ミズギボウシ Hosta longissima Honda ex F.Maek
小さな集落の低山地に手付かずの沼が残っていた。用心すれば中まで踏み込めそうなので,“沼”ではなく“湿地”と言うべきかもしれない。水は浮いているが,溜まっている箇所はごく少ない。初めて訪れたのは5月5日,根元が水に濡れた芽立ちが強烈な光沢を放っていた。
【 同定 】
知らない種だ!と直感したので,帰ってから「水辺・強い光沢・ユリ科」で図鑑を探してみた。ユリ科の確証はなかったが,葉に関する記載を見て本種に間違いないと思った。例えば,『新牧野日本植物図鑑(2008)』。
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東海地方以西の水湿地に生える多年生草本で根茎は短い。葉は比較的少数が群がって出て多くは立っており,広線形で長さ10~30cm,幅1cm内外,葉身と葉柄の境ははっきりせず,質はやわらかく多少厚く,上面は灰緑色,瀬戸物に似た強い光沢がある。盛夏に茎を直立させ,少しかたよったまばらな総状花序に花をつける。苞葉は舟形で緑色。花は斜め下向きに咲き,長さ4cm内外,極めて細い棍棒状に近い漏斗状,淡紫白色,花被片はほとんど直立する。
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「瀬戸物に似た強い光沢」が秀逸でまさにそのように感じるが,葉の幅は他の文献に従い,1~2cm程度と考えたい。かなりの変化があるそうである。
5月20日にそろそろ葉がほぐれる頃かと再訪。
(a) 大きいものは20cmほどに伸びていた。
(b) 幅は1.3cm。
(c) 葉は細く長く,
(d) 葉身と葉柄の区別など全くできない。
(e) 葉脈も3対(主脈の両側に)と少なく,
(f) 葉表で脈が凹むこともない。
以上はコバギボウシ H. sieboldii (広義)との相違点だが(光沢も含め),一々ピッタリと合っている。他に紛らわしい種はない。花を待たないでも葉だけの判断で不安を感じない(雑種問題はとりあえず置いといて)。
【 分布 】
本州(東海地方以西)・四国・九州。具体的な産地は, “日本産ギボウシ属” (藤田昇 1976)の分布図を基本にした。各県の地方植物誌は,同定に問題があるようなので(コバギボウシの誤認)一部しか取り上げていない。各県のレッドデータブックは信用した。 ※ ●:レッドリスト種,◎:稀,○:やや稀,□:やや普通
中部: □静岡,□ 愛知,□ 岐阜
近畿: ● 三重,● 奈良,◎ 滋賀,● 京都,● 大阪,◎ 兵庫
中国: ● 岡山,○ 広島,○ 山口
四国: ● 高知,● 香川
九州: ● 宮崎,● 鹿児島
奇妙な分布である。しかも,各県とも産地や個体数がごく少ない(特に四国と九州では)。やや広く分布があるのは,静岡・愛知と岐阜県南部に限る感じである。
それにしても,日本固有種のはずであるが『日本の固有植物』(加藤雅啓・海老原淳 編,2011)に出てないのは何故だろう?コバギボウシもない。
【 島根県 】
上記分布表に島根県は出て来ないが,実は島根半島に唯一の記録(丸山巌 1960)があって,大山隠岐国立公園の指定植物になっていたのは恐らくこれ。しかし,今回の改訂(2015)で「生育せず」となり削除された。隠岐(島後)が本種の山陰地方唯一の産地ということになるんだろうか?風変わりな分布の “北限自生地” でもある。
しかし,より貴重なのはこの放置されたままの沼地かもしれない。特別な環境があればこそ特別な種が生存できる。まだまだ何かが出て来るかもしれない。すぐそばにクモキリソウ Liparis kumokiri (隠岐ではごく稀)の群生もあったし。もしこの場所を発見した人がいたら,山草好きの人には場所を知らせないでいただきたい。暗示も危険。彼等の探し回る情熱は半端でないし,情報ネットワークもすごい。アッと言う間に消滅してしまうだろう。
花が咲いて(8月下旬)別のものだったら大笑いだが,それはそれでスリルがある。全然自分の知らない植物であることは確かなので。
余計なことを付け加える。島根県が本種をレッドデータブックに登載しないのを理解できない。現状確認できなければ「絶滅 EX」であろうし,万一記録の同定を疑ったとしても「情報不足 DD」とすべきではないだろうか。
【追記 2015.7.11】
現地を再訪して腰が抜けそうになった。ミズギボウシのはずがネジバナ(ラン科)が咲いていた。湿り気を好むようだとは思っていたが,水の中に生えるとは!
【 同定 】
知らない種だ!と直感したので,帰ってから「水辺・強い光沢・ユリ科」で図鑑を探してみた。ユリ科の確証はなかったが,葉に関する記載を見て本種に間違いないと思った。例えば,『新牧野日本植物図鑑(2008)』。
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東海地方以西の水湿地に生える多年生草本で根茎は短い。葉は比較的少数が群がって出て多くは立っており,広線形で長さ10~30cm,幅1cm内外,葉身と葉柄の境ははっきりせず,質はやわらかく多少厚く,上面は灰緑色,瀬戸物に似た強い光沢がある。盛夏に茎を直立させ,少しかたよったまばらな総状花序に花をつける。苞葉は舟形で緑色。花は斜め下向きに咲き,長さ4cm内外,極めて細い棍棒状に近い漏斗状,淡紫白色,花被片はほとんど直立する。
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「瀬戸物に似た強い光沢」が秀逸でまさにそのように感じるが,葉の幅は他の文献に従い,1~2cm程度と考えたい。かなりの変化があるそうである。
5月20日にそろそろ葉がほぐれる頃かと再訪。
(a) 大きいものは20cmほどに伸びていた。
(b) 幅は1.3cm。
(c) 葉は細く長く,
(d) 葉身と葉柄の区別など全くできない。
(e) 葉脈も3対(主脈の両側に)と少なく,
(f) 葉表で脈が凹むこともない。
以上はコバギボウシ H. sieboldii (広義)との相違点だが(光沢も含め),一々ピッタリと合っている。他に紛らわしい種はない。花を待たないでも葉だけの判断で不安を感じない(雑種問題はとりあえず置いといて)。
【 分布 】
本州(東海地方以西)・四国・九州。具体的な産地は, “日本産ギボウシ属” (藤田昇 1976)の分布図を基本にした。各県の地方植物誌は,同定に問題があるようなので(コバギボウシの誤認)一部しか取り上げていない。各県のレッドデータブックは信用した。 ※ ●:レッドリスト種,◎:稀,○:やや稀,□:やや普通
中部: □静岡,□ 愛知,□ 岐阜
近畿: ● 三重,● 奈良,◎ 滋賀,● 京都,● 大阪,◎ 兵庫
中国: ● 岡山,○ 広島,○ 山口
四国: ● 高知,● 香川
九州: ● 宮崎,● 鹿児島
奇妙な分布である。しかも,各県とも産地や個体数がごく少ない(特に四国と九州では)。やや広く分布があるのは,静岡・愛知と岐阜県南部に限る感じである。
それにしても,日本固有種のはずであるが『日本の固有植物』(加藤雅啓・海老原淳 編,2011)に出てないのは何故だろう?コバギボウシもない。
【 島根県 】
上記分布表に島根県は出て来ないが,実は島根半島に唯一の記録(丸山巌 1960)があって,大山隠岐国立公園の指定植物になっていたのは恐らくこれ。しかし,今回の改訂(2015)で「生育せず」となり削除された。隠岐(島後)が本種の山陰地方唯一の産地ということになるんだろうか?風変わりな分布の “北限自生地” でもある。
しかし,より貴重なのはこの放置されたままの沼地かもしれない。特別な環境があればこそ特別な種が生存できる。まだまだ何かが出て来るかもしれない。すぐそばにクモキリソウ Liparis kumokiri (隠岐ではごく稀)の群生もあったし。もしこの場所を発見した人がいたら,山草好きの人には場所を知らせないでいただきたい。暗示も危険。彼等の探し回る情熱は半端でないし,情報ネットワークもすごい。アッと言う間に消滅してしまうだろう。
花が咲いて(8月下旬)別のものだったら大笑いだが,それはそれでスリルがある。全然自分の知らない植物であることは確かなので。
余計なことを付け加える。島根県が本種をレッドデータブックに登載しないのを理解できない。現状確認できなければ「絶滅 EX」であろうし,万一記録の同定を疑ったとしても「情報不足 DD」とすべきではないだろうか。
【追記 2015.7.11】
現地を再訪して腰が抜けそうになった。ミズギボウシのはずがネジバナ(ラン科)が咲いていた。湿り気を好むようだとは思っていたが,水の中に生えるとは!