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 ナガバヤブソテツ Cyrtomium devexiscapulae (1)

取り急ぎ「同定篇」。本種の扱いの変遷やヤブソテツ属の生殖等については,(2)で補足することにする。

つい先日数株を見付けたばかりでまだ確定的なことは言えない。ただ,同定結果には自信があるのでその根拠を明示しておきたい。今後もっと観察してより正確にする必要がある。

 (1) オニヤブソテツ群
以下の4種(2種2亜種)を仮にオニヤブソテツ群と言うことにする。まずここに含まれることを確認する。
Cyrtomium falcatum (L. f) C. Presl
 subsp. falcatum       オニヤブソテツ
 subsp. littorale S. Matsumoto  ヒメオニヤブソテツ
 subsp. australe S .Matsumoto  ムニンヤブソテツ
Cyrtomium devexiscapulae (Koidz.) Ching ナガバヤブソテツ

 (a) 頂羽片がはっきりしているのでホソバヤブソテツとミヤジマシダは排除できる。いずれも九州中南部産の特殊なものである。
 (b) 羽片先端部の辺縁は完全に全縁だった。他のヤブソテツ属の種は皆,先端部に鋸歯が出るのでこれが最も重要な判断基準。ただ,ちょっと変った鋸歯で「低くまばら(ただし鋭い)」,最初はとまどう。
 (c) 主観ではあるが,「羽片の中肋が青黒く染まって一本の筋になる」ことがないのも有力な証拠。オニヤブソテツ群以外(ヤブソテツ群)は,色づいた中肋の線がはっきり見える。もっとも,羽片が厚い革質で明瞭な光沢を持つ点からも容易に推測はできる。

そして,ヒメオニヤブソテツとは環境(波しぶきのかかる海辺の岩上)がまるで違い,ムニンヤブソテツは分布(九州西南部・沖縄・小笠原)が大きくずれる。

よって,オニヤブソテツ(狭義)との比較のみが問題となる。オニヤブソテツを否定できればよい。「外形の上からはオニヤブソテツとの差が微妙なものも出て来る」と言われているが,以下の判定基準を適宜使えば,必ず正解を得られるはずである。

最初からあまり神経質になることもないが,ヤブソテツ属は稀に “例外的な型” が現れる事があるという。つまり,一つのキーを絶対と考えると誤る。その他,雑種では?の不安もあるが,雑種はできてもごく稀なようなので初期の段階で出会うことはないだろう。万一出会った場合,胞子の観察という奥の手がある。

 (2) 羽片の形
オニ : 幅は基部付近が一番広い。
ナガバ: 上下辺縁が平行になる部分がある。
 ------- オニヤブソテツははっきり卵形状で,特に葉面中下部で著しい。ナガバヤブソテツはより幅が狭く細長い。はっきり印象が異なり,これで大体分る。

 (3) 羽片基部の形
オニ : 切形に近く,上側が膨らみ耳片(状)になる(いかり肩)。
ナガバ: 広い楔形~円形(なで肩)。
 ------- オニヤブソテツは,基部が中軸を覆い隠すことがしばしば。ナガバヤブソテツでは軸に被さらず,羽柄明瞭ですっきりしている。ただし,最下羽片は肩がふくらむこともある。

 (4) 新葉表面の毛
オニ : 全く無毛。オニヤブソテツ(広義)に限る著しい特徴。
ナガバ: 長さ0.4~0.5mmほどの多細胞の白毛(小鱗片)が点々とつく。
 ------- “裏面”ではないことに注意。“早落性”なので展開直後の葉が望ましい。白毛はまばらで(葉の先端部がより密?),しかも葉面に張り付いているので非常に見えにくい。葉を折り曲げて光線の角度を変え,光らせて見るとよい。実体顕微鏡よりルーペの方が確認しやすかった。確認さえできれば明快な区別点となる。この白毛の実際を前もって知るには,普通のヤブソテツ(ヤブソテツ群)で観察すればよい。

 (5) 胞子の揃い方
オニ : 大きさが不揃いで,明らかに小さいもの(径1/2以下)が混じる。無配(無融合)生殖の特徴。
ナガバ: 大きさ形とも綺麗に揃っている。有性生殖。
 ------- ×30程度の実体顕微鏡があった方がよい。両者ともを観察して比べてみるとよく分る。これも確実な同定方法。

 (6) 胞子嚢中の胞子数
オニ : 32個。
ナガバ: 64個。
 ------- 裂開してない胞子嚢を1個または数個スライドグラスに取りだし,カバーグラスで押潰す。数を数えるには×400程度の顕微鏡が必要だが,倍半分の数なので慣れると実体顕微鏡でも見当がつく。まだ試みてはいないが,そこまでやる必要を感じない。
 【2019.1.15 追記】  「そこまでやる必要を感じない」とは書いたものの,これは一番明瞭な区別点。 “60前後” か “30前後” かの判断は難しくない。

 (7) “Flora of China(中国植物誌)” から
オニ : 包膜に鋸歯が出る。葉柄の鱗片は一様に淡褐色(単色)。
ナガバ: 包膜は全縁。葉柄の鱗片は,中央部が暗褐色で縁が淡い(二色)。
 ------- 検索キーの一部。包膜の差異は十分使える。鱗片の二色性は明瞭ではなかった。

 (8) 葉裏の脈の強さ
オニ : 裏側から見ると突出してよく目立つ。
ナガバ: 脈はあるがあまり目立たない(ただし比較の問題)。
 ------- 新葉でははっきりしないので,よく生長した葉同士で比べること。複数の個体を試すのが良い。光に透かしてみてもよく分ると思う。

 (9) 葉質・葉面
オニ : 分厚くて固くがっちり。羽片が反り返り,かつ波打ち,
     デコボコした葉面。きらめくような光沢が顕著。荒々しい印象。
ナガバ: やや薄く軟らかくてしなやか。羽片は殆ど波打たず,
     揃って一平面状に並ぶ。光沢はあるが強烈ではない。葉面が
     平らでおとなしい印象。
 ------- 多少の変化はあるが,両方の現物で比較すれば明か。

 (10) 羽片の開出角度
オニ : 中軸に直角に広く開出。
ナガバ: 揃って斜上する。特に中軸の上半部で。
 ------- 文献の裏付けはないが,そんな印象を受ける。ただし,例外もあるかもしれない。

 (11) 分布程度
オニ : 普通。至るとこ(沿海域)に大きな群生がある。
ナガバ: 稀。場所は限られ大きく群生もしない。
 ------- これは現時点での推測。しかも隠岐に限って。ある意味これが一番のヒントかもしれない。目の前に沢山あればオニヤブソテツ。なかなか見付からないのがナガバヤブソテツ。もちろん同定したとにはならないが…。

          [⇒ ナガバヤブソテツ(2)]


 【追記 2015.4.22】
最初に見付けたのは海士町東地区で,1ヶ所に数株。今日確認したのが海士町御波地区,1ヶ所に点々と10数株。何処にでもあるわけではなく場所が限られるのかも知れない。いずれも北向きで日当りのよくない環境だった。

展開して間もない新葉の表面がよく観察できたので,その部分を修正・補足した。

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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