は多くて長く開出。現地で見てセイバンモロコシ
     の穂を連想した。

次は“葉舌”の高さ(長さ)の差異(長田武正 1989)。
【Ⅲ】
  S: 0.5mm内外で目立たない。
  O: 1-1.5mm。
  ⇒: 1-1.7mm。
  ・・・計るのが面倒だが明瞭な差である!新鮮な材料で複数箇所調べるとよい。


同定の過程で気付いたことを多少補足しておく。

 (a) サヤヌカグサに同定する時は(隠岐の記録あり!),小型のエゾノサヤヌカグサではないことを十分吟味すること。
 (b) 本属は“1小穂1花”なので,“小穂”とは“1つの花”を意味する。“包穎”を欠き,イネの籾にそっくりに見える(ただし薄く平べったい)。
 (c) 葉鞘に穂を抱き込んだままの“閉鎖花”を多数付けるが,稈頂に伸びだした穂でも開花した形跡が見られなかった。つまり,雄蕊が外に垂れていない。閉じたままで実を付ける傾向が強いようだ。
 (d) 「稈の高さ35-120cm,葉の幅5-14mm」という記載(T. Koyama 1987)は,本当にありがたかった。標本の実測値は,それぞれ100-140cm,12-16mmで,他の図鑑類の記載より無視できないほど大きくて気になっていた。
 (e) 九州にある“葉の幅1-2.5cm,花序の長さ20-30cm”のヒロハサヤヌカグサは,サヤヌカグサの“品種”である。エゾノサヤヌカグサのではない。
 (f) 両者が混生する地域で「ときに判別できない中間形がある」という報告を読んだが,2つが「自然交配した」雑種の可能性もあるので要注意。
 (g) よほどそそっかしくない限り,同定を間違えるような種とは思えない。両者が比較できるなら,一目で区別可能な気がする。
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その後,原田の八尾川河川敷・五箇大峯山の溜池・平地区の川原,でもかなりの量を確認できた。隠岐では「ごく稀」という訳でもない。

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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