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ホソバシュロソウ vs. オオシュロソウ

隠岐のものはホソバシュロソウだと思って来たが,少し曖昧さが残っていた。初めて出会ったのは高崎山の頂部一帯(海抜400m付近)で40年前。その頃は保育社の図鑑(北村四郎 1964)しか持っておらず,検索表は以下のようであった。

 ・ホソバシュロソウ ----- 花柄は長さ10-17mm
 ・オオシュロソウ ------- 花柄は長さ4-7mm

花柄の計測値は約9mm(7~11mm)だったので丁度中間,同定不能ということになる。開花株を観察して「ホソバシュロソウでよいだろう」という判断をしたのは覚えているが,花柄の長さ以外の根拠はよく分からない。丸山巌氏の記録は「隠岐: ナガバシュロソウ」。葉の幅があまり広くない(3~5cm)ことに影響されたかもしれない。

因みに平凡社の図鑑は以下のようになっている(佐竹義輔 1982)。

 ・ホソバシュロソウ ----- 葉の幅は3cm以下。花柄は長さ10-17mm。
                  蒴果は長さ20mm。
 ・オオシュロソウ ------- 葉の幅は6-10cm。花柄は長さ4-10mm。
                  蒴果は長さ10-15mm。

葉の幅を重視すると隠岐のものは「どちらでもない」ことになる!蒴果は調べたことがないので早速現地に行ってみたい。

以上2つの文献から隠岐のものは,どちらであっても典型品ではない(中間型)と言えそうである。全国の地理的連続変異(クライン Cline)については,“シュロソウ・アオヤギソウ類の分布と変異(髙田順,川野辺英昭 1996)”に詳しいが,中間型だから価値が低いと考える必要はないだろう。典型品の方が分布の広い普通種だということもあり得る。

現時点での自分なりの結論を出しておきたいのだが,誰の説に従うかが問題である。清水建美博士の “邦産シュロソウ節の検討(1960)” が詳細で隠岐のものにもピッタリ合う。

 ・ホソバシュロソウ ----- 小梗は花被片より明らかに長く;
                  苞は小型で小梗の1/2以下(2-3mm)。
 ・オオシュロソウ ------- 小梗は花被片とほぼ同長(約5mm);
                  苞は小梗の1/2以上(通常5-6mm)。

 ※ 花序の下にも苞がある。ここで言う苞は“個々の花”にある「小苞」を意味する。

この検索表によると,隠岐のものは紛れもなくホソバシュロソウである。迷う余地はない。特に“苞”の違いが著しい。

種(変種)の分け方だけでなく学名にも色々説があるが,『日本維管束植物目録(米倉浩司 2012)』では以下のようになる。
 Veratrum maackii
   var. maackioides    ホソバシュロソウ (ナガバシュロソウ)
   var. japonicum      オオシュロソウ (シュロソウ)
   var. parviflorum     ヒロハアオヤギソウ (アオヤギソウ)
   var. longibracteatum  タカネアオヤギソウ

和名の別名は使わないことにしたい。混乱のもとである。例えば,かつてのシュロソウはオオシュロソウに吸収されたように見えるが,必ずしもそうではない。ホソバシュロソウに含まれたと考えることもできる。

南はホソバシュロソウで北はオオシュロソウ。変化が連続的で正確な分布ははっきりしないが,ホソバシュロソウの分布は日本海側は京都府までで太平洋側は房総半島まで,中部地方以北はオオシュロソウのように思われる。厳密ではないが隠岐を「北限」と考えておく。

中国地方では脊梁山地に産するが少なく決して普通種ではない。オオシュロソウについては大山の記録のみを確認した。

隠岐では高崎山が唯一の産地で貴重である。過去に丸山巌・杉村喜則両氏の記録があるが高崎山のものである。

と思っていたが,この頃「都万村で昔“シュロソウ”を見たことがある」という話を野津大氏から聞いた。場所は海食崖の上の草地である(海抜10m)。隠岐の緯度としては(北緯36°)標高が異常に低いが,不可能ではないので是非とも確認したい。まさかオオシュロソウではないであろうが・・・。

 【補遺】 『日本草本植物総検索誌(杉本順一 1979)』による国内分布は以下のようになっていた。中国地方が抜けているのが興味深い。緯度を考えると隠岐はクラインの境界域のように思える。

・ホソバシュロソウ ----- 本州(関東~近畿)・隠岐・伊豆諸島(神津島),四国,九州
・オオシュロソウ ------- 北海道,本州(東北より内帯を滋賀県まで)・佐渡

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T.Tango

Author:T.Tango
 丹後 亜興 (隠岐郡海士町)
   tttt@tx.miracle.ne.jp
 
 フィールドは隠岐に限られますが植物歴40数年。ブログの目的は「植物を調べている隠岐の人」への情報提供です。しかし外部の方の参考にもなるよう,汎用性のある記述を心がけます。
 地元密着型の軽めの記事(日記)も,「隠岐版」と断って混ぜることにします。
 質問や地元の植物ニュースは歓迎です。

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